内階段を昇り、2階の会議室へ入る。
3人の男が待ち構えていた。総務課長・
堀部:なんだね。あんまりいい話じゃないみたいな口ぶりだったが。
堀部、目の前の席に着座する。
寺坂が書類を差し出す。
吉田:堀部さん、ひとまずこの資料に目を通していただけますか。
堀部、ポケットから老眼鏡を取り出し読み始める。
指に唾をつけてページをめくる。無表情のまま。
終わりの方はパラパラと流し見。
机の上に置く。
吉田へ目を向ける。
堀部:読んだよ。それで?
吉田:たいへん、残念なケースでした。
堀部:そうだね。二度とあってはならんことだ。それで?
吉田:この件について、こちらの田村さんから尋ねたいことがあるようです。
堀部、初めて田村へ目を向ける。
ああ噂の、という感じの目つき。
数秒の間があく。
堀部:なにか。
田村:資料2ページ目にタイムラインを載せてますが、AからNまで14点のカルテ及び報告書が存在したはずです。
このうち3点が行方不明。
まだお手元にお持ちですか?
堀部、資料をめくる。
そのページをしばらく眺めている。
チラチラと田村の顔にも視線を向ける。
堀部:無いね。
去年の日付だし、この件はもう片がついている。
全部、総務へ回した。
そのあとのことは知らん。
田村:あなたが処分した、と判断します。
堀部、目つきを変える。
堀部:おい吉田。なんなんだこいつは。
まず教育しろ。
おまえの口からどういうことなのか説明しろ。
吉田、困り果てた顔をする。
寺坂:堀部さん、私か
堀部:俺は吉田に訊いている!
いったい何のつもりだおまえら。これは何の会議なんだ。
吉田!ほら、ちゃんと答えろ!
田村:まだまだ何十件とあるんだよ、てめえの証拠隠滅は。
堀部、まじまじと田村を見る。
顎を突き出し、腕を組んで、田村と正対するように体を向ける。
堀部:ほおお。おまえの差し金というわけか。
何のつもりだ?
聞いてやろう。
おれを脅せば金をふんだくれるとでも考えたのかな?
田村:会社の根幹を揺るがす不正を糾しているだけです。
それにしても脇が甘い。小悪党もいいところだ。
堀部、返答しない。
軽蔑した表情で田村を眺めるのみ。
田村:この件はもう片がついている?
ほんとですか。
たしかにクライアントと電巧堂との関係は切れました。
でもそこから先がドラマチックなんだけどなあ。
あなたの耳には入ってこないでしょうし、聞かせたところでポリグラフでも反応を示さないと思いますが。
犯罪者はそれじゃダメなんですよ。証拠を消して知らぬ存ぜぬ。それで逃げきれると考えてる時点で甘いしヤバい。
もっと感覚器を鋭敏にしておく必要があります。
残念ですが電巧堂にはそんなセンサーをつくる技術が無い。
あなたみたいな老害が、ふんぞり返っているせいで。
堀部は不思議そうに聞いている。
田村を睨みつけるのはやめた。
一方、吉田は脂汗を流し足を小刻みに震わせ始める。
寺坂は視線を落として無表情、やや蒼白。
田村:でも、こんなカルテだけからドラマを想像しようとするのも無理ですね。
営業氏は最初みっちり書いてたんですよ。
それをあなたは読みもしないで突き返した。
クライアントの少年は本義足にかなり不満だったようです。
営業氏は発注通りに直してほしいと懇願した。
あなたはそれを何度も揉み消した。
少年は退院後、道路でバランスを崩して乗用車に轢かれる。
生身の部分は無事でしたが義足は粉々になった。
その彼は今……という物語なんですけどね。
残念ながら電巧堂とは関係なくなっちゃったので語りません。
興味もございませんか、あっぱれだ長老。
まったくもって。
堀部、時計を見て立ち上がる。
堀部:吉田、会議は30分までだったよな。戻るぞ。
それから、ウチは脳神経外科の取り扱いも始めるのか。
やめておけと言っておく。
こんなサルをよくも訓練したものだと感心はするが、ちっとも面白くない。
トラブルを招く可能性がある。
いいな、忠告はしたぞ?