リリカルなのか?   作:コカ・と栗鼠

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第二話:Emotion

――Intervention

 

 

 

『警告。危険心域項目に抵触。全白血球プログラム作動。検閲強化と素心の保護を最優先に。呪力レベル最大。初期化。書き換え』

 

 

 

 ――嗚呼。これはいけない。真逆、これだけの質をもってしてこれほどの脆弱とは想像の埒外だ。

 困った。こんなにも早いなんて、完全な想定外。

 ――仕方がない。

 少しだけコードを強化しよう。プロトコルはこちらで補強しよう。

 ――器に少し手を加える程度なら、まだ許容範囲内だろう。

 頼むよ? 物語が崩壊するのは構わないけれど、自壊だけは困るんだ。

 ――まったく。干渉は本来厳禁なんだよ?

 

 

 

第二話

 

 疲れが極まって深い睡眠状態にあることを、泥のように眠る、なんて表現するが、それなら覚醒時に生じるこの妙な疲労感はなんと言い表せばいいのだろうか……。

 そんな酷くどうでも良いような考えが目覚めてすぐに生じる自分の頭に、果たして失望すれば良いのか、はたまた大物だなと期待すればいいのか。いや、これもまた益体もないことか。

 いい加減意識もはっきりしてきたことだし、現状にきちんと向き合わねば。

 何故かは判然としないが、どうやらどこかの一室で眠っていたらしい。ご丁寧にも布団が敷かれ毛布まで掛けられている。ホテルや旅館というわけではないと、僅かに感じられる生活感が教えてくれる。

 何処の、かはともかく、誰の、なのかは何となくというか恐らくは十中八九、あのお姉さんの家なのだろう。結局迷惑を掛けている自分に軽い自己嫌悪に陥りそうだが、一先ずそれは脇に置いておこう。

 現状、親切な他人に迷惑を掛けており、これ以上の迷惑をもたらす可能性がこの身にはあるのだ。その可能性を少しでも低くする。

 

「いあ ロイガー! いあ ツァール!」

 

 声が反響したり外に漏れぬように留意しながら、しかししっかりと力強くその名を喚ぶ。

 燃え上がる五芒星――旧神の印(エルダーサイン)と共に、風の神性たる双子、ロイガー・ツァールの印が浮き上がる。一瞬をして自分一人しか居なかった室内に、赤い髪と緑の髪をしたまったく同じ容姿の少女が顕れた。この二人こそが、妾の能力の原典たる『デモンベイン』シリーズに於ける最高位の魔導書、彼のネクロノミコンの原書である“獣の咆哮”に記された神性ロイガー・ツァールの仮の姿。

 

「汝らにはこの家の周囲を警戒してもらいたい。怪しい気配、怪しい人物、とにかく異常を感じたら直ぐに報せよ。戦闘は控え、優先すべきは此処の家人の安全と情報収集と心得るのだ」

 

 無表情にコクリと頷く二人に頼むぞと告げると、二人は窓を開けて正しく風のように外へと出ていった。

 これで、とりあえず最悪の事態に対するとりあえずの対処にはなる。

 喩えどれだけの隠密行動を可能としたところで、動けば風が乱れる。風の神性であるあの二人を欺くことはまず不可能だ。加えて、やむを得ず戦闘状況に突入したとしても、成す術なく退けられるということもあり得ない。他の旧神や旧支配者に比べ幾らか劣る神性とは言え、基本的にクトゥルー由来の神性は人間が対処できる程易しくはないのだ。

 さて。これで何ぞ釣れれば良いが……いや、恩人への安全を考えれば何もなく杞憂に終わるのが一番だ。

 ロイガーとツァールが出ていった窓から仄かに星の煌めきが見える。室内の暗さからわかっていたとは言え、既に夜だ。昼間ならばどうとでも言い逃れることが出来たであろうが、夜ともなるとあの人の良いお姉さんが即座の退去を了承してくれるとも思えない。

 どうしたものか、と考えるが妙案は浮かばない。魔術を使えば良いのだろうが、一般人に使いたいとは思えない。この身に記されたるは狂気の産物。場合によっては使い手すらも狂死させ、そうでなくとも容易く正気を蝕む害毒だ。まったく、葛藤の末に選択したくせに、こうなってくると恨めしく思ってしまう。

 とりあえずは礼を尽くそう。

 そう考えて毛布を退け、そのままにするのもどうかと瞬きの間悩み、とりあえず三つ折りにして部屋を出た。

 一軒家。それも二階建てらしい。と部屋を出て直ぐに階段があることから気付く。と言うことは親元で暮らしているのか、と考えこれは尚更面倒をかけてしまったなと小さくため息が溢れた。

 階段を降り廊下を進むと、光が漏れ団欒の様子が伝わってくる扉の前に立つ。夕餉か。と思いながら扉を開けた。少し時間を反らそうかとも考えたが、どうやらこちらの気配に気付いている者がいるようだった。ここで退くのは悪手だと直感が告げている。

 

「あら、目が覚めたのね」

 

 どうやら食事は既に終えて、今は食後の一服でも満喫していたところらしい。

 柔らかな微笑と共にそう声をかけてきたのは、やはりあの喫茶店、翠屋のお姉さんだ。

 うむ。そこはいいのだ。

 

「体調はもう大丈夫なのかい?」

 

 と声をかけてきたのも、翠屋のあのイケメンお兄さんだ。

 思わず扉を開けたまま阿呆のように固まってしまっても仕方がないだろう。

 いや別にこの二人が交際している事実に驚いた訳ではない。同じ職場で働くイケメンと美女。交際していてもまったく疑問はないし、むしろ自然な気さえする。また、同棲しているのも気にはならない。自分には全く縁のないことだったが、ある程度の交際期間を経ると同棲するのだという知識はある。

 

「あ、この子がさっき言ってた?」

「わ、かわいい……」

「ふむ」

 

 この三人が原因だ。

 一人は眼鏡を掛けた女性というよりもまだ少女というくらいの者。

 一人はどこか先の眼鏡の少女に似た顔立ちの小学生くらいの少女。

 最後にお兄さんに似た顔立ちの、どこか妾を見定めるように注意を払っている青年。

 ……兄妹、か? というか姉妹と兄弟か? 互いの妹や弟を伴って同棲、というのもあるのか?

 ダメだな。経験が無さすぎて全くわからん。というか、人様のお家事情をあれこれ考察するなど失礼じゃないか。

 ようやくその考えに至り不躾な思考を破棄する。

 

「……あー、うむ。面倒を掛けたようですまぬ。そしてありがとう」

「いいのよ、気にしないで。それよりも具合は大丈夫?」

「うむ。何故寝ていたのかはよく思い出せぬが、体調に違和感はない」

 

 何故寝ていたのか。これだけがどうしても思い出せない。

 街を放浪し、小腹が空いて翠屋に入りお姉さんと軽い問答をした。という大まかな流れは覚えているし思い出せる。けれどそれとこの状況がイコールで結ばれない。

 

「覚えてない……? 大変、頭とかはぶつけてなかったはずだけれど……。あのね、自己紹介をしていたら突然意識を失ったのよ?」

 

 ……? 尚更わけがわからない。

 はぁまったく。まだ初日だというのにこの体たらく。自分はここまで脆弱ではなかったはずなのだが……。いや、確かにこの身は自前ではなくあの若手実業家のような青年が用意したであろう、アル・アジフ似の身体だが。それが原因とも思えない。知らず狂気に当てられSAN値でも下がったか?

 

「心配をかけたようで、重ねて申し訳ない。しかし今は何ともない。大方旅の疲れが突発的に襲ってきたのだろう」

 

 見ればお姉さんだけでなく、少女たちも心配気にこちらを見ている。ただ、お兄さんと青年だけは何処か訝しむような様子も感じられる。

 まさかとは思うが、この身に記された外道の術に気付いたか? いや、まさかな。

 ともあれ。

 

「介抱してくれたことには感謝を。この恩は何れ返す故、今日のところは」

「ダメよ」

「ぬ?」

 

 退却の意を告げようとすると、最後まで言い終わらぬ内に遮られてしまった。なぜか怒っている風な調子に若干怯む。

 

「今何時だと思っているの。そうでなくとも貴女みたいな小さな女の子の一人旅なんて危ないし、そうでなくとも宿泊先も決まっていないのでしょう? せめて今日だけでも泊まっていきなさい」

 

 うーむ。言われるかなぁと思ったことをほとんどそのまま言われてしまった。

 優しい人だ。本気でこの身を案じているのだとわかってしまう。幾ら少女の形とは言え、店員とただの客。言ってしまえば赤の他人だ。それでも、本気で案じている。

 見れば先ほどまでは訝しむようだった男二人も、お姉さんと同様の意見らしい。少女二人は言うに及ばずだ。

 意識をロイガー・ツァールに向ける。二人からは現状異常無しと応えが返ってくる。

 巻き込みたくはない。今まで二次創作ものを幾つも読んだことがあるからこそ、そう思う。

 だが一方で、この状況を仕方がないと諦め、襲撃には気を緩まず警戒していれば退けられるという得体の知れない自信もある。

 

「諦めなさい。桃子はこうなると絶対に退かないぞ」

「だな。うちの最強は母さんだ。決定は覆らない」

「そうそう、一泊と言わず滞在中ずっと泊まっちゃいなよ」

「うんうん!」

 

 どうやら満場一致らしい。これはもうこちらが折れる以外の選択肢がないようだ。

 

「……わかった。些か心苦しくはあるが、汝らの厚意に甘えさせて貰おう」

 

 仕方がない。そんな風な姿勢を見せてはいるが、何処かで有り難いと、安心感を得てしまっているのも事実だ。

 何だかんだと言った所で、何の準備もなく何処とも知れぬ世界に姿を歪められて放り込まれた事に対する不安感はあったのだから。

 ――と、まぁ自己分析はともかく。

 妾の宿泊が決まり、誰の部屋でお泊まりするのかで盛り上がっている面々に、先ほど耳にした信じられない単語について問いかける。

 

「ところで、先程何ぞ聞き捨てならん単語が聞こえたが……」

「あら? なにかしら」

 

 全員が首を傾げる。おおぅマジか。

 

「汝ら、兄妹……、よな?」

「ああ、俺と美由希となのはは兄妹だが?」

 

 青年が少女二人を指して言う。

 

「ははは、それではまるでそっちの二人は違うみたいではないか」

「ああ、違うが?」

「うん。お父さんとお母さんは、お父さんとお母さんだからね」

 

 青年が何を言ってるんだ、みたいな表情で言い。小さい方の少女が衝撃の事実を口にした。

 いやまて。それはおかしい。青年の方は二十歳前後だろうし、眼鏡の少女は高校生位だろう。どう見ても年齢が合わぬ……。その若々しさで三児の親? なんだ、この世界は長寿族と魔法とか

はたまた異常なほどアンチエイジング技術の発達した世界だとでもいうのか!?

 

 

 

 衝撃的過ぎる事実に度肝を抜かれ、一緒にお風呂に入ろうという眼鏡の少女――美由希と小さい方の少女――なのはに、自分が男であることを告げてその場の全員の度肝を抜き返し。

 目覚めた部屋で良いと固持するのを、ここでもまた美由希となのはが一緒に寝ようと言い出し。その傍らで青年――恭也が物凄い複雑そうな表情で苦悶していたり。

 誠心誠意をもって言を尽くした末に、何故か桃子のもう一泊すればいいという言葉で一人で寝ることを勝ち取ったり。

 そんな初日から色濃い一夜明け。

 現在の時刻は午前四時。まだ空に陽は昇っておらず、それでも僅かに闇の薄れた時間帯。

 海鳴公園という場所に妾と、もう一人。こんな時間に呼び出してきた迷惑な人物。

 他人の事は言えないが、一目見て転生者だとわかる容姿。

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが其処に居た。

 

 

 

 

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