「本当はじっくりと時間をかけたかったがそうもいかなくなった。悠長なことはしていられない。最終項目以外の全てのプランを白紙にした上で、フェイズ自体は前倒す」
管理局介入とその後のアルとスザクの間で行われたブリーフィング。
本来ならば事前に計画していた通りに事を進める為の簡単な確認だけで終わるはずだったが、そうもいかなくなってしまった。
クロノ・ハラオウンではなく、リンディ・ハラオウンが現場に現れたという“原作”との明かな齟齬。
そして、ここに至って確認された四人目の存在。そしてその確定的な脅威。
そこに加えて更に、セツナ・ノイシュヴァンシュタインの独断行動。それも本来予定にない情報の流出と、現場離脱。
セツナは明らかに不味いと判断可能な事柄以外の可能な限りの情報を、リンディからの質問に答えるという形である程度喋ったらしいのだ。
だがこれは早いか遅いかの違いでしかないために、まだ、比較的には許容範囲内で。ギリギリのギリッギリであり、情報と交換で幾つかの条件を引き出す予定だったスザクは苦虫を噛み潰してしかも歯に引っ掛かったみたいな顔をしていたが。
問題なのはセツナが単独で四人目討伐に出たことだ。
今後の予定にはしっかりとセツナもキャスティングされているし、その事はセツナ自身も承知済みであるにも関わらず。
どうやってか?
セツナは魔導師ではない。
セツナが選択したのは『蜻蛉切り』と『重力操作』だ。――後者に関しては既に別の何か疑惑が絶賛生じているが。
四人目が現れたのは地球とは異なる世界である。
現在、次元の海を航行する船、アースラが地球近郊の次元空間に停泊中であり、その情報はアースラのリンディ館長からもたらされたものだ。
ではアースラで件の世界に行ったのか?
否である。アースラは現在、正式な任務として地球で観測された次元震の原因調査、ユーノ・スクライアから届けの出されていたロストロギアの回収の任にある。それを終えてもいないのに勝手に動くことは出来ない。
だからといって魔導師に転移魔法を使ってもらったという訳でもない。管理局という組織に身を置く人間が、管理局法に囚われない管理外の人間であるからと許可もされていない一個人を異世界渡航させるわけがない。
ではどうしたか?
話は変わるが、『スーパーロボット大戦』というゲームには重力を操るトンドモロボットが存在する。――登場ロボットはどれもこれもトンデモ性能だがそれはともかく。
そのロボットはワームスマッシャーというワームホールを開けて攻撃するという武装を有している。
ワームホールとは謂わば林檎の虫食い穴であり、林檎の表面を渡って移動するところを、穴を開けて移動するようなものである。
更に話は変わり、ブラックホールというものが存在する。
これは、謂わば高密度、高圧力、加えて超重力の穴のようなものである。
関連してホワイトホールというものがある。
これは前述のブラックホールという穴に落ちたものを放出する穴と仮定していい。
三度話は変わり、転移魔法というものがある。
これは呼んで字の如く異なる場所へと転移する魔法だ。管理世界として加盟しているのが、この転移魔法なりを使って次元世界間を渡る技術を有する世界である。が、これは置いといて。
つまりどういうことかと言うと。
セツナは独力で世界間移動をしたのである。それもワームホールとブラックホールの合わせ技らしいものを転移魔法の感覚を用いて。
「……意味が、わからない。……っ、不可能だ! ありえない! そんなバカげたことが出来てたまるか!」
これはセツナのやらかした事を知ったスザクの言であり、リンディやクロノ、ユーノの他、魔法関係者のほぼ全てが同じことを思ったのは言うまでもない。例外は魔法に関わってまだ日が浅く、未だ小学三年生ということで理解の及ばないなのはと、
「……汝も大概だと思うがな」
あり得ないと連呼しながら物凄い表情で頭を抱えているスザクに聞こえないように呟いた、アル・アジフだけである。
そんな騒動がありつつも、本来の目的の為に残るジュエルシードを探す日々のある日、平静さと冷静さを完全に取り戻したスザクは、アルへと冒頭のようにプラン変更を伝えた。
場所は時の庭園。プレシアから協力者としてスザクに与えられた私室だ。
なのはとユーノは“原作”通りアースラで暫く寝泊まりをしている。
一方でアルとフェイトは、フェイトが当初から使っていた海鳴市のマンションの一室をそのまま使っている。その間アルはフェイトたちの居候という扱いだ。
そんな中、ようやく正気に戻ったスザクがアルを呼びつけ、単独では時の庭園にこられないためにフェイトを伴ったのが現在の状況である。
そのフェイトたちはアルとスザクの会談中はプレシアの元でティータイムでも楽しんでいる筈だ。
「とりあえず、海に沈んでいる以外の全てのジュエルシードをさっさと回収する。確か、現状ではアースラ側が広域探査魔法を使い、それをなのはやフェイトが実働として回収しているんだったな?」
「うむ、そうだ。既に半数以上は回収済みだった筈だ」
「ならば、そこに俺も加わろう」
「は? 汝は最期まで姿を晒さない予定ではなかったか?」
「バカ、誰が実働組みに加わるか。探査の方に決まってるだろう。海鳴の街は既に俺の領土だ。少し本気を出せば連中の探査魔法と同等かそれ以上の成果は見込める。まぁ、霊脈を確保してるという強みがあればこそだが。加えて使い魔も放つ。魔法と魔術と物理の集中探査だ。明日中に海以外を終わらせる」
「それは良いが、汝の方の用意諸々は終わったのか? 結構な大事だったはずだが……」
「問題ない。後はジュエルシードが必要個数揃えば直ぐにでも始められる。だからこそお前を呼んだというのもある」
「プレシアの方の容態はどうなのだ?」
「プレシアはそもそもが公式チートみたいなものなんだ。病魔に蝕まれた状態にも関わらず単独で次元跳躍魔法を二ヶ所ほぼ同時に行い、訓練された武装局員の部隊を一人で壊滅させ、挙げ句の果てには複数のジュエルシードの魔力を制御までしてみせるんだぞ? 多少はどうとでもなるし、実際に検査しても堪えれる程度には回復している。完治はそれこそ時間をかけて今後じっくりと、だな」
「プレシアやべー……。それでは、明後日でジュエルシード回収は終了か」
「いや、ジュエルシード事件の終了だ」
「なに?」
スザクの言葉に訝しげに返すアル。
当然だ。ジュエルシード回収後もジュエルシードに関する別の事件を故意に起こし、そのどさくさで必要なジュエルシードを掠め盗るというのが本来のプランだったのだから。
しかしスザクはジュエルシード事件は明後日で終了だという。それは、前述のプランとは異なる。
「いいか、ここからが最大の変更点だ。セツナの離脱と四人目の危険度の高さは当初の想定を超えている。だからこそ、本来のプランは使えない」
スザクはそう前置きしたあとで、新たなプランを伝えるのだった――。
アースラと管理者の協力によりほぼ全てのジュエルシードを回収し終えたあと。それでも尚見つからない残りのジュエルシードは海中に沈んでいるのだろうということで全員の見解は一致した。
海中を探すという都合上、残りのジュエルシードが同時に励起状態になる可能性があるということで、実際にその封印作業を担うなのはと、そのサポートを行うユーノは万全を期すために、一度家へと戻り翌日に備え英気を養うことが勧められた。
それなら、ということでなのははユーノを伴いアースラから海鳴市に戻るとさっそくアルを通じてフェイトとアルフを喫茶翠屋へとご招待。もうこの際だからとアリサとすずかも呼ぶ。
互いに敵対する理由の無くなったなのはとフェイトは、なのはがぐいぐいとリードすることでフェイトが困惑している間に仲良くなっていた。
一緒にジュエルシードを探したり、フェイトがなのはの魔法の練習に付き合ったりと関係は双方向に良好だ。
そんなフェイトをなのはがアリサやすずかに紹介し、フェレットユーノが少年体ユーノとして正体を明かしたり、アルとすずかがちょいちょい仄甘い空気を形成したり、なのはとフェイトが百合の蕾を育んだり、そんな除け者紛いの扱いにアリサが噴火したり。
そうやって和やかな一日を過ごして英気を養った翌日。
場所は海鳴市近海上空。
海鳴市のこの日の天気は快晴だが、今現在のこの場に於ける天蓋は灰色の空模様を映している。
それもその筈で、海鳴市近海のジュエルシードが沈んでいると予測される広大な範囲を、封時結界で本来の空間から切り取っているのだ。
これから最後のジュエルシード回収が行われる。今回は海中ということもあり発動前の回収が難しいことから、荒っぽい方法を取るために結界の施術は必須となる。なお結界は実働可能なアースラの魔導師たちが構築、維持に努めている。
高町なのは。フェイト・テスタロッサ。ユーノ・スクライア。使い魔アルフ。クロノ・ハラオウン。そしてアル・アジフ。以上六名は結界の中、最後のジュエルシードを回収するための準備に入っていた。
「それじゃあ、改めて作戦を説明する」
クロノは全員を見渡すと作戦概要のおさらいをはじめる。
ジュエルシードの封印は実力や事前の契約などによってなのはとフェイト以外では行えない。
ユーノは完全に万全と言うには不安が残る上、補助魔法特化型の為、仮にジュエルシードが暴走し異相体化した時の有力打に欠ける。
アルフは攻撃も可能だが、しかその本分はフェイトのサポートを目的とした使い魔だ。
クロノはその点なのはやフェイトに比べ、執務官という役職やその経験から二人以上に高水準な実力者だが、先に行われた管理者サイドとの海鳴市での行動契約があるため封印を行えない。
そんな、表向きには完全に理論武装された理由から、海中に沈んだジュエルシードに魔力を打ち込み励起させる役目はアル・アジフが担うことになった。魔導師ではないアルには封印魔法は行えず攻撃くらいしかすることがない。ついでに言えば、魔力保有量はここに居る者の中では追随出来る者がいない程度には容量過多であるという点も大きい。
作戦は簡単だ。
アル・アジフが魔力を打ち込みジュエルシードを励起させる。この時ジュエルシードは発動ないしは暴走し異相体かそれに類する形で猛威を奮うことが予想されるため、これをクロノがメインとなって全員で対処。その後、なのはとフェイトの封印砲撃で一網打尽に封印する。
本来ならばもう少し人数を多目に配置しデリケートな作戦を組む今回の案件は、しかし実働可能な人員の少なさと、それを考慮してもなお総合的に過剰気味な複数の高魔力保有者が存在することでここまで大胆な作戦を進めるに至った。
「全員、準備は良いな? ……それではアル、頼む」
「うむ。では、いくぞ」
クロノ号令にアルが応える。
アル・アジフの身体を緑白色の魔力が覆い、その身から零れ落ちるように――否、迸り翔るように幾何学的な文字が海上表面に陣を描く。
それは二翼が矢と剣が合わさった物を挟み、その周囲を円環状に文字が廻る巨大な魔法陣だ。
その威容に何人かが呻くが、アルはそれを気にせずに事前の手筈通りのポイント周辺へと魔法陣を通じて魔力を注ぐ。
「……くるぞ」
「……くるっ!」
アルとクロノの言葉が重なり、瞬間――
大気が脈動するように震え、四方八方へと突風が吹き荒ぶ。
なのはたちは煽られながらもしっかりとその場に止まり続ける。
風が止むに合わせて海から六ヶ所、眩い輝きが放たれる。そしてその六ヶ所は同時に爆発したかのような勢いで海水を天高くまで噴き上がり、それぞれが同一の像を結ぶ。
それは、大海という胴から伸びる六つの頸をもたげた水龍。
アル・アジフという最強の魔導書の魔力によって励起したジュエルシードは、過たず存在格として最強の種を模倣したようだ。
「――っ、散開!」
六対十二の瞳が禍々しい赤の煌めきを見せたのと、クロノの叫ぶような号令はほぼ同時だった。
六人がそれぞれ居た場所を、螺旋を描きながら槍状に噴出した海水が襲う。
「……妾のせいか…………?」
スザクに予め聞いていた状況よりも難易度が高くなっているような気がする状況に、やや表情を引き攣らせたアルの呟きが溢れて消えた。