すばらしい新世界、終焉   作:ひねもす@HAMELN

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BNWE-025.決壊

大石良雄は昼を食堂で摂る。

寺坂に倣って、仕出し弁当を注文するグループに入った。

なんでも美味い美味いと残さず平らげる。

自然といろんな話題に花が咲く。

 

大石:12年間ムショ暮らしだったんでね。

刑務所の飯がマズいっていうのは予算がショッペエてのもあるんすけど、調理するのも囚人で、当番制でやるんです。

そんなの食いたくないでしょ。

 

寺坂:きつそうだねえ。

 

大石:自分、所内ではインテリな方でしたけど、レシピの説明文を最後まで読めるヤツってのがまず、なかなかいない。

これ意味通じてます?

 

寺坂:外国人は別の棟に収監されるんだよね?

小学校も出てないとか?さすがに今時それはないか。

読んでるうちにイライラきちゃうってことなのかな。

 

大石:それもありますがね。

どんな文章でもですけど、説明読んで作業工程を頭に浮かべられるのはそれ実際にやったことのある人だけでしょう。

でもカンは根本的なところを理解してないから、

実際にやらせる前にレシピの漢字に全部フリガナつけさせといて、

直立不動で大声で読み上げさせて、

ワカリマシターアリガトゴザイマースっていちいち叫ばせて、

あとはほったらかしなんです。

 

寺坂:自分たちが食べるわけじゃないからそんな教育を平気でできるんだろうね。

 

大石:毎日、所内の工場で職業訓練実習やるんですけど、それのマニュアルも同じですよ。

カンへの口ごたえは即、懲罰なんで。

まあ従順なだけのバカをせっせと育成するのが目的である以上、一定の成果は上げてることになります。

 

寺坂:社会復帰するなんて絶望的に無理なんじゃないかな。

 

大石:職業訓練つったって、民業圧迫しちゃいけないので。

ミンの泡沫ですらやりたがらない、最底辺どんづまりの仕事を薄給で死ぬまでやり続ける人材をつくるために、ムショは存在します。

就役してるカンだって、気付かずにそこへ放りこまれているわけですが。

 

寺坂:ええと。大石さんは12年間、満期でつとめあげたんだよね。

その闇には染まらずに抜け出られたってこと?

 

大石:うち8年は独居房で暮らしてました。めんどくさがられてたみたいですよ。

おかげで思索する時間はたっぷり与えられた。

ただ臭くて臭くて。

ああ、やっぱりシャバはいいなあ。

 

寺坂:おめでとう。

でも率直にいって、外の世界だってバカばかりだと思うでしょう?

 

大石:まぁね。

んで、せっかく力をいただいたんで、さてどうしよっかなあと今考えてるとこです。

 

寺坂:そうか。

ではお願いなんだけど、行動を起こす前に必ず僕へ相談をしてほしい。

でないと適切に協力するのが難しくなる。

約束してもらえますか?

 

大石:狙いは透けてますよ。そんな足枷を装着することはできません。

あなたが相談するに価する人材であれば、約束なぞせずともブレーンに加えますから。

これ意味通じてます?

 

寺坂:なるほど。

そのお眼鏡にかなう仕事をしていなければ、「おまえは用無しだぞ」というわけだね。

 

大石:それすらも気付けないヤツが多すぎて。

むしろシャバの方が。

 

寺坂:……ハハハ(引きつった笑い)。

 

 

一方で製作課は大混乱に陥っていた。

堀部課長の失踪と、田村から大石へのチェンジに明確な関連性を指摘する者はいなかったが、不穏な陰謀が進行中だという雰囲気は共有されていた。

これまでは堀部が営業メンバーも、社長さえも押さえつけてくれていたのが、突如として決壊したのだ。

 

営業たちは、製作課の各担当者に、義肢使用者の切実な要求や言語化しづらいリクエストを、はっきり直接ぶつけるようになった。

これまで涙を呑んで溜めこみ続けていた熱量が、溶岩流の如く迸る。

作業場全体が震撼した。

 

実際のところ、日本の医療技術全体が、旧態依然のシステムに縛られているため世界からどんどん引き離されている最中だけれど、その中においてさえも電巧堂のアナクロニズムは格別ひどかったといえる。

お手本として倣うべき目標とはトップランナーたる自分たちの先生だけである。

部外者は常に遅れている。一切見ず・聞かず・触れず・考えずで構わぬ。

そんなイデオロギーに凝り固まっていたのだ。

だからこそ純粋なる自尊心だけを抱くことができたカラクリだが、これぞ日本の伝統か。

 

製作課員の一部は危機に抵抗しようとした。だが何をどこから変えればいいのか、さっぱりわからなかった。

混乱は加速するばかり。

古株は、全員を救おうなんて考える余裕もない。自分の身ファーストだ。その後輩たちは、先輩たちが何とかしてくれると信じて黙々と言われたことだけに従った。

歴史上、何度も演じられてきた末期戦である。

なんてこった。まだ始まったばかりだというのに。

 

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