リリカルなのか?   作:コカ・と栗鼠

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第十一話:Unstable behavior

 何故か現れたなのははこんな場所に居る妾に疑問を抱き、その妾が以前にも見せた魔術師の戦装束たる術衣、マギウス・スタイルになっていることで何かを察し、次いでなのはから見て奥では年上の少女が泣いているのを目にし悲鳴のような叱責の声を上げた。

 客観的に見た場合、この状況は何も知らない者にどう映るのか?

 縛られて泣いている少女一人と、加害者と思しき少年二人(内一人は女装している)。

 控え目に見ても事件だろう。二人がかりで少女一人を縛って泣かす。弁護の余地はない。

 ――故に。

 

「えっと、大丈夫ですか? もう大丈夫ですから、泣き止んでください」

「ひっく……、ぐすっ。……ありがとう、キミは優しいね」

 

 こうなるのは、ある意味必然だと言えるのかもしれない。甚だ遺憾だが。

 スザクと二人、バインドとか言う捕縛魔法で簀巻きにされ、動いたら射つと言わんばかりに周囲を漂う四つの魔力スフィアとか言うファンネルやファングのようなサイコミュっぽい魔法を眺める。こんな状況でなければ、桜色に輝く魔力球もまた別の感想が持てたのだろうか? 今はただただ恐ろしい。

 

「クソッ。なんでここになのはがいる!? と言うか何でこの時期にこんなに巧みに魔法が使えるんだ?」

 

 横ではスザクがブツブツと疑問と悪態を繰り返している。その様は追い詰められらたルルーシュそのもので、演技でなく素でルルーシュ似なんだなと新たな発見を妾に提供してくれている。まったくありがたくはない。

 弁解の間もなくこんな状況にされた事実に、なのはの魔法の才能に戦慄すると共に、自身の不甲斐なさにちょっと凹む。

 言い訳をするのなら、度重なる魔術の使用とそれによる心身の疲労があった。が、それは本当に言い訳でしかなく、これが実戦だったらと思うとゾッとする。

 妾にしろスザクにしろ、油断と慢心があったことは否めない。スザクはこの地ではほぼ万能であると言うことに。妾は何とかなるという無根拠な気の緩み。

 反省も自己嫌悪もとりあえずは脇に置こう。

 

「スザク、これ、どうにか出来ぬか?」

「……難しいな。魔法と魔術では術式が違い過ぎる。例えるならパソコンでスマホゲームをするようなモノだ。不可能ではないが、解析の必要がある。そして、解析には時間がかかる。お前の方では?」

「幾つか案はあるが……」

 

 チラリ、と視線を変える。

 視線の先には事態の理解に頭を悩ますフェレット、ユーノがいた。大方なのはの魔法の才能と上達速度に驚嘆し、同時に現状がいったいどういう事態なのか考えているのだろう。少しの会話しか行っていないが、真面目なタイプであるのは想像に難くない。

 

「……この程度のことで晒すのは悪手、か」

「うむ」

 

 そう。妾たち二人の状態は冗談のような冗談ではない有り様だが、『この程度』と断じてしまって良いものだ。

 たしかに容易にこんなことになった事実には猛省が必要だが、今すぐに命の危険があるわけではない。

 密談を切り上げ、視線をなのはとセト(仮称)に移す。

 

「ごめんね、ボクより小さいのに迷惑かけちゃって……」

「いいえ、良いんです。て言うか、男の子二人がかりであんなことされたら、泣いちゃうのは当然だと思います」

「ううん、これはボクが未熟だったから……」

「どんな理由があっても、女の子を縛って泣かすのはよくないと思うの!」

 

 男の子二人を縛って武力的に威圧するのは良いのか?

 

「だってよ、緊縛犯」

「汝には負ける、脅迫犯」

「そこ、煩いの」

 

 二人で罪の擦り付けあいをしているとなのはに槍のような杖――レイジングハートを向けられた。黙らないと射つぞ、という意思表示も怖いが、それよりも底冷えする目付きの笑顔というその表情が何より恐ろしい。

 

「……流石だな。既に魔王の片鱗が見える」

 

 スザクがボソッと吐き捨てるように呟いたのが聞こえた。ちょっと待て、なんだ魔王って。【リリカルなのは】シリーズでは最終的になのはがラスボスになるのか? なのはは主人公じゃないのか?

 不穏な発言を問い質したくもあったが、不穏な発言を聞いた後だからこそ余計に口を閉ざさるを得ない。これ以上不評を買ったらどうなるか予測が付かない故に。

 仕方がないので黙って成り行きを見守ることにする。なのはが居る手前、セト(仮称)もすぐに決定的な行動を取りはしないだろう。奴の言い分を信じるのなら、余計な被害を出すことは奴こそが望ま無い筈だから。

 

「ところで、どうして縛られるような事に? あっちの黒い子は知りませんけど、アルちゃんはそんなことをするような子じゃない筈なの」

 

 ほう。今更それを聞くのか。そして、そんなことをする筈のない妾を簀巻くのか。見てみろ、ユーノもなんか微妙な表情しているぞ。

 

「……ボクは、あの子たちのやろうとしている事を止めたかったんだ。でも、それはあの子たちには譲れない事だった。だから、ぶつかった」

 

 原作がどうとか、テスタロッサ親子がどうとか、世界のルールが云々は言えないからか、かなり暈した内容を語るセト(仮称)。

 なのはそれを、黙って聞いている。

 

「一対一だと思ったのに、あの子たちは二人がかりで……。しかも、ボクを追い出すようなことを……」

 

 間違ってはいないが、なんだ。それではまるで妾たちが二人がかりの多勢に無勢で脅迫したみたいじゃないか。なんて酷い言いがかりだ。何が酷いって、一側面から見れば正しい当りが酷い。

 

「チッ、不味いぞ。あの女、何も考えてないようで実は考えている風に装いながら、大して考えず喋ってやがる」

 

 横でスザクが神妙な顔つきで何やらまどろっこしいことを呟いている。

 つまり、感情の昂りのままに聞かれた事を答えてるということか。致命的なことを喋らなければ良いが。

 

「えぇっと、お互いに譲れないことがあって、勝負して決めようとしたんだけど、アルちゃんが卑怯なことをして、脅迫した……で合ってるのかな?」

 

 まぁ、確かに。正々堂々の勝負を装いながら策に嵌めたのは卑怯と言えるかもしれないが、それが本当の勝負事というものではないか? 卑怯汚いは敗者の戯言、なんて悪役紛いな台詞を言う気はないが、それにしてもなぁ……。

 

「フン。卑怯汚いなんてのは頭の悪い馬鹿な敗者の戯れ言だ」

 

 横でスザクが妾の思考以上に外道な台詞を吐き捨てた。流石は悪逆皇帝をルーツにしてるだけある。ちょっと付き合いを考えた方が良いかもしれん。

 

「……ねぇ、なのはちゃん。キミは、犠牲を強いる救済を正しいと思う?」

「え?」

「誰かが死んでしまうかもしれないと知っていて、けれどその人を助けると他の誰かが代わりに死んでしまうことも知っている。それでも、救うことは正しいのかな? 救わないことが、正しいのかな……?」

 

 セト(仮称)はそれきり俯いてしまった。

 問われたなのはは突然の難問に戸惑ったようでいて、それでも誤魔化すでもなく必死に考えているように見える。小学生に問うには、それはあまりにも酷だ。

 妾たちとて犠牲を容認している訳ではない。犠牲は出ないに越したことはないし、犠牲が出ないように計画を練ったのだ。

 もしも、仮に。奴の語った世界のルールとやらが正しいとして、しかしそれをどう確認する?

 それが正しい証拠は、根拠は何処にある?

 いや、それ以上に。それが真実であれ偽りであれ、今確かな事実が存在する。何もしなければ、娘を愛し狂気に走らざるを得なかった母親が、狂気に苛まれたまま死ぬのだ。それを是とすることは出来ない。したくない。

 いいさ。ならば考えてやる。一片の犠牲すら生じない完全無欠の救済を!

 だが、そのためには――

 

「――漸くクラック出来た。使用する魔力がマナかオドかわかれば、案外と容易いな」

 

 キン。

 と、金属質な音が小さく鳴るのに前後して。妾とスザクのバインドが霧散する。どうやら、スザクの解析が上手く終了したようだ。

 

「なっ!? バインドを解除した? そんな、貴方は魔導師ではない筈だ! なのに、何故……?」

 

 ユーノが信じられないと驚愕を露にし、なのはも同様に信じられないという顔をする。つられてか、セト(仮称)も顔を上げているが、その表情に最初のような覇気は感じられない。

 服に付いた埃を払っているスザクに迫る魔力球を、中空展開したバルザイの偃月刀で切り払う。

 

「確かに。俺は魔導師ではない。だが魔術師としての側面を有している。尤も、そこのアル・アジフとは別種だがな。そして、術式が異なろうと扱う動力源が同じならクラッキングは難しくない。幸いなことに、俺には大まかな知識もあったしな」

 

 ついさっきまでの情けない簀巻き姿が嘘のように超然と立ち振る舞い、悠然と語るスザクの隣に立つ。

 

「貴方は、いったい……」

「ふん、予定は狂ったが答えてやろう。俺の名前は鳳朱雀。この鳴海市の裏の管理者だ」

「管理者……」

「知っているぞ、ユーノ・スクライア。貴様、よくもジュエルシード等という面倒な危険物を持ち込んでくれたな」

「ッ! それは事故で」

「関係ないな。事故ごときで散逸するなど、運搬に於ける安全面の拙さと危険物を運んでいるという意識が薄弱であった証左に他ならない」

 

 弾劾するように切って捨てる。その冷酷な糾弾と断言に、ユーノは反論が出来ずにいた。なまじ今回のことに責任を感じているからこそ、それは余計に、強く鋭い刺となる。

 スザクの言っていることは暴論という他ないようなものだが、別に暴論でも詭弁でも何でも良いのだ。

 必要なのは仕切り直しだ。

 セト(仮称)のマジ泣きやなのはの登場で弛緩した空気が再び張り詰める。

 

「本来ならば。この地の管理者として、貴様には相応の責任を取ってもらうところだが、早急に対処しようとした姿勢は買ってやる。一般人を巻き込んだ脇の甘さは、まぁ本人が同意しているのなら構わない。不問にしてやろう」

 

 どこまでも上から目線で、まるで臣下を裁く王のような絶対性でもって語るスザクだが、当然この状況にも種はある。

 恐らくは、“カリスマ”あたりを主張して自分の言い分に絶対的な優位性を付加していうのだろう。 いや、もしかしたら“自己暗示”のスキルで自らの主張を絶対であると認識して、それを周りに強要しているのかもいれない。

 まぁ、なんであれ。今やここはスザクの絶対王権下。暴虐な王に歯向かうなどそう容易く出来ることではない。

 それこそ――、

 

「ユーノくんは悪くないの!」

 

 ――メロスのように勇敢な主人公くらいだろう。

 

「ユーノくんは傷付きながら、それでも必死にジュエルシードを封印しようと頑張っていたの!」

 

 激昂してスザクへと拙く、幼稚な、けれど真摯な反論を口にするなのは。

 それでいい。今は精々邪知謀逆な王に立ち抜かっていてくれ。なのはのような真っ直ぐな少女には、正答の存在し得ない人の生き死にを考えるのはまだ早い。

 場の急展開についていけない様子のセト(仮称)に意識を向ける。

 座り込み、なのはを見上げているセト(仮称)へ“ニトクリスの鏡”でメッセージを送る。

“ニトクリスの鏡”にはイマジネーションを具現化する能力がある。それを応用してセト(仮称)にだけ見えるように文字を紡ぐ。

 

 ――此処は一度去れ。明日、また此処で。我らの方策を教える。

 

 白熱するなのはと、どこまでも冷たく言い捨てるスザクの口論を迷うように見て。

 恐らくは方角を割断したのだろう。セト(仮称)はその場から姿を消した。

 さて。あとはこの討論会をどこへ着地させるか……。

 そう言えば、なんでなのははここに来たんだ?

 

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