リリカルなのか?   作:コカ・と栗鼠

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第八話:lounge

「オーケー、纏めよう」

 

 タイムスケジュール的になのは達が六個目のジュエルシードを封印した翌々日。ようやく帰ってきたフラグ建築士に情報共有を行った。

 ――のだが、その表情は苦々し気だ。

 最初になのはたちにバレた件を告げると、眉を顰めた。その内容とメンバーを口にすると目を閉じて額に手を添えた。

 次いで実は士郎さんにもバレてたことを言うと睨まれた。

 無視してなのはが夜の学校で四個目のジュエルシードを無事封印したことを話すと、「その間お前は何をしてたんだ?」と訊かれ観戦してたと答えればため息を吐かれた。

 スルーしてサクサク続ける。五個目のジュエルシードは街中で発動したが、状況が事前に聞かされたものと違い、士郎さんが監督を務めるサッカーチームのキーパーが恋人のマネージャーと帰宅している途中で落ちていたジュエルシードを発見。それを拾った所で発動し巨大樹化。事前情報から警戒していた妾がなのは到着までひたすら伸びる枝根を切るも、街に少なくない被害が発生。到着したなのはがジュエルシードを封印するも、なのは、ユーノ共に街の修復は出来ないとの事。人的被害こそ出ていないとはいえ、放っておくことは出来ずに仕方なく“ド・マリニーの時計”を使い街を元に戻した。驚愕する二人にこの術式については他言無用であると伝え了承させる。

 と、ここまで語り終えたところで、スザクは【コードギアス】作中でルルーシュが想定外の事態に直面した時と[白兜]に毒を吐く時の表情をブレンドした顔で妾の顔を見て、冷めたコーヒーを飲み干したのだ。

 そして、今現在は苦虫をまとめて噛んだような苦々しい表情をしている。

 ……結論。コーヒが悪い。

 

「……バレたことは良い。アリサやすずかにまでバレたというのは流石に想定外だが、この件でのマイナスは無い。布石を打てたという点でプラスだと思おう。これでなのはとアリサのケンカ紛いのフラグが消えたが、些事だ」

 

 バレたことを真っ先に罵倒されると思ったが、大した問題では無いようで安心する。

 報告会は以前と同じ高層マンションの一室で行われている。相変わらずの殺風景だが、新たにマルチコーヒーメーカーが増えている。妾の前にはカフェラテが、スザクの前にはエスプレッソが置かれている。紙カップで。お金には困ってない癖にどうにも貧乏臭いのは何故だろうか。お陰で豪華な部屋――殺風景である――との対比がチグハグだ。

 

「高町士郎にバレてたという件もまあいい。出来れば早目に報告して欲しかったが今更だ。それに彼はガチでマジな剣士だからな。一戦は退いても嗅覚はそう簡単に衰えないだろうことは想像に難くない」

 

 その件も良いのか。その割に中々の表情をしていた風に思ったが。

 

「四個目のジュエルシードの件も良い。確認だが、お前のスタンスは消極的協力という事で同意済みなんだな?」

「うむ、そうだ。積極的に協力するのはなのはにとって成長の目を潰すことになるだろうからな」

 

 ぼんやりと記憶している前世の書店員時代の記憶では、【リリカルなのは】では成長して大人になってから魔法世界的な場所へ移住したらしい描写があった筈だ。そこで警察か軍隊かで働いていた。察するに、あれが例の時空管理局とやらになるのだろう。

 そうでなくとも今後も魔法には積極的に関わることになるのだろうから、成長の機会は潰すべきではない。

 それにユーノには既に敵対宣言をしている。これも消極的敵対宣言である上、ユーノ自身ではなく異世界人全体にだが。

 

「状況の変異も良い。バタフライエフェクトなのか、似た世界故というテンプレなのかは判らんが、この程度なら許容範囲内だ。街に影響が出たことでなのはは決意を固めただろうしな」

 

 確かに。事件後どこか意気消沈した様子だったが、夕食の頃には暗さは成りを潜め、代わりに何処か闘志を燃やしているようにも見受けられた。

 なのはが夜な夜な抜け出しては何かしている。これは高町家の皆が気付いている。それでも誰も何も言わないのは、一重に家族皆がなのはを信じているからであり、気づいていないのは本人のみだ。

 

「問題は一点のみ。お前が人前でチート術式を使ったという点だこのバカ野郎!」

 

 それまで口調だけは淡々としていたが、それは溜めだったのだと言わんばかりに口角泡を飛ばす勢いで怒鳴る。表情はもう修羅とか仁王像とかのそれだ。ベースがルルーシュで美形な分下手に迫力がある。

“ド・マリニーの時計”はデモンベインでも上位のチート術式だ。その効果は時間操作。時を巻き戻したり停止したり、応用技で攻撃の過程を飛ばして結果を与える事も出来る。時間に関する殆どを操作できるが、他の時間操作術式で対抗が可能であり、より上位の時間術式には対抗出来ない。

 ――加えて。これは口には絶対に出せないが、[デモンベイン=アートレータ・アエテルヌム]という【デモンベイン】作中に於いて『無かった』事にされた機体と同規模での発動も可能だ。勿論そのリスクは余りにも大きいので使うことはないだろうが……。

 何故使えるのかはわからない。あの自称カミサマが何か勘違いしたのか、あるいは――

 

「聞いているのかッ!?」

「――ッ!」

 

 知らず知らずの内に思考の海に沈んでいたらしい。思わずビクッとしてしまった。

 

「わかっているのか? 時間制御なんてこの世界には存在し得ない異常な力だ。幾らユーノ・スクライアに口止めしたとしても何かの拍子に出てしまう可能性もあるし、なのはに関しては小学生だぞ! 無意識に溢す可能性が高いとわからないのか!?」

「……わかっておる。だが、街に破壊の爪痕を残したままには出来んだろう」

「そうかもしれないが、ならば俺を頼れ! 音信不通で単独行動をしていた俺も俺だが、無駄に金を溜めているわけじゃないんだ。戦闘では役に立てない分、それ以外では俺に任せることを覚えてくれ」

 

 そこで互いに沈黙する。

 確かに考えなしだった感があるのは否めない。だが、それでも。

 回避できた事態を意図して見逃した事実が、どうしようもなく胸で疼いたのだ。

 高町なのはに決意を抱いてもらうために必要だった。そんな言い訳で街に被害を出した。人的被害を出さないように人払いをしていたとは言え、そんなものはなんの弁解にもならないのだから。

 スザクがコーヒーを淹れ直して互いの前に置いたことに短く礼を告げる。

 熱と苦味が舌を叩くが、どこか味気無いと感じてしまうのは罪悪感を感じているからだろうか。

 

「前にも話したが、時空管理局という組織は末端はともかく上層部は知れたものではない。脳髄だけに成ってでも生にしがみ付き、他の世界を管理する悦に酔っているようなのがあの組織の頭だ。大きい組織程淀み濁るのは世の常だが、魔法なんて技術ががある分こちらのは質が悪い。時間制御可能なんて知れたらどうなるか、予想位は出来るだろう?」

「――是が非でも欲するだろうな」

「奴等は自分達を法の番人だ正義の組織だと謳いながら、犯罪者を使って違法行為を平然と指示し行う事ができる。お前個人ならば時空管理局どころか、この世界の誰が何人相手でも問題はないかもしれない。だが、そうなると奴等は手に入らないお前に脅威を感じ、最悪この世界ごと潰しにかかるぞ」

 

 手に入らないのなら壊す。安直だが当然の考えだろう。それが破格のモノであり、尚且つ欲しているのが己の利益をこそ優先するような輩であれば尚更。

 だが、それすらもどうにか出来てしまうのが妾の選んだ“チカラ”だ。

 しかし、それは取り返しのつかない事態へと進む階段のようなものだ。登ったが最期、後は落ちるしかない。

 重苦しい沈黙が降りる中、スザクはおもむろにコーヒーを煽ると大きく息を吐いた。

 

「この話は終わりだ。来るかどうかもわからない未来の話は時間の浪費でしかない」

 

 不機嫌そうに吐き捨てたスザクはケータイを取り出して何処かへ電話を始めた。

 

「そろそろ昼だ。ピザでいいな」

 

 問い掛けでも確認でもない、決定事項を強制する語調だった。

 朝も早くから行われていたこの会談も、何時の間にやら昼食時へと差し掛かっていたらしい。ケータイのディスプレイに映った時計を見れば、スザクの言う通り十二時を過ぎていた。

 その後、オーソドックスなピザを二枚注文してスザクはケータイを懐に仕舞った。

 

「すまない。ありがとう」

「……勘違いするな。折半だ」

 

 そっぽを向いて返すスザクに、思わず笑いが漏れた。

 わかっていながら的外れな応えをするスザクは、まるで本当のルルーシュみたいだった。

 そうだ、忘れない内にあの事を相談しよう。ピザが来るまで時間がかかるだろうし。

 そう思い、独特な音を立てながらカフェラテを淹れているスザクへと声をかけた。

 

 

 マルゲリータピザとシーフードピザで腹を満たし、サービスで付いてきたコーラで小休憩を取った後。

 なぜかスザクと共にタクシーの車中に居る。

 

「行くぞ。着いてこい」

 

 という一言以外、何処へ行くのか聞いてもすぐ解ると答えるだけで満足に会話を続けようともしない。

 しかし何故だろうか。どうも不安感が拭えない。嫌な予感ではない。どこかでその予感を歓迎しているのに、どうしても不安感だけがこびれついて離れないのだ。特にスザクの顔に薄く貼り付いた微笑がそれを助長する。

 無言のタクシーで手持ち無沙汰に観るともなく外を見ていると、大きな屋敷の前でタクシーは止まった。

 

「着いたな。降りろ」

 

 言われるまでもなくタクシーから降り立ち、運賃を払っているスザクを待つ。

 本当に大きな屋敷だ。邸内に林まで設けているらしく、ズラリと続く囲いの中には木々が並び立つ箇所が見える。

 前世は地方とは言え一応の街中に住んでいたが、こんな御屋敷は終ぞ見ることはなかった。

 ちょっとした感動を覚えていると、運賃を払い終えたスザクが門の脇にあるインターホンを押した。

 

「鳳朱雀様ですね。本日はどういった御用件でしょうか?」

 

 インターホンから聞いた覚えのあるような声が聞こえた。

 行儀良く落ち着いた綺麗な声なのに、何故だろうか。歓迎されていない雰囲気が伺える。

 

「既に承知だと思うが、この街で現在進行形で起きている事態への話し合いだ。必要ないと言うなら別に構わない。此方で勝手にやらしてもらう」

 

 尊大さの見本のような態度と冷やかさを感じさ競る語調だ。他人の事は言えないが。

 と言うか完全にルルーシュだな。しかも皇帝モードの。

 

「……お会いになるそうです。どうぞお通り下さい」

 

 帰れと副音声が聞こえそうな声で告げられると同時、門が自動で開いた。

 それきり沈黙したインターホンには意を介さず、さっさと門を抜けていくスザクを慌てて追う。この歓迎され無さ、一体コイツは何をやらかしたんだ。

 舗装された庭園を抜けると、囲いの外からは僅かに屋根が見える程度だった屋敷の全体像が目に入った。

 お金持ちの家というそのままなイメージよりも小洒落た屋敷だ。

 スザクが扉の前に立つと、予め待機していたらしく扉が開いた。

 

「いらっしゃいませ、スザク様――アル様?」

 

 出てきたのはメイド服を着たファリンだった。

 ――いや待て。

 

「コイツは俺のツレだ」

 

 何かを言おうとするのを遮るようにスザクが先に口を開く。

 

「話は後だ。案内してくれ」

「かしこまりました」

 

 最初こそ妾が居ることに怪訝そうな表情を浮かべていたが、それを直ぐに消して何事も無かったように無表情を貫く当りプロなんだな、と場違いな感想を抱く。

 こちらです。と言った後、無言で前を進むファリンに続くスザクの数歩後ろを歩く。

 落ち着け。ここにファリンがいるという事は、その主人の月村忍さんが居るということで、それはつまりここは月村家であるというわけだから、月村すずかも居るということになり、要するにここはすずかの家でもあって……え? ちょ、え!? これってアレか? アレだよな!?

 ――好きな異性のお家ご訪問。

 

「ふっ。なんだ、緊張しているのか?」

 

 当たり前だこのうつけ。

 首だけ振り返り厭らしく嗤うスザクを力一杯睨んでやるが、彼奴は小揺るぎもせずに前を向き直した。

 心の中で召喚べもしないデモンベインでスザクにレムリア・インパクトをしこたまブチ込んでいると、応接室のような場所に通された。

 調度品などが嫌味がない程度に配置された、きちんとした豪華な一室だ。何処かの豪華な殺風景という無意味な空間を維持する金持ちに見倣えと言いたい。

 応接室では忍さんが優雅な所作で紅茶を飲んでいた。美人な上にお金持ちのお嬢様。様に成りすぎだ。

 

「いらっしゃい、スザク君――と、アル君?」

 

 ファリン同様に妾が居ることに疑問符を浮かべる忍さん。だがその表情には同時に納得するような様子も見受けられる。

 

「コイツは俺が呼んだ術者だ」

 

 誰に勧められるまでもなく、忍さんの対面となる位置に勝手に腰を降ろすスザク。礼儀作法に疎い妾でも流石にどうかと思うような行動だが、ファリンさんも忍さんも何も言わない。諦めている風でもある。

 皇帝モードをここでのデフォルトにしているらしいスザクに呆れて突っ立っていると、ファリンに座るよう促されスザクの隣に間を空けて座る。沈みこむような感触一瞬だけ慌てて直ぐに丁度良い位置に座り直した。上質なソファーやばい。

 妾が着席したのを確認すると、ファリンが流れるように優雅な所作で妾とスザクの前に紅茶の入ったカップを置いた。飲み口に金色の縁取りがしてあったり柄も綺麗で、審美眼が無くとも見るからに高価な茶器と理解できる。

 割ったらやばい、と変に緊張しているとファリンが自然な動作で忍さんの後ろに控えた。

 

「出来ればアポくらい取って貰いたいところだけど、今日は何のようかしら?」

 

 表情は冷ややかに、険も露な口調。なんとなく解っていたことだが、お茶をしながら談笑をする気は一切無いようだ。

 忍さんの様子には一切意を介さずに、スザクは平然と、冷静かつ淡々と話始める。

 

「言った筈だぞ。現在進行形で起きている事態への話し合いだ。既に貴女の妹、月村すずか嬢から事情を一端なりとも聞いているだろう」

「……ジュエルシード、だったかしら」

「そうだ。その迷惑な石ころについて、既にすずか嬢の友人である高町なのはが対処に動いている。巻き込まれる形で、だがな」

「ええ、聞いているわ」

「あれは異世界産の厄介な代物らしくてな。専門の部隊のようなものが介入してくる可能性がある」

「異世界、ねぇ……」

「信じるかどうかは勝手だが、事実だ」

「それも貴方の言う魔術で視たのかしら?」

「想像はお任せしよう。問題は、介入してくる奴等だ」

「何か問題があるの? 聞いた話だと、警察みたいなものでしょう?」

「奴等は時空管理局と名乗っていてな。この世界は奴等からすれば管理外世界となっていて無関係な世界にも関わらず、我が物顔でこの世界で行動するだろうと予測される」

「……それで?」

「俺としては、奴等に関わりたくないし、可能ならば奴等にこの地に入ってほしくない。そこで、貴女にはこの海鳴市の表の管理者となってもらい、裏の管理者として俺を置いてほしい」

「貴方の以前の行動を考えたら、肯定出来ると思う?」

「不可能だろうな。だから、対価として、このアル・アジフを貴方の妹、月村すずか嬢に付けよう」

 

 何も知らされていない手前、成り行きを黙って見守っていたら急に妾の名前が挙がった。

 どういうことだ、とスザクを睨むが涼しい顔で流される。

 

「……どういう事かしら?」

「貴女の考えている通りだ。加えて言うならば、コイツは俺が知る限り最強の魔術師だ。俺が問題視している時空管理局の奴等と比較しても、コイツには敵わないだろう」

「……え、そんなに?」

「ああ、嘘ではない。そうだな。本気でヤればこの街程度なら一瞬で火の海に変えられるだろうさ」

 

 確かに可能だし、それ以上の地獄にも出来るが、言うなよ。

 

「ちょ、その子の方がよっぽど危ないじゃない!」

「安心しろ。コイツ自体は安全だ。と言うより、危険性があれば呼んでいないし全力で排除するか引き篭もる」

「ならその子でどうにかすればいいじゃない?」

「コイツは極端過ぎて登用が難しいんだ。本気でやれば目をつけられる。この世界毎な。半端に手加減すれば数で押し込まれるかもしれん」

 

 難しい顔で考え込む忍さん。しかしスザクの口は止まらない。

 

「これは実際に良い取引だと思うぞ。コイツはすずか嬢を好いているし、貴女方の事情にも拒否感は示さないだろう。と言うか、貴女方に比べればコイツの方がよっぽど人間離れしている」

「まぁ確かに。一人で街を火の海とか、実際意味わかんないわ」

 

 酷い言われようだ。て言うか、今スザクがさらっとトンでもないことバラさなかったか?

 

「それにだ。上手くいけばコイツは俺よりも貴女方を優先するだろうし、そうなった場合でも俺は構わないと思っている。裏側でも最強の個人戦力が只同然で手に入るんだぞ。そちらに損は無く、得るものは大きい」

「……わかったわ。その取引を受けましょう。って言っても、私は何をすればいいの?」

「差し当たっては何も。ただ、もし時空管理局や裏の事情で貴女に接触してくる者があれば全て俺に一任してほしい。当然だが、どのような事態でも貴女方には一切害が及ばないようにすることは約束する」

「そう。ならいいわ。契約成立ね」

 

 微笑みながら頷く忍さんを見てから、漸くスザクが妾に向けて口を開いた。

 

「と言うわけだ」

「何がだ!?」

 

 妾の困惑は一切合切一部の隙なく当然だと思う。

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