リリカルなのか?   作:コカ・と栗鼠

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第二十二話:Those Sleeping in the Depths/Setuna

 リンディの先導でやってきた一室は、『外国人の間違った和風』を見事に再現した部屋であった。

 なのはは部屋に入るなり何とも言えず苦笑い。

 セツナはやや薄れてはいるものの記憶にある部屋の内装と同じでちょっと感動。

 全く異なる反応を見せる二人に首を傾げるユーノ。

 そんな三者に微笑みを向けつつ、リンディは御座へ座ることを勧める。

 それからややをして振る舞われた御茶を飲み一息吐いたところで。改めて互いに簡単な自己紹介をして、本題へと入るのだった。なお、御茶に砂糖を入れるリンディにやっぱり二人が異なる反応を見せたが、それは置いておく。

 

「――まずは情報を共有化しましょう。現在までの簡単な経緯を教えてもらえるかしら?」

 

 管理局はユーノから事故によってロストロギア:ジュエルシードを紛失したという通報を受けていたし、それはアースラにも知らされている事柄だ。

 しかしその後何があったのか? 何故管理外世界の住人であるなのはがデバイスを持っているのか。フェイトと呼ばれていた魔導師の少女は何者なのか? セツナを含む管理者とはどういった存在なのか。ジュエルシードは現在何個集まっているのか等の情報を有していない。今後協力体制を敷くにあたり、詳細な情報の共有は必要不可欠だ。

 情報の錯綜によって大被害をもたらすことになった事件に携わっていたリンディは、殊更強く情報共有の重要性を意識していた。

 ユーノが代表して応えようとした瞬間、セツナがそれを遮る。

 なんだろうかと自分を見つめるなのはとユーノには顔を向けず、やや真剣な表情でセツナは口を開いた。

 

「その前に、そちらの現状を聞かせてほしい」

「……どういう意味かしら?」

 

 優しげな笑みを浮かべつつ問い返すリンディに、セツナは指を立てながら捲し立てた。

 

「どうして今日まで時間が掛かったのか。なぜ先程の場面に艦長なんて、言わば責任者が出張ってきたのか」

 

 一口お茶を飲み。

 

「一つ目。もしもこの案件を、あるいは管理外世界を下に見ているのなら、協力はしても信用も信頼もしない。こちらから語れる情報も最低限のものだと覚えてほしい。

 二つ目。さっきの状況には艦長なんてこの艦の最高責任者が出る何かがあったのか? それとも、この艦には艦長以外に実働可能な現場向きの人員が居ないのか?

 リンディ艦長。ボクは管理者や代理のように貴女方に対してそれほどの拒否感は抱いていない。けれど、ここで誤魔化しや嘘を用いるなら、そういう風にこちらも対応するしかなくなる」

「…………」

「勿論。そちらが語れること、語れないことはあると理解している。それでも嘘や誤魔化しは無しにして答えてほしい。……その時は、こちらも語れる全てを語ると約束します」

 

 強く、真摯な眼差しで自分を見るセツナ。リンディは考える。何処まで語るべきかを。

 大きい、あまりにも大きすぎる被害を出した先の事件と。それに伴う現在のアースラを含む次元航行艦隊の人材損耗。

 思い出してしまうのは先の場面。フェイトを捕らえ、セツナから向けられた殺意。管理者代行を名乗る少女の発した尋常ならざる魔力。

 目の前のセツナと言う少女はこちらに隔意はないという。だが彼女は管理者代行代理という立場だ。彼女の本心がどうであれ、上の立場になるのだろうあの少女や管理者がこの機会を好機と捕らえないだろうか。

 どうしても悪い方向へと思考が流れていく。

 魔力をあまり感じないセツナは、しかし濃密な殺意を放つ事の出来る戦闘者。

 推定魔力値Sを優に超えていると感じられる少女は底が見えず。

 もしも未だ見ない管理者が彼女達以上だとして、現状のアースラで対抗が出来るのか?

 成す術も無い、とは思わないし思いたくはない。

 それでも、結果は――、

 

「失礼します」

 

 泥沼のような思考の深みに入ったリンディを掬い上げたのは、今この場所に居る筈の無い――いや、居てはいけない息子の声だった。

 

 

 

 セツナの真剣さを含んだ逃げることを許さない問いに悩むリンディ。

 何かを言おうとして、しかし何も言えなかったなのはとユーノも緊張の面持ちで、居心地の悪さを覚えながらも事が無事収まるのを祈るように見守っていた。

 そんな中で、扉の開く音がやけに大きく響き。

 一人の少年が現れた。

 失礼します、と言いながら入室した少年は特徴的だった。

 肩にトゲのような装飾の付いた黒いコートを羽織り、その下もまた全身黒尽くめ。腕にはガントレットのような物もある。

 髪も衣装も黒い少年はそれだけで特徴には事欠かなかったが、それ以上に。

 その少年の右手。そこには本来在るべきものが欠けていた。

 

 

 時空管理局次元航行艦アースラ所属の執務官。クロノ・ハラオウン。

 黒い少年は声変わり前の、しかしよく通る凛とした声音でそう名乗った。

 クロノの登場はそれだけで場の空気を掻き身だした。

 リンディは絶対安静の筈の息子の姿に動揺が隠せず。

 なのはは少年の登場と、その右手が無い事実。そして自分とそう変わらない少年が聞いただけで凄そうな役職に就いている事実。それぞれに驚愕を。

 ユーノは非殺傷設定のある今の時代で、執務官という高い実力を持つ者が片手を失っている事実に愕然と。

  そして、セツナは――。

 

「艦長、それと執務官。これはボクの推測だ。応えなくて良いから聞いてくれ」

 

 まるで何かを堪えるような表情で一方的に話を始めた。

 

 アル、スザク、セツナのイレギュラー三人組はそれぞれ別々に行動しながらも、情報の共有や今後の活動方針や起こりうる事態への相談等を密に行っていた。

 その中で予想されたケースには当然のように原作から乖離するものも、乖離せざるを得ないものも存在する。

 セツナ自身としては原作を遵守したいと考えている。自分たちというイレギュラーが存在して介入している以上、原作通りにならないのは重々承知している。それでも可能な限り原作を遵守すべきだというのがセツナの方針だ。

 だがそれは何を置いても必ずという程、頑ななものではない。

 例えばその結果、誰かが死んでしまうというのなら、それは原作を捻じ曲げてでも回避すべきだと思っているのだ。

 だからこそ、セツナはスザクたちと決めていたシナリオを独自の判断で逸脱することを決めた。

 

 セツナの語った推測は多くはない。

 アースラは地球に来る前に何か事件に携わっていたのではないか。

 それは前例の無いものであったのではないか。

 それによって決して少なくない――いや、大きな犠牲、被害を被ったのではないか。

 今のアースラには実働戦力が無いのではないか。

 語り終えた後のリンディとクロノの表情はそれぞれ無表情だ。だが、やはり踏んだ来た場数の差だろうか、クロノには僅かに揺らぎのようなものがあった。動揺とも言えるのかもしれない。

 

「何故、そう思ったのかしら?」

「……未来視、というものを御存知ですか?」

「……? いいえ。けれど、響き的には未来を見るというものかしら?」

「……未来視には二つあります。予測と測定です。魔術師たちには思考分割と思考速度を限界を越えて行使することで演算装置とし、未来を先の先まで予測し続ける業を持つ者がいます」

「その人が今の推論を述べていた……?」

 

 セツナは真剣な面持ちのまま答えない。ただリンディの視線から目を逸らすことなく、ただじっと見つめ返す。

 リンディとクロノはセツナの言に困惑しながらもそれを有り得ないと断言は出来ず、また話半分に聞くことも出来なかった。

予言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)”という稀少技能(レアスキル)が存在する。

 これは幾つかの条件が合致する必要があり、またその精度もよく当たる占い程度等と言われているが――。

 その実態は世界中に散在する情報を統括し検討して起こりうる事実を予想する魔法技術だという。

 似たような技術がセツナたちの言う魔術と銘された地球の魔法技術に存在しないと、どうして言えるだろうか。

 

「貴女方が魔法技術を元に様々なことを知ることが出来るように、我々は貴女方に今日まで秘匿し続けていた技術で貴女方が知らないことを知ることが出来る」

 

 例えば、と言ってセツナは虚空から一本の槍を取り出した。

 いきなり武器を取り出したセツナに対し、クロノが僅かに反応しかけるが、リンディが静観しているのを見て姿勢を正した。

 

「これは神格武装という武器の一つです。穂先に止まったトンボが両断されたことから、銘を蜻蛉切り。これはただの槍ではありません。通常駆動、上位駆動と呼称される二つの機能が備わっています。通常駆動では刃に映した物体を割断し、上位駆動では事象を割断します」

 

 ――このように。

 呟き。立ち上がったセツナは蜻蛉切りを構え、

 

「結べ、蜻蛉切り」

 

 一閃した。

 リンディ、クロノ、なのは、ユーノ。そしてセツナ自身。

 下段から振り上げられた槍の一振りはこの場に居る誰にも触れてはいない。

 しかし、

 

「なっ!?」

「――ッ!」

「ええ!?」

「そんな!」

 

 ザッ、と。

 まるでテレビ画面にノイズが走ったようにクロノの黒尽くめがブレた。と思った瞬間、クロノの服装は全身が黒いそれから黒いジャケットと白のスラックスという制服のような服装に変わっていた。

 

「バリアジャケットが……」

 

 四者四様に愕然とする中で蜻蛉切りを虚空へと仕舞いながらセツナは言う。

 

「執務官の服――バリアジャケットの【防護】という事象を割断しました」

 

 本来バリアジャケットには幾つもの防護機能が備わっている。それは魔法戦闘時の防御というだけでなく、ダメージ蓄積時の緊急機能など様々だ。

 だが。幾つも存在するそれら一切を機能させることなく、クロノのバリアジャケットは解除されてしまった。

 セツナの言を信じるのなら、バリアジャケットの防護という大前提の機能が割断――切り取られたことによってエラーが生じ自動解除されたのだろう。

 いや、どうしてそうなったのかは今は置いておこう。

 重要なのは構成魔力の阻害やダメージを用いずにバリアジャケットを解除するなど不可能であり、しかしそれを実際に無し得た事実が在るということ。

 

「それは、ロストロギアではないのか?」

「違います。地球で造られたものです」

「だが、管理外世界の地球に」

「それは貴方方が知らなかっただけに過ぎない。貴方方は魔術を知らない。管理者の存在を知らず、旧支配者のことも知らない。貴方方が知っていることが世の全てではない」

 

 半信半疑な様子のクロノにセツナは坦々と答える。

 

「これを造れますか? 再現できますか? 艦長に執務官という出来る二人に反応を許さず割断するこれを。勿論、ボクも、ボクたちも何でもは知らない。それでも貴方方がボクたちの知らないことを知っているように、貴方方が知らないことをボクたちは知っている」

「何が言いたいのかしら?」

 

 むっつりと黙ったクロノとは反対に、リンディが問う。

 セツナは考えることがあまり得意ではない。正直に言えば身体を動かす方が性に合っている。もっというなら肉体労働万歳。

 今回のことも。本来ならばアースラに乗艦したのはアースラ側の現状を見聞きし、それを情報としてスザクに流すだけの簡単なお仕事をこなすため。なのはやユーノの口から出たとしても、蜻蛉切りの性能について語る予定なんて在るわけがなかった。その結果ロストロギア認定されて強行されてもどうにかなるという自負があった。未だ検証段階とは言え、オリジナルの大技もあるのだから。

 それでも蜻蛉切りの性能を――現在のどの技術でも実現不可能な性能を説明したのは、未来視なんて虚実入り混じった話をして誤解させたのは――

 

「記録を見せてください。アースラが地球へ来る前に就いていた事件の記録を。こちら(・・・)の予想が正しければ、ボクらはきっと協力できる」

 

 イレギュラーの実態を把握し、なおかつイレギュラーのことを知っているが自分たちはそれとの関わりはないと印象づけるため。

 セツナはそんな風に考えながら、しかし心中では激しい業火が渦巻いているのを自覚していた。

 大好きな作品の、大好きなキャラクターたち。彼ら彼女らに害を為す存在は絶対に赦さない。

 ましてや、クロノの右手を奪い。今はまだ無事ななのはやフェイト、はやて達にまで危害が及ぶ可能性があるのなら。

 完全に、完璧に、十全に万全に、残滓すら存在し得ぬほど完膚無きまでに潰して刻み尽くさないといけない。

 アースラが地球へ来たということは既に事件は終息したのだろう。だが、それは、イコールそれを成した者の死とはならない。

 セツナには直感があった。予感でも啓示でも虫の知らせでも良い。犯人は四人目であり、四人目は悪意を持って立ち回り、そう容易く死んでくれはしないだろう。

 と、そういう確信にも似た感覚を得ていた。

 情報が必要だ。四人目が望み、手にしたという『有り得ない変身能力』。その情報が。

 燃え盛りながらも何処までも冷たい意思。そんな内心を決して悟らせることなく、セツナは何処までも真剣な表情でリンディとクロノを見詰めた。

 

 




本編にのせたかった一部

「セツナちゃん、クロノくんの服がバリアジャケットじゃなかったらどうしてたんだろう……」
「なのは……」


空気を読みました。
私となのはが。
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