リリカルなのか?   作:コカ・と栗鼠

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第十二話:Invitation / Another view_side,Suzaku

 イレギュラーのせいで曇り空な俺の心境などなんのその、空は快晴良い夜空だ。月は煌々、星は綺羅々々。占いなんぞ信じていない俺には、星の運行にどんな意味があるのかは知らんし興味も無いが、ただただ能天気に光ってりゃイイっていうその態度が気に食わない。

 三人目の転生者が訪れた事は勿論、その三人目が語った世界のルールとやらが発覚したことで多少の計画修正を余儀なくされた。それが騙りかどうかは追々わかることだ。嘘と断じても良いが、万が一にも真実だった場合寝覚めが悪い。

 とりあえず。今はそれを置いておく。計画は既にアルの方に説明済みだ。奴には奴の役割が有るように、俺には俺の役割がある。

 絶えず思考しながら、拠点の一つで空を眺めつつ煽っていた缶コーヒーを飲み干し、ゴミ箱に投げ捨てる。

 あの時なのはがあの場所に来てしまったことで、フェイトの初登場になのはが居ないという斬新な展開をもたらしてしまったが、出逢いが先伸ばしになっただけだ。大丈夫、まだ焦る時ではない。

 頭痛で苛つくのを誤魔化すように言い聞かせる。

 考えようによってはこれはチャンスだ。敵対者との接敵前にフェイトへと接触出来る。この時期のフェイトはなのはとの会話を頑なに拒んでいたが、それは敵に弱味を見せまいという部分も少なからずあった筈だ。

 ならば、今この時は油断があるかもしれない。加えて俺にはリンカーコアも無い。敵として見られることもないだろう。

 そんな風に無理矢理自分を納得させながら、意識を集中して霊脈に接続。俯瞰するように現在のフェイトの位置を探す。

 この街は既に俺の魔術的領土だ。一般人一人一人が何処で何をしているかまで探るのは流石に不可能だが、魔導師なんて人種ならば別だ。

 魔術師の工房は侵入者を迎撃するのに特化している。それはつまり、異物の検知に敏感であるとも言える。管理外世界である地球では、リンカーコアなんて魔力生成器官を持った人間は間違いなく異物だ。

 ほら。そうこう考えている内に見つかった。

 何処かのビルの屋上に居るようだ。恐らくは、作中で行っていたように探知系の魔法を使っている最中なのだろう。

 好都合だな。

 気配遮断スキルを主張し発動させ、併用して魔術で脚力を強化。幾何学模様に輝く足で部屋の窓枠を蹴る。

 高さ十五階から更に上へと上昇し、高度が下がり出したところで飛行の魔術を使い、フェイトの居るビルまで飛ぶ。

 暫しの空中遊覧を楽しんだ後、目的のビルへと音も無く着地する。視線を周囲へと向ければ……居た。

 黒色で纏められた服装に、綺麗な金髪をツインテールにした後ろ姿。あれがフェイトで間違いないだろう。

 

「こんにちわ、可愛らしいお嬢さん」

 

 気配遮断を解き、コツコツとわざとらしく靴音を響かせながら声をかける。

 突然の闖入者に、弾かれたように振り返るその姿は、まさしくフェイト・テスタロッサに相違無い。

 

「……誰、ですか?」

「フッ。そう身構えるな。先ずは自己紹介といこう。俺の名は鳳朱雀。君達親子へ幸運の勧誘にきたんだ、フェイト・テスタロッサ」

「ッ!? どうして私の名前を!」

 

 問いに、しかし俺は答えず笑みを返す。散々鏡を見て練習した、見る者に不敵さを感じさせるアルカイックな笑顔だ。

 

「管理局の魔導師ですか?」

「管理局? 知らんな。俺はこの街の管理者だ」

「管理者……?」

「それは別に良い。それよりも、君と話がしたい。そうだな、話題は君の母親、プレシア・テスタロッサについて、なんてのはどうだ?」

「――ッ!? どうして、母さんのことまで?」

「さぁな。聞きたければ俺に着いてこい。そうだな、一人で不安だというのなら、使い魔のアルフの同伴も許そう」

「アルフのことまで……」

 

 険しい表情で呟くフェイト。そこに僅かばかりの驚愕と、それに倍する警戒が見てとれるが隙だけは見当たらない。リニスの教えをよく守っているのだろう。

 ああ。それだけに残念でならない。出来ることならば、俺はリニスも救いたかったのだ。

 劇場版で初めてその姿を見た時、俺はリニスの優しさと厳しさを内包している姉のようなキャラクター性に惹かれたのだ。既に嫁と言って憚らず、その出番の少なさに憤慨する程に愛しているキャラクターが居たにも関わらず。故に、等と邪念まみれの思いからではないが、俺はリニスも救いたかった。

 誰かが喪われるのは、胸が張り裂けそうな程に悲しいから。

 いかんな。今はフェイトだ。ここでトチる訳にはいかない。気を引き締めよう。

 

「これだけは断言しよう、フェイト・テスタロッサ。俺は君達親子の敵ではない。なんとなれば、君のジュエルシード探しに協力しても良い」

 

 さぁ、どうする?

 

 

 僅かな場の停滞の後、念話で呼んだのだろうアルフがフェイトの元に到着すると、フェイトは漸く俺の誘いに頷いた。

 ビルの屋上なんて殺風景極まりない場所から移り、現在はとある喫茶店。こじんまりとしており、寡黙な初老のマスターが個人で経営している隠れ家のような店だ。

 

「マスター、エスプレッソを一つ。こちらのお嬢さんにはカフェオレとBLTサンド。こちらの女性には烏龍茶とポークジンジャーを」

「え?」

「ちょっと、何を勝手に」

「奢りだ。見たところきちんと食事をとっていないな。華奢な女性も好みだが、君は少し細すぎるぞ、フェイト。あとアルフ、ここのポークジンジャーは尋常でなく旨いぞ」

 

 何かを言おうとする二人の言にインターセプトして言いたいことを捲し立て、さっさと奥の席に座る。

 カウンター七席に、テーブル席が五つ。幸いな事に俺達以外の客は居ない。……訂正だ。この時間で客が居ないのは大丈夫なのか?

 

「どうした、さっさと座れ」

 

 何となくこの店の先行きに不安感を覚えつつも、それをおくびにも出さず、俺の傍若無人っぷりに面食らっているのか、入り口で突っ立っている二人を促す。

 最近このルルーシュモードが素になりかけているが、別に気にする必要はないだろう。一応TPOは弁えているつもりだ。

 渋々といった様子で座る二人。俺の前にフェイトが座り、その横にアルフが座った。

 

「それで、話ってなんだい?」

 

 どこかイライラしている様子で問うアルフに、まぁ待てと制止する。

 

「先ずは食事だ。それからでも遅くはない」

「何を勝手な!」

「ジュエルシードなら、今此処に一つある」

 

 ポケットから取り出した、掌に包めるサイズの小箱をテーブルの上に置く。

 これは道具作成のスキルで作った物だ。中に収めた魔力を有する物体から魔力を吸出し封印に使用するという、自己封印型のアーティファクト。ある程度は外部からの干渉を遮断する効果もあるため、実際に触れて探知しないと気づくこともない。

 

「触って確かめてみろ。ああ、開けるなよ。開けたらもう再封印出来ない」

 

 問題点は使い捨てであるという点だ。一度中に収め、箱を開いてしまうと以降機能が消失してしまうのだ。

 このジュエルシードは以前、三人目とのごたごたがあったのと同じ神社で活性化する前に捜索し封印したものだ。

 今回のジュエルシード捜索が開始さえされれば、あとは前世の記憶を頼りにある程度の先回りが出来る。原作で言うところの四つ目の発見がこれで無くなったが、今回の交渉の釣り餌として、また計画に使うことが可能かを見極める為には必要だったのだ。

 

「……本当だ」

「なっ! 嘘だろ、コイツからはリンカーコアの反応もないのに……」

「言っただろう。俺はこの街の管理者だと。まぁそれも含めて話してやるし、そのジュエルシードも話が終われば差し上げよう」

「いいんですか!?」

「ああ。だからまずは、」

 

 図ったかのような丁度良いタイミングでメニューが運ばれて来た。

 マスターに礼を告げ、

 

「しっかりと食べろ」

 

 

 コーヒーを飲みながら。

 ハムハムと小動物のように食べるフェイトと、ガツガツという擬音がここまで似合うとは、と関心するような良い食いップリの対照的な二人を眺めて暫し。

 

「では話そうか」

 

 二人が落ち着いたのを確認して嘘と真実をブレンドした説明を始める。

 

「魔術、ですか?」

「そうだ。これは君達の扱う魔法とは違う、この世界、地球特有の魔法体系だ。これは君達が機械を介する一種の科学的技術であるのに対し、科学という人類の進歩から逆行する技術だ。こんな言葉がある、科学は未来へと疾走し、魔術は過去へと逆走する。まぁ、オカルトを大真面目に研鑽する技術だと認識してくれればいい」

 

 神妙な顔で聞くフェイトと、首を傾げているアルフ。なんというか、良いコンビだな、本当に。

 

「そして、魔術には未来予知を可能とする術式も存在する」

「未来予知……それで、私たちのことを?」

「ああ。精度はまちまちだが、術者によって確度は上下する。そして、それによりこの街でジュエルシードを軸にした事件と、君達のことを知った」

「へー、管理外世界だからって甘く見てたよ。すごいんだねぇ、魔術ってのは」

 

 素直に感心するアルフの横で、フェイトは黙って続きを促している。

 どうやら先に言ったプレシアの話が気になるようだ。お望み通り、その話をしようじゃないか。

 

「俺の見た未来では、この事件で一人の女性が亡くなる。それが、プレシア・テスタロッサ……君の母親だ。フェイト・テスタロッサ」

「――ッ!? 母さんが!」

 

 弾かれたように立ち上がり、次第に表情を青くするフェイト。

 

「プレシア・テスタロッサは自らを省みない無茶な研究が祟り、体調を大きく崩している。君がジュエルシードを探すのも、プレシアから研究に必要だと言われたからではないか?」

「う、うん。母さんは、そう言ってた」

「このままでは君の母親は俺の見た未来通りに亡くなってしまうだろう。これが、俺が君に接触した理由だ、フェイト」

 

 力無く椅子に座り込み、泣きそうな顔で震えるフェイトの肩を抱き、アルフが睨みつけながら、噛みつくように口を開いた。

 

「それで? あたしたちにそれを話して、どうしようっていうのさ!?」

「決まっている。俺はプレシア・テスタロッサを救う手だてを有している」

「え?」

「フェイト・テスタロッサ。今此処で選べ。プレシア・テスタロッサを救えると語る魔術師、鳳朱雀を信じるか。それとも、妄言として切って捨てるか」

「わ、私は……」

 

 迷うように逡巡するフェイト。

 それはそうだろう、こちらの言が正しい証拠などフェイト達のことを知っていた程度。

 対して、もたらされた情報は確認しようもなく、もしも事実ならば取り返しのつかないもの。

 だがそれだけに、答えなど始めから一つしか存在しない。

 

「わかりました。あなたを、信じます」

「フェイト!」

「大丈夫だよ、アルフ。この人はたぶん、悪い人じゃない。それに、この人の言うことが本当だったら……。私は、その方が怖いよ」

「フェイト……。おいアンタ、もしもフェイトを騙したり傷付けたら容赦しないからね!」

 

 確固とした決意を持って俺を見詰める対照的な二対の瞳に賞賛を贈ろう。

 

「よく決意した、フェイト・テスタロッサ。そしてアルフ、その忠告はしっかりと胸に刻んでおこう」

 

 これで計画の第一段階はクリアされた。思惑の通りに進んでくれる状況に喝采を。

 

「では、先ずはプレシア・テスタロッサに逢わせて貰おうか。悩む暇はないぞ、この間にも彼女の身は蝕まれているのだからな」

「わかった。着いてきて」

 

 料金を払い、先行する二人の後に着いて行く。ああ、そうだ。

 

「フェイト・テスタロッサ。約束だ、受けとれ」

 

 前を歩くフェイトを呼び止めて先程の小箱を放り投げる。

「わっ」と言って危なげなくキャッチするフェイト。一瞬だけ驚くような顔をして、

 

「……ありがとうございます」

 

 それ以降会話はない。フェイトは不安と共に、アルフは幾らかの敵意を抱いて、後ろに居る俺を気にするような様子が窺えるが、それでいい。

 俺は今の段階ではまだ怪しい少年Aでしかない。全てが決するまでは敵でも無く味方でもないという認識で居てくれ。

 暫く歩くととある高層マンションへと着いた。の、だが……既視感、ではないな。

 

「……偶然って、こわいな」

「? 何か言いましたか?」

「いや、何でもない。独り言だ。それと、言いにくいなら敬語はやめろ。口調程度で臍を曲げるほど小さくない」

「え? あ、はい、いや、うん」

 

 くっ。待て落ち着け惑わされるな。俺の好みは金髪でおっぱいの大きい優しそうなお姉さんだ。今目の前に居るのはロリだ! 俺の守備範囲が――

 いちいち仕種が自然にかわいいフェイトにココロが揺さぶられるのを必死に抑えているが、ここで致命的な事に気付いてしまった。

 ――そう言えばコイツ、成長したら俺の好みど真ん中ではないか……ッ!?

 なんということだ。あの日、決して二度と浮気はしないと誓った筈なのに、気付いてしまったその事実に、どうしようもなく動揺してしまう。こうならないように、もしかしたら今まで無意識に考えないようにしていたのかもしれない。だが、この無言で並んで(横でなく縦に)歩くという事態が、半ば強制的に意識を割いてしまった。

 なんということだ。何が不味いって、今こうして余計な事を考えて思考のリソースを無駄遣いしているにも関わらず、並列思考とマルチタスクが総動員で源氏物語のような計画を練っていることだ――ってやめろ! アリシアまで計画に加えるな!

 暴走し制御不可能に陥った思考を沈める為に最愛の人を思い出す。そう、その為にはやてとも接触したのだ! 忘れるな、誤るな! お前の心に決めた女性は誰か思い出せ鳳朱雀! ――クッ、何故だ!? 何故止まらない、ここでも俺を邪魔するのか、スザァァァクッ!

 

「あ、あの、大丈夫?」

「ねぇフェイト。やっぱりコイツおかしいよ、信じるのやめよう?」

「でも、体調が悪いだけかもしれないし……」

「だとしたらヤバイやつだよ、フェイトが関わっちゃダメな類いの」

 

 二人が何やら好き勝手言っているが、こっちは必死だ。既に計画は高校生辺りにまで及んでいる。悪魔が囁くのだ、ミッドは一夫多妻いけるかもしれない、と。やめろ、それは二次創作でしばしば出てくるネタで公式設定じゃなかった筈だ!

 と言うか落ち着け俺。フェイトの嫁はなのはのみ。なのフェイこそジャスティスとかつて【リリなの】コミュで大討論の上に決着した筈だ。

 そこまで考えて漸く思考の一部が、一理ある、と俺の制御下に戻った。

 一方で、ならアリシアをだな、と諦め悪い思考に姑にプレシアが漏れなく付いてくるぞ、と考えることで轟沈に成功。

 そんな風に意味不明な自分との戦いの果てに総ての思考の再制御に成功する。

 並列思考とマルチタスクは確かに便利だが、時たま勝手に皇帝特権を用いて“専科百般”を使い暴走する時がある。

 簡単に言うなら、欲望の暴走だ。下手に幾つも思考できる分勝手にメイン思考の結論以上の最適解を思い付いてしまうのだ。そのお陰で最初は一つだったペーパーカンパニーやダミーカンパニーがそろそろ二桁に届く。アルにも黙っているが、その気になれば一国の経済を破綻させる事が可能な程の財源が有るのだ。洒落にならん。

 ともあれ、今はこれからの事だ。

 

「あ、大丈夫?」

「ああ、すまない。持病の酌がな……」

「アンタ、本っ当にフェイトに変なことしたら噛み殺すからね?」

「あ、ああ。肝に命じておく」

 

 フェイトは首を傾げているが、アルフの顔はマジだ。恐らくはいざその時になれば、エボシ御前に噛み付いたモロのように首だけになっても一矢報いるべく襲い掛かってくるだろう。

 これは本当に早急に全思考の完全掌握が急務だな。

 そんな風にちょっとしたイレギュラーに苛まれがらも、滞りなくプレシア・テスタロッサの居城、時の庭園へとやって来た。

 

「まるで魔王の城だな」

「きちんと管理できる人が居ないから……」

「まぁ、それもプレシア・テスタロッサが快復すれば解消される問題だろう」

 

 心なしか表情を綻ばせたフェイトを見なかった事にして、プレシアの場所へと案内するよう促す。

 歩くと時間がかかるという事で飛んで移動しているわけだが……

 

「クッ、屈辱的だな」

「ああん? 文句があるならアンタだけ歩いてもいいんだよ?」

「……失言だった。謝罪する」

 

 飛べない俺はアルフに抱えられての移動だ。

 俺の神殿ではないこの時の庭園では魔術スキルを持ってしても飛行はできない。というか、飛行なんてのは魔術では再現できない。魔術刻印の質もあの土地を掌握していなければ意味がない仕組みになっている俺では、そもそもの魔力量も足りやしない。それこそ、第五次聖杯戦争のキャスター、魔女メディア程の神代の魔術師でないと不可能だ。

 それだけでなく、致命的なのが海鳴市で既に魔術スキルを主張し、その後解除しているので暫くのインターバルを置かないと再主張できない。

 

「この先に、母さんが居ます」

「……魔王の間への入り口だな」

「ブフッ! 否定できないね。あの鬼ババァは確かに魔王だわ」

 

 アニメ通りのラスダン最奥みたいな扉を前にした俺の一言がよほどツボに入ったのか、アルフはケラケラと笑う。その横でフェイトがそんなアルフを困った顔で叱っているが効果はないようだ。

 アルフのお蔭か、多少緊張がほぐれたらしいフェイトが意を決して扉を開ける。

 

「母さん。母さんに会いたいという人を連れてきました」

「……フェイト、私は言ったわよね。ジュエルシードが必要だと。それが昨日今日で帰ってくるなんて、母さん悲しいわ。あなたに罰を与えなきゃいけないようね」

 

 決して自分の娘に向けるような眼ではない、絶対零度の瞳に射ぬかれて身体を震わせるフェイトを庇うように前へ出る。

 その狂気も苛立ちも知っているし理解しないでもないが、理由がどうであれ見ていて面白いものでも気持ちの良いものでもない。さっさと用件を口にしよう。

 

「お初にお目にかかる、狂える大魔導師プレシア・テスタロッサ」

 片足を半歩後ろに引き、片手を胸に当てた見よう見まねの礼をする。見る者、特にされている者からすればわざとらしく見えるように意識して。

 

「アポなんて受けてないわよ」

「連絡のつけようがありませんでしたので」

「そこの、フェイトを使って事前に連絡を寄越す程度出来たのではなくて?」

「徒に彼女の心労を重ねる趣味はありません」

「ふん。いいわ。何の用かしら? 私も暇ではないの。さっさと用件を言いなさい」

 

 のらりくらりと言葉を返す俺に焦れたのか、思っていたよりも早々に話を促される。

 まぁこちらとしても、こんな前戯に時間を食うのは本意ではない。

 

「では。プレシア・テスタロッサ。私はアルハザードの知識を有しています」

「――ッ!? なんですって!」

 

 思っていた通り、食いついたな。

 失われた魔法技術の眠る場所、アルハザード。其処への到達を目指す彼女の気を引くにはこれ以上ない餌だろう。

 

「私はアルハザードの知識を有しております。名を『死霊秘法』と言い、その技術を会得している友も居ります」

「嘘ではないでしょうね?」

 

『死霊秘法』という名に一瞬目を険しくし、バチバチと紫電を燻らせながら凄むプレシア。その極寒の視線が口よりも雄弁に、嘘ならば殺すと告げていた。

 

「嘘ではありません。私は貴女の計画も存じております」

「……それも、アルハザードの知識のなさる業だと?」

「さて。これ以上話すには、二人きりの方が良いかと思われますが?」

 

 チラリ、と後ろで状況の急転や俺とプレシアの態度の急変に追い付けていない二人を見る。

 プレシアも二人に目を向けると、

 

「そうね。フェイト、私はこの子と大事な話があるの。暫く部屋で大人しくしていてちょうだい」

「……はい。わかりました」

 

 一瞬。フェイトと目が合う。小さくフェイトに頷いて見せると、僅かな安堵のような表情を浮かべて二人は広間を退室した。

 ……さて。これで遠慮は要らなくなったわけだ。

 

「それでは対話を始めよう。プレシア・テスタロッサ。まずは、そうだな……。死者甦生を成し遂げた一人の天才の話をしよう。その哀しみと絶望の噺を、な」

 

 天才というか、天才と何とかは紙一重というか、むしろ完全に向こう岸な人物だが。

 小馬鹿にするような表情で口角を上げて、意識して慇懃無礼に振る舞う。

 不敵に嘲笑う俺に、プレシアは目を細め纏う雰囲気をより一層剣呑なモノへと変えたのだった。

 ……………………

 ………………

 …………

 

 

 

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