全身の激痛に始まり、発熱、嘔吐、下痢、痙攣、意識の混濁に錯乱等々、療養のためにあてがわれた部屋の寝台で苦痛に喘ぐ彼女の様子は、正直に言って見るに堪えないほど酷い。
だがしかし、このような恐ろしい症状の数々に猫猫が臆することはない。想定通りだったからだ。
楼蘭のこの状態は、いわば
つまりこれは、楼蘭の身体が癒えつつある証。故に怯える必要はない。
特別な処置も必要ない。対症療法と丁寧な看病を続けていれば、いずれこの症状も落ち着いていくはずだった。
ただし――その症状が些か酷すぎるという点は、猫猫としても気になるところではあった。
無論、毒も薬も効き目には個人差がある。猫猫の知識を少々逸脱した楼蘭の“凄惨”も、その範疇といえばそうなのだろうが……それ以上に、ある可能性が頭に引っ掛かっていたのだ。
おかしいのは楼蘭の体質ではなく、
思えば
後宮で見つかった毒
そして楼蘭の容体もまた、猫猫の知識とズレているのなら。つまりはそういうことなのだろう。
楼蘭の身を侵すモノは、普通の
ならば普通の
この問題を解決するには、やはり知識が必要だ。
翠苓の祖父であるという薬師が遺した数々の書物。そのどれかに記されているという
三日間、昼夜を問わず苦しみ続けた反動か、楼蘭は今、深い眠りに落ちている。以前は彼女の凄惨な離脱症状にかかりっきりだったが、今ならば薬研や清拭布の代わりに書物を手に取る余裕がある。
小康状態の今のうちに、早急に取り掛かるべきなのだ。
――という、そんな理屈で内心の半分ほどを占める純然たる好奇心を隠した猫猫は、今現在、昏々と眠り続ける楼蘭の傍で一人、籠に詰まった書物の中身を一冊ずつ確かめていた。
医術書や薬についての書はもちろん、他にも翠苓が持っていた虫の図録や動物、鳥類についてのものと、多種多様ながらそのどれもがやはり素晴らしい出来である。ゆっくり熟読したいという欲求は、当然ながらとめどない。
しかしそれらをどうにか楼蘭のためと呑み込んで、猫猫は流れ作業的に次々書物を流し読みしていった。
そして――
「……あった!」
とうとう、猫猫はそれらしきものを発見した。
薬についての書物……というよりは、日記か報告書の類だろうか。他の書物よりも少し薄めの草紙だが、パッと見た限り中身の全てが
それまで見てきた書物のように、内容がみっちり詰まった専門書。これほど濃密な知識の塊は、そうそうお目にかかれるものではない。
つい小躍りしてしまいそうになる。けれどしかし眠る楼蘭の身体に障るのでギリギリ自重し、深呼吸。卓の前に身体を落ち着けて、猫猫は静かに書物の
――すべてを読み終えるまで、中天を越えて夕刻間際までかかった。
猫猫は読了した書物をぱたんと閉じて、疲れた目頭を揉み解す。楼蘭の世話をするため時折席を立っていたものの、一文字たりとも読み飛ばすまいと文字と図録を追い続けた集中力は、さすがに肉体には厳しいものがあったらしい。窓からの鋭い西日を浴びながら、卓上にぐったりと突っ伏した。
顔を傾けると、西日は楼蘭の下まで伸びていた。やつれた生白い顔に西日の赤色がかぶさって、まるで血濡れのようにも見える。
……縁起でもない。こんな不安を払うためにも、画期的な何かを猫猫は書物の中に求めていたのだが、しかし。
(決定的な治療法は、やっぱりないのか……)
わかったのは、
つまり楼蘭に投与された薬物が何であれ、猫猫たちにできるのは彼女を看病し、見守ってやることだけなのである。
書物には猫猫の知らない対症療法の手順がいくつもあったが、それだけだ。あるいはと期待した解毒薬のような薬も、やはり存在していない。
結局、不安の根本のところである楼蘭の苦しみは、猫猫たちにはどうしてあげることもできないのだ。
しかし一方、こっちの
猫猫は楼蘭から眼を外し、身体を起こすと書物の表紙へ眼を落とす。表題にもはっきり記されている
以前から疑って、翠苓への聴取も考えていたほどだったが――まさにこの書物の中にその答えがあったのだ。
おかげではっきりした。やはり、二つは繋がっていたらしい。
そして想像以上に、その関係は深かった。
(そりゃあ印章の件もあるし、全くの無関係ってことはあり得なかったけど……しかしまさか、例の商家が
昔に廃された商家。どうやら彼らは真っ当な商売の裏で、
ただしそれは、あくまで翠苓の祖父である薬師の調薬の一環。その材料とするための、小規模な事業だったらしい。
目につく悍ましい使い方や娯楽目的などではなく、麻酔や痛み止めとしての研究開発。
だが一部、不確かで奇妙なこともある。
(どんな薬を作ろうとしていたんだろう……?)
肝心の
何と混ぜ合わせたとかこう比率を変えてみたとか、そういう記録は残る。しかしその実験を経て薬師が何を癒す薬を作り出そうとしていたのか、それがさっぱりわからない。
書かれていないし、材料やらから推測しようにも猫猫の眼には法則性が見出せない。まるで遠い昔、道端の雑草をすり潰して薬と言い張っていた幼き頃の猫猫のように、目につくものを適当にこねくり回しているようにしか思えなかった。
(まさかこれほどの知識を持つ賢人が、こんな適当な仕事を……? いや、そもそもまともに調薬するつもりがなかったのか?)
それはもしかしたら、仕事をしている
(あるいは……無理難題だったから?)
――実際どうだったかはわからない。しかしそんなことはともかくとして、だ。
子の一族は
そしてその事実は、治療法とは異なり猫猫にとって十分な利益と言える。
それまでの推理に照らし合わせて考えれば、長く猫猫や壬氏たちを悩ませてきた
具体的には、それまで謎に包まれていた
(まず間違いなく、例の商家に関係する人間の仕業だ)
彼らこそが
そしてその動機も明らかだ。普通に考えれば、やはりそれは復讐に違いない。
家を取り潰された恨みを募らせ、というのは古今東西よくある話で、意趣返しに神美の娘である楼蘭を
(ただ……最初の、後宮でのあの騒動。あれの意図がやっぱり謎だな。なんで子の一族とは何の関係もない下女を?)
(つまり、誰でもよかった? 子の一族に対する脅し……?)
実際、印章を目にした楼蘭――子翠は慄いた。その恐怖を求めての悪趣味な行いだったとすれば筋が通らなくはないが、しかし少々苦しく思える。
「……うーん」
と、そこでとうとう頭に巡っていた考察が滞り、猫猫は息を吐いた。
腕を組み、顎に手を当てさらに頭を思考の海へと沈めつつ、薄闇に溶け始めた卓上の書へじっと静かに目を落とす。
(無関係なはずはない。ここも“復讐”に繋がるはず……だけど、ふむ……)
ちらりと、横目を楼蘭へ向ける。滑らかな寝間着を着せられか細く息をする彼女の行く末も、言ってしまえば今、ここにかかっているのだ。
紐解かねばならない。 だから猫猫は、まず謎を整理する。後宮で
……いや。あの騒動で、
(まず、楼蘭と翠苓。下女や妃たちの間でも
「私……?」
そうだ。猫猫自身が、壬氏の命を受けてあちこち調べ回る羽目になった。そして、やがて子の一族へ様々な疑念を抱くことになった。
(子の一族に疑いの目が向けば、それだけ謀反も発覚しやすくなる。
復讐として、これ以上のことはないだろう。
ただ、犯人がどうして謀反を察知できたのかという、そこが少々問題だが――
説明はつくはずだ。なにせそれを知り、回避しようとしていた楼蘭が、同じ後宮にいたのだから。
(……いや、なんでここで楼蘭が出てくるんだ)
説明なんてつくはずがない。翠苓にもその企てを明かさなかったくらいなのだから、誰とも知れぬ相手ならなおのこと。彼女が情報を漏らすわけがないだろう。
連日の緊張と酷使で頭も疲れてきているのだろうか。全くの無関係――とも言い難いが、ともかく別の問題から飛び込んできたその議題に、猫猫は額の熱を確かめた。
翠苓が推定する楼蘭の思惑が
……バカらしい、はずなのだが。
(どうも、何か引っかかる……)
そうとわかっても、猫猫の脳みそはどうしてかそこで立ち止まったままだった。
なぜかこの当然の理屈を否定しきれない。何かまだ気付けていないことが、何かの
ただしもちろん、どれだけ頭を悩ませてもその答えは出てこない。
わかるとすれば、やはり楼蘭当人だけだろう。猫猫は卓の上の書物を閉じて、深々とため息を吐き出した。
(……というか、私は治療法を探してたはずだろう? なんで犯人探しに脳みそ使ってんだ)
やはり疲れているのだ。そうに違いない。
あるいは、求めていた
でなければ新たな手立ても思いつけない。改めてそう思い知らされた猫猫は、無力感を感じながらも卓に突っ伏す。
考えを巡らせるうちにすっかり陽が落ちてしまった部屋の中。薄闇に溶け込んだ楼蘭の姿を見つめながら、ゆっくりと眼を閉じた。
その時だった。
「失礼します。楼蘭様、お食事をお持ちしました」
部屋の戸の向こうから、小さく訪ないを告げる声が鳴った。
慌てて居住まいを正して振り向くと、ちょうどその瞬間に戸が開かれた。携えた燭台の明かりが逆光になっていたものの、入ってきた二人が何者なのかは見ずともわかる。
翠苓と食事のお盆を持たされた響迂の二人は、楼蘭の眠りを妨げないよう小声のまま猫猫に言った。
「猫猫、あなたもご苦労でした。後は私に任せて休むといい」
「書物とかはおれが片付けといてやるよ、ソバカス。……疲れてるだろ?」
目が灯りに慣れて、遅れて二人の顔を見やる。翠苓は相も変わらずしかめっ面に近い無表情だが、意外なことに響迂のほうは猫猫を慮るかのようだ。その手が抱えていた食事のお膳を猫猫の前の卓に置き、代わりに書物の方へと伸びていく。
そのしおらしい心遣いは以前の響迂を思えば少々喜色悪い感じもあるが、まあそれだけのことがあったのだ。今だソバカス呼びなことも含め、そこはいい。実際奴の言う通り看病と推理で疲れたし、夜番の翠苓に後を託して眠りたい。
だがその前に、この書物のことは報告しておかねばならないだろう。猫猫はそれを持ち去ろうとする響迂を制し、口を開いた。
「待った。
「っ! まさか、
しかし何か言わんとする前に、翠苓がその表題に気付いたらしい。響迂の手から書物をむしり取り、期待の眼が書物と猫猫を行き来する。
それに首を横に振らねばならないことに、少しだけ罪悪感を感じた。
「ええ、見つけました。……ただ、やはり特効薬のようなものは存在しないようですね。これまで通り、楼蘭の体力が続くことを祈る他なさそうです」
「え……!? ソバカス、なんだよそれ!? お前薬師なんだろ!? なんで作れないんだよ!?」
「……薬師でも、存在しない薬は作れないんだよ。鎮静剤や解熱剤なんかはともかく。それとも、楼蘭を新薬の被検体にでもしろって?」
響迂が肩を怒らせ反論してきた。こいつもこいつで楼蘭を心配する故の感情が噴き出してしまった形だが、猫猫も渋面でそう冷たく返すしかない。
本来なら新薬の開発は猫猫としても望むところであるが、しかしなんであれ、実用化の前には人の身体での実験が必要だ。間違っても楼蘭の身体でそんなことをするわけにはいかないのだ。
響迂は、そこまで示してようやく黙った。
そして一方、翠苓だ。響迂と違って薬の知識を持つ彼女には、もちろんわかりきった常識である。彼女が猫猫に声を荒げることはなかった。――が、
「そうか……」
その代わり、目に見えて気落ちしてしまった。
彼女が書物に向けていた期待は、猫猫よりもずっと大きかったのだ。
無理もない。離脱症状の酷さを目の当たりにしてからは特に、彼女は血を分けた妹を憂いていた。
やはり見守る以外の手立てがないと突きつけられられればそうもなろう。彼女はぎゅっと眉を歪め、無意識か、行き場をなくした無力感が書物を強く握りしめた。
「……あとどれくらいで、楼蘭は回復すると思う?」
その感情を吐き出すように、翠苓は書物に目を落としたまま尋ねた。
「あなたの見立てでいい。教えてくれ」
「……書物の
ただし完全回復という意味で言うなら、さらにもっと時間がかかる。不快感や不安感、そして何より依存。
声に乗せ、言外にそう告げる。それはやはり伝わって、その眼の苦悶をさらに深くした翠苓は書物を置いた。
代わりに猫猫たちに背を向け、楼蘭の眠る寝台の傍に膝をつくと、燭台の明かりで色付く彼女の寝顔をいつくしむように優しく撫でた。
「楼蘭……」
そして彼女は、祈るようにその名前を呟いた。
早く良くなってくれ、と。猫猫も同様の思いでそれを見つめる。
――だからといって、その祈りが届いた、などということではないだろうが。
その時、楼蘭の頭を撫でていた翠苓の手が、不意にピタリと固まった。
「……楼蘭?」
同じく名前を呼ぶ翠苓の声。しかし聞こえた二度目の声色は、さっきと明らかに違っている。
怪訝と、そして期待の滲んだそれだった。
猫猫はすぐに悟った。卓を立ち、翠苓の傍に身を向ける。一瞬遅れて何事かと続いてきた響迂と、そして翠苓との三人で、寝台の上の楼蘭を覗き込んだ。
響迂が携えた燭台の明かり。彼女の閉じた瞼に、眩いそれが突き刺さり――そして。
「――うぅ……」
小さなうめき声と共に瞼が震え、その目が開いた。
深い眠りに落ちていた楼蘭が目を覚ましたのだ。
「楼蘭っ……すまない。眩しかったな」
「いでッ……ご、ごめん。子翠姉ちゃん……」
翠苓はちょうどよく楼蘭が目を覚ましたことに安堵しながら、しかし一方で響迂の頭に拳骨を振り下ろす。病人に強い光の目覚ましをくれてやることになったのだ。さもあらん。
しかし、ともかく楼蘭が起きてくれたことは
それに錯乱していた三日間、彼女はほとんど食べられていないのだ。体力回復のためにはなおのこと重要で、故にぼんやりと無気力に目を瞬かせている楼蘭の落ち着き具合は、翠苓にとっても喜ばしいことだった。
「さあ、楼蘭。腹が減っているだろう? 重湯があるから、食べよう。身体を起こせるか?」
卓のお膳を持ってきて、翠苓はとろりと滴る匙を取る。猫猫も応じて楼蘭の背に手を入れ、身を起こさせた。
楼蘭はそうされてもまだぼんやりとしていた。反応は極めて薄く、気遣うように差し出された匙を、じっと無気力に見つめるばかり。
「……身体の調子は、まだよくないか?」
と、匙を見つめるばかりで口にしない楼蘭に耐えかねてか、翠苓が苦しげに息を漏らす。その言葉に楼蘭はようやく反応し、僅かに顔を持ち上げて翠苓の方を見つめ。
囁くように、かすれた声で口にした。
「
「っ……」
息を呑む音。猫猫の耳にも届く衝撃の声は、さすがに憐れみを禁じ得なかった。
目覚めたものの、楼蘭はやはりまだ回復しきっていない。無理もない。猫猫の見立てでは自力で起き上がれるようになるだけであと五から七日だ。
だが、まさか姉の顔もわからないほどだとは。
記憶を失った、ということはさすがにないと思いたいが――ともかく正気が戻らぬ楼蘭の姿に、翠苓は言葉が継げなくなっていた。
衝撃と悲しみで歪む表情。それでもなお怪訝に首を傾げるだけの楼蘭に、猫猫は同情心で割って入った。
「まおまお……?」
(私のことは覚えてるんかい)
割って入った途端に呟いた楼蘭にさらに気まずくなったが、突き刺さる視線の気配は振り払い、彼女の背に綿入れを挟みながら言う。
「楼蘭、その人は翠苓だ。あなたの……姉だよ」
「あね……?」
またこてんと首を傾げる楼蘭。その眼が不思議そうなまま、翠苓の方へと戻る。
「
繰り返したか細い声は、全くピンと来ていないようなふうだった。
やはり一朝一夕にどうにかなるものではないらしい。彼女を正気に戻すには、歯がゆいがまだ時間が必要になるだろう。
そしてということは、だ。
彼女、楼蘭に尋ねたかった諸々も、明らかになるのはもう少し後になりそうだ。
楼蘭が口にした“都合”についても、隠し続けたその思惑も――あるいは
今の彼女ではまともにそれに答えられないどころか、あの様子では自分を襲ったであろう犯人のことも覚えていないに違いない。
もっと回復してからでなくては、それらの答えは得られない。
(でも……ちゃんと食事ができるようになったなら、回復も少しは早くなるだろう)
翠苓が心を静めて再び差し出した重湯の匙を、楼蘭が口にする。その様子を眺めながら、猫猫は腰を持ち上げた。
響迂もいることだし、匙を運ぶだけなら猫猫の手助けは必要ない。仕事がないなら、当初の通りに休ませてもらうとしよう。
途端に込み上げてくるあくびを噛み殺し、伸びを我慢し、猫猫は卓の上に置き去りにされた書物を手に取る。翠苓のために残していこうかとも思ったが、翠苓は楼蘭の傍で燭台を灯して読書などしないだろうと結局は思い直した。
そうして翠苓と、ついでに響迂に告げ、猫猫は寝所へと向かおうとしたのだが、
「……楼蘭、覚えているか? 私が後宮に戻って来たする後、『蘇りの薬』のせいで左腕が動かなくなった私を、お前は大層心配してくれたな。あの時のお前の気持ち、今ならよくわかるよ」
ふと、翠苓が思い出話をするように穏やかに語り始めた。
楼蘭の正気が、記憶が少しでも早く戻るようにという思いからのことだろう。口に運ばれた重湯を機械的に嚥下するだけの楼蘭へ、彼女は構わず微笑を浮かべている。
「だがあの時はすぐに忙しくなってしまったからな。……お前が、
ともかく、猫猫が口をはさむべきことではない。
そのまま静かに部屋を出る。そんな場面であったはずだ。
「最初は『不老の薬』を作れる薬師だとでも言い張って、神美様のご機嫌取りに使う気なのかと思ったよ」
「『不老の薬』……?」
しかし、ふと出てきたその単語に、猫猫の好奇心は反応せざるを得なかった。
「あなたたちは……『蘇りの薬』だけじゃなく、そんなものまで……?」
「……そう思うか?」
「………」
翠苓は楼蘭の給仕を続けたまま、声だけで猫猫の好奇心に肩を竦めた。
その反応だけでわかってしまう。元より不老など、蘇りよりも荒唐無稽だ。
調薬を少しでも学んだ者ならば、誰にだってそうだとわかる。
(……ああ、そうか)
ふと気が付いた。猫猫は手の中の書物に目を落とす。
これを書いた翠苓の祖父。今、猫猫が据えられている席の前任者が、彼であるならば。
神美の求めるそれに、きっとため息を吐きながら頭を悩ませていたのだろう。
わざわざ語るまでもなく。この書物の彼がでたらめな調薬を繰り返した理由を悟った猫猫は、そうしてすぐに好奇心を失って部屋を後にしたのだった。