四畳半ほどの診療室。
昭和時代の個人医院みたいな、侘び寂びを感じさせる佇まいだ。
堀部金丸の背後で扉が閉まる。
白衣の男から、目の前の回転式丸椅子に座るよう、手で指示される。
堀部、黙って従う。
白衣の男(
はぁい。大きく息を吸って。
吐いてぇー。
こんな診療スタイルも、かなり古めかしい。
堀部にとっては懐かしいともいえた。
白衣の男は自分よりもずっと若そうなのに。50手前くらいか。
頭は禿げあがっていて、顔も体もふっくらしている。
大きな丸縁眼鏡と太い口髭が特徴的。
穏やかそうな雰囲気は纏わせているが、ここの一味だとすると狂人かもしれない。いや狂人だろう。狂人に違いない。
警戒心を解かず、診察を受ける堀部。
白衣の男はカルテを手書きで埋めていく。
ベッドにも寝かされ、全身を触ったり捩ったりされた。
人間ドック並みに細かそうだが今時こんな検査は全部機械がやる。看護士も使わず、心電図検査の電極装着まですべて一人で行うなんて、やはり異常に思われる。
やがて一連の検査が終了。
堀部は丸椅子に掛け、白衣の男と向き合う。
泉田:ホリベカナマルさんね。
武術の心得または軍隊経験などお持ちなのかな?
堀部は目をぱちくりさせる。軍隊経験などあるわけがない。
この人、いつの時代からタイムトラベルしてきたのだろうか。
泉田:冗談ですよ。どう見ても型ができちゃいなかったし、とどめも刺さなかった。
しかしそれでもあの男に一勝したんだから、大いに期待したいところではあるんです。
さてどこから鍛えていくのがよいものでしょうかねえ。
堀部は落胆の表情を浮かべる。
解放される見込みは無さそうだ。
やはりこいつらは戦闘員をつくろうとしているのだ。
自分はここで兵隊にされてしまうのだろうか。しかしむしろ簡単に殺されはしないようだぞという想像ができ、それが一筋の希望ではあった。
泉田、なにか閃いたように、壁の棚からファイルを一冊抜き出す。
ページをめくり、数秒間読んで口元に笑みを浮かべる。
机上のインターフォンを手に取り、ボタンを押す。
泉田:アサイくんいる?
ヤソエモンいつ頃仕上がりそう?
……そうかそうか。じゃあカワイで戦わせよう。
そのあとこっちの施術も任せる。
ホッホッホッホ、よろしく。
堀部にとっては未知の単語がいくつか聞こえた。
ヤソエモンという相手と、カワイという場所で戦わされるらしい。
心に怒りが渦巻く。
泉田:ほう。察しがいいようですな。
いやあ。なかなか見込みがある。
期待していますよ。それじゃあ。
扉が開き、黒装束が顔を覗かせた。
出てこいと言っているようだ。
堀部、ふてぶてしく立ち上がり、廊下へ出る。
薄暗い、陰気なトンネルだ。
やはり先頭を歩かされ、あとを2人の看守が随いてくるの図。
ある扉の前で停止を命ぜられる。
冷静に観察する。
室名などの表示はどこにも無い。把手も窪みも無く、横にスライドして開く部分にスリットが見られるのみ。
自動ドアではなく、遠隔か目の前でリモコン操作しなければ開閉できない仕組みのようだ。
堀部が眼球だけ横に向けると、たしかに黒装束の看守が手許でなにかを操作している風ではあった。
扉開く。
一畳サイズの小室に、一瞬遅れて照明が灯る。
堀部、一歩前へ。
入ると背後で扉が閉まった。
数秒後、前方の扉が開く。ここまでは想定通りの流れ。
誰かが居るかどうか。
これによって次の手が変わる。
いた。
隅の方で縮こまっている。
いきなり攻撃してくるような気配は無いようだ。
そう堀部は判断して、一歩踏み入れる。
背後で扉が閉まる。
床と壁がうっすらと光る、カーペット地の空間。
奥の衝立向こうはポットン便所と水飲み場だろう。前と同じだ。
片隅の小動物は臆病そうにして、こちらの様子を窺っている。
佃さんでは、ない。
もっとずっと若い。
堀部は手前の隅に腰を下ろして、少し考えながら話しかけてみた。
堀部:怖がらなくていい。
ここは初めてかね。連れさられてきたばかりなのかな?
いま……
相手:堀部課長?
双方が驚いていた。
一瞬後、互いに接近する。
顔を寄せ合い、相手を確かめる。
その若者は電巧堂義肢製作課員、