この世界はゾンビゲームの世界でした   作:カズヤミサワP

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密輸業者? 上

 ある夏の午前。私は学校の屋上で日光浴をしていました。私は太陽が苦手なので本当は日光浴なんてしたくはないのですが、サバイバル生活ではビタミンDが欠乏するため仕方なくビーチチェアの上で横になっています。服装は高校の運動着である半袖Tシャツとハーフパンツです。身長の近いくるみさんから借りました。

 

 後ろではさおりさんが鼻歌を歌いながら皆の洗濯物を干していました。いつもありがとうございます。と声をかけようとしたその時です。

 

 一台のドローンが騒音を立てながら、私の眼の前に現れました。

 

「え。え? なんですかこれ」

 

 ドローンは私の周りをぐるぐると旋回しています。よく見ると、そのドローンにはゴツい携帯電話のようなものが括り付けてありました。取れ、と言うことでしょうか。私はドローンからその携帯電話を取ろうと紐を解きます。解いている最中に逃げる様子がないことから私の考えは当たっていたのでしょう。携帯電話を取るとドローンは去って行きました。一体何だったのでしょうか。

 

「何やったんやろうね。今のドローン」

 

「さ、さあ。わかりません」

 

 さおりさんと話します。わかっているのは携帯電話と言うにはゴツい物を置いていったということです。

 

「緊急会議を開きましょうか」

 

「せやなぁ」

 

「あ。いつも洗濯ありがとうございます」

 

「とんでもないー。うちが好きでしてることやからー」

 

 

 

 

 作戦会議室という名の校長室。学校のメンバーが全員集まっています。

 

 議題はこの衛星電話の件についてです。これが衛星電話だということはくるみさんから聞きました。なんでも地上から衛星を中継してほぼどこでも通話できる代物だそうです。どうしてドローンはそんな高価なものを持ってきたのでしょうか。

 

「さて。この衛星電話だが。番号が一件だけ登録されている。恐らく電話しろということだろうが、皆はどう思う」

 

 あずきさんが言います。

 

「誰かが僕達と接触したがっているんじゃないかな?」

 

「何故だ」

 

「それは……わからないけど」

 

 くるみさんが言います。確かに電話を置いていったということは私達と話したがっているということです。問題は何を話したがっているのか、という所です。

 

「電話してみればいいんじゃないのー? 別にそれでなにか悪いことが起きるわけじゃないんだし」

 

 校長の椅子に座りながらこむぎさんが言います。確かにこむぎさんの言う通りです。電話してみれば疑問は解消されることでしょう。

 

「では誰が話す? 自慢じゃないが私は口下手だ」

 

「初めからあずきちゃんには期待してないよー」

 

「殴るぞ」

 

「暴力はんたーい」

 

 あずきさんとこむぎさんがいつものように戯れています。私としてはくるみさんでいいと思います。一番癖がないので。

 

「くるみさんがいいと思います。その……一番普通の常識人なので」

 

「ねえしぐれちゃん。それ褒めてるんだよね?」

 

 私の発言にくるみさんが訝しげに言います。とんでもない。個性の塊みたいな集団の中でくるみさんみたいな普通の人はとても貴重です。褒めているのです。

 

「はあ。分かったよ。僕が電話するよ。といってもスピーカーモードにするから騒がないでね」

 

 くるみさんが通話ボタンを押します。三コールもしないうちに相手が出ました。

 

『やーっと電話してきましたね。電話の前で三十分も待機していましたよ』

 

 女性の声が聞こえてきます。不満げな声です。

 

「こちらとしても得体のしれないものだからね。警戒してたんだよ」

 

『その警戒心は正しいものですよ。それでこそ仕事仲間にふさわしいです』

 

 仕事仲間。電話の相手はそう言いました。何のことでしょうか。

 

「仕事仲間? なんのことだい?」

 

『なーに簡単なことですよ。貴金属などの貴重品と生活物資のトレードをしましょうという話です』

 

「トレード?」

 

 貴重品と生活物資のトレード。相手の女性はそう言いました。この終末に貴金属なんて何の役にも立たないでしょうに何故そんなものを求めるのでしょうか。成金ごっこでもしたいのでしょうか。

 

「話が見えないね。貴金属なんて使い道のないものをどうするんだい?」

 

『残念ながら需要はあるんですよ。私の住んでいる都市では』

 

「都市?」

 

『私の住んでいる都市はゾンビを都市外へ追い出すことに成功しました。故に数万人単位の人口を維持しているんですよ。まあ殆どが上級国民様ですけどね』

 

 なんと。そんな大きな都市で安全に暮らせるのですか。羨ましい限りです。ぜひ私もそちらに移住したいです。

 

「そんな都市があるなら僕らも行っちゃ駄目なのかい?」

 

『残念ながら外からの移住は完全にシャットアウトしています。来たところで銃弾で歓迎されるだけですよ』

 

 残念無念。そう簡単に楽な暮らしはできないようです。

 

「それは残念。で話を戻すけど貴金属や貴重品と生活物資のトレードかい? 何故僕らが貴金属や貴重品を持ってると思ったんだい? こちらは毎日がサバイバルだよ」

 

『無人の都市なら貴金属や宝石などのものを店や家から盗っていったとしても誰も咎めないでしょう。だからです』

 

「なるほど」

 

 なるほど。相手の言うことも一理あります。色々物資を拝借はしていますが、貴金属などの貴重品は眼中にありませんでした。

 

「現金の需要はどうだい?」

 

『現金は需要ないですね。全て配給券で運営されているので』

 

「配給券なら数が決まっているんじゃ?」

 

『ところが裏市では配給券の売り買いがされているのですよ。まあ所詮軍政なので腐敗も多いようで』

 

「なるほど。その配給券が余分に欲しいから、こちらから貴重品を送ってほしいというわけかい」

 

『話の早い方は好きですよ。こちらはサバイバルに必要そうな生活物資を送ります。そちらは貴金属や貴重品など価値のあるものを送ってください。ウィン・ウィンの関係で行きましょう』

 

「受け渡しは?」

 

『都市の外にアジトがあるのでそこからトラックでそちらに向かいます。受け渡しはその時に』

 

 くるみさんはしばし考えます。

 

「わかった。仲間たちと話し合ってみるから。また連絡するよ」

 

『良い返事を期待していますよ。ではまた』

 

 通話が終わりました。くるみさんはテーブルに衛星電話を置きます。

 

「どう思う?」

 

 くるみさんが尋ねます。

 

「胡散臭いけど、悪い話ではないわね」

 

「そうだな。飲料水を作るフィルターも消耗品だしな」

 

 きなこさんとあずきさんが肯定します。

 

「けどなぁ。なんかこそ泥みてえだよな」

 

「せやねぇ。うち達もやってることは同じやけどなんとも言えんわぁ」

 

 なめこさんとさおりさんは微妙そうな顔をしています。

 

「具体的に価値のあるものってなんだろ?」

 

 こむぎさんが首を傾げて言います。

 

「金、銀、プラチナ、宝石。ブランド物だと腕時計とかかな?」

 

「ブランド物ならゲーム機とかも売り買いできるかな!?」

 

「できなくは……ないんじゃないかな?」

 

 こむぎさんの言葉にくるみさんが困惑しています。

 

「アンティークはどうでしょう」

 

 私も案を出してみます。ようはお金持ちの人が欲しがりそうなものを集めればいいわけです。私も小金持ちの家庭でしたので欲しいものは大体わかります。

 

「いいかもね。じゃあ僕達に必要なものってなんだろう」

 

「まず浄水フィルターは必須だ。夏も厳しくなる」

 

 あずきさんが言います。近くの川まで車で数分、取りに行って煮沸消毒するには時間も燃料もかかります。浄水フィルターがあれば煮沸消毒の手間は省けるでしょう。ぜひ欲しい所です。

 

「食料のストックはまだまだあるけどよ、缶詰や米みたいに日持ちするものがもっと欲しいぜ。あとはたまにはパンみたいなものが食べてえから小麦粉が欲しいな」

 

「いいね! 久々にパン食べたい!」

 

 なめこさんとこむぎさんが言います。パン。なんといい響き。ふわふわのパンを数ヶ月食べていません。私の舌と胃袋もパンを求めています。小麦粉も是非欲しい所です。

 

「ガソリンや灯油も欲しいけど、今のところは放置車両やガソリンスタンドで間に合っているかな。このゾンビパンデミックが収束するタイプの設定のゲームなのか分からないけど燃料は一年以上は持ちそうだよ」

 

 くるみさんが言います。そういえばこのゲームはクリアがあるタイプのゲームなのでしょうか。プレイする限り永遠に続くタイプのゲームだったら難易度は爆上がりです。今のうちに完全な自給自足ができるようにしなければいけません。だとしたら。

 

「植物の種が欲しいです。クリアがないゲームなら、あと数十年こうやって生き残らなきゃいけないわけですよね。自給自足できるように畑も作るべきです」

 

 私の言葉に、死ぬまで続くタイプのゲームと認識して皆がゾッとします。

 

「……そうだね。終わりのないゲームだと想定しなきゃね」

 

「考えたくないわね」

 

「全くだ」

 

 わたしとくるみさんの言葉にきなこさんとあずきさんが肯定します。

 

「じゃあこの話を受けるってことで。とりあえず必要なものをリストにまとめておいて。一時間後にまた電話するから」

 

 くるみさんがそう言って解散となりました。

 

 

 

 

 一時間後。再び校長室に私達は集合しました。くるみさんが電話を掛けます。

 

「もしもし。あの話受けることにしたよ」

 

『それは良かった! あなた達が駄目なら別の勢力に声を掛けていた所です』

 

 嬉しそうに言う女性。別の勢力というのはダム湖のときに対岸にいた人たちのことでしょうか。だとしたら抜け目ありません。

 

『親愛の証に名前を教えてあげましょう。おみつと言います。今後とも宜しくお願いいたします』

 

「密輸業者だからおみつじゃないよね。僕はくるみだよ」

 

『残念ながら本名なのです。古臭い名前でしょう? 若いのに』

 

 おみつと名乗った女性は笑いながら言います。確かに時代劇に出てきそうな古風な名前です。もちろん口には出しません。密輸を取りまとめるような女性なんて恐ろしく怖い人に決まっています。顔面傷だらけで葉巻を吹かしながらお酒を飲んでそうです。

 

『それでそちらの要求は?』

 

 おみつさんの言葉にくるみさんがメモを読み上げていきます。

 

『ふむ。今計算させるので少し待ってくださいね』

 

「ちなみに価値のあるものって金、銀、プラチナ、宝石、ブランド物全般と考えていいんだよね?」

 

『ええ。構いませんよ。あ、ちなみに娯楽用品のゲームやDVD、漫画、酒、煙草なども需要はあるので見つけたら持ってきてください』

 

「そうなのかい? 娯楽用品は配給されてない感じなのかな」 

 

『そうですね。配給されるのは必要最低限のものばかりで、娯楽用品は殆どありませんね』

 

「ほら! やっぱりゲームも需要あるんじゃん!」

 

「静かにしろ馬鹿!」

 

「あなたもうるさいわ」

 

『賑やかでいいですね。こちらはむさ苦しい男どもばかりなのでそちらが少し羨ましいです』

 

 そうおみつさんが言います。やはり女ボスでした。怖や怖や。

 

『計算しました。ゾンビパンデミック前の価値で三百万円ほどの物資を持って準備してください』

 

「……そんなにかい?」

 

『こちらも賄賂やらで危ない橋を渡っているのです。わかってください』

 

 くるみさんは皆を見ます。あずきさんとさおりさんの三年生組が頷きました。

 

「わかったよ。頑張って集めてみるよ」

 

『お願いしますね。一週間後に部下を送るのでそこで査定してもらってください』

 

「足りなかった時は?」

 

『持ってきたものの価値の分は渡しますので安心してください』

 

「わかった。じゃあまた。おみつさん」

 

『ええ。ではまた。くるみさん』

 

 電話が切れます。くるみさんは「ふう」と息を吐きます。

 

「んじゃ早速だけど回収組を決めようか」

 

「それなんやけどー」

 

 さおりさんが言います。

 

「今回は人手が必要やろ? うちとあずきちゃんの二人で学校に残るわぁ」

 

「ええ? それ大丈夫なんですか?」

 

 私は思わず尋ねます。暴力の化身たるあずきさんはともかく、さおりさんは荒事が苦手なのではないのでしょうか。戦っている姿が想像できません。

 

「それは大丈夫だ。さおりは推薦を受けてクレー射撃をやっていて、大会にも出ている」

 

「え。ということは」

 

「ゾンビや人間相手でも弾がある限りは、ある程度は戦えるんよー。ただ人間は撃ちたくないなぁ」

 

 そう言ってさおりさんはやんわりとした笑みを浮かべます。まさか銃を使える人がいるとは思ってもいませんでした。

 

「だから今回は五人体制で回収にいってきてええよ」

 

 そんなこんなで今回も遠征組へナチュラルに入っている私なのでした。私小学生なんですけど。

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