その都市はやけに物々しかった。
周囲には深い塹壕が築かれ、入り口と出口には頑強なバリケードが施されている。都市というよりは、まるで剥き出しの城塞のようだった。
「なんや、やけに物々しいのう。憲兵まで常駐しておるし、どうするんやトンガリ」
黒いスーツにサングラスをかけた男が、隣にいる金髪のツンツン頭に話しかける。
「そんなこと言われても……どうしよ? 水も食料も少ないし」
金髪の男、ヴァッシュが情けない声で問い返す。
「こうなったら、『600億$$の賞金首を捕まえました』ってていでいくか」
サングラスの男、ウルフウッドが不敵に提案する。
「やぁだぁよぅ!? 僕は……。それに、僕の賞金はもう失効してるでしょ」
「いや、失効しててもおんどれが厄介もんであることは変わらんやろ。そんなやつ、こんな厳重な警備の中に招き入れるか?」
「 それにワイは聖職者やし、説得力あるやろ」
と、巨大な十字架を叩きながら嘯く。
ヴァッシュは「こいつ、マジか」と言いたげな顔でウルフウッドを見る。
「キミはどっちかっていうと、ヤのつく自由業じゃない?」
「なんやとっ!?」
「キミこそなんだよっ!?」
と、ドつき漫才を始める二人。
だが、その騒ぎに気づいた憲兵たちが集まり始めてしまった。
「……で、牢屋に入れられると」
持ち物をすべて押収され、牢屋に入れられた情けない二人であった。
「というか、なんで牧師のワイまで牢屋に入れられてんねん!?」
鉄格子を強く握りしめて叫ぶウルフウッド。
「うるさいぞぉ!! 静かにしてろぉ!!」
見張りの憲兵に怒鳴られる。一方、ヴァッシュはすでに同室の男とボードゲームに興じていた。
「何、順応しとるんや!! おんどれぇ!!」
それからしばらくして、入り口辺りが騒がしかった。何やら揉めてる様子だった。複数の足音が響いてくる。現れたのは小太りの偉そうな初老の男と、憲兵だった。
「ここかっ!! ヒューマノイドタイフーンと思われる男がいるのはっ!!」
後から追ってきた憲兵が声を上げる。
「困ります、市長……。いくら、あなたとはいえ」
鉄格子越しにヴァッシュを見つめながら、市長が鼻で鳴らす。
「こんなヤツが、かのヒューマノイドタイフーンだとぉ!? 笑わせる!!」
「こんな男一人入れたくらいで、ワシの街がどうにかなるはずがない!!」
「しかし、市長。連れの男が持つ荷物に、十字架に偽装した武器が……」
憲兵がウルフウッドを見ながら、市長に具申するが……。
「あの牧師もどきかっ!! 身体検査したところ、生身の人間なんだろ? なら、こけおどしじゃ」
「なんか、あっさり出られたねぇ……」
「なんなや、あのオッサン。憲兵の兄ちゃんが哀れに見えたで」
「最後の最期で物凄い剣幕だったねぇ」
「あれが市長なんか? それにしては些か横暴すぎやないか」
「それがよぉ、あの市長はこの都市の立役者の一人でなぁ」
ヴァッシュとウルフウッドの会話に、一緒に釈放された男が割り込んできた。
「あっ、さっきの」
「トンガリとボードゲームしてた酔っぱらいやないかい」
「元々、この都市の前身は賞金稼ぎや用心棒などの荒事で食ってきた奴らの寄合でよぉ。この地に根付いて都市を築いたのさ」
「市長は、そのときの古参の一人で、昔は相当、やんちゃしてたらしいぜ」
へぇーと頷く素振りを見せる二人。
「今じゃ、過去の栄光に縋る老害と化しちまったわけさ。曲りなりとも市長だからな、それなりの権力は持っているんだがな」
「……で、なんでこんなに厳重態勢が敷かれとんのや?」
ウルフウッドが酔っぱらいに問い返す。
「なぁに、簡単な話さ。狙われてるからだよ」
「最近、ここら辺をブイブイいわせてる強盗団がいるのさ」
「奴らがこの都市に寄るキャラバン隊を狙って、略奪を繰り返しててなぁ」
「その狙いが、とうとうこの街自体に移ったわけさ。だから憲兵を常駐させ、さらに半無法者の用心棒まで雇ったのさ」
「通りで強面の人たちが多いわけだ」
ヴァッシュがすれ違いざまに目をやる。
「元は荒事やってたんやろ? 自衛できるヤツはおらんのか?」
ウルフウッドが疑問を投げかける。
「なぁに、そういうのに頼らずとも食っていけるように豊かになったからさ」