警察は、いつだって威信を懸けている。
「S市連続傷人事件」捜査本部は、同市の代表駅西口にある中央署内に設置された。
M県各所から応援の警察官を動員し、広域パトロールを展開している。
報道の過熱は抑えさせているが、ケース03では捜査中の刑事が標的となり重傷を負った。
無差別に選ばれた可能性も捨てきれないが、事実を知る全員が「警察への意図的な挑戦」だと受け止めている。
だいたい無差別ならばガタイがよくて目つきも鋭い男なんて狙うまい。
それにしても犯人たちの目的は何なのか。
すでに単独犯説は斥けられている。犯行現場では足跡が採取されているが、ケースによってサイズが異なるのだ。
さらに逃走時、仲間が迎えに来て車に乗って行方をくらますのが基本パターン。
臭跡はそこで途切れる。
しかもNシステムの設置点をはじめ監視カメラや目撃者に捕捉されにくい場所が常に選ばれている。
ここまでする犯人たちの正体は何なのか。
被害者の少年は必ず右目に酸をかけられている。
すべて男子。年齢は6歳から7歳。小学校の低学年である。
今のところ犯行は常に夜で、18時から20時までの間に発生。
なぜ児童がそんな時刻に一人で外を歩いていたか。
ほぼ、塾通いだ。
したがって家庭が裕福。講習が終わっても友達とすぐには帰らず講師に質問をしたりなどしてから一人で帰っていく。
そんな優等生ばかりという共通項もあった。
地元警察官の脳裏には、ある英雄の姿が浮かぶ。
だが畏れ多くて口に出せない。
それでも誰かが勇気を出して問うた。
「貞山公に、あやかっているのでは?」
俗名は
彼は名門一家に長男として生を享けたが、幼少期に感染症を患い、右目を切除された。しかし逆境を撥ね返し、ゆくゆくは奥州の覇者となる。
ちなみに成人被害者は左足を砕かれているが、これも貞山公のエピソードに同じものがある。偶然ではありえなかろう。
金品には無関心。
復讐のためとも考えにくい。
こじらせた歴史マニアのしわざか。
この想像は、物証の乏しさを嘆く捜査員たちに一縷の希望をもたらすアイデアであったが、警視庁から派遣された機動捜査隊の面々からは冷笑された。ただ反論もされなかった。
警視庁職員は地方警察官に過度の期待を抱かないので、余計なことも言わないのだ。
たとえばだが東京都の警視庁刑事部鑑識課に相当する部署が、M県では中央署刑事課鑑識係となる。そもそもの格付けから異なる。
人件費を含めた予算も権限も雲泥の差。
日本で科学捜査を行う能力を有する機関は警視庁しか存在せず、警察庁という行政組織が管理する道府県警察にはその真似事が許されているだけという認識。
わかりきっていることだから口に出さない。指揮も現場にやらせる。
機捜のプライドとは、とっとと犯人グループを逮捕して所轄へ引き渡してやり、跡を濁さず立ち去って、本庁で報告書を仕上げることだ。
しかしこの調子だと、まだまだ帰れないかもしれない。
そのストレスに耐えることも職務のうちだと割りきろう。
機捜1:政宗って地元じゃ人気者なんだな。まさか、これほどとは。
機捜2:どんな人物なの?軍人あがりの地方行政官てとこだろ。
機捜1:敵対者には容赦せず、老若男女殺しまくることで東北の半分強を支配下におさめた。
中央から服属を誓えと督促され、承諾してその威信をうしろだてに、返事を渋る小領主を駆逐してますます権勢を強めた。
政宗自身も幾度となく中央への反逆を画策してるんだが、バレるたびにコソコソ策を弄して逃げきってるな。
如才ない道化師だよ。
機捜2:そんな男に今でも恭順を貫く子孫たちが起こし、起こされてる事件ということか。ウンザリしてくる。
機捜1:犯行声明って本当に送られてきてないのかな。
この種の犯罪者は自己顕示欲が旺盛だ。そこから突破口が開けるはずなんだが。
可能なら、あいつらの手で汚される前にウチの文書鑑定科へ送って調べさせたいんだけどね。