堀部金丸は3人を会議室に残したまま、すぐオフィスへと向かった。
社長室へいきなり飛びこむと来客と鉢合わせする可能性があるので、気心知れた最古参事務員へ確認をとる。
堀部:大野さん、社長はいるかい?
堀部:戻ってきたら知らせてほしいんだが。明日の予定も押さえててもらおうかな。
大野:午前中なら空いてます。
堀部:じゃあ9時から。30分でいいや。社長室を借りる。
大野:わかりました。
堀部、降りてゆく。
吉田・寺坂・田村はなかなか戻ってこなかったが、やがて連れ立ってオフィスへ。
無言のまま、それぞれの席へ着座。
夕刻。
田村は定時ぴったりで退社。
その姿が見えなくなった途端、吉田も寺坂も深い溜め息を漏らす。しかし対話はしない。
事務員のうち、若いママさんから、ちらほら帰り始める。
黙々とキーボードを叩いている寺坂の目が、ドアの隙間から製作課の男を捉える。
微笑しながら手招きをしている。
寺坂、スクリーンセーバーを起動しながら席を立ち、オフィスから出ていく。
終日談話室として使用されている食堂へ。
帰り支度を整えた数名を含む、製作課の若い衆が寺坂を待っていた。
寺坂、自動販売機でドリンクを購入してから、そのテーブルへ混じる。
矢田助武(製作課員):(ニヤニヤしながら)何やらかしたんだよ。
寺坂:堀部さん、怒ってたかい?
矢田:ずっと笑ってたよな。
寺坂:明日、社長に談判するつもりらしい。
あの派遣を辞めさせろって詰め寄るんだろうな。
そんな感じかい?
片岡:多分おまえや吉田課長も槍玉に上げるぜ。ネッチリとな。
覚悟しといた方がいい。
寺坂:想定内だよ。それどころか……
矢田:なに。秘策でもあるの。
寺坂:まあ。
戦争ってのはこんな風に進めていくものなんだなって噛み締めているところさ。
矢田:戦争?おいおい。まさかオヤジと本気でとことん殴り合うつもりなのか。
派遣の味方について?
バカじゃねえの。
寺坂:……
片岡:玉砕覚悟はいいけど、何をやりたいの?いったい。
堀部さんがヒトコト言ったら、もう首チョンパだよ。
わかってるだろ?
どこにどう勝ち目があるのさ。
寺坂:冷静に聞いてほしいんだが。
諸君は製作課だ。
義肢装具の設計から組み立て、修理まで全部やる。
ただしPOの資格は持っていない。
もし、ここを辞めさせられたら、次に行く当てはあるのかい?
矢田:……おい。おいおい。
寺坂:たのむから冷静に考えてみてくれ。
仮に、堀部さんが敗れてここを去ることになったとする。
製作課のイニシアティヴは誰がとる。
本来、義肢製作ってのはPOが採寸・ヒアリングから制作・納品・調整・アフターケアまで一人で全部やるんだ。
ツブシが効くのは資格を持ってる営業メンバーだけさ。
かれらは対人スキルだって一般人以上に磨いてる。
勝ち目があると思うかい?
片岡:おまえこそ落ち着け。
なに、マジで堀部さんを追い出そうっての?
そりゃ……戦争だわ。だけどな、この会社が生き残れないぞ。
営業たちには引き取ってくれる先があるかもしれないが、かれらだって何年も制作をやってないんだから、一から修行しなおしだろ。
電巧堂のブランドそのものが地に堕ちる。
そこまでわかって、やるってのか?
寺坂:もっと先まで考えてある。
それに、いいか。堀部さんは高齢者だ。いずれリタイアする。
そのギリギリまで、今の体制を続けていくつもりなのか。
条件は一段と厳しくなっていくぞ。どうやってブランドを維持していくつもりだったんだ。
もし既に考えていたというなら、それを聞かせてもらいたい。
寺坂、堀部さんはまだまだ元気だし、後継者育成の準備もちゃんとしている。
製作課では全員それをわかっているんだ。
残念ながら2階に俺たちの熱意が伝わっていないことは遺憾に思う。
それを全部ぶち壊そうと考えているのなら、おまえらのやろうとしていることは、テロだ。
冷静に、あらためてもらいたいんだが、どうかな。
寺坂:そうか。
ただ、嵐はもう、すぐそこまで来ているんだ。
もっと話し合っておければよかったよな。お互いに。