リリカルなのか?   作:コカ・と栗鼠

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第七話:Ruthless

 プール事件の翌日。

 まさか妾が魔術師だということが、僅か一週間も経たぬ内にバレるとは……。

 軽い自己嫌悪に陥りながらも、この非常事態を報せておこうとスザクへ連絡を試みるも、不通。

 プール事件前日に、「ちょっとフラグ建ててくる」と言って何処かへと出掛けてからまだ帰還してないようだ。

 言うまでもなく、神殿化した海鳴市の魔術的機能はスザクにしか扱えない。何かあっても妾では対応に一手遅れるのを避け得ないのだが、そこは問題ないらしい。

 何でも、『皇帝特権』で主張したスキルは一定期間で自動消去され、再び主張するのには少し時間を空けないといけないらしい。つまり永続発動は出来ないのだという。

 

「そもそもこの“神殿”の真価はこの地でなら俺はほぼ何でも出来る、という点と、それに寄ってこの地は俺が管理しているのだと騙ることにある。事前の対策なんてのは端から考慮にはない」

 

 ということらしい。

 確かにそれもそうかと思う。永続発動や連続発動が出来ないのなら、必要な時まで無闇矢鱈と発動する訳にもいかないのだから。

 しかし、だからと言って留守にし続けても良い理由にはならない筈だ。

 フラグを建てると言っていたが、一体何のフラグなのやら。

 教えられたタイムスケジュールはアニメで言うところの第一期のものだけだ。一度にあれこれ言われてこんがらがっても仕方ないからだ。

 そのタイムスケジュールの中に、今このタイミングでスザクが不通になってまで必要なフラグは存在しない。

 おそらくは第一期終了以降。アニメは三期まで放送していた筈だから、第二期、第三期の何れかで必要なのだろう。

 そんなこんなで、今回の不祥事に関しては完全に妾のアドリブで乗り切ることにした。

 

 

「それじゃあ、お話を聞かせてほしいの」

 

 場所はなのはの部屋だ。

 平日は両親共に翠屋で仕事をしており、恭也さんも美由希さんも学校。勿論それはなのは達も同じだが、そこは小学生。一コマ毎の授業時間も全体的な授業時間も兄姉に比べ早いのは当然だ。

 なのは側の事情を、なのはとユーノが一通り語った後でなのはは真剣な表情でそう言うのだった。

 二人が語ったのはスザクから聞かされたあらましと差異のないものだった。

 ユーノが発見したジュエルシードを移送中、事故でジュエルシードがばら蒔かれてしまった。

 その際にジュエルシードが活性化したのを偶然にも確認したユーノは、自分が見つけた物で迷惑をかけるわけにはいかないと単身ジュエルシードの捜索と封印に向かう。

 しかし、ジュエルシードの異相体――あの怪物はそう呼称するらしい――と戦うための力が足りず負傷してしまう。

 一度敵対した自分を追いかけてきた異相体と再び交戦するも、ただでさえ力及ばないのに更に負傷していてはどうしようもない。

 そこで魔力を持っている誰かへとイチかバチかで念話を送信。

 なのははそれを受信し、魔法の才能を開花させて魔法少女へ。

 以降ユーノのジュエルシード探索を手伝う。

 ということらしい。

 さて。どうしたものか。

 

「……わかった。しかし何から語ったものか…………。そうさな、ではこうしよう。汝らの疑問に妾が応える。で、どうだ?」

「わかったの」

「……僕もそれで異存はないです」

 

 二人が頷くのを確認して。

 もう二人にも訊ねる。

 

「汝らもそれで良いな。すずか。アリサ」

「ええ、構わないわ」

「はい……」

 

 そう。この二人にもバレたのだ。

 ユーノが言うには彼らの使う“魔法”には記憶を弄るような危険な魔法はないらしい。

 妾に記された魔術にも都合の良い記憶のみを消すものはなく、またあのプール事件を誤魔化す方法なんぞもない。

 そのため、こうしてなのは、ユーノに加え、すずかとアリサにも色々話さなければならなくなったのだ。

 知らぬ存ぜぬ、関係無い。等と言って一蹴するなんていう選択肢は、心情的に端から存在しない。

 

「じゃあまずはわたしから。アルちゃんもユーノくんと同じ魔法使い――魔導師だったの?」

「否だ。妾は魔導師でなく魔術師。扱うのも魔法ではなく魔術だ」

「? 何が違うの?」

「ふむ。そうさな……ユーノ」

「ハイ」

「汝ら魔導師の扱う魔法は、察するに機械制御のプログラムのようなもの、で相違ないか?」

「そうです」

「ふむ。ならば簡単だな。魔法を科学、魔術をオカルトと考えよ」

 

 そして。と心中で付け加える。

 魔法は正気に依って生み出され、魔術は狂気に因って膿み出されたものだ。

 ――と。

 しかしこれは未だ幼い少女たちは知らなくても良い事だ。何より、余計なことを言って怖がらせたくない。

 

「さて、次はなんだ?」

 

 さっさと話を打ち切り、次の疑問を問う。

 なのはは詳しく聞きたそうにしていたし、ユーノもそんな様子が窺えたが気付かないフリをしておく。

 そもそもこの“チカラ”は自前のものではないし、理解を要せずに扱うことが出来てしまう。

 使うと意識すれば状況に応じた選択肢が羅列され、選択することでそれをどういう手順で行えば扱えるかが解るのだ。

 走ることと大差がない。

 歩行よりも速く移動したい。選択肢は走行、乗車等の歩行よりも速いもの。走行を選択すれば、どうやれば走行出来るかが解る。やや前傾姿勢になり、歩行よりも速く脚を動かせばいい。この時に何故前傾姿勢になるのか、や脚の筋肉の状態等は意識されないし、理解する必要はない。ただ歩くよりも速く移動できる。そのためにどう動けば良いのかが解る。それと同じだ。

 確かにソレが何故どうして必要なのか理解していた方が効果は見込めるだろう。実際に元々知っていた知識の加算も起きている。だが、これこそ言う必要はない。

 それに嘘は言っていないのだ。

 スザクから聞かされたこの世界の魔法とは、物理現象や自然現象をプログラム化し書き換え、書き加え、消去して任意の作用を起こす事象だという。

 対して魔術は、殊“デモンベイン”の魔術は旧神や旧支配者という旧き者どもという異界の知識や能力の顕現だ。作中でもオーバーテクノロジーと表現されることもある。

 人間の理解の埒外にある事柄なんて、オカルトで十分だろう。

 

「……あなたは、何故、この街にきたんですか?」

「すずかちゃん?」

「すずか?」

 

 思索に耽っているとすずかが口を開いた。

 何か別の感情を繕うために纏っているような、そんな印象を受ける真剣さだ。

 なのはやアリサも友人の必死とも形容できそうな真剣さに困惑気味だ。

 すずかは二人のことを無視するかのように、妾の答えを待っている。

 その様子に、小さくはない鈍痛を感じた。

 その真剣さの裏にあるものを知っている。

 この鈍痛の正体も識っている。

 だって、これ<ソレ>は――

 

「……妾がこの街へ来たのは旅行と、知人からの要請だ」

 

 声は平素のもの。いつも通りの尊大さを隠そうともしない[アル・アジフ]の声色。

 嘘を吐くのは慣れている。特に、自分へのものは。

 

「要請、ですか?」

「うむ。お主らは、『未来視』というものを知っておるか?」

「未来予知、みたいなものかしら?」

「似たようなものだな。何かが起きそうな気がする。暇なら来てくれ、とな」

「ずいぶんと適当な要請ね」

「まぁ、彼奴はそんな奴だからな」

 

 呆れた様子のアリサと、苦笑いを浮かべるなのは。

 

「こんなところだが、満足いく答えか?」

「……はい。ありがとございます」

 

 まだ少し固いが、それでも先程までの雰囲気が薄れたことに内心で安堵する。

 今考えることではないのことは重々承知しているのだが、ただでさえ高かったハードルが更に高度を上げた気がする。これはちょっとやそっと助走をつけたところで無理だろう。業腹な上に恥ずかしいが、彼奴が帰ってきたら相談しよう。あんな見てくれをしているのだ、棒くらいにはなるだろう。

 

「訊いてもいいですか?」

「なんだ、ユーノ」

 

 最初以外はほとんど聞き役に徹していたユーノが初めて問いを投げてきた。

 

「ご友人が仰っていたと言う何かとは、ジュエルシードのことなのでしょうか?」

「……さてな。そもそもの精度や確度は虫の知らせや風の便り程度であろうよ」

「よくそんなのを真に受けたわね」

「言ったであろう。旅行だ、と。要請はついで、二の次よ。そこら辺はなのはも知っておるだろう?」

 

 再度呆れるアリサに答える形でこの街に居ることに他意は無いと含ませ、例のアウグストゥスの口八丁とそれを聞いたなのはを利用して強調しておく。

 何があるのかは知らないが、すずかには何か懸念事項があるのだろう。正体は知れずとも、こちらの心証が悪くなるような可能性は摘んでおきたい。

 まぁ、一先ずその事は置いておこう。

 

「ところでユーノよ。妾も訊きたい事がある」

「はい、なんでしょうか?」

「何故、ジュエルシードは化け物――異相体とやらになる?」

「っ、それは――」

「ジェルシードが活性化した。ならばジュエルシードとは化け物を生み出すアイテムなのか? 何故そんなものを事故程度で他の世界に落とすような杜撰な運搬をしていた?」

「あ、アルちゃんッ!」

「黙っていよ、なのは。すずかもアリサもな」

 

 問い詰めるような妾になのはが反発しかけ、アリサもそれに便乗しかけていた。すずかは困惑している風でもあったが、ここで茶々を入れらても面倒だ。冷ややかに機先を制す。

 その上で、再び口を開く。意識して淡々と聞こえるように。疚しい処があれば責められていると解釈出来るように。

 

「妾は実のところ、汝が意図的に危険物をこの世界に蒔いたのではないかと疑っている」

「そんな!?」

「アルちゃん!? そんなことユーノくんは絶対にしないよ!」

 

 なのはの抗議の声を黙殺し、言葉を続ける。

 

「目的は威力偵察か? 人材雇用か? それとも己が見つけた仮初めの力を試したくなったか?」

 

 ユーノが語ったこととスザクが語った情報に差異はなかった。ほとんど同じことを言っていたと判断していい。

 しかし、足りていない。

 ユーノからは未だに、ジュエルシードが願望器だと言うことが触れられていない。

 隠しているのだろうし、隠す意図も解る。

 大方、プールの時に見せた魔術のせいで疑われているのだろう。

 願望器であると告げることで敵対されるのではないかと。加えるのなら、普段からのこの尊大なキャラもそこに一役買っているのだろう。しかも出逢って日も浅い。妾の人間性が善性のもか悪性のものかも判断がつかないというのも要因の一つと成り得る筈だ。

 願いをねじ曲げて叶えるような欠陥品であるという事実を告げたとして、己の力を過信する類いの輩は自分なら上手く出来ると疑い無く思い込む。

 ユーノはその可能性を捨てきれない。そして、いざ敵対された時、なのはとユーノが二人がかりでも妾には敵わないと理解している。

 ユーノは頭も良く責任感も強いのだろう。それは今までの経緯ややり取りで察せられた。

 だから、利用させてもらう。

 

「先程は途中で打ち切ったが、妾が扱う魔術は本来、外からこの世界を狙う者どもと戦うために先人が鍛えた剣だ」

「――ッ!!」

 

 この台詞でユーノは気付いたようだ。何故自分がこうも疑われているのか。

 そう。それでいい。そのまま誤解し続けてくれ。

 妾が異世界人を信じる事はないと。敵対すれば、プールで見せた魔術が牙を向くのだと。

 

「ユーノよ。妾は事実はどうであれ、異世界人である汝を信じる気はない。努忘れるな、妾は外なる者どもの敵だ」

 

 さて。これで今後介入してくる時空管理局への布石は成っただろう。

 あとは、妾と敵対する事がリスキーであると強烈に印象づけることと。

 スザクがテスタロッサ親子の件を上手くやれば悲劇はその爪牙を誰に向けるまもなく幕を引くことになる筈だ。

 

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