リリカルなのか?   作:コカ・と栗鼠

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投稿が遅れに遅れて申し訳ありません。


第二十七話:Enemy of Mankind <2nd>

 バサリ、という羽音と。

 ガッ、ゴッといった重い打突音のアンサンブル。

 六対一。

 戦闘に於いて数の差は明確に有利不利を別ける要素だ。

 一般的に人が単独で対応しきれるのは二人まで――つまり二対一が限度だと言われている。

 確かに例外的に複数人を相手に打ち勝つ格闘家の話があるのも事実だ。

 だがこの戦場は尋常のそれとは異なる。

 銃弾が飛び、鉄刃が閃き、魔法――光弾や光線、光刃が踊る。挙げ句には瞬間移動めいた動きや、空間に仕掛けられた(トラップ)まで飛び出る始末だ。

 それらを成しているのは多勢の側である。

 しかし。そんな圧倒的な事実を、非常なる現実が握り潰す。

 無勢の側に立つ怪人――グランスルグ・ブラックモアはそれらに対し徒手空拳で挑み、消耗らしい消耗も、損傷らしい損傷もない。もっと言うならば、目にも鮮やかに消耗し損傷を被っているのは多勢の側の少年少女たちだ。

 

「くそっ、どうなってるんだ!?」

 

 荒い息づかいをしながらも、クロノが苛立たしげに吐き出した言葉は、この場に居る者たちの代弁でもある。

 グランスルグ・ブラックモアに攻撃が一発足りとも当たっていない――などということはない。少なくない数の被弾をしている筈なのだ。

 それでもなお、ブラックモアにダメージらしいダメージは見られない。

 なのはがカウンター気味に放ったアクセルシューターは確かに当たっていた。

 フェイトのブリッツアクションからのサイズスラッシュは背中を切り裂いた筈だ。

 クロノの放ったスティンガースナイプは確かに隙を突いていた。

 そうであるにも関わらず、ブラックモアは無傷だ。

 バリアジャケットを纏っているのか? 有り得ない。ブラックモアから魔導師特有の魔力を感知出来ないのだから。

 鋼を超えた超硬度の防御力だとでも言うのか? それぞれの攻撃被弾時に漆黒の羽毛が舞い服が裂けていたのを視認している。

 確かに魔導師の使う攻撃魔法には基本的に非殺傷設定が施されている。執務官であるクロノは勿論、なのはやフェイトもそれは同じだ。

 非殺傷設定は“純粋魔力攻撃設定”とも呼ばれ、これはその名の通り物理的なダメージを抑え、対象の魔力値に対してダメージを与える。これにより対象の肉体にダメージを与えることなく、保有魔力を削り切り無力化することが可能と言うものだ。だがこれは酷い肉体的損傷を避けることが出来るだけで、衝撃や痛みを感じる上、急激な魔力枯渇に伴う昏倒や気絶等の弊害もある。

 そして、これはあくまでリンカーコアによって魔力を精製、保有していることが前提条件であり、この条件から外れた対象には例え非殺傷設定でも、本来の威力程では無いにしろ相応のダメージが通ってしまう。

 それはつまり、リンカーコアを持たないブラックモアにはこれまでの攻防で目にした通りのダメージが、損傷が無ければおかしいのだ。

 理解の及ばない理不尽な現状に脳をフル回転させて“何故”とそれに対する“どうすれば良いか”を考える。

 しかしブラックモアはただ思考するだけという怠惰を赦さない。獲物を狩る猛禽のように、時には駈けるように、あるいは滑るように空を飛び廻り、砲弾めいた拳打を、鋭い槍のような蹴撃を放ち続ける。

 魔導師はその特性上マルチタスクに優れていなければ戦闘など行えない。戦闘という目紛るしく刻々と千変万化する状況で、補助、攻撃、防御を適切に取捨選択し、魔法というプログラムを演算し続けなければいけないのだ。

 現状を例にすれば。

 飛行魔法を行使し続けたまま、加速の補助魔法を使い、攻撃魔法へと繋げる。そしてそれを成すために、飛行魔法に必要な魔力を維持しつつ、どういう軌道で動くのが最適かを考慮し、加速の終点で即座に攻撃出来るように最適な魔法を選択し演算する。

 これを並列して思考し行使可能であるということは、逆説的に、戦闘行為可能な魔導師は優秀なマルチタスク使いと言っても過言では無いだろう。

 だが、否、だからこそ、か。

 なのはとフェイトという魔法戦闘慣れしていない二人は勿論、執務官として数々の現場に出張るクロノですらも精神的に追い詰められていく。

 焦燥感。そして徒労感。それが彼女等を追い詰める、ブラックモアと同等かそれ以上の姿なき怪物の正体だ。

 幾ら攻撃しても回避を許し、直撃してなお無傷であるという未知の敵に“どうすれば”という疑問が絶えず精神を揺さぶり続けるのだ。

 

「落ち着け、クロノ。なのは、フェイトも。後ろの二人もな」

 

 そんな彼女らを見かねてか、六人の中でとりわけ激しく攻勢に出て、それでいて比較的軽微な損傷のアルが宥めるように、それでも凛とした声で言い放つ。

 

「ダメージは通っている。ただ、全て回復しているだけだ」

 

 忌々しげに吐き出された言葉へ驚愕するのに構わず、続けざまに一つの問いを投げ掛ける。

 

「吸血鬼を知っているか?」

「ドラキュラとか、ヴァンパイアとか……?」

 

 なのはが困惑気味に返すが、他の者たちは聞き慣れないのか知らないのか、疑問の表情と共に黙している。

 

「そう、それだ。奴が名乗りで語っただろう、死徒であると。死徒とはな、言うなれば怪物としての吸血鬼。不死不滅で変幻自在な存在だ。……まぁ、言うほど自在に姿を変えたがる奴は多くないが、それでも不死という点ではお伽噺の通りだ。

 死徒には復元呪詛と呼ばれる自動修復機能が備わっている。目に見える損傷が無いのはその所為だ。それでもダメージは確りと通っている。復元呪詛の修復を上回る攻撃を当てれば相応に消耗しよう」

「だからか……」

 

 アルの言葉が途切れた隙間に、ユーノの呟きが滑り込んだ。

 全員の視線が向く中で、ユーノは確信を持って告げる。

 

「アルの攻撃だけ一撃すらも入らないのは、この中でアルの攻撃だけは復元呪詛を上回るからなんだ」

 

 攻撃を不得手とし、後方で支援補助に徹していたユーノはこれまでの攻防を広い視野でしっかりと見続けていたのだ。

 

『良い観察眼だ少年。確かに私にとってもアル・アジフの攻撃は脅威……だが、それが解ったところでどうなる? 全力であるならばまだしも、先のような攻撃を続ける限り事態は動かないぞ? さりとて全力は出せまい、アル・アジフ? 今現在は味方でも、何時か未来では敵になるかもしれぬ異世界人の前では。今現在は敵対していても、何時か未来では味方となるかも知れぬ私には』

「…………」

 

 ブラックモアの言葉に、アルは忌々しげな表情こそすれ反論することはない。それはつまり、彼の言葉を是と認めていることになる。

 則ち、ユーノが、フェイトが、クロノが、――あるいはなのはですら何時かは敵となる可能性が在るのだと。

 

「どういうこと、アルくん?」

 

 不安げな声色で問いを放つなのは。しかしアルはそちらには顔どころか視線すら向けることなく、ブラックモアを睨み続ける。

 

『どうしたアル・アジフ。訊かれているが、答えてやらぬのかね? いや、答えられぬのか! それほどまでに彼等との友誼は大事かね? それほどまでに彼等と共に在った時間は心地良かったかね?』

「っ、…………」

『図星なのか! く、はっはっはっ! なあおいアル・アジフ! 彼等は君の敵だろう? アラヤでもガイアでもなく、況してやタイプ・アースでも有り得ないアル・アジフ! さりとて君は異世界の者共を狩る刃だろう!? なぁ! アル・アジフ!』

 

 馬鹿にするように、貶めるように、激するように。

 忌々しげに、怒りを顕に、愉しげに、痛々しげに、悲しむように、哀れむように。

 ブラックモアの糾弾/憐憫の言葉が刃となってアル・アジフを貫く――

 

「そうとも、妾は刃だ。悪しきを断つ刃だ。如何にも、妾は狩人だ。悪を敷く者共を屠る狩人だ」

 

 ――ことはない。

 

「故に、妾は貴様の、貴様らの敵だ! 味方となるだと? ハンッ! 笑わせるなよ黒翼公! 例え何者が敵となろうと、妾は貴様ら人類史の否定者共の味方になることは決してない! 英雄足り得ぬ妾は、けれど人類の側に立つ者だ! 妾の刃は貴様らの牙にかかった人々の怒りと嘆きの具現と識れ!」

 

 バルザイの偃月刀の切っ先を突き付け高らかに宣言する。

 人で在ったことを忘れ、人を食い散らかし玩弄することを好しとする怪物(ひとでなし)全てが敵なのだと。

 

『……よくぞ吼えたアル・アジフ。世界(ほし)に求められず、しかし人類(ひと)が求めた(チカラ)よ。

 だがどうする? 此処では十全に力を振るえぬのだろう? 如何な理由かは知らないが、それだけの啖呵を切ってなお私が今現在この瞬間も五体満足であることがその証左! 君の、君らの今のチカラでは私は倒しきれず、しかし私は遊び半分で君らを圧倒し切ることが可能だ! この事実は如何様にも変わるまい? さぁどうする? このままでは私は石を頂く序でに君らを壊すまで遊んで終わるぞ?』

 

 高潔な意志も。

 強靭な決意も。

 不屈の精神も。

 泰然と横たわる現実を覆すには至らない。

 不死の怪物にも、確かにダメージは通っているとアル・アジフは言った。

 脅威的な修復機能も、それを上回る攻撃で突破出来ると怪物自身が認めた。

 だが、それは何時だ? あと何れだけのダメージを与えれば良い? それまでに、何れ程のダメージを此方が被ることになる?

 水龍との戦いで消耗している自分達にあと何れ程の魔力が残っているのか。

 幼くして負担の大きい集束砲を放ったなのははこれ以上無理をすれば致命的だ。

 儀式魔法を放ったフェイトも既に魔力が尽きてもおかしくない。その証拠に、使い魔であるアルフはフェイトの消耗を気にして積極的な攻勢に参加できていない。

 先の事件の傷が完全に癒えたわけではないクロノも、消耗は激しい。

 

 ――ジュエルシードなんて、もう渡してしまえ。

 

 絶望感に挫けた弱気な声が囁く。

 もういいじゃないか。よく頑張った。彼もこの世界の住人。きっと最悪の事態にはならないさ。

 幼い少年少女がここまで踏ん張ったのだ。きっと誰も責めやしないさ。

 

『――ぬっ!?』

 

 驚愕の呻きと、擦過音、次いでバサバサと不安定な風切り音。

 

「お喋りが過ぎたな鳥頭!」

 

 それは少年少女たちの前に居るアル・アジフのもの――ではない。

 彼女らの前に居るアル・アジフはそのままに、これ以上ない程にイイ表情の(口角を吊り上た)アル・アジフがブラックモアの背後に居た。その手には二振りの小剣形態になったロイガー・ツァールがあり、十字切りを見舞ったような格好をしていた。

 なんのことはない。

 長々としたお喋りに興じていたのは最低限の魔力で虚像を編み、同時に己を隠すため。

 確かにアル・アジフは全力を出せない。それは既に挙げた理由の通りだ。

 ならば原液持ちの旧き強大な死徒、グランスルグ・ブラックモアを打倒し得ないのか?

 否。断じて否!

 人の歴史は常に強大な敵との戦いと共に逢った。

 その中で、人が磨き上げ研ぎ澄まし、常に敵を打倒し続けたのは武器でも魔力でもない。

 それは知恵だ。それだけでは力無い吹けば飛ぶような最弱の力。しかし最強へと至る力だ。

 そして、強大な敵が敗れ続ける理由も常に存在する。

 それは慢心だ。己よりも弱いものを弱いままと決めつけ常に高みから傲るその油断。強大であるからこそ巣食う絶対の天敵。

 グランスルグ・ブラックモアは嘯いた。児戯であると。敵対するに値しないと。そして正しくその通りに振る舞った。確かに人を超えた膂力を持つ死徒だが、元が魔術師であり死徒化して以降は朱い月の使い魔として己を定めたブラックモアに徒手格闘の心得など存在しない。性能に任せて動く以上のことが出来よう筈がない。

 何より。絶対的な忠誠心の下、己に私闘を禁じた存在が茶々を入れることが既に最大最上の傲慢。

 ――ならば此処でその罪を罰しよう。

 ――これまでと同じ様に。

 ――幾つもの英雄潭に語られるように。

 アル・アジフはシャンタクを打ち鳴らし、ブラックモアの逆襲の魔手を躱すべく距離を取る。

 両手の小剣を交わらせ十字剣にし、空いた左手にリボルバー型の魔銃イタクァを召喚。ガンッガンッ、と大気を砕く銃声が余すことなく耳朶を通して脳を揺さぶり意識を殴り付け、否応なしに注視を強制する。

 

「――いつまで呆けている心算だ汝ら! 挫けて折れたのなら端にでも寄っていじけていろ! だが、そうでないのなら顔を上げよ! 戯れとほざく鳥頭に、現実を叩きつけるぞ!」

 

 全力を出せずとも一矢報いる事の出来る事実を示した。

 敵が強大であると識っていて尚、それでも諦めぬ獅子の如き姿勢を示した。

 負ける気など微塵も無く、七罪に耽溺する不死の怪物を引き摺り貶すと宣言した。

 ――人が。

 ――人の力で。

 ――人を超えたと思い上がった怪物を討ち果たすのだ!

 アル・アジフは既に顧みることはない。人の為にある事を願われた獣が咆哮を上げた。その名の意義を示した。

 後はただ、威を見せ付けるだけである。

 アル・アジフは十字剣を、黒翼を誇る怪物へと投擲する。

 ブラックモアは空を舞う――不遜にも領分を履き違えた獣を地へと堕落()すために全身に張り巡らされた魔術回路へ魔力を走らせる。

 魔風を纏い尋常の大気を引き裂く十字剣を、ブラックモアの黒い翼腕から別たれ放たれた、レールガンを思わせる速度とショットガンを超える密度の羽根の斉射が迎え撃つ。

 激突する十字剣と羽根の瀑布。

 魔風に煽られ千々に乱れ散らされた羽根は、しかし些かもその密度が損なわれない。

 群体から毟られた黒羽の散弾は、それでも当初の命令を遂行すべく十字剣に纏わり付く。

 拮抗は一瞬。

 さながら砂糖菓子に群がる蟻のような執念に、十字剣は停滞すら許されず勢いを失い滑落していく。

 

「ふん、どうした? 遊びなのだろう?」

『然り。先の一撃は見事なものだが、それでも遊興の域を出ない。だが、同じことを繰り返すのは芸がない。それに、良い機会だ。前々から気になっていた事もある』

「ほう?」

『君らの魔術と、私たちの魔術。攻撃性に優れているのは確かにそちらだ。だが、ならばどこまでの差異があるのか見極めておくのも悪くないだろう』

 

 バサリ、と。翼腕と脚翼の二対四翼の羽ばたきが起こした颶風を鎧うブラックモアの紅い瞳が睥睨するように煌めく。

 

『無論、それは君らの言う“魔法”にも当てはまる』

 

 ブラックモアが僅かに首を傾け視線を流した先、黒鳥の怪人を囲むように、なのはが、フェイトが、クロノが力強い表情でデヴァイスを構えている。そして各々の瞳には強い闘志が煌々と灯っていた。

 

『良い闘志だ。さて、ここまではさながら前戯。そして、これよりは私の好奇心を満たすための遊興だ。早々に潰えてくれるなよ?』

 

 どこまでも傲慢に、全てを見下し俯瞰する天上人のように。それでいて喜色を隠さずに、むしろ全面に押し出すように芝居がかった仕種すら加えて布告するブラックモア。

 応えは直ぐに。

 

「リリカルマジカル! 福音たる輝き、この手に来たれ。導きのもと、鳴り響け。ディバインシューター、シュート!」

 

 なのはの周囲に浮遊する三つの光球――スフィアから光弾が連続で射出される。

 光弾は上下左右、一つ一つが緩急つけたバラバラの速度で、まるで巨大な手指が握り潰そうするかのようにブラックモアを立体的に包囲していく。

 

『ほう……。Stick difuzie voleu rapid(斉射 拡散 速く 貫く)

 

 ブラックモアは小さな呟きと共に指揮者のように腕を二、三回振るう。

 翼腕からまたも羽根が翔ぶ。

 翼を弩に、羽根は漆黒色の矢と成って光弾へと迫る。音を置き去りに疾走る羽の一矢一矢は、其々がさながら鷲や鷹が如き狩人だ。

 故に。思念制御によって高い誘導性を持ったシューターは、しかしその本領を発揮するには至らない。

 だが――

 

『ぬぅ!?』

 獰猛に光弾を貪り食らう黒羽の矢が唐突に爆発四散する。

 なんのことはない。本来なら高い誘導性と早さで対象を貫くシューターの構成式にもう一つ、爆発するように魔法式を追加しただけである。

 しかしそれは今までに無かった戦法。ここに至って行われた新たな戦術に、小さく、しかし確かに驚愕を示すブラックモア。

 その隙を逃すこと無く、ブリッツアクションで接近したフェイトがバルディッシュで斬り衝ける。

 

『ぬぅおおお!』

 

 魔法式を介さずにただ雷刃を構成する魔力の密度を高めたその一撃は、だからこそフェイトの魔力変換資質も合間って強力な雷撃として機能する。

 如何な不死身の怪物でも、生物である以上は肉体の根幹部分に大きな差異は無い。それが意図したものかはともかく、フェイトの一撃は一般人がスタンガンを食らったのと同程度の威力を示した。

 すなわち。感電。麻痺。

 しかしそれもすぐに回復するだろうことはこれまでのことからも明らかだ。

 だからこそユーノとアルフはこの一瞬の、しかし千載一遇へと至る隙を逃がさない。

 

「チェーンバインド!」

 

 二人から放たれた魔力鎖がブラックモアの四肢に幾重にも絡まり自由を封じる。

 特殊な効果こそ存在しないチェーンバインドは、だからこそ術者の魔力に比例して強度を増していく。

 ここが決め所だと直感した二人は残った魔力全てを注ぎ込む勢いで魔力を編み続ける。

 

「ストラグルバインド!」

 

 拘束されたブラックモアを、クロノが展開した魔法陣から伸びる魔力縄が更に縛り付ける。

 チェーンバインドに比べれば遥かに強度に劣る拘束魔法は、しかしここでは最適解として機能する。

 対象の魔力効果を強制解除するという効果は過たず、ブラックモアの身体強化魔術を弱体せしめたのだ。

 

『くっ、小癪な……っ』

 

 それでも人外の膂力でもってバインドを引き千切ろうとする。

 しかしそれはーー

 

「悪手だぞ、黒翼! 超攻性防御決壊!」

 

 上下左右。四方八方。縦横無尽。ブラックモアの周囲全てを覆い尽くすように、大小、形状、千差万別の剣軍が張り巡らされる。

 

「霊験あらたかなる刃よ

 吾に背く諸悪を尽く殺戮せしめん

 ーー往けっ!

 久遠の虚無へと還れッ!」

 

 口訣の直後、無数の剣刃がブラックモアへと殺到する!

 剣刃の銘はバルザイの偃月刀。魔術師の杖であり盾であり媒介となる万能兵装だ。同時に剣という形状である事実以上に鋭い切れ味を誇る魔刄でもある。

 それらが一斉に、今や回避はおろか満足な防御体制すら執れない不死の怪物を切り裂き、貫き、抉り抜く。

 誰もが思った。これなら、と。

 

『ーー舐めるなぁッ‼』

 

 轟っ! と強烈な風が走り抜けた。

 否。それは風などではない。烈帛の気合いと共に放たれた強大な魔力が物理現象へと昇華し駆け抜けたに過ぎない。

 

『クッ、はぁ……。なるほど認めよう。君らの僭称する“魔法”は確かに強力だ』

 

 身を縛るバインドも、刺し貫いていた剣刃をも強引に弾き飛ばしたブラックモア。身に纏う貴族服はおろか、漆黒の羽毛に覆われた身体すらもズタボロにされ。それでも彼の口調に揺るぎは無い。

 

『幼い身形でこれだけの力を奮う才覚も認めよう』

 

 身体はおろか貴族服すらも瞬く間に修復していく。全ては徒労なのだと、無慈悲な現実を冷酷に突きつける。

 

『だが、悲しいかなそれだけだ』

 

 復元呪詛により、吸血鬼の総身が万全へと立ち返る。

 誰も動けなかった。

 もはや飛ぶことすらも辛くなっているユーノとアルフは既に魔力が尽きかけている。

 クロノは顔を悔しげに歪めながら、しかし肩で息をしていることから余力が無いことを伺わせている。

 フェイトも肩で息をし、バルディッシュのコアが不規則に明滅を繰り返している。

 なのはも既に限界だ。レイジングハートを握りしめ悔しそうにしながら、けれど疲労困憊であることは火を見るよりも明らかだ。

 

『なかなか愉しい催しではあった。故に、これは健闘賞だ。魔法を僭称する身の程をしっかりと知ると良い』

 

 ーー瞬間。

 濃密な殺意と重苦しく禍々しい魔力がうねりを上げる。

 

『宙を覆う死羽の天幕

 月も星も飲み込む絶対無明の世界を此処に。

 【ネバーモア】』

 




もう本当に申し訳ないです。
こう、書いては消し書いては消しをですね。
納得いかないというか。

次は一ヶ月以内には投稿したいなぁ
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