ルルーシュ(仮称)改めスザク――鳳朱雀と名乗った――からとりあえずの軽い情報を聞かせれたのち、それぞれ一先ずは帰還し時間を改めて情報共有と今後の方針を詰める運びとなった。
しかし、まさかなのはが【魔法少女リリカルなのは】の主人公だったとは……。スザクにはむしろなぜ気付かないと呆れられたが、そもそも極最低限の事を知っているだけの作品だ。名前だけでイコールで繋がる訳がないのだ。
そんな事を考えつつ帰宅――帰宅でいいのか若干の抵抗は覚えるが――すると、お兄さん――士郎さんと恭也さん、美由希さんの三人と出会した。
「こんな早朝にどうしたんだ?」
「うむ、半端に寝たせいか目が覚めてしまってな。勝手で悪いかと思ったが、散歩にな」
「ダメだよアルくん! こんなにカワイイ子が、こんなに暗い中一人で出歩くなんて!」
「何を言ってるんだ――と言えないんだよなコイツの容姿……」
怒る美由希さんとそんな妹に頭を抱える恭也さん。恭也さんの気持ちはよくわかる。どう見てもこの身は女の子のそれだ。実際は男で本人もそう主張しているくせに、何故かフリルたくさん純白ミニワンピだものな。常識を持っているならそりゃあ頭を抱えたくもなる。
そんな事実を華麗にスルーして、士郎さんは何を思ったか、
「これからちょっとした剣術の朝練をするんだが、どうだい? 良かったら見学してみないか?」
「父さん?」
「いいねぇそれ! ね、見ていきなよ。美由希さんの華麗な剣捌きを見せちゃうよ!」
高町家は信じられないことに道場を敷地内に持っている。何でも身内だけの剣術を代々修めているらしい。それの見学を勧めてくれるのだ。
旅行者ということにしているから、たぶんそれで気を使ってくれているのだろうと思い、軽い気持ちでその厚意に応じさせてもらう。
『獣の咆哮』に記された術式の内、バルザイの偃月刀は勿論のことロイガー・ツァールも剣を媒介にした術式だ。どちらも些か以上に剣本来の用途外に用いる事を主眼に置いたものだが、それでも剣を持って戦うためのものだ。加えて前世を含めこの身は今まで剣を扱ったことなどないのだ。精々がが傘や木の枝でチャンバラごっこをしたことがある程度。
生の剣術を観ることは何か得るものがあるかもしれないと思ったとして、それを誰が責められよう。
両手に小太刀を模した木刀を握り、恭也さんと美由希さんが打ち合っている。
小振りの得物である、という事実を抜きにしてもなお早い剣撃。
美由希さんが攻め、恭也さんはそれを一方的に受けながら時折ダメ出しをしている。士郎さんはそんな二人を監督しながら、けれどこちらにも気を払っているようだ。
小太刀二刀御神流。それが彼らが振るう剣術の名だそうだ。
朝の清澄な空気の中、硬質な音が響く。時折聞こえる彼らの声は真剣そのもので、それが一層空気を引き締めている気がする。
だが。そんなことはどうでも良い。そんなものは今の自分の意識になんら意味の無いものだ。
美由希さんの振るう剣閃が見える――いや視える。その速度も道筋も剣線の結果も、その対処法も。
――メタトロンの剣は光のように速かった。
――サンダルフォンの拳閃は苛烈だった。
――ティトゥスの剣技は外道に堕ちてなお神憑っていた。
前世は言うに及ばず、今のこの身だってアル・アジフの似姿を得てはいえても所詮は一般人の筈だ。
なのに、何故解る?
どうして、記憶に無い筈の記憶の中の奴らと比較してしまう?
彼らの剣が悪い訳ではない。
――黙れ。
だがそれでは駄目だ。
――黙れ。
その剣では悪を断てない。
――黙れっ。
外道を――邪悪を――光射す世界を――
――ダマ
「――ルくんッ!?」
「ッ! あ……」
士郎さんが心配そうな表情でこちらを見ている。
その向こうでは恭也さんと美由希さんも手を止めて、同じく心配そうな顔でこちらを見ていた。
「大丈夫かい? 具合が悪そうだが……」
「う、うむ。……眠気が残っていたのやも知れん。すまぬが、失礼させてもらう」
「ああ。病み上がりなんだ、少し休むと良い」
「お母さんももう起きてる筈だから」
「ああ。ありがとう」
それぞれ身を案じてくれる三人に簡単に応えて、道場を出る。
……わからない。
わからないことだらけだが、唯一つ。
これ以上の思考は危険だ。
根拠も。
理由も。
原因も。
その意味もわからぬまま、ただそうすることが絶対に正しいのだという衝動に急かされるように。
その思考を、棄てた。
何時の間にそれほどの時間が経っていたのか、桃子さんからなのはを起こして来てほしいと頼まれた。
特に断る理由もなく、なのはの部屋も昨日のゴタゴタの際に教えられていたので了解した旨を返してなのはの部屋へ向かう。
二度三度とノックをして、扉越しにそこそこの声量で名前を呼んでみる。
なんとなくそんな気はしていたが、部屋の向こうからは応答どころか部屋の主の動く気配すら感じられない。
小学生というのはこれくらいの時間には既に起きているものではないのか、と内心で呆れながら、さてどうしようかと考える。
こんな形だが性別上は異性なのだ。確かに相手は精神的にも肉体的にも小学生で、妾は身体はともかく精神的には大人なのだ。
ロリコンでもあるまいし、何を悩むと一笑しながら、だから悩むのだと憤る。
この世界はどうか知らないが、前世は成人男性が子供に声をかけただけで事件扱いになるような世界だったのだ。その常識に照らし合わせれば、これは完全にアウトだろう。
そう考える一方で、事実はどうあれ姿的には問題ないし、何よりこの行いにも何ら疚しいものはないのだ。とも思う。
その上で。このままウダウダしていれば、その割りを食うのはなのはなのだぞ、と冷静な部分が告げる。確かにこのままではなのはは遅刻してしまうかも知れない。そうならないようにと妾に依頼した桃子の期待を裏切ることにもなるだろう。
一つ深呼吸して、腹を括る。
四度目のノックの後、反応がないのを確認してドアノブを回す。
一歩。踏み入っ所でふと、これが前世を含めた人生初の異性の部屋への入室だと気付いた。
(落ち着くのだ妾。余計なことを考えるな)
心中で声に出すことなく言い聞かせる。
周りを見るな。気を散らすな。なのはを起こす。それだけに集中し、それ以外の一切は不要であると心得よ。
「なのは、朝だぞ。いい加減起きよ」
奇跡的に。なのか。努力の賜物なのか、声は普段通りに出た。震えず上擦ることもなかったことに安堵する。
「う〜……」
ムズがるようにして寝返りを打つなのは。
カワイイ。
そう思った刹那、想像の中で自らに向けてイタクァを神獣形態で発動。想像の中とは言え、自らを起点にして周囲一切を巻き込んだ瞬間凍結に冷静になる。
「ほら、起きよ。汝、学校があるのであろう」
「にゃ〜……。もう少しぃ……」
「そのもう少しは永久と同義である。認められん。いいから起きよ」
そんなやり取りを暫し続け。
「んにゃ〜……。おはよう……」
「ようやく起きたか。うむ、おはよう」
「…………? にゃ!? な、ななな、なんでアルくんがわたしの部屋に!?」
「桃子に頼まれたのだ、寝坊助を起こすようにとな」
慌てるなのはに努めて冷静に、それでいてからかうように答える。この時自らに不埒な考えは一切ないのを強調するために、ニヤリと笑っておく。
「あう……」
顔を赤くしたなのはは掛け布団の中に隠れてしまった。
「起きたのなら支度せよ。そのまま二度寝したら、そうさな。次は擽り起こしてくれよう」
唸るようにしてこちらを可愛らしく睨むなのはに背を向けて、部屋を出た。
擽り起こす? 不可能に決まっておろうが!
内心で先の自分にキレながら、二度寝なんぞしてくれるなよと祈るように願った。
高町家団欒の朝食に加えてもらい、桃子の作った朝食に感動を覚えた後。
なのは、恭也、美由希がそれぞれ登校したのを見送った。
その際に、妾は既に大学を飛び級卒業しているという例の嘘を告げると三者三様に驚かれた。少しだけ胸が痛んだが、これは仕方ないのだと言い聞かせ我慢する。
その後翠屋へと出勤する桃子さん士郎さんよりも一足早く、妾も高町家を出た。
案の定行き先を聞かれたので。
「先程知人からメールがあってな。どうやら知人がこの近くに来ているらしいのだ」
「そうか。気を付けてな」
「今日もうちに泊まる約束、忘れないでね」
特に疑問を感じていないような二人に軽く返事をして今朝と同じ公園へと向かう。
日中は流石に安全だろうと考え、ロイガー・ツァールは既に還している。
公園には既にスザクが来ており、ベンチに座って鳩の群れに餌をやっていた。
「すまぬ、待たせたか?」
「いや、大丈夫だ」
そう答えて立ち上がるスザクにつられて鳩の群れは一斉に飛び立っていった。
「さて。ここではなんだ。場所を移そう」
そう言ったスザクに着いていき、途中でタクシーを拾って移動すること10分程。
現在の拠点の一つだと言うそこは、高層マンションだった。
「……よくもまぁ、こんな高そうな所に……」
階層的にも金額的にも。
「何てことはないさ。俺の能力は万能性ではチートだ。それを含めて、部屋で話そう」
万能性ではチート、か。
自分の知る幾つかの能力やアイテム群が脳裏に浮かんだが、予想に意味はないとその考えを止めた。
能力の開示はスザクから言い出したことだ。協力する上で情報共用は必要であり、能力を教えるのは信用してもらうためだ、と。
そうして招かれたのは最上階の一室。外観からの予想通り、テレビや雑誌でしか見たこと無いようなブルジョワな部屋だった。しかし部屋事態の高級感に反比例するように、物は極端に少ない。
リビングらしき一室にはテーブルとソファがあるだけ。奥に見えるキッチンには冷蔵庫があるようだが、それだけだ。
「まるで張りぼてだな」
「上手いことを言う。まぁ普段ここは使ってなかったからな」
そう言えば、拠点を複数構えているようなことを言っていたなと思い出す。
「とりあえず、コーヒーでいいか? 冷蔵庫に水か缶コーヒーしか入ってないんだ」
「何処の一方通行だ」
「ククッ。彼ほど愛飲はしてないがな」
よく目にするメジャーな缶コーヒーを受け取り、お互いにテーブルを挟んで対面する形でソファに腰を下ろした。
「さて、話すことは多いが……。まずは俺の能力から話そう」
お互いにコーヒーで喉を潤してから、佇まいを直して真面目な顔でスザクは口を開いた。
「俺の選んだ能力は【Fate】のスキル『皇帝特権』だ」
皇帝特権……。確かに万能チートだ。
ゲーム【Fate】シリーズに於けるスキルの中でも屈指のチートスキル。その効果は短期間だけだが、主張したスキルを得るというもの。【Fate】のスキル数は多い。その効果もピンキリだ。それらをただ主張するだけで獲得出来るというのはチートと言う他にない。
「既に察しが付いていると思うが、このマンションも【黄金率】を主張することで得た金で買ったものだ。活動資金はどうやっても必要だからな。既に最初に贈られた金額を数百倍にし、ペーパーカンパニーだが会社も立ち上げている」
思わず吹きそうになった。
スタート段階で半年の生活を保障するだけの金額があったと言うのに、それを数百倍にして会社までとは。なるほど、こやつは本気なのだな。
だがこれだけでは終わらない。
「更に、キャスターのクラススキル【陣地作成】でこの海鳴市の霊脈を抑えて、海鳴市そのものを俺の“神殿”以上のものにしている。……ところで、【Fate/strange FAKE】は知っているか?」
「う、うむ。丁度ここに来る数日前に一巻が出たからな。買ってすぐに読んだが……いや、待て! まさか汝!!」
「フッ。気付いたか? 察しがいいな。詳細がわからないから完璧な再現とまでいかないが、この地は《スノーフィールドの地》と同じだ。【魔術】スキルを得なければ使えないが、この海鳴市でなら俺は、[ティーネ・チェルク]と同様のことが出来る。加えて、一工程で三節以下の魔術行使も可能だ」
絶句する。
件の【strange FAKE】ではその地由来の魔術師である少女が、敵魔術師に気付かれる事なく、魔術師の体内とすら比喩される工房内に侵入し、無音かつ一瞬にして強力な魔術を発動させている。
それと同程度のことを可能だ、とこの男は言ったのだ。
それだけに留まらず、三節の魔術とは則ち大魔術、儀礼呪法と同等かそれ以上のものを一工程、つまり単一の動作で発動可能だという。
それは即ち、【Fate/stay night】のキャスター――神代の魔女と同程度のことが出来ると言うことだ。
知らず、生唾を飲んでいた。
ここにきて心底、こやつが敵で無いことに安堵している。
ここは、この街は既に鳳朱雀の絶対支配圏。この街総ての生殺与奪の権利はこやつが握っていると言っても過言ではない。
【コードギアス】のブラックリベリオンでも、ルルーシュはトーキョー租界の都市構造を掌握支配していたが……。こやつのソレは、同じ姿をしながらより悪辣だ。
「そう構えないでくれ。だからと言って問答無用でどうこうという気はないんだ。……そうだな、他にも細々やっていることはあるが、大まかにはこのくらいか」
資金力を高め、戦力を整える。
それは、つまり。
「戦闘状況が、発生するんだな」
疑問ではない。確認だ。
「ああ。しかも、ここまでやっても――いや、この程度でも足りないレベルの、な」
戦闘がある。それ事態はなんとなく知っていた。映画化に際しCMが流れていたし、BD販売時期にはPVも流していたのだ。だいたい魔法少女もので日常系作品などそうないし、もし仮にそうだとしたら映画化される程のビッグタイトルにはならなかっただろう。
だが、神代の魔女と同程度の戦力を備えてもまだ足りない程のものとは思っていなかった。
戦う相手には、敵となる存在には英霊クラスの化け物が存在するということか?
「あー、その様子だと誤解してるみたいだから言っておくが。サーヴァント――英霊みたいな敵はいないぞ」
「ん? なんだと?」
「お前な、魔法少女だぞ? あの可愛らしい絵で血みどろの切った張ったなんて、それはジャンルが違う」
「いやしかし【プリ」
「それは置いとけ」
英霊クラスの敵がいないならば、これで足りない道理がない。
極端な事を言えば、この街で儀礼呪法を発動させ、この街の住人総てを呪殺することすら可能なのだ。
訝しむ妾の様子に、ガリガリと頭を掻きながらスザクは口を開く。
「そもそも前提が違うんだ。確かに物語通りの戦闘も考慮に入れているが、俺はそっちに参戦する必要はないと考えている」
「何故だ?」
「まず一期目、シリーズ無印のこの地での戦いは二人の少女の出逢いの物語でもある。この戦いそのものでは死者は出ないし、懸念すべき事案はあるがそちらもどうにかなる筈だ。俺の目標とする悲劇の回避に、この地での戦いに俺が介入する必要はあまり無い筈だ」
黙って先を促す。
「問題なのは、この地での少女たちの戦いに介入してくる存在だ」
「他の転生者か?」
「それもあるが、それは別段問題視していない。お前のように反則臭い能力持っていたらお手上げだが、そんな奴はそうはいないだろう。大抵の戦力チート能力はあの自称カミサマの言う条件に抵触してるものが多いからな。そうでなくとも、存在の器とかいうよくわからないものに入りきらなければ選択も出来ないんだ。そう言えば聞き忘れてたが、お前の能力は【デモンベイン】の『獣の咆哮の術式』で合ってるよな?」
「うむ、相違無い」
「……ハァ。チート乙! クトゥルーとか巫山戯んな、どないせっちゅーんじゃっ!」
「ええい、なんだ突然、落ち着け!」
というか貴様も大概チートだろうが。それが何を言っておるんだ 。
「つーか何で【デモンベイン】イケるんだよ!? それなら俺[エセルドレータ]ちゃん侍らせたかったわ! ハイパーボリア・ゼロドライブって叫びたいわ!」
「ええい落ち着けと言うに! と言うか貴様も何故『皇帝特権』なんぞ選べるんだ! 汝は皇帝ではなかろうが!?」
「だからルルーシュになったんだろうが!」
「わけがわからぬわ!」
立ち上がり、大声で叫びあったせいか二人ともゼーゼーと変に息が切れていた。
「おーけー、落ち着こう」
「うむ」
お互いにどちらからともなくソファに座り直し、残っていた缶コーヒーを飲み干す。無糖故の苦味が意味不明に熱くなっていた頭を鎮静していく。……どーでもいいが、小学生の形をした子供二人が揃って缶コーヒーを飲む絵面って、客観的にどうなのだ?
「はぁ。あー、っと。何処まで話した?」
「……あー、この地での戦いに介入者がどうのこうの」
「あーそこか。て言うかマジで【リリなの】知らないんだな。そういや高町家に居るくせになのはちゃん見て気付かないとか……」
「ほっとけ」
「まぁいいか。そうだな、この際だ。先ずはこれから起こるタイムスケジュールを教えよう。その方が結果的には話が早い」