リリカルなのか?   作:コカ・と栗鼠

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プロローグ

 最初に抱く疑問はここはどこ? という場所に対するもので、次に抱くのはどうしてという状況に対するものだ。

 墨汁をぶち撒けたみたいに黒い空間に、宝石をばら蒔いたかのように煌めく光点が広がっている。

 まるで宇宙だ、と己の記憶にある夜空やテレビの映像等が思い出される。

 しかしながら、己は宇宙飛行士ではない。前後の記憶こそ今一ハッキリしないが、己はただの書店員でしかない。まぁいわゆるオタク向けのという冠詞は付くが。

 ともあれいくら考えてもこんな場所に居る理由には至らない。

 それなら。と思い起こすのはこれが夢であるという全うなもの。けれど夢というにはどうにもリアリティが高すぎる。物の本で見かけたことのある夢と現実の判別法方たる『己の知らぬ本を想起し中身を確認する』という方法も、こんな場所に本が有るわけがないと言う常識が邪魔をしてしまう。

 さて困ったぞ。と、とりあえず一度は憧れた宇宙遊泳にでも繰り出すかと考えるに至り、それはようやく登場した。

 

「いやぁ、申し訳ない。お待たせしたね」

 

 己しか確認出来なかった状況で唐突に耳朶を打った声に振り返る。

 そこには仕立ての良いシックなスーツに身を包んだ青年が立つように浮かんでいた。若手実業家社長というイメージの具現のような出で立ちに、場違いだなぁという感想を持ったとしても仕方がないだろう。

 

「ちょっとゴタゴタしちゃってて。僕が君を此処に呼んだだけど、うーん――そうだな。神とかそんな認識をしてほしい」

 

 この呼称は好きじゃないんだけどね、と苦笑する青年に促され座る姿勢を取る。すると、椅子など無いはずなのに尻にはホームセンターなんかで試用したことのある、高級ソファーのような沈み込む感触が。

 

「本当ならお茶でも用意してじっくりと話したいんだが、ちょっと時間が押しててね。申し訳ないがこのまま進めさせてもらうよ。そうだな、まずは」

 

 そんな前置きと共に青年は話始めた。

 

 まず君には僕の用意した世界に転生してほしいだ。おっと、誤解の無いように言っておくが君は別に死んだ訳じゃない。死者をどうこうするのは僕の管轄じゃないしね。転生と言ったのはそれが一番イメージが伝わり易いと思ったからなんだが、気に食わないようなら好きに変換してくれ。要は『君は元居た世界から別の世界へ移る』これさえ理解してくれれば良い。何故やどうしては問わないでくれ。重ね重ね申し訳ないんだが、理由は明かせないんだ。ほらあるだろう?  禁則事項ですってやつだよ。とは言え無理矢理事を推し進める心算は無いんだ。君はこれを断ることは出来ないんだが、代わりに此方から幾つか特典を用意した。

 一つは、転生するにあたり新しい肉体をプレゼントしたい。生憎と性別は弄れないが、年齢と容姿は最大限要望に応えられると思う。

 もう一つは、現地での生活に必要な資金だ。これは現地の経済状況を破綻させないためにも半年分だけだが、節約すれば一年は保つはずだ。

 最後に、能力だ。これは例えば才能でも良いし武器でも良いし、漫画やゲームみたいな“能力”でも構わない。これは君の存在の器に見合う分しか用意出来ない。だから、『王の財宝』や『無限の剣製』のようなモノは無理だ。前者はギルガメッシュという王だからこその蔵と財宝だからだ。後者はエミヤシロウという存在に妖精郷の鞘が作用し、そこに彼の持つ+αが上手く噛み合った結果だからだ。けどそういったものでなければ大概のものはいけるよ。君の前の人は結構あり得ない変身能力を選んだしね。

 

「――とまぁ、こんな感じかな。あまり時間もないからまずは一つ目と最後のを選んじゃってくれ。その後で時間があれば質問にも答えよう」

 

 長々と語った後で青年はそういって黙って目を閉じた。

 青年が語る間、途中で口出しするのは良くないなと思い黙って聞いていたが、中々に胡散臭くあり得ないような話だ。

 彼の話を総括するとこうだ。

『君は特典を持って転生者となるのだ』

 転生モノ系のウェブ小説は何度か読んだことがある。最近では書籍化されるほどにホットなジャンルだ。己もまたある小説がお気に入りだったりする。幼女賢者とか幼女吸血姫とか。

 だがこれは己の好むそれとは微妙に違うものようだ。

『好きな能力』

 これがネックだ。つまるところこれは二次創作モノになるようだ。

 悩んでしまう。

 勤めていた店が店だけに、二次創作に拒否感はない。むしろ結構好きだ。年に二度ある祭典は店員的に激務だが、購買者としては楽しみだ。

 では何故悩むのか。

 それはオリジナルキャラやオリジナル主人公があまり好きではないからだ。彼らはほぼ間違いなくメアリ・スーになる。書き手の自己願望投影による作品の陵辱は、ハッキリと不快だ。

 けれど、それが己の身に降り掛かってなおそう主張し続けられるだろうか? 答えは否だ。それが選択肢にあるということは、必要だからに他ならない。どのような世界に行くのかはわからない。原作があるのか、ないのか。何れにしてもそういった能力が必要な世界なのだろう。それを拒んであっさりとバッドエンドなんて御免だ。死にたくないという思いは当たり前にあるのだから。

 それに、恥ずかしい話。物語の主人公たちのような能力を使ってみたいという思いもある。寝る前に妄想とかするのは凄く愉しい。

 どうするか悩み、結局は己の欲を選ぶ。

 なんだかんだと言った所でその誘惑に抗える筈など無いのだった。

 

「決まったようだね。さぁ、まずは聞こうか」

 

 ――そうして、幾つか妥協すべき点はあったものの、望んだ要求は叶えられた。

 

「おっと、すまない。もう本当に時間がないみたいだ。質問タイムは省略させてもらうが、何、大丈夫だ。君の他にあと三人居る。時間の都合上君にだけこんな雑な対応だが、彼らには語れるだけを語っている。質問は彼らには行ってくれ。では――」

 

よい人生を。

 

 抗議をする間もなく、意識が暗転した。

 

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