ケイちゃん二号(軽トラック)に乗って道路を進みます。
「いやー助かったよ。ケイちゃん一号に使うパーツが足りなくってさ」
運転席にいるくるみさんが言います。自分が言うのもなんですがその身長で運転席に座っているとゲームセンターでレースゲームをしている子どもみたいです。
今私達は郊外の車屋からパーツを拝借してきたばかりです。ケイちゃん一号を完全に直すには特定のパーツが足りず、暇だったメンバーで取りに行くことになったのです。僻地にある車屋なのでゾンビの数は脅威ではありませんでした。
「前から思ってたけどよ。ケイちゃんってダサくねえか?」
荷台に乗っているなめこさんが言います。釘バットについた血を布で拭いて落としています。普段料理しているからか、そういうところは几帳面です。
「ダサくないよ!? ねぇしぐれちゃん!?」
「あ、はい。ダサくないと思います」
「いやいやダサいよーくるみちゃん」
運転させてもらえなくて不貞腐れているこむぎさんが言います。
正直に言うと私もダサいと思いますが、全員で言ったらくるみさんが可愛そうなので私はフォロー側に回ります。私はバランサーなのです。
「皆が車に愛情を感じないからそう思うんだよ!」
くるみさんが運転しながら憤慨しています。
「まあどうでもいいけどよ――ん?」
なめこさんが走る軽トラックの荷台で立ち上がりました。辺りを見回しています。
「……この音は。救援物資の飛行機の音だぜ!」
「ほんとだ!」
なめこさんとこむぎさんが空を見ながらキョロキョロとします。救援物資。なんの話でしょうか。
「しぐれちゃんは知らないか。たまに飛行機が救援物資を落としていくんだよ。まあプレイヤーへの救済措置ってところかな。武器や生活必需品が入ってる」
「そうなんですか」
うーん。ゾンビゲームっぽいです。といってもそこまでゾンビゲームはしたことないのですが。あ。飛行機が何かを落としました。
「あちゃー。山の向こうに落としていったね。これじゃあ別の生存者たちのほうが早く着くんじゃないかな」
煙を上げながらパラシュートで落ちていく救援物資が遠くに見えました。くるみさんが言うには別の生存者たちのなわばりの方が近い位置だそうです。だとしたら衝突を避けるべく、今回は諦めるべきでしょう。
「馬鹿野郎! 飛ばせ!」
「そうだよ! 諦めたらそこで終了だよ!」
血の気が多い二人は後ろで騒いでいます。本気でしょうか。人間相手と戦闘になるかもしれないのに。まあ相手もプレイヤーならお互いリスポーンで済むわけですからそこまで抵抗がないのかもしれません。それでも流石にこの借りたクロスボウを人間に向けて撃ちたくはありません。
「本気かい!? こっちは実質戦闘要員二人だけだよ!?」
「こむぎ! リスポーンして増援呼んで来い!」
「嫌だよ! なめこちゃんが死んでよ!」
二人がぎゃあぎゃあと取っ組み合いを始めました。くるみさんはため息をつきます。
「わかったよ。とりあえず偵察だけだからね! 戦闘はなし!」
「よっし!」
「やってやるぞー!」
本当に分かっているのでしょうか。この二人は。
♢
「あちゃー……こりゃ無理だよ」
くるみさんが双眼鏡を覗きながら言います。
救援物資はちょうどダム湖の真ん中に着水していました。人間一人ぐらい入りそうなサイズのコンテナボックスがプカプカと浮かんでいます。なんという嫌がらせでしょうか。投下係は責任を取って腹を切るべきです。
「向こうの連中もどうするか迷ってるな」
なめこさんが言います。確かに対岸でもどうしようか困っているのか、ウロウロして様子を見ている人たちがいます。数は同じくらいです。
「おーい!」
こむぎさんが対岸の人に手を振りました。すると一人が手を振り返してくれました。向こうにもこむぎさんのような人がいるのでしょう。
「こりゃ諦めたほうがいいね。風も吹いてないから漂着に時間がかかるよ」
そう言ってくるみさんは車に戻ろうとします。対岸の人たちも今回は諦めたのか、車に乗って去っていきました。判断が早い。
「馬鹿野郎! 新鮮な料理の材料が入っているかもしれねえんだぞ!」
「いや、生鮮食品は入れないと思う」
「ゲームが入ってるかも!」
「それはもっとないよ」
車に乗ろうとしているくるみさんを二人が引き止めます。
「じゃあどうするのさ。まさか泳いでいくなんて言わないよね」
「あたしは泳げないから無理だ。こむぎが行け」
「私も泳ぎは苦手だよ! しぐれちゃんはどう?」
「私がそんな運動神経あるように見えますか?」
私の発言に皆が黙ります。必然的に皆の視線はくるみさんの方に向きます。
「僕!? 水泳はできるけど嫌だよダム湖を泳ぐなんて!」
くるみさんが拒絶します。くるみさんの両腕にこむぎさんとなめこさんの二人が張り付きます。
「ここは先輩としての根性見せるときじゃねえか?」
「うぐ」
「そうだよ! せ・ん・ぱ・い?」
「うぐぐ」
くるみさんが私に顔を向けて助け舟を求めます。仕方ないですね。
「そういえば今回の遠征はくるみさんの頼みでしたよね」
今回ばかりは二人の援護射撃をします。バランサーというのは嘘です。
「ああもう! わかったよ! 行けばいいんだろう!?」
半泣きで恥ずかしそうにつなぎを脱ぎ始めます。こむぎさんとなめこさんの二人がそれを囃し立てます。ちょっと、いやかなりエッチです。うお、胸でっか。
下着姿になったくるみさんが恐る恐るダム湖に足を踏み入れます。腕にはロープを巻いています。救援物資にたどり着いたら引っ張って運ぶためです。
「冷た! うう今が夏で良かった……」
「気張れよ先輩! 胸にでっかい浮袋二つもつけてんだから!」
「セクハラだぞ!?」
「急にダムが決壊したらリスポーンだね」
「不穏なこと言うな!」
「魚ってゾンビ化するんでしょうか?」
「しぐれちゃんまで!?」
文句を言いつつもダム湖にどんどん入って行きます。足がつかなくなったところで背泳ぎに移行しました。おっきいお胸が二つ浮いています。羨ましい。自分のガリガリぺったんこな身体を見てため息が出ます。
二分ほど泳ぎ、ようやく五十メートル先の救援物資の元へたどり着きました。ロープを救援物資にくくりつけて、くるみさんはそれに掴まります。
「引っ張っていいよー!」
くるみさんの合図で私達はロープを引っ張ります。浮力のおかげかとても軽くて、ものすごいスピードで水面を走ります。行きの十倍の速度で帰ってきました。
「やったー! 救援物資ゲットー!」
こむぎさんがぴょんぴょん跳ねて喜びます。
「大丈夫か先輩? ほら水飲め」
なめこさんがくるみさんを介護しています。
「もう二度とやらないからね……」
くるみさんが疲れ切った顔でいいました。お疲れ様です。
♢
「さて救援物資も手に入れたことだし、学校に帰ろうか」
つなぎ服を着直したくるみさんが言います。
「えー! ここで開けてみようよ!」
「そうだぜ先輩! 俺等の手柄なんだからちょっとぐらい見たって問題ないだろ!」
「私もどんな物が入っているか見てみたいです」
私達は開けてみたいとぎゃあぎゃあ騒ぎます。くるみさんはため息をつきます。
「じゃあ少しだけね」
くるみさんはそう言ってコンテナボックスのロックを外します。
「開けるよ」
「おう」
「どきどき」
「わくわく」
皆がくるみさんとコンテナボックスに注目します。しかしくるみさんはなかなか開けません。どうしたのでしょうか。
「どした? パイセン」
「無理! 誰か変わって頂戴!」
そう言ってくるみさんはコンテナボックスから離れます。何故に。
「自慢じゃないが僕は運がとても悪いんだ。コンテナボックスの中身も僕が開けたら最悪のテーブルになっている自信がある」
「なんだそりゃ……まあゲームの中だしな」
「ソシャゲでもあるあるだねー」
くるみさんの言葉に二人が納得しています。私も運は悪い方なので、そういうことなら絶対開けたくありません。まあ多分こむぎさんが開けるでしょう。
「よーし! じゃあじゃんけんで決めよう!」
前言撤回。最悪なパターンになりました。
「じゃんけん――」
ちょ。まだ心の準備が。
「ぽん!」
はい。わかりきったことですが私が負けました。だから運で決まる勝負はしたくなかったのです。
「じゃんけんで負けた人が開けるってそれ逆に悪くなりません? だから勝った人が開けるべきではないでしょうか」
必死の抵抗を試みます。唸れ、私の灰色の脳細胞。
「大丈夫大丈夫! 確率は収束するはずだから!」
「そうだぜ! 次は良い結果になるかもしれないだろ!」
「あはは……なんとも言えないね」
ダメそうです。頼みの綱であったくるみさんも今回は助けてくれそうにありません。泳ぎのときに援護射撃したせいで信用値が下がっているのでしょう。因果応報と言うやつですね。勉強になりました。
「……わかりました。もう、ぱぱっと開けますね」
自棄になった私はそう言って勢いよくコンテナボックスを開けました。中には緩衝材である発泡スチロールがいっぱい入っていました。緩衝材に手を突っ込み、何があるか探ります。お。なにかに触れました。これは――
「ポテチですね」
「ポテチだね」
「ポテチだな」
「やったー! お菓子だ!」
徳用サイズ四百グラムのポテチが三袋出てきました。ま、まあお菓子なら悪くはないでしょう。次を探します。お。なにか金属の缶っぽいものがあります。
「ハンドクリーム」
「ハンドクリームかぁ……校内勤務組にはありがたいけど」
「在庫はいっぱいあるしなぁ……」
「じゃあ私が貰っちゃうねー」
何か不穏な空気になってきました。どんどんレアリティが下がっているような気がします。気を取り直して次を――
「ゲーム機」
「いや高価なものだけどこれは……」
「いらねえな」
「やったー! ス●ッチ2だー!」
レアリティは高いですがサバイバルには不必要なものが出てきました。これはいよいよ後がなくなってきた感があります。私は次に触れたものを引っ張り出します。
「ナイフ――って危ない!?」
ケースに入ってないナイフがむき出しで入っていました。この救援物資(?)を梱包した人はどうやらかなり適当なようです。
「危ないなぁ。僕の工具入れに入れとくよ」
「包丁は学校に腐るほどあるし、いらねえなぁ」
「ねえねえス●ッチ2のソフトはないの?」
当たりの部類ではあるのでしょうが何か釈然としません。もうどうでも良くなってきました。次。
「二リットルの水六本ケース」
「なんか普通」
「おもしろくねえな」
「ふつー」
一人でサバイバルしてた人向けの救援物資に思えてきました。次。
「靴下……片方だけです」
「これは……」
「舐めてんなまじで」
「うける」
もう何も言うことはありません。次――
「これは……黒い箱?」
箱の中に箱が入っていました。マトリョーシカですかね。無駄に高級感あふれるその黒い箱を開けてみます。すると中には金色の鍵が入っていました。キラリと輝きます。
「これは、鍵ですね」
「どこの鍵だろう……ネームタグに『工場の鍵(SSR)』と書いてある」
「なんで工場の鍵なんか入ってんだよ。しかもSSRってなんだよ」
「あー! あれだよ! ゲームでよくある物資がたくさんある場所の鍵だよ!」
こむぎさんはゲーマーなのか、一人で盛り上がっています。あーなんとなくサバイバルゲームではそういう要素がありそうです。
気を取り直して次を漁ります――あれ。
「終わりです」
「え」
「終わりです」
「微妙なもんばっかじゃねえか」
「私はス●ッチ2があっただけで満足……え、ソフトは!?」
結局救援物資(笑)には碌な物が入っていませんでした。唯一気になるのは工場の鍵(SSR)くらいです。
「なあこれ皆に報告する必要あるか?」
「ま、まあ工場の鍵(SSR)は僕も気になるから一応情報共有しとくよ」
「ソフトー! どこー!?」
なんだか微妙な空気になってしまいました。こむぎさんだけは緩衝材を引っ掻き回してゲームソフトを探しています。
救援物資には今後期待しない。私は心のなかでそう決めました。