リリカルなのか?   作:コカ・と栗鼠

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第十二話:Invitation_side,Al Azif

 清澄な朝の空気を切り裂くように剣戟の音が舞う。

 ヒュッ、という風切り音が鳴るのと間を置かず、カンッ、と硬質な音が響く。

 一の音に二、三の音まで内包するように音は独特なリズムとスピードで響き渡る。

 剣戟は出逢いと別れに似ている。

 一合毎に得物と得物は出逢い、刹那別離を果たす。その関係性は織姫と彦星のように運命的でいて、彼らよりもその周期は速く短くなおかつ苛烈だ。

 果たしてこれが何度目なのか。それを数えるのは早々に諦めた。

 速すぎて目が追い付かない。一理ある。

 時間に比例して膨大な数である。それも然り。

 だが、それ以上に。

 

「まさか! これ程の使い手に巡り会えるとはな!」

「まったくです! 噂に聞く御神流、神速とはまさしく!」

「フッ、まだまだぁ!」

「ハッ、おおぉぉぉ!」

 

 燥ぐように互いの武を、その練度を研鑽を誇り合い称え合い凌ぎ合う二人を見ていると、余念を挟む行為がとても無粋に思えたからに他ならない。

 

 

 ……事の起こりは、三人目との邂逅の翌日だった。

 

 

 前日と同じ神社の境内に入ると、拝殿へと至る階段に腰掛けて呆と空を眺めているセト(仮称)が居た。いったい何時から待っていたのか、と考えたところでそう言えば時間を明示していなかったと今更に思い出す。現在の時刻は昼過ぎ。今なら丁度お昼の連続ドラマが始まる頃だろう。

 妾の気配に気付いたか、空を眺めるのを止めて此方を向くセト(仮称)。どう控え目に見ても非難する色が伺えるのは、気のせいではない筈だ。

 

「やっと来たか」

「すまぬ、待たせたようだな」

 

 あえて何時から居たのかは聞かない。こんな出だしで率先して徒に気に病むようなことをしたくない。

 

「さっそく本題に入ろう」

「昨日のルルーシュはこないのか?」

「別件で外している。だから、昨日みたいな不意打ちは無い。そして、これから話す事を聞いてなお敵対するのなら、今度こそ、本気で相手になる」

「……わかった。まずは話を聞く」

 

 こちらの態度から嘘はないと信じてくれたのか、様子見か。それはわからないが取り敢えずは穏便なスタートとなった。昨日の今日でえらく素直だな、と思ったが、そう言えば最初に臨戦態勢に入ったのは妾が先だったなと思い出す。

 

「そうだな、まずは――と。その前に自己紹介をしないか? 呼び名がわからないのは少々不便だ」

「いいよ。ボクはノイシュヴァンシュタイン・刹那だ」

「……妾はアル・アジフだ」

 

 名乗り合い、暫しお互いに微妙な顔で黙る。

 まさか、【NEEDLES】作中のメインヒロインのファミリーネームと、メインヒロインのキャラ被りの名前を使うとは……。向こうは向こうで、きっとそのままかよ的な感想を抱いているのだろう。

 ま、まあアレだ。ここはお互いに触れないのがベストだろう。初っぱなで火傷とかバカバカしいしな。

 気にしたら負けだと心中で言い聞かせて話を進める。

 

「まずは、刹那。汝は何故『世界のルール』等を知っている?」

 

 妾の時は時間がないとかであれよあれよと結局設けられなかったが、あの自称カミとスザクの言から質問タイムがあったのは既に承知の通りだ。

 だがその質問タイムで世界のルール等問うだろうか? そもそもに於いて世界に明確なルールが存在している、なんて発想自体がオカシイ。確かに世界にはルールが存在するだろう。生と死は表裏であるとか、上から下へ落ちるだとか、元素の連なりがより大きな力になるだとか、そういう聞くまでもない当たり前のものが。これはわざわざ聞くまでも無いような事だし、知っていても無意識に意識の外へと追いやられるものだ。普通ならばもっと有益でこれからの自分の身になることを訊くのではないだろうか? 例えば、スザクが能力関連について微に入り細を穿ったように。

 そんな妾の裡の疑問等まるで見当にないと言わんばかりに、刹那はあっさりと答える。

 

「何故って、カミがルール説明をしたからだ。それも、転生間際で」

「なに? それは、質問タイムとは別にか?」

「質問タイム? そんなものは無かったぞ」

 

 どういうことだ?

 これは、どうやら考えていた以上の異常が隠れていそうだ。場合によっては、計画を根本から見直す必要性もあるかもしれない。

 ………………

 …………

 ……

 

 話し合いの結果。

 得たものは新たな協力者と、新たな事実。そして疑問。

 しかし疑問については今は一先ず置いておこう。いずれ明らかにしなければならない案件だが、それよりも先ずは刻々と迫る悲劇の回避にこそ注力すべきだ。疑問があろうが無かろうが、事態は此方の都合などお構い無しに進み続けているのだから。

 加えて。この計画はセト(仮称)改め刹那も認めざるを得ないほどにトチ狂ったものである故に。

 

「イカれてる。もしこれが実現すれば、お前らはきっと世界の敵になる」

 

 呆れたようにそう言いながら、けれどこれは妾とスザクにしか出来ないことだと認めた。全てが上手くいけば悲劇は回避され、世界のルールすら欺ける方策。失敗しても妾とスザクが失われ、運命の通りに物事が進むだけだ。

 だが、これは決して失敗しない。何故ならば、これはかつて『世界を壊し創った魔王』と、『最も新しき旧き神の片割れ』の姿をした我らの謀なのだから。失敗など在り得ない。

 そう信じて進むのだ。

 

「で? キミたちのことはわかった。ボクはどう動けばいい?」

「妾はなのは側に付くことになる故、セツナ、汝にはフェイトの陣営に付いてもらいたい」

「いいけど、それだとバランスが悪くならない?」

「問題無い。スザクは戦闘は、と言うか肉体労働は出来ん」

「なんでさ? スキルの中には『燕返し』や『無明三段突き』があるし、魔術も使えるんだろう?」

「あーうむ、そうなんだが……。もしや汝、気づいておらんのか?」

「? なんのこと?」

 

 容易に気付いても良い事なのに気付いていない様子のセツナ。疑問符を浮かべ首を傾げる様は本気で気付いていないのだと察せられた。

 思わずため息が漏れたが、確かによくよく考えてみれば一人ではこの事に気づけないのかもしれない。スザクの場合は身体が身体なだけに気付かざるを得なかったようだが。

 

「妾たちはある程度だが、この身体の元となんているオリジナルの影響を受けているようなのだ」

「オリジナルの影響……」

「うむ。例えば、妾ならば術式を御する為の莫大な魔力と、[アル・アジフ]の主たちの記録だ。そして、スザクならば物事を同時に並列して思考できる並列思考とマルチタスク、そして、【コードギアス】作中通りの壊滅的な運動性能だ。恐らく、汝も【NEEDLES】作中の“ニードレス”[セト]としての身体強度をある程度有している筈だ。何か思い当たることがあるんじゃないのか?」

 

 スザクは当初、『皇帝特権』の使用訓練と平行して戦闘に耐えうる肉体作りに励んだそうだ。だがその目論見は早々に潰える事になった。

 柔軟運動で息が上がり、ランニングでは三分程でウォーキングへと以降せざるを得なかったと言う。つまり、小説版で[マリアンヌ]の肚の中に運動神経を忘れてきたと揶揄されるに足る散々たる有り様だったらしい。それでもめげずに頑張って、今はある程度の運動にはどうにか耐えれると憮然と言い放っていたのを思い出す。

 その一方で、思考関連は本人が驚く程に冴え渡っていたそうだ。それが、大まかかつ微少の情報からスノーフィールドの魔術を再現するに至り、加えて複数並列主張によるスキルの同時使用に繋がっているのだと言う。

 だが、それは完全にそのままトレースしている訳ではない。

 妾ならば知識は有っても経験は無く、莫大な魔力もマギウス・スタイルにならなって漸く、辛うじて御せる程度。その為、[エドガー]や[大十字九郎]のようなバルザイの偃月刀への魔力付与も上手く出来ず、『鬼械神』の部分召喚等到底不可能なのだ。

 それらの前例から、恐らくはセツナもまた[セト]と同じ『ニードレス』としての身体強度をある程度は有している筈だ。それこそ、一般人の成人男性程度ならば素手で容易に制圧可能な程度のものは。

 

「……成る程ね。どうにも修行の成果が面白いように表れると思ったよ。そっか……」

 

 何か思うことがあったのか、セツナはそう言うと俯いてしまった。

 突然のその様子に慌てるものの、何故いきなり落ち込んでいる風な事になっているのかがわからない。何か言ったほうが良いのかと悩んでいると。

 

「まぁ、いっか!」

「…………は?」

「得手不得手なんて誰にでも有るし、ボクは運動が頗る得意だったと思うことにしよう。そもそもズルい“チカラ”を持ってるんだし今更だよね!」

「……なんぞ知らんが、落ち込んだり開き直ったり忙しい奴だな」

 

 今度こそ溜め息が漏れたが仕方がないだろう。少しでも心配して損した。

 と、そう言えば気になっていたことを未だ聞いてなかったと思い出す。

 

「ところでセツナよ。汝、何でこんな微妙な時期に妾の前に表れたのだ? 七年も前に転生していたのなら、もっと早くともよかったであろう」

 

【リリカルなのは】の原作開始七年前に転生し、その間修行していたのは聞いた。

 だが何故こんな中途半端な時期なのか。何か意味があるのか……

 

「あ、あー……、えーとぉ……」

 

 何ぞ思惑があったのかと思って多少は気を張って訊いたのだが、あーだのうーだの言ってセツナの反応が宜しくない。

 視線をあちこちさ迷わせて目をばしゃばしゃと泳がせるその様子に、流石の妾も何となく、外れてほしいと思いながらも察してしまった。

 

「まさかとは思うが……、汝、よもや忘れており慌てて海鳴市に戻ってきた、……とかではなかろうな?」

「うっ」

 

 面白いくらい目に見えて狼狽えるセツナ。あーもーなんなのだ此奴。強いくせに泣くし、あんな啖呵切っておきながらこの体たらく。

 呆れてもはや何も言えない妾の様子に、これは不味いとでも察したのかわざとらしく話題転換を図ってきた。

 

「そう言えば、キミはなのはちゃんに協力してるんだろう? ならさ、高町家の士郎さんか恭也さんに取り次いで貰えないか!?」

 

 唐突な上に意味不明だが、ここで問い詰めて弄って結果また泣かれたら堪らない。仕方無くその話題に乗ってやることにする。

 

「なんなのだ突然」

「いや、前世では御神流はチート剣術とか言われてたからさ、闘ってみたくて!」

 

 魔法がまかり通る世界でチートと言われる剣術、だと?

 初耳な情報に若干胡散臭く感じてしまうが、こんな嘘を言う意味もないだろう。

 そして断る理由も特に無い。

 

 

 ――そうして現在に至る。

 

 

「正直驚いたぞ。君のような女の子がここまで出来るとは」

「ボクも驚きました。噂に聞く御神流、想像以上です」

 

 離れた場所で見ているからこそ辛うじて目で追うことが可能な、怒濤のような剣戟の嵐を止め、仕切り直しとばかりに等間隔に間を空けて称賛を交わすセツナと恭也さん。

 正直なところ、開いた口が塞がらない思いだ。

 以前にも恭也さんの鍛練風景は見せて貰ったが、この試合は質が次元違いだ。

 両者手にしているのは木製の得物。

 セツナが蜻蛉切と同じくらいの三メートル程の木棍。

 恭也さんが二振りの小太刀のような長さの木刀だ。

 木と木がぶつかりあっている筈の風景は、しかし本物の得物で打ち合うような錯覚を覚える。それは両者が試合としての闘気とでも言うべきものではなく、仕合うような戦気で舞っているからだろうか。

 何にしろ、今目の前で繰り広げられているのは両者本気の戦いだ。

 

「父さん以外でここまで昂ったのは久しぶりだ。まだまだ続けたい思いもあるが」

「ええ、そろそろ決めましょう」

 

 すっ。と言い終わり、一拍の間を置いて二人の纏う雰囲気がガラリと変わる。

 闘気が戦気へと転じたように、今また二人の戦気が決着へ向け変わったのだ。

 見ているだけでビリビリと肌を粟立たせるようなそれは、殺気。

 

「改めて名乗らせてくれ。永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術、師範代、高町恭也」

「名乗る流派を修めてはいませんがあえて名乗るならば、無名槍術・近接武術師(ストライクフォーサー)、ノイシュヴァンシュタイン・刹那」

 

 恭也さんは姿勢を低く半身に構え、

 セツナは半身中腰に棍を斜めに構える。

「参る!!」

 

 宣言は同時。

 動いたのは恭也さんが先だった。

 否。そうと解った時点で恭也さんがセツナの背後に居たから、そう錯覚したのだ。

 硬く、悲鳴のような、断末魔のような音が遅れて響いた。

 

「俺の敗けか」

「いいえ、貴方の勝ちです」

 

 恭也さんが右手に持つ木刀が砕けていた。

 一方で、セツナの手にする棍も先端が割れ、しかも中程から折られていた。

 

「小太刀二刀流が片翼を失したんだ、俺の敗けだよ」

「いいえ。それを言うなら槍使いが槍を槍として振るえない状況にあるのです。ボクの敗けです」

「…………」

「…………」

 

 フッ、と笑い。

 二人はそのまま己こそが負けたのだと譲り合いを始めた。

 最初は穏便な口調だったのに、熱が入ったのか次第に口調が荒くなる。

 

「ええい、年長者の言うことに従え!」

 

 と、ついに恭也さんが年功序列を振りかざし始めた。

 

「うるさいうるさい! どう見たってそっちの勝ちじゃないか!」

 

 一方のセツナは興奮で顔を赤くして涙目になりながら駄々を捏ねる始末。

 さっきまでの鬼気迫るような兵は何処へ逝ったのか。

 

「よしわかった! ならばもう一度だ!」

「いいよ、望むところだ!」

 

 損傷した得物を捨てて新しい得物を手に対峙する二人を見て。

 アホらしくなった妾は溜め息とともに、ソッと道場を後にした。

 

 ちなみに、最終的な勝者は桃子さんだ。

 朝食の時間になってもまだ続けていた二人を、何者にも反論を赦さない絶対者としての威風と、二、三言のヤサシイお言葉でサトシタのである。

 

 どっとはらい。

 

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