温泉から数日後の夜。
相も変わらず周期とか統計とかという概念を鼻で笑うようなランダムさで、ジュエルシードが発動した。今のところの共通点は夜が多いくらいだろうか?
そんなことを考えながら、なのはと二人でジュエルシードの反応のあった場所へと空を駈ける。
目的地には既に結界が張ってあった。つまり、既にフェイトたちが来ていると言うことだろう。
結界に入るとヘソ出しショートパンツの明るい髪色の女性が待ち構えていた。
恐らく、彼女がフェイトの使い魔のアルフさんとやらなのだろう。犬耳と尻尾があるし。
「やっぱり来たね! ここは通さないよ!」
地を蹴り、爆発的な加速で殴りかかってくるアルフだが、それはなのはの肩に居たユーノによって遮られる。
「なのは、アル、二人はジュエルシードを!」
ユーノはバリアとバインドを巧みに操りながらアルフを抑え込み、その隙をついて妾たちは結界の中心部へと向かう。
結界の中心部には、今まさにこれから覚醒しますよと言わんばかりに輝きを放つジュエルシードが浮いていた。
そして、その傍には黒に金の後ろ姿――フェイトがいた。
こちらの気配に気付いたか、ちらりと顔だけ振り返るもさして意に介するでもなくジュエルシードの封印を完了する。
封印そのものには異論はない。奪うにしろ戦うにしろ、会話をするにしろ、一度無害化しないと危なくて仕方ないのだから。
「やっぱり来たんだ……」
何かを口にしようとしたなのはを遮る形で、フェイトが呟いた。
「アル・アジフ。彼からの伝言です。今回の件はフェイト・テスタロッサに一任した。お前は彼女のサポートにつけ。これは最後通牒だ」
「ふん。それだけでハイそうですかと頷けると思っておるのか! 大体だな、汝らが善からぬ考えを持った者だという疑いも晴れておらんのだぞ!」
「それはお互い様です」
「待って! ねぇ、ちゃんと話し合おうよ、もしかしたら何か勘違いしてるだけかもしれないよ!」
妾とフェイトの舌戦をなのはが遮る。
確かにきちんと落ち着いて話合えばフェイトの疑念は晴れるだろう。
故にこそ、それは現状困るのだ。
「ふん。汝らが嘘偽りを言っておらぬなら、ここに彼奴めを連れてこい! そうすれば全て詳らかになろう!」
「っ!? それは……」
「出来ぬだろう? それこそが汝らが悪しきと言う何よりの証拠だ!」
スザクは此処には、と言うか事前の計画通りならば今は地球には居ない。そして、プレシア・テスタロッサの治療のために動くことが出来ない。また、スザクがプレシア・テスタロッサを治療している、と言う事実はそのままプレシア・テスタロッサがユーノら魔導師の言う次元世界の者では治療出来なかったという事実に直結する。でなければ、魔術という全く異なる技術体系、それも魔法という科学的側面のそれとは真逆のオカルトに頼る説明がつかない。更にその事実は、魔術でも治療不可能だった際の予備として願望器であるジュエルシードを欲しているのでは、という疑念を濃くする。
たとえフェイトがこの考えに至らずとも、事前にスザクが言い含めている筈だ。
故に、フェイトはスザクをこの場に連れてこれず、その理由も満足に説明が出来ない。
「アルちゃん……」
「――っ! 気を付けよなのは!」
だから、ここで奴が現れる。
「――結べ、蜻蛉切!」
なのはを突き飛ばし、その反動を利用して後退した一瞬の後に、それまで妾となのはが居た場所を割断という見えない斬撃が閃いた。
「セツナッ!」
「セツナさん!?」
自己主張するように戦気を撒き散らしている地点に目を向ける。
フェイトの左斜め後方の地点。大通りの信号機の上に、フェイトと同様の配色をし槍を構えこちらを、正確には妾を睨むセツナが居た。
「フェイト。アルはボクが抑える。キミはなのはを」
「そんな! なんでセツナさんが!?」
なのはの疑問は尤もだろう。
あの一悶着の後、なんだかんだ和解したことになっており、殆ど毎朝高町家道場で恭也さんや美由希さんと訓練をしていて、最近喫茶翠屋のウェイトレスとしてバイトもしているセツナが、何故かフェイトの陣営に居る。
事情を知らなければ裏切られたような気持ちになるかもしれない。
「ごめんね、なのはちゃん。けど! ソイツは、アル・アジフは現状怪しいところだらけなんだ!」
「外様の術者が何を――」
「アル・アジフ! どうして彼に到着報告をしていない!」
「言っておるだろう? 彼奴に連絡がつかん」
「馬鹿なことを言うな! 彼はこの地の管理者だぞ! その彼が、お前がこの海鳴市に居ることを知らなかったんだぞ!」
「…………」
「お前、なんで隠蔽潜伏しているんだ?」
「……答える義理はないな」
フェイトはもちろん、なのはからも疑念の眼差しが向けられる。
これで狡知に疎く純粋な両者はより一層嘘つきがどちらかわからなくなる。
それはつまり、自分の方が正しい筈だと競い合うことへとなるだろう。
これでとりあえずは、管理局が何時介入してきても良い下地作りは粗方出来上がった、と見て良いだろう。
「妾は妾が間違っていないことを知っておる。故に、邪魔をするなら排除する」
宣言し、バルザイの偃月刀を召喚。右手に構える。
それに反応してフェイトも杖に金色の魔力刃を展開する。
「――ッ、アルちゃん!」
「なのは、とりあえずここはあの二人を戦闘不能にするぞ」
「でも――」
「話をするにも、まずは話合う状況に持っていかねばどうしようもない。向こうも聞く耳はないようだしな」
それに、と。前回のフェイトとの初戦闘の後になのはが洩らした言葉を思い出す。
「それに、友達になりたいのならまずはお互いを知るのも大事だろう?」
「――うん!」
綺麗な瞳で、一生懸命だったあの娘と友達になりたい。そう語ったなのはは、元気良く頷くとレイジングハートを構えた。
「セツナの奴は妾が抑える。思いっきりやると良い」
「はいっ!」
なのはの返事を合図に、それぞれがそれぞれの相手へと激突する!
桜色の光と金色の光が激突と爆発を繰り返し煌めくのを他所に、妾もまたセツナと切り結んでいた。
バルザイの偃月刀の横薙ぎを蜻蛉切で払い上げられる。
上へと逸れた隙を逃さず、蜻蛉切の石突きが真円を描く軌道で襲いかかる。それを転がるように後退して躱せば、伸縮機構によって伸びた突きが追いかけてくる。
バルザイの偃月刀の刀身を扇状に展開することで咄嗟に防御するが、想像を遥かに上回る突きの重さに偃月刀が弾かれる。
それでも軌道をずらす事には成功し、頬を掠める刃先を気にせずにバルザイの偃月刀を再召喚。今度は左右両手に握り、左手の偃月刀をブン投げる。
狙いを誤ることなく回転しながらセツナへと迫る偃月刀は、しかし残り数メートルという所で急速に失墜する。
――重力操作か!
そう当たりをつける刹那の間にも、伸長した蜻蛉切の薙ぎ払いが振るわれる。
大降りな一撃。十分な間とタイミングで躱し反撃を企むも、薙ぎ払いは急激な加速を行いタイミングをずらされる。
まるで重さを感じさせないようなその一撃もまた重力操作によるものか……。
重力操作そのものを攻撃に使用するだけでなく、攻撃や防御のアシストとして巧みに操るその技巧に舌を巻く。
やはり強い!
シャンタクで後方上空へと一時避難する。
シャンタクはなのはたち魔導師の飛行術と違い、完全に術者の意思によってその速度を変える。それはつまり、確固とした意思があれば、セツナの加重で落とされるより速く、光速での離脱をも可能にする。
「ニトクリスの鏡!」
セツナを眼下に、十分な距離を取ったことを確認して不規則かつ滅茶苦茶な軌道で下降しながら幻惑術式、ニトクリスの鏡を発動する。
発動したニトクリスの鏡は無茶苦茶な軌道の軌跡を追うように、そして追い越しながら幾つもの幻像を紡いでいく。
数十、否、数百の幻像と共にバルザイの偃月刀を構えてセツナへと高速の滑空で突撃する。
「甘い! プレデターゾーン!」
先行した幻像がセツナの数メートル手前で、上昇しながら失墜するという矛盾的な動きで次々と砕け散る。
ニトクリスの鏡による幻像は鏡の特性を活かし、敵の迎撃によって砕け散り、敵へと魔力で作られた鏡の破片による散弾を撒き散らす。
が、こうも距離を置いて不可解かつ無茶苦茶な壊され方をすればその威力を活かせない。
破片は見当違いの場所へと飛び散り、運良くセツナへと向かった破片も蜻蛉切の一振りで弾かれる。
舌打ちし、再度距離を取って考察する。
【NEEDLES】作中で重力の[セト]は仲間の磁力の[ソルヴァ]との合体技でプレデタークロスというものを使う。これは引力と斥力で敵を粉砕する技だ。技名からしてこれの応用、自分の周囲に過重力場と無重力場を作り、擬似的にプレデタークロスに似たものを再現したのだろう。
と、当たりをつけたところで――
「戦闘中に考え事とはな!」
何時の間にか迫っていたセツナの突きが襲いかかる。
蜻蛉切を短く持った突きの連撃はほとんど同時かと錯覚させるほどの速さで繰り出される。
右手に握ったバルザイの偃月刀だけでは対処できる筈もなく、一撃防ぐ毎に二撃三撃を食らってしまう。
後方へと逃れようにも浮遊を維持するのに精一杯で飛行の意思を固められない。
ならばと左手にもバルザイの偃月刀を召喚し、両手の偃月刀の刀身を扇状に展開したまま防御する。素早く鋭い点の攻撃を面による防御で纏めて防ぐ。
しかしこれが不味かった。バルザイの偃月刀は大降りの剣である。たたでさえ大降りの剣を二本、刀身を展開することでさらに大きくし視界を遮ってしまう。加えて、二刀流とはその格好良さと手数の向上と比較して遥かに扱いが難しい。利き手と逆の手を利き手と同様に、しかし利き手とは別に動かし続けなければならないのだ。当然必要以上に意識が割かれる。それはこの高速の応酬では致命的だった。
「墜ちろ、――ジオ・インパクト!」
視界不良と意識の散漫を突かれ、気付いたか時には既に頭上。
重力操作による加重に、更に加重された蜻蛉切の唐竹割りのような一撃で浮遊を維持することも、上空へと加速することも出来ぬままにコンクリートへと撃墜される。
それでもコンクリートへとキスする間際に防御術式の構築に成功し、致命傷“だけ”は免れた。
撃墜の衝撃で濛々と砂埃が舞う中、バルザイの偃月刀を杖にどうにか立ち上がる。
視界に映る上着の裾やショートパンツが所々破れていた。魔力で編んだ術衣を、物理でのみここまでボロボロにするセツナの戦闘力に改めて戦慄する。
――強い。
小さく深呼吸をしようとすると咳き込んでしまい、口から血痰が飛んだ。頭に痛みを感じるし、ぬるっとした感触もあるから、頭からも血を流しているのだろう。
肉体的なダメージはそこそこだが、魔力はまだ十分にある。
右手に自動拳銃・クトゥグアを、左手に回転式拳銃・イタクァを召喚する。接近戦は圧倒的に不利。中・遠距離での攻撃に切り替える。
今回の戦闘、妾とセツナのそれは完全に試合であり、もっと言うならば現状格上のセツナの胸を借りて実戦経験を積むためのものだ。
両者互いに全力で戦うとどうなるかわからないので、セツナは蜻蛉切の通常駆動も上位駆動も禁止。つまり槍術と重力操作のみ。
一方で妾はマ・ドリニーの時計の使用と神獣召喚の禁止。
条件だけを見れば圧倒的に妾が有利なのに、経験の差がそれを覆す。
解っていたことだが、それでも心中を悔しさが渦巻く。
[エドガー]ならばもっと苛烈に攻めている。
[アズラッド]ならもっと巧く戦う。
[大十字九郎]ならばもっと――――
しかし、ここに居るのは記録はあれど、姿は似れど結局は偽者紛い物。
それが、その事実が……。
こうも一方的なこの様が、彼らを貶めているようで、とてつもなく心苦しい。己の不甲斐なさに殺意すら覚えそうだ。
それでも、だからこそ。
ああ、絶対に負けてなるものか。
中空にバルザイの偃月刀を四本召喚する。未だ立ち込める砂埃を偃月刀の剣風で吹き払う。様子見の心算かなにもしてこないセツナを視認と同時に、右手のクトゥグアで撃つ。
獣の咆哮にも似た銃声と共に、銃身下部の魔導レーザーサイトの軌道に沿って、爆裂の魔弾が強襲する。
しかし直進する魔弾は、それ以上の速度で容易く避けられてしまう。魔弾はセツナが居た場所へ爆炎を撒き散らしながら着弾し爆発した。
しかしセツナは既に過去へと追いやった結果に見向きもせずに、回避を攻撃への運動エネルギーへと転化。
舞うような動きで駆けながら、払い、突き、薙ぎ、振り上げては振り下ろす。
それをバックステップで距離を詰められないようにしながら、中空に浮遊させているバルザイの偃月刀で払い、防ぐ。
意識をバルザイの偃月刀の操作に割きながら、左手のイタクァを三発連射する。
攻撃動作の間隙を突く射撃は、しかし一発として当たらない。
地面スレスレまで身を屈めて避けながら、中空のバルザイの偃月刀を蜻蛉切で叩き打って魔弾の軌道上に置き、止めと指先程の大きさしかない弾丸を切って捨てたのだ。
絶技。否、神技にも届きうる業の冴えを、しかし魔弾は食い破る。
クトゥグアの特性は言わば暴力的な破壊力だ。五十口径という大口径と、クトゥグアの名に恥じない威力は防御毎食い破る。
そしてイタクァの特性は、敵を何処までも追尾する誘導性能によって、敵の急所を確実に抉る事にある。
切り捨てられた弾丸を除く残りの二発は、まだ死んでいない。
迫る凶弾にセツナが気付く。
振り向きによる遠心力の一撃より、最初の一発の方が速い。しかし、凶弾はその威力を奮うことなく失墜する。セツナの展開した重力操作により、飛ぶことが叶わなくなったのだ。
二発目に蜻蛉切が追いつく。魔弾はまたしても切り捨てられた。
――期待通りだ!
その一連の攻防の最中、シャンタクへと飛行の意思を示す。場所はセツナの頭上。光速で、往け――!
セツナが三発目を切り捨てるのと同じくして、両手の魔銃のトリガーを引く。
魔銃の過剰な威力は、加重を得ることで更に暴虐性を増す。
もはや回避は不可能だ。
――普通の手段ならば。
着弾の瞬間。否、瞬きをして一瞬と称するのなら、まさに半瞬。
セツナの姿が消え失せ、暴虐なる二対の魔弾はコンクリートを食い散らかすように爆発した。
上位駆動による、方角の割断。
セツナは咄嗟の判断で己にとっての何れかの方角を割断することで、必殺の一撃を危なげなく回避したのだろう。
「――殺す気か!」
巻き上がるコンクリート片から顔を守りつつ地に足を着けると、後ろから蹴っ飛ばされた。
「ぬあっ!? なにをする!」
たたらを踏みながら、しかし蓄積されたダメージのせいで踏ん張りが効かず前のめりに転けてしまった。
起き上がりながら避難すれば、額に青筋浮かべた
「それはこっちの台詞だこのバカ! ボクじゃなかったら脳漿撒き散らして死んでたぞ!」
「いや、恐らく散らすまでもなく蒸発しておったろうな」
「…………おーけーよーし、そこに直れ。お前の確信犯なバカを割断する」
無表情に蜻蛉切を構えるセツナ。元が美少女だから凄みがヤバイ。
見れば蜻蛉切の刃先に術式発動の仮想陣が展開していた。
「い、いや待てセツナ! 妾は汝ならば確実に躱すと信じてヤッたのだ!」
「うっさい! そのせいでこの試合はボクの敗けだろうが!」
「無論だ。禁じ手を使ったからな」
「――結べ、」
いかん。宥めようとして火にガソリンをかけてしまったか!?
絶対絶命の危喜の中、突如空気が変わる。
「ッ、これは――!」
「――まずい」
変調の発生点となる場所へと目を向ければ、鮮烈な蒼の輝きが夜空を灼いて天へと奔っていた。
ややをして輝きは集束し、光の柱の如き光量は鳴りを潜めていく。
しかし不吉な予感が拭えない。いや、それ以上に鼓動するように魔力が徐々に高まっている。
「行け! アル・アジフ! 戦闘の衝撃でジュエルシードの封印が破れた! このままだと世界が裂ける!」
返事の代わりに光速の意思でシャンタクを駆る。
セツナの言う通り、そこはジュエルシードを封印した場所だ。
一度封印したからと油断した!
たどり着いた時、なのはとフェイトが同時に再封印しようとし、しかし拒絶するかのように生じた魔力の波動に吹き飛ばされた。
成長著しいとは言えなのはは素人だからか、そのまま吹き飛ばされる。
一方で、フェイトは空中で上手く受け身を取りそのまま駆け出した。しかし、その手に杖がない。
「――ッ、あんのうつけが!」
直ぐにフェイトが何をしようとしているか理解し、シャンタクでフェイトとジュエルシードの間に割り込む!
「っ!? あなたは」
「うつけ! 封印の準備をしろ!」
「でも、バルディッシュは――」
フェイトを無視し、両手に持ったままの魔銃を構える。弾倉から弾丸を消し、イブン・ガズイの粉薬を封入した弾丸を込める。
「フォウマルハウトより来たれ、」
「風に乗りて来たれ、」
「いあ クトゥグア」
「いあ イタクァ」
「神獣形態!!」
それぞれ別の口訣を、別々のまま同時に唱える多重詠唱。
放たれた魔弾は、赤き獣と青き一角竜となってジュエルシードへと殺到する。
ジュエルシードの過剰な魔力場を圧倒的な熱量のクトゥグアが食い千切り、遮るものの無くなった標的へイタクァが顎を開いた。
余剰魔力を食らい尽くしながらクトゥグアは徐々に消失していき、外界と隔絶するほどの凍結を成したイタクァも次いで消失する。
「すごい……」
「はやく封印しろ」
「あ、はいっ」
完全凍結によって何も出来なくなったジュエルシードを、ボロボロに傷付いた杖――バルディッシュで慎重に封印したのを見届けて。
「終わったな?」
「え、あ、はい」
「うむ。ならば、正座」
「え?」
「正座」
「…………」
「…………」
無言の圧力に屈したか、フェイトは大人しくおずおずとその場に正座した。
頷きを一つ。
大きく息を吸って。
「この、うつけうつけうつけうつけ――大うつけがっ!」
空よ割れろと言わんばかりの大音声で罵倒する。
「汝素手で封印しようとしおったなこのうつけ。あの大暴走真っ最中の魔力結晶を素手とか何を考えておるんだこのうつけ」
「あ、あう……。で、でも」
「デモもストもないわ阿呆。あんなことをして、下手をせずとも死ぬぞこの大うつけがっ!」
「だ、だってあぶな」
「危ないのは貴様の暴挙じゃこのたわけぇぇぇぇえええええッ!」
ビクッと身を竦ませるフェイトをこれでもかと叱り飛ばす。
あんな世界を割くような魔力の暴走に単身突撃するだけでなく素手でどうにかしようとし無謀さと、そんなことをして悲しむ誰かがいるだろうがと言ったところで泣き出した。
しかしここで手は緩めない。二度と同じことをせぬようにと言い含めようとして、
「お前が言うなし」
後ろからどつかれた。ご丁寧に加重込みである。
夏場に見かける蛙の死体のような惨状の妾をそのままに、
「フェイト、今夜は引き上げよう」
アルフが未だ正座中のフェイトを抱き上げて空へと飛び上がった。
後頭部に敵意を感じる。
「おいアンタ、フェイトを泣かした落とし前はつけてもらうからね」
「……アル、次やったらコロスから」
美女と美少女はそれぞれ敵意と殺意と怒気のブレンドされた何かを置き土産に、何処かへと去っていった。
その間、きちんと妾を地面に押し潰したまま。
気絶したなのはと、度重なる魔術行使に加えて神獣召喚で疲労の極致にあった妾は、ユーノが回復魔法で癒してくれるまでそのままだった。
――解せぬ。