電巧堂の会議室。
奥側の列に浅野長矩社長と吉田兼亮課長。
モニタにPCをつなぎ、ホワイトボードも使って書記と説明係を担当する寺坂信行。
手前側には営業課メンバーより選抜された5名が並ぶ。
浅野:ここに集まってもらったのは我社でも超一級の精鋭ばかりだ。
社内でも家庭でも、秘密厳守を徹底してもらいたい。
とっとと始めてください。
いったい何が起きているのか、はっきり知りたい。
吉田:寺坂さん。始めてください。
寺坂:はい。……電巧堂は、1月1日より業態を一新します。
皆さんには、そのための準備を始めてもらいたいのです。
次は何屋を始めるのだ。
寺坂:義肢製作所……を支援するコンサルタント業。ならびに部品卸商です。
営業陣、苦笑する。
しかも同業者から仕事をもらいに行くだって?
いくらなんでもキツすぎるよ。
ただ……決定事項、なんだよな?
寺坂:社長、ご説明されますか?
浅野:え?
ああ……諸君。仮に今のまま会社を続けていくとしたら、その方が業績は上げやすいか?
菅谷:製作課に一から教えていかなくてはなりません。
私たちだって昔のように工房へ籠もって、勘を取り戻します。
受注は一時的に落ちこみますが、耐え忍べば、ずっと大きな実りを得られましょう。
貝賀:コンサルタント、それから部品卸と言ったかな?それには反対だ。
同業者へ向けて意見したところで負け犬の遠吠えとしか思われないし、私たち自身も現場感覚を失っていく。
そんな道化を演じ始めたら、取り返しがつかない。
浅野:若い人の意見はどうだろう。
武林:え、私ですか。今のままは論外ですね。
ただ、すでに里程標があるわけでしょう。
先にそれを説明してほしいんですが。
寺坂:社長。いいでしょうか?
浅野:君が私に振るからだよ。じゃあ、説明に移ってくれ。
寺坂:では。えー、皆さん。
卸す部品とは、チップを内蔵したモーターアシスト義肢をつくる、そのコアです。
電巧堂はこの技術を、手厚いサポート込みで全てのPOへ販売します。
貝賀と菅谷は口を半開きにする。
年齢順では三番目となる早水が急に商売人らしい顔つきへ転じる。
寺坂:保険が適用できるベーシックモデルをひとつだけ大量生産し、まずは普及させます。
念を押しますが、ユーザーではなくPOへ販売します。
なぜそうするか、わかっていただけますか?
早水:現状のまま、POの立場で電巧堂の専売特許として販売するのだとすると、普及は絶望的に無理だ。
競合すべてをライバルに回すことにもなる。
富森:その部品ありきで戦略を立てるならば、電巧堂は一旦POの立場から身を引くべきということか。
その部品ありき、ならばな。
菅谷:そもそも普及させられるほど優れた装置なのかね?
モーターアシスト義肢なら過去に大失敗作があっただろう。
もう少しちゃんと説明してくれたまえよ。
寺坂:
安心していただくために相違点から述べますと、
行政が絡んでません。
広告代理店も関わらせません。
エンドユーザーに知ってもらう必要はなく、装置を扱う上での煩瑣な注意事項も一切ありません。
貝賀:は?待ってくれ。
いったいそれは、何なのだ。
菅谷:たしかに筋電義肢とは何から何まで正反対だ。
だが、どういうことなのかな。
吉田:技術的説明は、まだ調整中の要素もありますので、後日あらためて行います。
本日みなさんに了解していただきたいのは、現在請け負っている案件を年内ですべて完結させ、あたかも電巧堂が解散するかのように振る舞っていただきたいということです。
大規模なリストラも計画しています。
電巧堂は倒産の危機を迎えます。
ただその後、皆さんと我々を中心として、新たなベンチャー企業となって再起動するというシナリオです。