リリカルなのか?   作:コカ・と栗鼠

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第九話:Invasive -second act.α-

 月村家での妾そっちのけで行われた話し合いから数日。

 そろそろ六個目のジュエルシードが発動する筈だ、と今後のタイムスケジュールを考えながら街を散策していると、そいつは表れた。

 

「お前、転生者だな?」

 

 黒いシャツに黒いアームガード。裾に白いラインの入った黒のミニスカート。長い金髪は赤いリボンでポニーテールに纏められており、髪同様に金色の瞳は睨むように妾を射ぬいていた。

 転生者。そんな単語が出てくると言うあたり、目の前のコイツもまた転生者なのだろう。

 と言うか転生者で間違いない。何故って、見てくれが完全に【NEEDLES】のセトなのだから。

 

「そう言う汝も転生者だな」

「ふん。まぁ見ればわかるよね」

 

 セト(仮称)からは敵意が見てとれる。隠す気などさらさら無いのだろう。

 三人目の転生者。

 何故このタイミングで現れたのか、妾やスザクがなのは達と大差ないような外見なのに――アル・アジフは元からだが――何故コイツは【NEEDLES】作中のセトと同等の外見――十六歳くらい――なのか。敵意剥き出しな点も気になるところだが。

 ここは街中だ。昼日中で人通りも少ないとは決して言えない。今だって通行人たちが睨み合う妾たちを遠巻きに見ながら行き交っている。

 

「何はともあれ、場所を変えるぞ。人目が多いのはお互い良くないだろう」

「いいよ。なら、あっちの山に神社があったから、そこに行こう」

「承知した」

 

 頷くと、セト(仮称)はさっさと踵を返して移動を始めた。

 その後ろを一定の間隔で着いていきながら、スザクにメールを打つ。

 ――三人目と接触。戦闘の可能性あり。

 

 

 

 街の中心を抜けて少し歩くと、長い石造りの階段があった。

 階段を登りきると古い神社があるだけで、他には何もない。ただ木々とそれによって成された森が広がるのみ。

 絶好のロケーションと言えるだろう。

 

「さて、確認だアル・アジフ。お前、原作に介入する気か?」

 

 最初に口を開いたのはセト(仮称)だった。一貫して敵意を滾らせたまま、射ぬくような眼光もまた同じく。

 対してこちらは自然体だ。

 外見と中身――特典が一致しないのはスザクの例がある。その一方で妾のように外見と特典が一致する可能性も排してはならない。

 ならば自然体に構え、どのような事態にも即座に対処出来るようにしておくのが最善だろう。

 投げられた問い掛けから考えても、どうせ戦闘にはなるのだろうし。

 

「ああ。差し当たってはプレシア親子救済を目標にな。既にジュエルシード回収にも関わっておる」

「……そうかよ。お前、それの意味がわかっているのか?」

「……意味、だと?」

 

 原作改変を許さないタイプの奴かと思ったが、どうもニュアンスが違うように感じる。

 

「チッ、知らないのか。いいさ、なら教えてやるよ」

 

 苛立たしげに舌打ちをしながらも、情報の開示はしてくれるようだ。何を知っているのか、何を語る心算なのか知らないが、聞くだけ聞いておこう。

 

「いいか? この世界がフィクションかノンフィクションかに関係無く、【魔法少女リリカルなのは】の世界である以上、確定事項としてプレシア・テスタロッサは死ぬ事になっている。つまり人一人の消失がこの世界では既に決定しているんだ。それを救済するってことは、プレシア・テスタロッサの代わりに誰かが死ぬ事になるってことだ。そして、テスタロッサ親子の救済を掲げるってことは既に亡くなっているアリシアの分、代わりの死者が一人必要になるんだ」

「……なんだと? 何故そんな事になる?」

「それがこの世界でのルールだからだ」

 

 ルールだと?

 

「言っておくけど、これは神様が教えてくれたことだ。嘘じゃないぞ」

 

 つまりなんだ。この世界では人の生き死にが予め決定されていて、それに反したら代わりの誰かがそこに収まるのか。

 ――なんて、巫山戯たルールだ。

 

「それは本当なのか?」

「そうだって言ってるだろ。だから救済なんてやめろ。死者は黄泉帰らない。運命は変えちゃいけない。お前のやろうとしていることは、一人を救う代わりに関係無い誰かを殺すようなものだ」

「…………」

「ボクだって、救えるなら救いたい。【INNOCENT】でプレシアはフェイトをアリシア同様に愛していたのを知っている。あの人は後が無くなって狂気に苛まれているだけだから、きっとフェイトを愛せる筈だ。そう信じてる。けど、だからって、運命を捻じ曲げて、代わりに誰かを殺して良い理由にはならない!」

「……言いたいことはわかった」

 

 確かに一人を殺して一人を救う何て随分と身勝手な考えだ。偽善も良いところだろう。ともすれば、代わりに死ぬ誰かにとって妾は悪あのだろう。

 だが――。

 

「マギウス・スタイル」

 

 ――紙片が舞う。

 それがどうした。偽善だろうが悪だろうが関係無い。

 ――異界の知識を一枚一枚鎧う。

 人が喪われるとわかっていて。それを救うことが出来る“チカラ”があって。

 ――正気を侵す狂気を強気で抑え込む。

 ならば、それをしないのは嘘だ。

 例え犠牲が付いて回っても、運命なんて言い訳で諦められない。

 

「諦める気はないんだな」

「無論だ」

 

 紙片が全てその身に吸い込まれるように貼り付くと、姿は一新される。

 流されていた長い髪は赤いリボンでポニーテールに纏められ。

 白いミニワンピースは外套のように裾の長いヘソ出しのジャケットとホットパンツに。

 黒い靴は茶色いブーツに。手には指ぬきグローブを。

 その姿は【デモンベイン】のエンディングの一つ。最も新しい旧き神としてのアル・アジフの姿になる。

 これが、妾のマギウス・スタイル。魔術を最大効率、最高速度で演算し、常時魔力付与を行う事で戦闘者として起つ戦装束。

 こちらの戦闘態勢に合わせ、セト(仮称)も虚空から一本の長物を取り出した。

【NEEDLES】作中でもセトは武器を手にして戦っていた。それは鍔の部部に骸骨をあしらった禍々しい大剣、死神の聖剣“エクスカリ棒”。

 しかし、目の前のセト(仮称)が両手に構えるそれは剣ではない。

 長さは三メートル超。穂先に四十センチ程の刃を持ち、石突きには打突用のパーツを備えた槍。

 それを妾は知っている。前世では電話帳や辞書なんて呼ばれることもある厚さを誇るライトノベル【境界線上のホライゾン】に登場する神格武装。穂先に止まった蜻蛉がそのまま両断されたことを由来にしたその銘は、“蜻蛉切”。

 

「それが貴様の選んだ特典か」

「…………」

 

 セト(仮称)はもはや語る必要無しと言わんばかりに無言で槍を構える。

 ならばこちらも倣おう。元より、この状況は予想通りのものだ。

 無言のままにバルザイの偃月刀を鍛造し半身に構える。

 

「――結べ、蜻蛉切!」

 

 先手は相手から。

 神格武装・蜻蛉切にはある能力が存在する。

 それは、刃先に映したモノの名前を得ることで対象を割断するというもの。幾つかの条件はあるものの、割断対象を選ぶことはない。

 故に、奴が割断する以上の速度で以て接近する。

 設定では最大有効射程は三十メートルと成っていた。妾がそうであるように、奴もまた何らかの機能改変が成されている可能性があるが、何も刃に映らないようにする手段は離れるだけではない。

 刃に映す隙の無い程に肉薄した超インファイト。

 肉厚の刃を持つ剣であるバルザイの偃月刀もこの距離では碌に振るえない。だが、魔刃鍛造の応用術式にはナイフ程度の大きさに縮小したバルザイの偃月刀の製法も存在する。

 右手のバルザイの偃月刀はそのままに、左手に新たに造ったナイフ型偃月刀を一息に振るう。

 しかしこんなものは小手調べ程度。

 セト(仮称)は危なげもなく後ろへ跳躍して躱し、地に足が着くと同時に槍を突き出す。

 ナイフが空振った事で崩れた此方の体制を建て直す暇を与えない事には勿論、自身の崩れた体勢を直すことなく確実な攻撃へと繋げる事が出来る体術に舌を巻く。

 右手のバルザイの偃月刀で払うように叩き上げて槍を逸らすも、その刃は下向き。妾を見下すように映していた。

 

「結べ、」

「チッ!」

 

 セト(仮称)言い切るより早く、振り上げたバルザイの偃月刀の刀身を扇子の用に展開。傘のように翳すことで身を隠す。

 しかしそれはフェイントだった。

 セト(仮称)は蜻蛉切を手元まで一気に引き戻し、伸縮機構によって射出するように再び刺突を繰り出してきた。

 フェイントだと気付けたものの防御等間に合わない。咄嗟に身を捻って回避するが、刺突そのものは伸縮機構を用いただけのもの。セト(仮称)は既に引き戻した体勢を整え次の動作に入っていた。

 時計回りに身を捻ってしまったことで腹を見せることになり、そこへ痛烈な殴打が叩き込まれる。

 薙ぎ払いによる横殴りで軽い身体は容易く飛ばされてしまう。不幸中の幸いなのは、それが槍の棒部分であったことだ。

 鈍い痛みを感じながらも受け身を取って直ぐに立ち上がる。止まっていては良い的だ。

 

「結べ、」

 

 こちらのダメージが大したことが無いこと等お見通しだと言わんばかりの連撃。

 二、三メートル程吹き飛ばされたことで既に彼我の距離は五メートル程。これでまた懐に飛び込んでも、接近戦では向こうが上手な以上、先程の二の舞だ。かと言って奴が言い終わるよりも早く射程外まで離れる事も出来ないだろう。

 

「バルザイの偃月刀!」

「――蜻蛉切!」

 

 刹那の思考と共に自身を覆うようにバルザイの偃月刀を複数鍛造し中空展開する。半瞬後に展開されたバルザイの偃月刀がほぼ全て割断された。

 

「諦めろ」

 

 駆動宣言以外で初めてセト(仮称)が口を開く。その声には感情らしい感情が灯らず、まるで冷たい刃のようだ。

 

「なに?」

「お前、転生して間もないんだろう? ボクは転生して七年。ずっと特典を使いこなすために鍛練してきた。何れだけお前が強い特典を持っていても、使い手が拙いのなら地力でボクが上回る」

「ハンッ! もう勝った心算か? 妾はまだダメージらしいダメージも受けておらぬぞ」

 

 口で強がってみるが、確かに奴の言う通りだろう。

 七年も前に転生していたのは驚きだが、今日までずっと鍛えていたという事実はそれ以上の驚きだ。

 対して妾はまだ転生して日も浅く、前世でも武術の経験なんて皆無。戦闘らしい戦闘も今日が初めてといっても過言ではない。

 一撃一撃の重さでは此方が上なのは間違いない。向こうが防具らしい防具をしていないのを見るに、下手をすればこちらの攻撃全てが必殺ですらある。

 しかし、それは当たればの話だ。当たらないのなら、どんな攻撃も武器も意味がない。

 時間操作術式“ド・マリニーの時計”を使った作戦も脳裏を過るが、直ぐに無駄だと悟る。如何なチート術式でも絶対ではない。【デモンベイン】作中で[エルザ]がしたように、こちらの限界が来るまで攻撃の手を休まず叩き込むという手法に出られたら終わりだ。いや、それよりももっと簡単に。“蜻蛉切”の上位駆動で時間操作という事象を割断されかねない。

 端から見ても優劣は明らか。しかし、それでも。

 色々と考えた所で負ける気は無いし逃げる気もない。

“アル・アジフ”なら絶対に負けないし、絶対に逃げないという信仰にも似た思いが、後ろ向きな考えを棄却する。

 ――それになにより。運命なんて言葉で諦めを口にする奴に、負けてなるものか。

 バルザイの偃月刀を右手に、リボルバー拳銃“イタクァ”を左手に召喚する。

 

「仕方ない」

 

 そんな呟きが聞こえた。

 気にせずにイタクァの引き金を引こうとして。

 

「ジャイルグラビテイション」

 

 丸太のような太さで鉤爪のように隆起した大地に足を、腕を貫かれる。

 

「ヅァッ!?」

 

“ジャイルグラビテイション”。【NEEDLES】作中でセトが使う重力の能力。重力作成によって隆起させた足場毎対象を押し潰す必殺技だ。

 蜻蛉切の扱いの上手さに気を取られ、この可能性を――二つ目の特典の可能性を失念していた!

 腕を貫かれたことで腱がやられたか、イタクァを取り零してしまう。が、それどころではない。

 

「ジオ・インパクト」

 

 即座に二撃目が放たれ、とてつもないGによって地面へと縫い付けるように押し潰される。

“ジオ・インパクト”。【東京アンダーグラウンド】で重力操作能力者であるヒロイン[チェルシー・ローレック]が使う、超過重の一撃で相手を押し潰す必殺技。

 魔力付与も、身に鎧った術式も抜けてミシミシと身を軋ませながら、尚も重力が掛かる。

 

「これでわかっただろう。今のお前じゃあボクには勝てない。諦めて敗けを認めろ。そして、不必要に原作に関わるな」

 

 五体倒置した妾を見下ろしながら、しかし一部の油断もせずに蜻蛉切を構えたままで告げる。

 蜻蛉切を使いこなす武芸に、重力操作。それはつまり、【境界線上のホライゾン】で東国無双と謳われた[本多・忠勝]と自動人形[鹿角]の双方を同時に相手取るのと等しい暴挙だ。

 対向するには最低でも同作中の西国無双、神速の[立花・宗茂]レベルの戦闘能力が必要と言うことに相違無く――、しかしそれでも負けてしまう。

 戦闘開始から僅か数分で彼我の戦力差が明らかになってしまった。

 これが訓練と努力で“貰いモノのチカラ”を自身の力へと昇華した者の実力。未だに己の力だと言い切るのを憚られる妾との埋めようのない現実。

 冷やかに、けれど隙無く見下ろすセト(仮称)を睨むように見上げながら、必死に打開策を模索する――

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