電巧堂社員では最年少。
2歳上の兄も製作課員。その紹介で入社した。
堀部金丸の失踪以後、営業メンバーが製作課へクレームをつけることが多くなった。
光風の場合、担当していた案件について武林隆重からの熱血指導をモロに浴びまくり、メンタルをやられる。
出勤したくないと言い始めた。
兄の
はじめのうちは女友達のアパートへあがりこんで慰めてもらっていると本人から連絡があったので、そっとしておこうということになったのだ。だが、そこからもいなくなっていた。
なんと誘拐されていたというわけである。
牢に入れられ、心細さに磨きをかけていたところだった。
ガタイがよくて荒々しい雰囲気を纏ったおじいさんが入ってきた。
きっとひどいことをされる、と縮みあがった。
その男がなんと、尊敬する上司だった。
しかもこの牢について詳しいようだ。
急に希望が湧いてきた。
光風:課長が失踪して、大騒ぎになってたんですよ。
会社へも警察が来て、吉田課長がいろいろ訊かれてたようです。
あれからずっと、ここにいたんですか。
堀部:最初の食事の、パンの日付が10月2日だった。それから2日経っているとして……
光風くんが拉致されたのは6日だって?
やはり、ここの食事は消費期限がきれたものを集めてよこしてるみたいだな。くそう。
光風:ぼくたちも殺し合いをさせられるんでしょうか。
課長、どうかひとおもいにやっちゃってください。
ここを出られたら家族にぼくのことを伝えてください。
堀部:言えるかバカ。
ただ、いずれにしてもここから出るには戦う必要がある。
腕立てでもスクワットでも、とにかく筋力をつけておきなさい。
私たちが争うことはないが、もっとおかしなやつがいろいろいるんだ。そいつらを相手にするときは躊躇うことなく力を奮わねばならない。
わかるね?
光風:はい、わかります!
ぼく、がんばります!
素直な、いい子だ。堀部は目頭を熱くする。
やはり会社へ戻りたい。
指導と育成にこれからも全力を投じていきたい。
ただそれよりも目前に迫った課題がある。
ヤソエモンとかいう相手と戦わされるのだ。
どう備えればいい。
まったく手懸りが無い。気が気ではなくなる。
さいわい話し相手としても、ストレッチを協力し合い切磋琢磨できる相棒としても最高の同居人と再会できた。
できる限りの対策をしよう。
ちなみに、この部屋に来て最初の食事となるパンの日付は10月5日だった。
それぞれの摂取するべきカロリー量を目安にして公平に分配した。
武器は届けられず、人の入れ替えもなく、たぶん数日が過ぎた。
空調は効いているが汗臭さも体の垢も限界だ。ストレスが溜まってくる。
衣類を交換するよう、一度だけ天井からの声で指示されたが、それよりシャワーでも浴びさせてもらいたいものだ。
文句をぶつぶつ吐きながら肉体強化に勤しむ二人。
我慢も限界に達しつつあった。
せめて変化が欲しかった。
同じ頃、電巧堂の応接室。
かしこまった
大石:社長わかってください。
いまの業績を維持するだけなら社員を15人減らせます。とりあえず5人抜きましょう。
自分が言い出すとカドが立つんでね。
あなたから吉田に命じて、吉田にやらせる。
これが一番スマートでしょ?
浅野:大石さん。わかってほしいんだが、こういう考え方で会社を動かしていっては何もかも維持できない組織になる。
もっと前向きな考え方ができるはずです。
いまの社員の力を出しきらせることで、更に業績を上げていくことを求めるべきだと思いませんか。
大石:あなたにそれができるのなら、なぜ今日まで遊んでたんです。
それに、ランキング下位から数えて15人も残したままで業績なんて上がりませんよ。
こいつらには武者修行させてくる方が本人にも社会のためにも有益なんだ。
いいからとっとと承認しなさい。
そんで、明日の朝礼ではっきりあなたの口から言う。
吉田にもまっすぐ伝える。
本番でトチらないために、その練習をとっとと始めろつってんの。