新たなジュエルシードの発動がなのはとユーノから告げられた。
時刻は夕方。
妾はほとんど復調し、リビングでケータイを弄りつつコーヒーブレイク。
学校から帰ってきたなのはが制服から部屋着へ着替えるため部屋に戻ろうとするタイミングのことだった。
結局あれから今日までジュエルシードの反応は無いまま一週間が経とうとしていた。そして、管理局もまた未だに姿を見せてはいない。
既に原作からの解離甚だしく、海鳴市以外の街に広範囲に散らばったのではないかと疑念を抱いたが、それはユーノによって否定された。
なんでも、複数個で一つとなるロストロギアは大抵の場合それぞれが広く大きく拡散する可能性は非常に低いのだという。これは今までのケースから得られた通説であり、拡散することによる機能不全を防止するための予備機能ではないかということらしい。
とは言え、発動していないジュエルシードは殆ど魔力を流出することもなく、見た目は小さく綺麗な石でしか無いために捜索は難航した。
魔法の才能に於いて天才と言っても過言ではないなのはも、流石に探索系の魔法にまでその才能を奮うことはなく、妾もまた由来を異とするためかジュエルシード探索に大した成果を出せず、基本的にユーノによる探索魔法と足を使ったしらみ潰しという方法しか採れないこともその原因だ。
そんな徒に時間が過ぎていく中での、ようやくの発動反応。
なのはは制服のまま家から飛び出し、ユーノと妾はなのはに遅れる形で後に続いた。
夕方の街を飛ぶわけにもいかない妾たちは走って現場へと向かう。示された場所は推測するに海沿いの倉庫街だろう。
暫く走った後、人通りの多いエリアから逸れた妾たちは、人目が無いのを確認してそれぞれに戦装束へと転じ、空を駆ける。
そうして其処へ着いた時、状況は既に動いていた。
先に着いていたフェイトとセツナ。
そして、緑髪の女性。その服装はどこか近未来的な制服のようにも見える。
「フェイトちゃん!」
思わず、と言ったようになのはが叫んだ。
フェイトは空中で四肢を光る環に拘束されているのだ。以前妾も捕まったことのある、バインドとかいう魔法だ。
一方のセツナは蜻蛉切を構えたまま、何やら難しい顔をして動こうとしない。その様子から、どうやらまたもイレギュラーが発生したらしいと予想する。
「あなたは誰ですか!? フェイトちゃんを離してください!」
レイジングハートを構え、周囲に光る球――シューターというらしい――を従えて叫ぶ。
緑髪の女性は困ったような苦笑を浮かべて口を開いた。
「ええっと、貴女も彼女のお仲間かしら?」
「友達――希望です!」
言い切ろうとして、しかし躊躇いがちに、それでも堂々と言い放つなのは。
「待つんだなのは! あの人は敵じゃないよ!」
「え? ユーノくん知ってる人?」
「たぶんだけど、時空管理局の人だと思う」
なのはとユーノの会話に耳を傾けながら、この場で妾が執るべき行動を考える。
セツナの反応から推測するに発生したイレギュラーは登場人物の齟齬だろう。時空管理局の介入タイミングのズレは既に知れていることだから、今介入してきたことに驚く必要はない。
では登場人物の齟齬にはどんな意味がある?
一つは此処に居る筈のない人物であるというもの。
もう一つは、妾は知らぬがセツナは知っている何らかの作品の容姿と同じであるというもの。つまりは、四人目。
それらを踏まえて、ここで妾が執るべき行動は――
両手に魔銃を召喚し、緑髪の女性に銃口を向ける。
「アルちゃん!?」
「アル!?」
なのはとユーノの驚愕と静止が半々の声を無視して引き金に指を掛ける。
妾がここで行うべきは当初の予定通り敵対姿勢。先に挙げた何れの可能性であれ、計画の変更に値する程のモノではない。
スッ、と目を細めて妾を警戒しつつも、セツナやなのはにも気を割いている様子から隙は見えない。相当に出来る人物のようだ。
「何者かは知らんが、この地の管理者代行として無許可の侵入は看過出来ない」
「あら、あなたはここの市長さんか何か? 立ち入りに許可は必要ない筈ですが?」
「うつけめ。表層だけを掬って賢しらな口を叩くな。魔導の道を歩む者ならば各土地に管理者がいるのは周知だ。魔導は世界の裏側であるが故に表出せぬように定められている。管理者が居る土地には予め管理者に申請し許可を得るのが絶対法。それをせぬ者は悪意有りとして見敵必殺されても文句は言わせない。――それが異世界の者ならば尚更な」
言葉を区切り。全身に魔力付与を施し、魔銃に魔力を流し弾丸に魔力を注ぐ。
魔法と魔術。術理も在り方も違う両者だが、それでも一定値以上の魔力の昂りは感知可能だ。故に、それを遥かに超過した現在の妾の状態から本気であることを汲み取らせる。
則ち。敵であるなら殺すことも厭わない、と。
狙いは過たず、今まで冷静沈着を貫いていた緑髪の女性の顔に新たな色が走る。それは驚愕と焦燥だ。
「さて。何が目的でこの地へ侵入した?」
「……私は、時空管理局所属、次元空間航行艦船アースラの艦長、リンディ・ハラオウンです。第九十七管理外世界地球にはロストロギアの捜索と、以前この地から観測された小規模次元震の調査のためにやって来ました。この世界での作法を知らず、不法侵入となったことは謝罪致します。ですので、改めて。ロストロギア探索と調査のためにこの地での活動を許可して頂けませんか?」
流石だ。艦長なんて予想外に偉い人で内心驚いたが、それだけのことはある。
妾の言が嘘か真かの判断を保留し無用な敵対行動を避け、恐らくはユーノという次元世界出身者の存在から妾がある程度時空管理局について知っているものと判断した上で、ここが時空管理局の法の通用しない世界であるが故にこちらの流儀に合わせてきた。
もう少し頭が固いか未熟であればやり易かったのだが、それを嘆いても仕方ないだろう。
どのように話を運べば妾の言に正当性を持たせることが出来るかを考えながら口を開く。
「……却下だな」
「何故、とお訊きしても?」
「まず第一に、貴様が時空管理局とかいう組織の人間である確証がない。騙りでジュエルシードを利用しようとする者である可能性を捨てきれない。何せ妾には貴様が本物かどうか確認しようがないからな。第二に、ジュエルシードがこの地で発動してから既に少なくない日数が経過している。ユーノの話ではジュエルシード紛失後即座に時空管理局には届けを出したという。時空管理局はロストロギアを管理することも存在意義と聞いた。それがここまで遅い行動であるなど論外だ。ユーノが居て、なのはが協力をしなければ人死にが出ていた可能性が非常に高かったのだぞ。管理外世界だから、貴様らの管轄外だからどうでも良かったのか?」
「そんなこと――」
「第三に、一応仮にも管理者から依頼されて動いているそこの少女を拘束している事実だ。どんな事情があったか知らないが、管理者から依頼されて動いている彼女への敵対はそのまま我々への敵対宣言に等しい」
フェイトとセツナはこの海鳴市の裏の管理者であるスザクから直接ジュエルシード回収を依頼されている。確かにそのことを妾は認めていない、というスタンスをこれまで取り続けていたが、それをこの場で態々言いはしないだろう。仮に言った所で、管理者スザクから通達があったと嘯けば良い。
「――故に、申請は棄却しここで貴様には退去願おう。拒否は敵対の意思有りとして、ここで潰す」
ちら、と視線を動かせばセツナも蜻蛉切を構え直している。
艦長であり、尚且つ現場に出るということは相応以上に実力ある人物なのだろう。だが、だとしても妾とセツナの二人がかりで負けることはないだろう。
いや、それ以上に。ここでの敵対は完全な対立を助長するだけでしかない。それを良しとしない、分別と思慮のある人物であるのなら敵対行動を取ることはないと予測する。
「待ってください! 確かに対応が遅れたことの非は認めます。ですが、それは決してこの世界を蔑ろにしたわけではないのです! 彼女にしても、話を聞く前にジュエルシードを回収し逃亡を図ろうとしたため、已む無く拘束しただけなのです!」
「ではまずは彼女を解放しろ。どれだけ言い募ろうと、この状況では敵対の証左でしかない」
フェイトを拘束していたバインドが消失する。これで一つ、妾の提示した敵対理由が解消された。
だがまぁそれは実際どうでもいいのだ。重要なのは、地球の魔導を扱う者たちは時空管理局を迎合しないという姿勢を示し、彼女らにそう認識させることだ。
「アル。あの人は確かに時空管理局の人で間違いないよ」
それまで黙って推移を見守っていたユーノが口を挟んだ。
僅かにユーノへと意識を割いて耳を傾ける。
「僕は遺跡発掘という職業柄、何度か時空管理局の人にお世話になったことがあるんだ。その制服は確かに時空管理局のものだよ」
制服を根拠とするのは弱いが、そもそも彼女が時空管理局に所属していることは端から疑ってはいない。
ここは協力者であり友人でもあるユーノを信じる、という体で暫定的信用としておこう。
まだ疑っているんだぞ、という姿勢は残す必要がある。
「……わかった。ユーノを信じよう」
あくまでもユーノを信じるのであって、時空管理局を名乗る緑髪の女性――リンディ・ハラオウンを信じたわけではない。そう言外に告げる。
その意はきちんと伝わったようで、リンディ・ハラオウンの表情は難しい。
「さて。とりあえず、一応はそちらが時空管理局であると信じよう。だが、それだけだ。やはりそちらの要請は受け付けられない」
「何故でしょうか?」
「必要がない」
即答する。
補助系の魔法が得意だというユーノ。
素人だが、十分な攻撃力とジュエルシードを封印する実力のあるなのは。
ちゃんとした訓練を受けているフェイト。
そして、大抵のイレギュラーに対応できるだけの即応力を有する妾とセツナ。……ところで、アルフが居ないのは何故だろう。
ともあれ、人手は足りている。
そもそも、別の世界の住人というだけ受け入れがたいのに、それが一つの組織の団体をとなるともう論外だ。
そう説明する。
「別の世界の住人は受け入れがたい……それはどういう意味ですか?」
よし。食いついた。
内心でガッツポーズを決め、しかし面には出さず淡々とカードを捲る。
「この世界の魔導――魔術は、外敵と戦うために先人たちが研いだ牙であり爪であり、剣だ。そのモノたちは旧支配者という。外なる世界から現れ、人知の埒外となる威でもって我々地球人類の脅威となった存在だ。そんな過去があるがゆえに、妾は管理者代行としても、今代の魔術継承者としても、この世界の外の者は受け入れられない」
そこで一度言葉を区切り、ユーノとフェイトを見る。
ユーノはフェレットのため表情が今一わからないが、これは既に一度行った話なので気にしなくて良いだろう。
一方でフェイトは、初めて聞く話なためか何処か不安そうな表情をしている。
嘘を口にする時、それを相手に信じさせ見破らせないために必要なルールがある。
例えば、真実を織り混ぜるとか。
例えば、具体性を避けるとか。
例えば、調べることが難しいものにするとか。
そんなありきたりなものだ。
妾はそこに、さらに一つ付け加えたい。
嘘が事実だと自分こそが信じること、と。
それらが功を奏したのかはわからないが、リンディ・ハラオウンは妾の言に対し何かを考えているようだ。恐らくだが、疑われてはいない。妾の言葉を真実として、妥協点を模索しているのではないかと予想する。
「アル、君の言うこともわかる。過去に侵略を受けたのなら、そのことを知っているなら神経質になるのも当然だと思う。けど、現状僕たちだけではこれ以上のジュエルシード探索は難しいと思う。この数日で見つけることができなかったのがその証拠だ。無関係の人たちを巻き込まないようにするという意味でも、時空管理局の手を借りるのは最善だと思う。次元航行艦なら個人で使う探査魔法よりもより広範囲、高精度での探査も可能な筈だ」
思案顔のリンディ・ハラオウンを他所に、取り成すように言うユーノ。
現状でもっとも早期解決を望み、客観的に筋違いな責任感を抱いているユーノにとって、時空管理局と協力することが最善手であることは疑いようがない。
実際、ここ数日一つも発見できていないと言う事実は如何ともし難い。確りとした捜索方法の必要性も、早期解決を図ると言う意味でも彼女らとの協力は旨味が多い。
だが、それは今後のスケジュールを加味しない考えだ。
ジュエルシードの全回収後に行うアリシア・テスタロッサの蘇生は、管理局法に照らし合わせれば違法だというのがスザクの言だ。管理外世界人である妾やスザク、セツナは管理局法の適用外と強行出来るが、その親族であるプレシアやフェイトはそうはいかないだろう。加えて死者蘇生なんて奇跡によって甦ったアリシアがどう扱われるかという不安もある。どう考えても胸糞悪いことにしかならないだろう。
それら先々の事を考えるのなら、時空管理局に妾たちが協力するという姿勢は論外。時空管理局が妾たちに協力するというのでもまだ足りない。
今回の事件を解決するに際し上下関係の周知徹底は必要不可欠だ。則ち、妾たち管理者サイドが圧倒的上位者であり、管理局は徹底的に下位であるという体制。
「――ユーノの言う通り協力するのも選択肢とはアリだが、やはり却下だ」
「そんな――!」
「よく聞けユーノ。確かにジュエルシード捜索が難航しているが、それがどうした? 元よりあんな小さな石ころがそう簡単に見つからないことなど想定の範囲内だろう。そうであっても発動してしまえば、発動の兆候だけでも感知可能だ。態々この世界にとっての外様に助力を願う必要など無い。ああ、とは言え汝が管理局に協力することは咎めぬぞ。好きにしたら良い。だが、その場合は汝にもまたこの地への立ち入りは禁じさせてもらう。いくら友人とは言えけじめは必要だ」
「アルちゃん、でもリンディさんはたぶん悪い人じゃないと思うの」
「なのは、善人か悪人かは関係ない。外の世界の組織に与する者たちであることが問題なのだ」
一度言葉を区切り、難しい表情のまま妾を見つめるリンディ・ハラオウンへと顔を向ける。
「とは言え、ただ帰れ出ていけと言ってもハイそうですか、とはならないだろう。だから譲歩しよう。確認だユーノ・スクライア」
「なんだい、アル」
「ロストロギアは時空管理局が管理する。これが基本であり、汝はジュエルシードを管理局に提出する予定だった。これは今現在もそうであると、相違無いか?」
「勿論。ジュエルシードはきちんと管理されていないと危ないロストロギアだ」
「ならば、ジュエルシードは全て回収した後に管理局へと提出しよう。そして、回収に際し、リンディ・ハラオウン指揮下の局員数名の海鳴市内での“作業協力”を認めよう」
「それは――」
リンディ・ハラオウンが何かを言おうと口を開いたのを無視して一方的に言葉を続ける。
「予め誰が協力者となるのかの事前通告。これ以外の者はこの地に一歩たりとも足を踏み入れられぬと知れ。
ジュエルシードの封印作業、及び確保保管は管理者指定の魔導師、高町なのは、フェイト・テスタロッサのみ可とする。例えそこに如何なる理由が在ろうとも、管理局員による封印及び確保は認めない。
ジュエルシードは全てを封印した時点で管理局員に譲渡するものとする。
以上三点が作業協力の内容だ。これを飲めないならば妾たち管理者は貴様らの一切を認めない」
言葉の後、妾は魔刃鍛造によって多種多様の幾百幾千のバルザイの偃月刀を召喚し、セツナは蜻蛉切を構え重力作成によって生じた異なる重力流で周囲が軋みを生じさせる。
一方的な命令と武力による恫喝。
やってることは外道で下種の極み甚だしいが、これは管理局に介入される上で絶対に必要な条件であり、もしも仮にこれを蹴られて決裂、最悪の展開として武力衝突となっても構わないのだ。
何故なら。戦力という点では擬似的に神性を召喚出来る妾が居り、名前を得る事で事象すら割断可能な蜻蛉切を有するセツナが居る。
進化した科学技術である魔法は、異界の理を有する妾の魔術には及ばない。
非殺傷設定という安全策を前面に立てた魔導師では、最終的に殺傷を成しその覚悟もあるセツナには敵わない。
もしも仮に、万が一にも妾のこの予測が完全に外れており踏み越えられても尚、策は在る。
絶対に使いたくない手ではあるが、ド・マリニーの時計で彼女たち管理局員を過去に送り続ければいいのだから。
「……もしも、断れば?」
「簡単な事だ。お帰り頂き一切の干渉を遮断する。その手段は存在するし、実力行使でも構わない」
なのはとユーノは困惑を。フェイトはスザクからある程度の話は聞いているのか、不安と何かしらの決意を。
そして妾とセツナは徹底した鉄面皮を被り無表情を装う。全ての言が真実であり如何程の痛痒も感じないのだと、そう錯覚させるために。
暫くの無言が続き静寂が場を満たすが、リンディ・ハラオウンが諦めたように肯定の意を示すのにそれほど時間はかからなかった。
更新が滞り申し訳なく……。
気分転換的にA'sとStSの間の空白期の話を書いてたら興が乗ってそのまま書き上げてました。
なのでA's終わったらスゴイですよと言い訳。
いや、本当にごめんなさい。
今後は多少更新頻度下がりますがなるたけ定期的に更新予定です。