ゲー廃クズ女の転移生活   作:カピバラバラ

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ゲー廃クズ女の転移生活

 

 

──人生に意味なんて無い。

 

人間はクソだ、社会はゴミだ、仕事なんてまっぴらごめんだ。金さえ稼いでいれば社会の為になろうがならまいが、『役立たず』と差異の目で見られない。

 

それが嫌い、大嫌い。金と人に掲げられるレッテルさえあれば、クズでも聖人でもある程度は平等に受け入れられるこの世が嫌いだ。

 

時に社会は、人は、誰かに向かって焦点を当てる。金を沢山持っていたり、名声を得ていたり、犯罪を犯した時だったり、騒ぎを起こした時だったり、友達だったり、家族だったり。

焦点を当てられたものは、それだけ鮮明に人の目に映し出される。過去のプロフィール、年齢、見た目、性格。欠点があれば更に焦点は集まっていく。

 

煩わしい事この上ない。厄介な事この上ない。

だから私は──この道を選んだ。

 

焦点が集まり過ぎるどうなるか。

物をよく見る為に、近づき過ぎればどうなるか、やってみればいい。

 

──見えなくなる。ボヤけて、何か得体の知れないもの神聖なモノに見えてくる。

 

「…………」

 

私はソレを目指した。

誰とも関わりたくないから関わらず、社会に参加したくないから参加せず、したくないものはしたくない遠ざける。

 

クズで引きこもりでニートの廃ゲーマー。

それでも私は、この場所を望んだ。

 

「チッ…。今の凸絶対イラついたからでしょ…。試合に私情挟むならこのゲーム辞めちまえ…」

 

詳細に、明細に。

細かく私という存在を分析すれば、あらゆる人間は私にクズという烙印を押す。

 

ゲームという娯楽に人生を費やす愚か者、子孫を残す使命を捨てた非人間、社会のあらゆる責任から逃げた臆病者。

だけどそれも、中途半端な雑魚だったらの話。

 

「……まぁ、私一人で勝ち切れるか」

 

──有り余る金で整えた、極上の私室。

穏やかな日光が部屋に優しく差し込み、最高級のゲーミングチェアに腰掛けながら、幅広の画面に映るゲーム映像を眺める。

 

ゲームの為に最適な配置をしているドリンク、不潔さの欠片も無い部屋、寒いも暑いも無い快適さに全てを費やした至上の一室。

 

私の宝部屋、私だけの楽園。私以外が存在しない世界。そんな代物を作る為には当然莫大な金が必要だった。

 

「……っし。けど、うん。程々」

 

プロゲーマー?いやいや、結局は人との交友を求められる上に制約の多い立場で、私に欠片も存在しない社会性すら見られるモノになるものか。

 

もっともっと大勢の人に見られる形で、もっともっと注目を集める形で、私はこの世界に存在していたい。いや、それ以外の道は無い。

ゲーム以外に、私の人生なんてものには意味も価値も無いのだから。

 

それは比喩じゃない、例えでもない。詩でもなければ哲学でも無い。

クソとゴミしかない、そうとしか思えない世界で、同じくゴミである私は単純に望んだのだ。

 

──私は私だけの世界で、死んでいきたい。

 

自己満足を叶える為、ゲームをし続ける為、全てを利用した。その上で適正があったのは、匿名での配信者生活。

勝てば官軍負ければ賊軍、魅せる強さも度を超えれば、社会や人から私という存在の輪郭はボヤける。

 

「────」

 

誰とも関わりたくないから関わらず、社会に参加したくないから参加せず、したくないものはしたくない遠ざける。

 

クズで引きこもりでニートの廃ゲーマー。

 

──ああ、なんてジョークだろうか。

それでも私は人から羨まれ、憧れられ、敬われ、大きな金を稼ぎ経済を回し、私だけの世界を作った。

全てを切り離して、全てを手に入れた。

 

「…………勝ったけど…はぁ」

 

私、朱花小花は、私だけの世界で死んでいく権利を手にしたんだ。

 

────。

 

──というのが、今までの物語。

 

「まぁ……いいか別に」

 

「……。トイレいこ」

 

自室の扉に手を掛ける。トイレタイムは一種の休憩で、目の奥に痛みを感じ始めた辺りで行くようにしている。

当たり前だがこの家に私以外居ない。家族とは縁を切り、私以外の行動が反映されない完璧な住処だ。

 

「………」

 

──扉を開く直前、虫の知らせか猛烈に携帯を触りたくなった。

SNSを見ようと思った訳じゃない、何故だか唐突に、そう突如として、連絡アプリを開いて、

 

「……。───」

 

母と父の電話番号に目が止まる。

意味の無い停滞した時間、所謂効率厨である私がどうしてそんな、本当に意味のない感傷を抱きかけたのか、未だに分からない。

 

目を伏し、電源を切る。なにとなしに首を回し、ドアノブを捻る。

 

「────」

 

「は?」

 

自論だが、人生とはとどのつまり、訪れる死を納得するまでの過程に過ぎない。

 

ここで死のう、ここでなら死んでいい。死ぬならここがいい。

 

そう思える居場所を見つけ、そう感じれる場所を手に入れ、死ぬ権利を認められた私は──。

 

「は??」

 

晴れ渡る空。青茂る草原。淀みの無い涼しげな風。

晴れ渡る空を飛ぶ『化け物』。青茂る草原を駆ける『ナニか』。風には、血生臭さを載せて。

 

「ぁ、え、は…ぁ?」

 

──突然、私は手に入れた全てを奪われる。

 

それはこの世の何処でもない場所で、この世から切り離された世界で、この世を切り離した私に与えられた罰だったのかもしれない。

 

ガラクタの様な世界でも、ほんの僅かに輝く奇跡のような美しさがあると知りながら頑なに認めない、私の罪の現れだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「──。は」

 

不可思議な光景に、体は自然と元いた場所へ戻ろうとする。手にしていたドアノブを、扉を探し無我夢中に腕を動かす。

 

残念無念と、つい先程まで手の中にあった金属の感触は消えていて、振りかぶる腕は空を切る。

戻ろうとした勢いのまま草原に倒れ、頬に付く土の感触と土特有の嫌な臭いが鼻腔を突き、慌てて起き上がって『現実』を認識し始めた。

 

「────」

 

脳ミソでは簡単に判断がついている。非現実的であろうとも、夢と言うには鮮度が良すぎるこの場所はそう、異なる世界。

 

神隠しに遭ったとでも言おうか、異世界転移の方がナウでヤングだろうか、どっちにしても、

 

「…………」

 

──絶望する。

 

引きこもり続けたから、メタ思考だけは鍛えられている。扉を開けたら異世界だった、戻ろうとした、扉は無くなっていて戻れなかった。

淡々と事実だけが、脳内で弾けるシナプスと共に鮮烈に心に焼き付けられる。

 

絶望するだけの条件があって、絶望するまでの猶予があって、絶望してもどうにもならなくて、

 

「ははっ」

 

「えーっと、何コレ。何かのドッキリ企画?…夢とか?脳卒中とか脳梗塞とかで瞬間的に倒れちゃって…」

 

「……──」

 

取り留めのない言葉を口にする。吐いた言葉の一つたりとて、正解のチャイム音は鳴ってくれない。

 

漸く、腹の底から異変を実感できた頃には──無性に苛立ちを覚えていた。

前振りが無さすぎる、こういうのはもっと魔法陣が現れたり、私を勇者とチヤホヤ担ぎあげる奴らが居るのが『らしい』ってものだ。

 

こんな炎天下に寝巻きで放り込まれ、快適を奪われた事による不快感は計り知れない。絶望を凌駕して余るほどに腹が立つ。

 

中学以降引きこもりを続けている私からすれば、約十年ぶりの外出だ。しかも憎たらしい程に太陽がさんさんと照らしてくるときた。

よくも私の死に場所を奪ってくれたな、よくもまぁ、何もかもを奪いやがって。

 

「──。ふざけんな」

 

「ふざけんなふざけんなふざけんなっ!!ここ何処だよッ!誰がなんでこんな事…っ、ああもうっ!ぁ、そうだスマホ!スマホは…!ポケットに入れて──」

 

「うん。無い」

 

「………………」

 

「…………」

 

「……」

 

「…」

 

「え──本当に、異世界転移しちゃったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽園を奪われた。ゲームを奪われた、ネットを奪われた、ゲーム=全ての人間から奪い尽くしたというのなら、そっから先は命のやり取りでしょ。

 

納得出来ない、腹が立つ、イライラするイライラするイライラする───けど、

 

「……。私一人」

 

「たった一人だ、誰も居ない。母さんも父さんも友達も、ネッ友も私を見ていた視聴者も、誰も」

 

「誰もいない」

 

それは悲痛の音ではなく、喜びと解放の音。

草原に寝転んで何十分経ったか、日がゆっくりと水平線に落ちていくのを眺めながら孤独を享受する。

 

煩わしいと思っていた全てからの解放、それはある種、絶望と同じく唐突に訪れた救済だ。

 

「………………」

 

「漸く、一人になれた」

 

「………ふぅ」

 

その代わりの犠牲といってはなんだが、PCやゲーム機といった娯楽達。まぁ社会からの解放の対価と思えば釣り合っ──釣り、つりあっ、つりあって───、

 

「釣り合ってる訳無いでしょ──!?!?」

 

「ゲームしたいゲームしたいゲームしたいゲームしたいっ!!私より圧倒的に下手くそな雑魚を一方的になぶって、降参を押させるまでファーム差つけたりしたい!ドーパミン出したい!!」

 

「エイムに自信がある奴を上からフィジカルで潰したいよ!これだけが私の誇りですって顔して、一本のゲームばっかりやってる奴らをゲーム掛け持ちしながら勝って煽りたい!!」

 

「スマホは!?スマホ何処!?私のスマホ!カッコイイrpgのオープニングを保存しまくった私のスマホ!攻略情報を、ボスの行動パターンも記録した私のスマホ!誰も知らないバグを、誰も知らない効率ファームを残しておいた私のスマホ!!」

 

「ゲーム!ゲームゲームゲームゲームゲーム!ゲームがしたいの!ゲームだけが生き甲斐なんだから!」

 

「何処だよここー!!帰せ!私を楽園に帰せ!!」

 

「…………」

 

「──。はぁ…」

 

奪われたものは、あまりに大きすぎた。

ゲームの消失、スマホの消失、自室から追い出された私のメンタルは既にボロボロで、異世界転移というのなら今後一切、私はゲームをプレイする事が出来ないという事実が重くのしかかる。

 

代わりに得たのは雄大な自然を孤独に満喫する時間だけだ。そんなものは必要無い、ゲームによって得られる快楽を捨て去ってまで欲しくなかった。

 

ゲームは素晴らしい。普段は口悪く罵る社会から生まれた娯楽における白眉の品だ。脳は快楽物質を大量に放出し、心は潤い満たされる。

 

ゲームそのものが人生の意義になれるほど、ゲームって面白くて、楽しくて、私に彩りを与えてくれた。

 

「一蓮托生の私達を引き離して、誰かがほくそ笑んでる!絶対にそうだ、ゲームしか生き甲斐が無いって奴が本当に言葉通りなのか確かめたいんでしょ!?」

 

「それで、私が間違ってました〜って、誤ちを認めさせたいんだ!戯言だったって!おいコラ神様!見てるなら返事しろ──!」

 

「……っ、はぁっ、はぁっ…」

 

──暑い。

快不快の領域ではなく、叫ぶ喉に熱気が当たれば嗄れて痛みをもたらしてくる。

肌に当たれば焦げ付くようで、日光を直接見れば日本の猛暑日の様に素早く視力は落ちる。

 

社会をぞんざいに扱っても、所詮はその中でしか生きられない金魚である事は自覚していた、だからこそ、こんな極限サバイバルを要求される場所で生き残れる筈も無いと。

 

「空…ドラゴン……変な生き物……変な匂い…」

 

「…………どう生き残れば…?」

 

「───。チートとか、無いんですか神様」

 

天の神が居ると噂の天上は、だんまりを決め込んでいるようだ。

 

「クーラー…。冷えた飲み物…快適な寝床……ゲーム」

 

「…ゲーム。ゲーム……ゲーム!ゲームっ!ゲームッ!もう耐えられない!スマホまで奪わなくてもっ、うぁ…ううぅぅっ…」

 

叫べば叫ぶ程に奪われる体力、水分。人の居る気配の無い草原で、このまま土のシミになって死んでいくのだろうか。

 

嫌だ、それだけは嫌だ。でもどうすればいいかも分からない、何処に向かって歩けばいいのか、歩いた所で成果があるのか、目的地の無い旅は無謀だ。

 

自殺をしたくもないし、空の化け物にも喰われたくない。そもそも引きこもり廃ゲーマーをこんな場所に投げ出す事が間違っている。適材適所ってものがあるだろうが。

 

「…もう少し時間が経ったら……日射病と脱水で死んじゃうなー……」

 

「それより先に、化け物に喰われちゃうのかな」

 

「…………」

 

「……嫌だ。死ぬなら、死ぬ前にゲームをして、ゲームの世界に浸りながら死にたい」

 

「──こんなのじゃ、死にきれない…!」

 

ゲーマーとして、この世は全て理屈と合理が存在していると思っている。

個人の感情によってそれらが歪んで見えるだけで、基本的に世界にはルールがある、規則と法則を受け入れられないから神秘的なものに見えるだけ。

 

私の強さに、あらゆる視聴者が歪んだ偏見をぶつけたように、正体がただ人生を尽くしてゲームをし続ける馬鹿だということを見抜けず崇めたように、ボヤけて見えるだけで、

 

「──。理由は、ある」

 

「転移した理由も、理屈も、ルールも。奇跡も神秘も存在しない。その上でこんな事が起きたのなら」

 

「誰かが居る。私を嗤いたい誰かが。私をこんな目に合わせた誰かが…!」

 

拳を握り締める。私は対戦型ゲームを基本好むが、それ以外のジャンルもかなり網羅した。

駄作も傑作も楽しみ尽くしたし、MMOrpgやサンドボックス、オンラインオフラインボードゲーム、ソロプレイマルチプレイ、ソシャゲインクリメンタル謎解きホラー等々、対戦型非対戦型問わず、この世のゲームを味わおうとしていた。

 

その為の金策、その為の環境作り。

最高の環境で、最高のゲーム体験を。

 

「どんっだけ、積みゲーがあったと……!」

 

──私の献身に比べ、この世界はなんたる体たらくだ。オープニングは無い、順路も無い、メッセージも無ければ今現在最悪のゲーム体験を強制させられている。

 

目的意欲の薄い癖して、生き残る為にはその薄味を何とか調理するのをプレイヤーに求めているのもマイナス点。

 

ああ、腹が立つ。転移させられた事実より、奪われ尽くした事よりも、下手で雑でセンスのない作りであることに、腹が立つ。

 

「…復讐だ。復讐してやる、この恨みはらさでおくべきか。お前がどんな事をやらかしたのか、目にもの見せてやらなきゃ気が済まない!」

 

「真剣に全力で!最高の環境を作って、最高のゲーム体験を味わおうとしていた私の方が!」

 

「──お前(神様)より、ちゃんとゲーム(人生)に向き合ってた」

 

身勝手で、それでいて堂々と。

こんな私よりろくでもない奴に向けて宣言する。

 

枯れた喉に血の味が混ざっても気にせずに、体から水分が抜け落ちていくのも考えず、ただ叫ぶ。

──絶対に復讐してやる。と。

 

面倒くさがり屋で、出来ないことは諦めてきた私が今こうして宣言するのならそれは、将来『出来る』様にしてやるという声明。

 

私の夢と人生を鼻で笑った家族を見返した時と同じだ、もう一度、繰り返すだけ。

 

「見てろ。絶対に攻略してやる。お前如きが作った程度のゲーム(世界)ぐらい、簡単に」

 

「誰にも、お前にも──私の人生は壊させはしない」

 

それは、幼少に抱いた決意表明。

私のゲームを、人生を余計なものだと吐き捨てた奴らを否定する為に足掻き続けてきた。

 

──同じだ。これは、異世界程度が歪められる代物なんかじゃ無いって事を証明する為の歩み。

裏ワザ、抜け道、なんでも使って私は、

 

「この世界を完全攻略する。──勿論、トロコンはスタートライン」

 

「ご立派に作り上げた世界、穴だらけのクソゲーだってレビュー付けてやるんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は文明を泳ぐ回游魚である。

適した環境を求め泳ぎ、エサを欲して前に進む。口をパクパクとさせながら水中で旅を続けるのだ。

 

唐突に自認:魚になった所で、どうしてそんな小説家の様なセリフを吐いたかというと、

 

「ぁぅ、うぉ、あぅぅぅ、うぁぁぁっ」

 

──陸地に打ち上げられた魚の様に無様に跳ねる。

足らないんだ、水分が、水が。大言壮語に攻略してやると叫んでも、脱水間近の肉体で何ができるというのか。

 

先程告げた通り、私は文明の中でしか生きられないか弱い乙女なのだ。ろくに食事は作った事は無いし掃除洗濯もデイサービスに任せきり。

やりたくない事はやらずに生きてきた、必要な知識は取り入れてきたけれど、正直な所私はかなり学が低い。

 

サバイバルなんてもっての外、というのは、サバイバルをしたくないんじゃなくて、シンプル出来ない悲しみを抱えている。

 

「おぅっ、おぅっ、おぅっwww」

 

自認:アザラシに変わり気が狂い果てそうになるのを抑え、いや抑えきれていないが冷静に、今必要なモノを考える。

 

──人である。世界に私一人きり〜だなんて孤独なプリンセスを気取ってる暇は無い。

今まで忌避し、金の力で関わりを避けてきた存在に頼らなくては生き残れない状況。

 

人を頼る=人が居る場所に行く。

人を頼る=社会と交わる。

人を頼る=めんどくさい。

 

そもそも人が居るのかは甚だ疑問だが、そこは私、数十分寝てばかりじゃなくて、草原に人為的な道が無いか探していたのさ、流石私、抜かりない。

 

「…………」

 

ちなみに、そんなものは無かった。

 

「………………」

 

──だが、選択肢はある。

 

求められるのは勇気。居るかどうかも分からない人里を探し、残りの体力を使って探索を行う、ハイリスクハイリターンのギャンブルをする勇気。この選択肢が一つ目。

 

もしもここが定説通りの異世界なら、ここは始まりの草原といった所か。スライム的なサムシングや、生い茂る花々の色彩度から見るに異世界薬草的なサムシング等々。

 

しかし空を飛んでいた『D』ことドラゴンは終盤に出現するもの。アレがモンスターテイムのゲームにおける序盤の外れ値、ギガ○テスである事を祈り、駆け出し冒険者がやってくるのを待つか。これが二つ目。

 

砂漠で遭難した時みたいな事を選ばされている、世界は私をどうしたいんだ。けどまぁ、

 

「行くしかないっしょ…!」

 

「最初は?そりゃ?腹が立ったけどさ?…ドラゴンなんてものが空を飛んでる以上、あるでしょ」

 

「──『魔法』が!!」

 

改めて、私がこの世界を『攻略』すると告げた理由を語ろう。

 

さて、ドラゴンは──欠陥生物だ。構造的に飛べやしないのだ。そして今、あの青空に影を作っているドラゴンは先程から飛びっぱなし。エネルギー効率を考えれば必然、滞空時間より地面に降りて餌を補給する時間の方が長く多い筈なのに。

 

転移から脳内で数えて約四十分、最低でもその程度は飛び続けていて、転移以前を考えればそれ以上も有りうる。

 

どう考えても──長すぎる。

私の知らないこの世界のルールが働いている。例えば魔力的なものがあって、ドラゴンはそれを常に吸収しエネルギー代わりに常時空を飛んでいる、だとか。ドラゴンにも魔法が使えて、その力で飛んでいる、だとか。

 

「さぁ、出発だ」

 

クソゲーと神ゲーは紙一重、時にクソゲーは神ゲー以上に人を惹き付け狂わせる。

この世界に転移して、絶望と共に見上げた空で、私は同時に希望を見つけた。

 

「──ゲームはいつだって、やり甲斐のあるものなんだから。楽しまないと」

 

あれだけ怒って暴れてた癖に楽しそうにしてるじゃないかって?──今の所はクソゲー認定、これからちゃんとプレイして評価を定めていくのさ。

 

私はエアプでレビューを付けない。絶対に。

だからまずは、この世界を完全攻略しなければならない、ということ!……復讐の意味合いの方が強くはあるけどね。

 

「私にかかれば数分で人里ぐらい見つけられる!見てろクソ神、私による超ド級のRTA攻略を…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────」

 

ははっ。

どうしよう、詰んでるかも。

 

「───。─────」

 

「……。──何処なの、人里」

 

四面楚歌、前門の虎後門の狼、八方塞がり。この草原が到底徒歩では探索しきれない程に広かった。万事休すと言わざるを得ないこの状況。

 

「…………ああね。歩き始めて二時間…」

 

「なんか、気持ち悪いと思ったら……」

 

この場所、不自然な程に高低差が無い。

自然に作られたと考えるにはあまりにものっぺりとしているんだ。

 

未だ危険な生物には巡り会っていないのは幸運だが、まるで巨大な真四角の箱の内側に『草原』というテクスチャを貼り付けたこの空間は、木々や薬草らしき『自然』を演じるオブジェクトは用意されていても、大地は手抜き。

 

昆虫を買う為に水槽へ土を敷き詰めたみたいな、地図を作ればその不自然さが一目瞭然となるだろう気持ち悪さ。

 

「あっつ……」

 

「……。適当に歩くだけじゃ、絶対人と出会えないなコレ。明らかに普通の空間じゃない」

 

「ジャンプアクションが用意されていないMMORPGの無駄に広いファーム場所を歩かされてる気分…」

 

出来の悪いサンドボックスに閉じ込められて、気分は最悪。何より不味いのは、こんな場所に人が住んでいる訳無い現実だ。

 

死ぬほど暑いのに水場がない、それだけでも住処の選択肢からは当然外れる。

強い日差しは作物にとって害があるし、余程通気性が良くなければ家屋の中はサウナ状態。

 

「寝巻きで……歩かせるなよ……」

 

「お、おぇぇぇっ…やば、気持ち悪い…」

 

目眩も激しく寝巻きは汗でグチョグチョ、吐き気と共に訪れる死の予感。この気持ち悪さは、命に届く。

 

──不味い。不味い不味い不味い。死ぬ。

 

いやまぁ分かってた事だ、東西南北すら分からず無限の草原を歩き回っても勝機が無い事なんて。

 

「靴下…シャツも…洗わなきゃなぁ……」

 

「…………お風呂、お風呂入りたい。お風呂に…。クーラー…。お水……扇風機……」

 

「……───」

 

「───」

 

「ぅ…あ、いや、いやぁ…いやだぁ…死にたくない…」

 

死んでたまるか。抗ってやる。決意は変わらずとも現実は更に硬く変わらず非情で、

 

「っ、くそっ…クソっ、クソックソックソッ…!!チュートリアルも無いこんなクソゲーに…!」

 

「挫けるな私。何か思い付け、パターンで予測しろ。定番なら知り尽くしてる筈でしょ…!?」

 

灼熱が舌の根の水分すら乾かした頃、私は草原に寝転がった。引きこもりが約二時間、歩き詰めたのだ。もう十分頑張ったとはいえないだろうか。

 

なんて言い訳をして打ちひしがれた。

出口の目算は付かない、人の気配も無い、助かる可能性が無い。何だかんだ言ってもここは異世界で、現実だ。

 

「…ぅ」

 

──眠たくなってきた。

瞼を開けていられなくなる。身体を動かせなくなっていく、指先から始まった痺れが今や全身に広がっている。

死を思わせる眠気に抗える筈もなく、切れさせてはいけない意識の線が、灼熱の日光によって焼き焦がされていく。

 

「……………」

 

「…………」

 

──死にたくない。

口を動かせるなら、神様にみっともなく命乞いをする。命乞いをして、命乞いを──して──、

 

「……」

 

「…」

 

──負けたくない。

死、よりも、生、よりも。

 

私は、こんな理不尽に負けたくなかった。

 

 

 

 

「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───。─────」

 

「……んむぅ」

 

「───!」

 

「ん…」

 

「──起きな!お嬢ちゃん!」

 

「どわぁぁ──!?!?」

 

飛び起きれば──真っ暗?

否、モジャンボ髭面のオヤジだ。顎髭に顔面が埋まり、視界が遮られる。バタバタともがいている内に持ち上げられ、着地すれば足元からは木の感触が伝わってきた。

 

「ったく、こんな所で寝てちゃみんなの迷惑だよ!」

 

「あ、はいすいません……って」

 

気が付けば、森の中ならぬ人混みの中。

あの死を思わせる、いや、私を殺した筈の日光は大層な木造の天井に遮られ、どうしてか私は涼しい風を吸い込みながら立っていた。

 

「───」

 

「はい?」

 

 

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