リリカルなのか?   作:コカ・と栗鼠

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第三話:Invasive -first-

 その報はロイガーから伝えられた。

 それは見落としてしまいそうな小さな違和感。そんなこともあるだろうと、そう思ったが最後、再び意識を向けることなどないだろう。その程度のもの。

 だが人とは異なる存在である神性には、それは確かな異常だった。

 曰く、鳥が視ている。

 多くの鳥は夜目が効かない。だから鳥がこちらを視ているのはおかしい。

 ――なんて、そんな程度の低いことではなく。

 風に溶け込み自らの存在を光学的に完全に不可視化していたロイガーとツァールを、その鳥は完璧に確りと視ていたという。

 その報せを受けて直ぐに飛び起きた。今日はもう接触はないのだろう。どうこうあれこれと悩んだくせにそんな風に楽観視しかけていたのだ。

 冷や水を浴びせられたように意識は即座に臨戦体勢に。ロイガーにはその鳥――鳩だったらしい――に接触するよう指示を出す。

 さぁ、どう出る?

 ロイガーが近づくと鳩は停まっていた電線から飛び上がり、まるで着いてこいと言うように羽ばたきながらロイガーを見つめる。

 鳩を使い魔か何かにしているのだろう相手からの誘い。ロイガーにはこれに応じるように指示を出し、ツァールには最大限の周囲警戒を指示する。

 ロイガー・ツァールに指示を出す傍らで、妾もまた襲撃に備えてバルザイの偃月刀の術式を応用した結界構築の準備を行う。

 これは【デモンベイン】に於いて主人公・大十字九郎より以前のアル・アジフの主人だったアズラッドやエドガーらの得意とする術式『魔刃鍛造』。アル・アジフに記されたバルザイの偃月刀の記述は、それの鍛造方法とその実物の召喚を可能にするもの。彼らに使えた術式が、この身に使えぬ道理はない。

 そうこうしていると、鳩の主人と接触したとロイガーから報される。生憎と、と言うか喩え可能でも絶対に行わないが、ロイガーとの五感共有はしていないためその姿まではわからなかったが、意思は確認出来た。

 曰く、「戦闘の意思はない。話がしたい。場所は海鳴公園、朝四時に」。

 手放しで信じて良い訳ではないが、それでも少しだけ安心した。どうやら向こうは問答無用で他の者を排除しようとするような、危険思想の持ち主ではないようだ。

 その後、ロイガーとツァールには継続して周辺警戒を維持してもらう。ロイガー・ツァール二柱揃っていれば大丈夫だろうと、魔力の温存の意味も込めてバルザイの偃月刀は破棄する。一応そうなるように調整したと言え、意義を失ったことで字祷子のレベルまで解体され消滅したことを確認出来たことで安堵する 。流石にバルザイの偃月刀のようなデカイ刃物をそのままにしてはおけない。

 

 

 

 そして現在。

 告げられた刻限、朝の四時。

 妾の目の前には【コードギアス】の主人公・ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが幼少期の姿で待っていた。

 

「ロイガー・ツァールを視認した時、まさかとは思ったが……」

 

 眉値を寄せて呟くルルーシュ(仮称)に、誤解の無いよう先に告げておく。

 

「言っておくが、この形は妾の意図したものではない」

「いや、いいんだ。俺も他人のことは言えんしな」

 

 完全に誤解されている。と言うか、汝は自ら望んでその姿を選んだのか。なんという……。

 内心で思わず関心してしまう。ルルーシュと言えば美形オブ美形、プリンスオブプリンスとでも言うべき超美男子だ。それこそクロワッサンヘアの遺伝子が行方不明どころの話ではないレベルの。そんなキャラクターの容姿を選ぶなんて普通の神経では出来ないだろう。イケメンになりたいと思っても限度がある。上の上を超越した超イケメンとか、恐れ多い……。

 

「だから違うと言うに……。まぁ良い。汝も転生者、で相違ないな?」

「ああ勿論だ。そういう君もそうだろう? 【魔法少女リリカルなのは】の世界に、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアもアル・アジフも登場しないからな」

「……【魔法少女リリカルなのは】だと?」

「ん? なんだ、知らないのか? いやまて。何故知らない?」

 

 知っていて当然と言うような語調で言うルルーシュ(仮称)。

 勿論、前世では某オタク向け書店員だったのだから【魔法少女リリカルなのは】は知っている。地方店勤務だったが、毎回新刊を出す度に三桁冊余裕で売れるビックネーム。

 とは言え、その内容までは知らない。アニメが三期まで放送され、映画が二本放映された。主人公はなのは、フェイト、はやての三人。その程度の認識だ。ああ、あとは元々は何とか言うエロゲのスピンオフか何かだったか。

 だが、ルルーシュ(仮称)の言っていることはそう言うことではないないようだ。

 この世界は【魔法少女リリカルなのは】の世界である、ということをなぜ知らないのか。そう言いたいのだろう。

 

「教えてもらってないからな」

「はぁ? この世界の事を含め、訊けば答えただろう?!」

「時間がなかったらしい。妾ではなく、あやつがな」

「なんだそれは? いや、そんなことはどうでも良い。雑談がしたい訳じゃないんだ」

「そうだな。察するに、お互い確認すべき事柄がある」

 

 佇まいを直し、お互いに気を引き締める。

 そう。問わねばならない。何を目的とし、この世界で活動するのか。

 話した感じでは典型的なハーレム願望所有者などとは違うようだが、外面を装う事は可能だ。

 何もハーレム願望がいけないという訳ではない。確かに転生系二次創作に於けるハーレム願望オリ主は嫌いだが、現実に直接出会ったら殺してやる、という程ではない。嫌なら見なければいいのだし、関わらなければいい。他人様に迷惑をかけないのであれば勝手に頑張れば良いとも思う。

 しかしハーレム願望を抱き、その上で他の者を排除するというのなら話は別だ。徹底的に敵対させてもらうし、最悪は自衛の為に殺害も視野に入れるべきだろう。それをするための手段はある。

 また、転生特典という“チカラ”に増長し好き勝手に暴れ回るというのなら、それもまた敵対事由となる。【魔法少女リリカルなのは】に愛着はないが、此処は既に自分の住む世界なのだ。それを壊す者を放置するわけにはいかない。

 

「先に妾から言おう。妾はこの世界に、特に目的はない。【魔法少女リリカルなのは】に興味は無かったし、そもそも何も知らぬままに此処へ寄越されたのだ。取り敢えず平穏無事に過ごせれば御の字だ」

 

 ルルーシュは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしたあと、あからさまにホッとしたような表情を浮かべた。やはり、この者は悪人ではないのだろう。

 

「そうか、それを聞けて安心した」

 

 柔らかな笑みを浮かべそう告げるルルーシュ(仮称)。

 そして直ぐに真剣な表情になる。

 

「俺は、この世界で今後起きる三つの悲劇を回避したい」

「それは、原作改変ということか?」

「そうだ」

「そうか」

「…………」

「…………」

「………………ん? それだけなのか!?」

 

 何やら突然取り乱すルルーシュ(仮称)。

 

「なんだ突然」

「い、いや……。良いのか?」

「良いも悪いもないだろう。むしろ良い事だろう」

「――ハァ?!」

 

 どうやら何か言われると思っていたようだ。仕方ない。

 

「良いか? 我らにとってこの世界は【魔法少女リリカルなのは】の世界なのかも知れぬ。しかし、この世界に住む者にとってここはフィクションの世界ではなく、現実の世界だ。その世界で今後起こりうる悲劇を予め知っており、それを回避したいと思うことは、その悲劇によって悲しむ者を救いたいということだろう? それは、間違いなのか? 少なくとも妾はそれを、その思いを間違いとは思わぬ。むしろ応援しよう」

 

 これは嘘偽りのない本心だ。

 ここはフィクションの世界ではなく、既に現実の世界だ。この世界に住む者たちも物語のキャラクターではなく、実際に生きている人間だ。

 確かに我らは厳密にこの世界の住人ではないし、その身に宿す“チカラ”も謂わばズルをして手に入れたモノだ。そんな我らが、そんなモノを使って、この世界に干渉しようなどと烏滸がましいのかもしれない。

 けど、それでも。それが偽善でも、それで救われる者がいるのなら、それで良いじゃないかと、そう思う。

 原作ブレイクだとか、原作レイプだとか。そう言うのはその世界を鑑賞している側の感想だ。読者にはどこまでいっても何を言っても非現実だが、その世界に住まう者には現実なのだ。それでも、その行いを悪と断じ邪魔をするのなら、それこそが悪だ。全てを運命の一言で終わらせる、神にも等しい傲慢だ。

 それを赦さぬために妾は――

 

「ありがとう」

「――ッ!?」

 

 いかん、つい思考が飛んでおった。

 

「どこかで不安だったんだ。俺のやろうとしていることは、酷く傲慢で自分勝手な行いじゃないかと……。だが、これで決心はついた。俺は救うぞ、プレシア・テスタロッサもアリシア・テスタロッサも! そしてリィンフォースも! 何時か堕ちるなのはも! 俺はその為に、この“チカラ”を得たのだから!」

 

 突如気炎を上げ、近所迷惑を省みずに空へと叫ぶルルーシュ(仮称)。ヤル気十分なのはいいが、汝今の時間わかっておるか?

 

「っと、ああそうだ」

「ん? なんだ?」

 

 そうだ、これを聞いておかねば。

「その悲劇とやらを回避することで、他の悲劇が生じたりはするまいな?」

「――ッ!?」

 

 なんだ図星か。やれやれ、それでは本末転倒だろうに。

 

「……もし、そうだとしたら?」

「そんなこと、決まっていよう」

 

 決意の籠った瞳で睨むように妾の答えを待つルルーシュ(仮称)。

 

「悲劇を回避して他の悲劇を生じさせるなど、出来の悪い三文小説よりも質が悪い。仕方ないから、妾も手を貸そう」

「――は?」

「一人で考え一人で行うから無理が生じる。二人で考え二人で行えば、多少はマシになるやもしれん」

「いいのか?」

「応とも」

「もし、二人でもどうにもならなかったら?」

「フン、やる前からifを考えてどうする。しかしまぁ、そうだな。その時は当事者らに全て明かして巻き込んで協力を仰ごう」

「――――ッ!?」

「さすれば、最善は無理でも次善くらいは手繰り寄せられよう。勿論、最善を諦める心算はないがな」

「そうか……そうだな。ああ、そうさ! その通りだ!」

 

 晴れやかな笑顔を浮かべ、アメジスト色の瞳に先程とは別種の決意を覗かせながら。

 

「手を貸してくれ、アル・アジフ(仮称)!」

「うむ、尽力しよう。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア(仮称)!」

 

 差し出された手を取り、ここに契約は成った――。

 

 

 

「ああ、ちなみに俺の名はスザクだ」

 

 何か台無しな感がしたのは間違いない。

 

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