リリカルなのか?   作:コカ・と栗鼠

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第十五話:Back down

 魔力の胎動を知覚するや否や、飛び起きるように覚醒する。

 目覚め直後の少しばかり怠い頭で、なんだ? と呆けてしまう。

 星明かりが僅かに室内を照らす中、今が夜だと解を得て。ここが宿の一室であるとようやく得心する。

 確認するように頭毎視線を動かせば、隣の布団ではすずかが眠っており、その隣ではアリサが眠っていた。二人を起こすことはなかったようだとやっとこさ動き出した頭で安堵した刹那、思わず隣を二度見してしまう。

 見間違いなどではなく、妾の隣の布団ですずかが眠っていた。

 

「――――ッ!?」

 

 思わず洩れそうになった声を、間一髪。両手で口を塞ぐことでなんとか阻止する。

 あわあわと混乱しながらもすずかの寝顔の可憐さに目が離せない。

 早鐘のように高く鼓動する心臓の音が、暗く静かな室内では余計に鮮明に聴こえてしまう。この音で眠りを妨げなければ良いのだが、と考えがらも、無意識に手が伸びて何処ぞへと彷徨う。

 否。

 髪に触れてしまう。

 サラサラな、上質なシルク地をも凌駕するのではと思わずにおれない手触りと、とてつもなくとんでもないことをしているのではないかという今更な考えに、暫しフリーズ。

 

「っん」

 

 小さく。蚊の鳴くような小さな声がすずかの口から零れた。

 起こしてしまったかと酷くびくつき早鐘から除夜の鐘もかくやと音量を上げる。

 壁掛け時計だろうか。カチッ、カチッという音が四つ五つと鳴っても覚醒の兆候は見られず、安堵のため息と共に胸を撫で下ろす。

 恐らく、子供同士ということで一緒の部屋になったにだろうが……。こんな形をしていても妾は男であり、彼女らは女の子である。異性を同室にするとは……。これは信用されているのか、この歳で異性も何もないということなのか……。まぁ、十中八九後者だろう。

 落ち着くためにわざとらしくすずかから目を離し、そうやって考えていると、ふと疑問が浮かぶ。

 ――いったい、何時の間に妾は寝てしまったのだ……?

 直近の記憶を漁るも夕餉以降の記憶がどうにも曖昧だ。子供でもあるまいし、腹が膨れてそのままねたわけでもないだろう。いやまぁ形は完全に子供なのだが。

 と、そこまで考えて妾のもう一方の隣。すずかが右側なので、左側。そこにも布団が敷かれており、しかしもぬけの殻だ。

 今更のようになのはが居ないことに気付き、ジュエルシードの事を思い出して慌てて宿から出る。

 誰が着替えさせたのか知らないが浴衣姿になっている。どうにも落ち着かないが気にしている暇はない。

 そっと部屋を出て、足音が鳴らないように気を付けつつ走りながらマギウス・スタイルになる。そのままシャンタクを起動し魔力を感じる場所へと翔ぶ。

 

 ややをして肌に感じる気配が一変する。夜の学校の時にも一度感じたこれは、魔導師たちの扱う結界だ。

 その証拠に、それまでは影も形もなかったはずなのに、視線の先で桃色の光点が舞い、金色の閃光が瞬いている。

 どうやらなのはとフェイトのバトルが始まっているようだ。

 絶えず動きながら戦闘を続ける二人に気取られる事のないようにニトクリスの鏡で姿を隠し、安全かつ声も聴こえる位置へと移動する。

 

「――お願い聞いて! わたしは戦うつもりなんて」

「なら引いて」

 

 フェイトが放つ金色の魔力弾をなのはも桜色の魔力弾で相殺するが、実力の差か幾つかが相殺し切れずになのはへと迫る。

 

≪Protection≫

 

 しかしそれも機械音声の後に展開された魔方陣によって全て防がれる。どうやらバリアみたいなものらしい。

 

「ジュエルシードはユーノくんがっ」

「あれは危ないもの。だからわたしが回収する」

 

 フェイトが大鎌のような杖を大きく振りかぶった。

 

≪Arc saber.≫

 

 なのはの杖は女性的な機械音声だったが、フェイトのは男性的な機械音声だ。

 フェイトが降り下ろした大鎌から金色の斬撃が飛ぶ。

 

≪Protection.≫

 

 なのはは再び先程と同じバリアでフェイトの放った攻撃を防ぐが――

 

≪Saber explode.≫

 

 斬撃はバリアに触れると僅かに押し込むように拮抗する、と見せかけ爆発した。

 予想外の攻撃になのはは悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。

 しかしフェイトはそこで攻撃の手を緩める事をしない。自身の周囲に帯電する魔力弾を漂わせたまま、吹き飛び墜落しながらも体勢を立て直そうとするなのはへ接近。再び大鎌のような杖を振り上げた。

 これで完全に決着だろう。

 スザクやユーノの話では、魔法には非殺傷という対象の魔力にダメージを与える機能があるのだという。

 しかし見ていたところそれも完璧ではないようだ。先程の爆発する斬撃によりなのはの服――バリアジャケットが所々破れている。これはつまり、殺傷するレベルのダメージこそ抑えるものの、そこまでに至らない衝撃などのダメージは抜けるのだろう。

 そう辺りをつけ、だからこそ、

 

≪Scythe slash.≫

「やめよ」

 

 降り下ろされた大鎌の一撃となのはの間に光速でもって割り込み、バルザイの偃月刀でその一撃を受け止める。

 瞬間、バルザイの偃月刀を通じて静電気のような痺れのようなものを感じるが、|魔力付与≪エンチャント≫を行い更にはマギウス・スタイルである妾には然したるダメージにはなり得ない。

 そう言えば、フェイトは電気変換だかの魔力に電気の伴う能力を有していたなと、思考の片隅で思い出す。

 

「何者ですか?」

「それは妾の台詞だ。この地にユーノ以外の魔導師とやらの侵入を許したとは聞いておらんぞ」

「……その娘は、現地人?」

 

 ふむ。この問答だけで直ぐ様それに思い至るか。なるほど、戦闘能力も思考力もきちんと鍛えているらしい。恐らくはこの程度が本気ではないのだろう。

 睨み合い鍔迫り合うような状況は、フェイトが弾かれるように後方へと離れることで終わる 。

 フェイトは十メートルほどの距離を空けて止まると、右手に持った大鎌から金色の刃を消し、しかし油断も隙も見せずに口を開く。

 

「わたしは、ある人にこの街に散らばったジュエルシードを回収するように頼まれました。あなたは、アル・アジフさんで間違いありませんか?」

「如何にも。しかし何故妾を知っておる、汝とは初対面の筈だが?」

「……聞きました。わたしに回収した人が、あなたに連絡がつかない、と」

「ふん。異なことを。連絡が付かぬのは妾ではなく、彼奴の方だろうに」

「どういうことですか?」

「どうもこうも――ハハン、見えてきたぞ。彼奴め、ジュエルシードに目が眩んだか」

「っ! あの人はそんな人じゃない! ジュエルシードに目が眩んだのは、あなたの方なのではないですか!?」

「はん。何を吹き込まれたか知らぬが、妾が何故ジュエルシードなんぞを欲せねばならん」

「なら、あの人に連絡を取って身の潔白を証明して下さい!」

「だから、連絡がつかんと言うておろうが!」

 

 吠え、睨み合う。

 ううむ、こっちは茶番とわかってやっていることとは言え、否、だからこそこう、微妙な罪悪感めいたものがチクチクと……。

 それにしてもスザクめ。この短期間で何やらえらい懐かれたようだな。

 まぁ、自分の母親や姉を救う人物だし、当然と言えば当然か?

 ともあれ、何時までもこんな問答をしていても仕方がない。

 ちら、と背後に庇ったなのはを見ると思いの外ダメージが大きかったのか、苦痛に顔を歪めて肩で息をしている。

 

「まぁよい。こちらは封印の出来るなのはがこの様子だ。さっさとジュエルシードを封印して去ね」

「アルちゃん……!?」

「聞き入れよなのは。汝が無茶をすれば皆が悲しむ」

「でも……」

「安心せよ。敵が現れた以上、今後は妾も積極的に手を貸そう。今回の分はまたいずれ、取り戻せば良い」

 

 使命感か、渋るなのはを優しく諭す。

 視線を移せば、眼下には金色の魔力杭に縫い止められた異形がいる。今は必死に藻掻いているが、もし仮にあの杭が外れてしまえば今のなのはでは満足に戦えぬだろうし、よしんば戦えても防戦一方とならざるを得ないだろう。妾が援護しようにも、そうなるとフリーになったフェイトの妨害が入るのは明らかだ。

 まぁ、そうならざるを得ない状況まで黙認していたのは申し訳ないと思うし、良心の呵責も感じるが、これは今後も魔法に関わるのならば必要な過程だ。

 魔法は決して安全ではなく、人を傷つけることも出来ると再認識するには。

 

「感謝はしません。身の潔白を口にするなら、あの人に連絡してあげて下さい」

「だから連絡がつかぬのだと何度言わせる気だ!」

 

 困ったような顔をしながらも、フェイトは異形からジュエルシードを摘出して封印すると、何処かへと消えた。

 これで、なのはとフェイトの出逢いは成った。

 そして、なのはにはフェイトの背後に影を印象付け、フェイトにはなのはの後ろに妾という影を印象付ける事ができた。

 これにより、双方ともが双方ともにジュエルシードを集めをする正当な理由付けが出来た。

 なのはは発掘者のユーノに請われ。

 フェイトはこの街の管理者に請われ。

 なのはの背後にいる妾はジュエルシードを悪用しようと考えている恐れがあり、

 フェイトの背後にいる何者かもジュエルシードを悪用しようと考えているかもしれない。

 二人はそれぞれの背後に居る者へそう疑惑を向けることだろう。

 とりあえず、今はそれは置いておこう。

 

「なのは、ユーノはどうしたのだ?」

「ユーノくんは、あの子の使い魔さん――たしかアルフさんと戦ってて……」

「そうか……。むぅ、妾は治療回復系の魔術は不得手でな。このまま戻るわけにもいかぬし、なのは、ユーノを呼べぬか?」

「待って――」

 

 その後、念話によって駆けつけたユーノの回復魔法で擦り傷等を治療し宿へと戻った。

 新たな展開を迎えた今回の事に関しては、とりあえず家に帰ってからということにして。

 ――ところで。

 部屋に戻って寝直すべくなのはが布団に入って暫し、夕涼みをすると言って外に残った妾は一人で頭を抱えていた。

 

「隣にすずかが居るのに寝られるわけなかろうがぁぁぁぁぁ……」

 

 一瞬だけ。寝れないのなら寝れないで、もういっそ朝まですずかの寝顔を眺めて過ごそうかと考えたが、即行で却下した。

 理性が保つわけないのである。

 ジュエルシードの発動を感じたクセに、そのことを意識の外に追いやって思わず髪に触れてしまい、感動し悦に浸っていたのだ。自分で自分が信用ならない。

 結局、妾は朝まで煩悩退散と念じながらバルザイの偃月刀を素振りし続けた。疲労が溜まればその内眠くなるだろうと考えたのだが、無心になればなるほどすずかの寝顔が思い出され、それを振り払うために素振りをするという悪循環に陥るだけだったのである。

 ……その後の醜態については割愛する。

 

 

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