寺坂信行と大石良雄。
今日も向かい合わせで黙々とチャット。
大石:東北はもっと静かだろうと思ってたんだが、選挙ってのはどこも五月蝿くてかなわんな。
寺坂:東京ほどではないでしょう?
迷うほどの候補者も立たないし。
大石:伊達姓でなけりゃ知事になれないってローカルルールでもあるのか。
寺坂:貞山公の血を引いていなければ県民のリーダーとして認められにくいという原則はありますね。
ちなみに
大石:ちっとも民主主義じゃねえな。
堂々と藩閥主義を宣言しろ。いちいち選挙なんかして騒ぐんじゃねえ。
寺坂:そもそもは、薩長に敗れたからです。
僕たちはあいつらに民主主義を押しつけられたんだ。
それが、躓きの元。
大石:だが懲りもせず自分たちの王様の子孫しか領主に選ばない。
朝鮮民主主義人民共和国と最高のお友達になれそうだな。
定期便を周航させて足りないものを融通し合ったらいい。
寺坂:貞山公は文禄の役に参陣してずいぶん派手に暴れ回ったそうだけど、現地では今も畏れられてるんじゃないかなあ。
理性的に取引なんてできるかなあ。
大石:ゴネたら得意の撫で斬りでも披露してやれ。
そしてお返しにミサイルの一発も射ってもらうんだ。
寺坂:目標を外れて西日本に落ちてくれれば、万事めでたしかも。
大石:口の減らない野郎だぜ。
寺坂:お互い様。
ところで、この会計処理ってほんとに違法じゃない?
大石:いまさらそれを気にするなんて、おまえは法の精神をさっぱり理解してないな。
寺坂:それは認めます。言われた通りに作ってるだけだし。
大石:なら最後まで言われた通りの仕事をしろ。
反論したいなら根拠を示すんだ、まず。
寺坂:タイムカードは、実態に一切関係なく、すべて管理職が作成する。これバレたら大問題でしょ。
大石:誰にバレると?
寺坂:労働基準監督署。
大石:カンは書類束ごとに整合性しかチェックしない。むしろ正直に書いて提出したらいろんなミスを指摘されるさ。
それ以前に、こんな儲かってない会社は調べもしないがな。
寺坂:社員からの通報があっても?
大石:誰が通報すると?
寺坂:これから辞めさせられる人たち。
大石:一人残らず口を塞ぐ。
残すやつには実働分以上を割増しして、確実に支払う。
寺坂:ウチから裏切者なんて出ないか。
大石:むしろ教えてくれ。
現行の会社法・労働者法・税法すべてを唯々諾々と遵守して、いったい何を為せる。
どんな団体でもいいからつくってみろ。
そんな組織の構成員は、黙って搾取されるだけの
寺坂:現行の会社法・労働者法・税法。それら全部を、だまくらかすと?
大石:デクの大先輩たるカンがいくら調査しても摘発できない抜け道を開拓するのさ。君も大好きなパズルだよ。
違法でないなら合法だ。それが法の精神だろう。
寺坂:そうかなあ。
官憲はそんな精神認めないだろうから、合法でないものは全て違法だという理屈で暴力装置を行使すると思うんだけど。
大石:誤解されているようだな。俺たちは、合法を頼りにしていつまでも逃げ回る気でなんかいないよ。
最終的にはカンごと法を一掃する。
ただ一度にあれもこれも敵に回すと大変だから、いまは合法の範囲内で動こうというだけだ。
兵を鍛錬する時間が必要なのでね。
寺坂:なるほど。小さな一歩から始めましょうというわけだね。
わかった、粛々と働くよ。
大石:いい心掛けだ。
ところで今月中に大野をクビにする。君には、一時的にだが年末調整の事務処理を引き継いでもらう。
そのアプリケーションを使ってだ。できるよな?
寺坂:は?ええと。ちょっと待って。
大野さんに何する気ですか。
大石:彼女自身に危害は加えない。よくやってくれてるからな。
ただ、秘密を守れる適性が劣る。
よって退場していただく。
寺坂:どうやって彼女の口を塞ぐつもりなんです。
大石:安心しろ。身内に軽い不幸がふりかかるだけだ。
それで自分しか介護できる家族がいないとなったら、会社を辞めざるを得なくなるじゃないか?
寺坂:そうせざるを得なくなるように仕向けていくと?
穏便に、合法的に、消すわけですか。
大石:社長からは退職金をはずませるよ。
どうせ今月は赤字なんだ。大出血中にそのくらい上乗せしたって気付かれない。大野からは感謝されるはずだよ。
さあ、わかったら仕事に戻れ。
黙々と、粛々と働きながら、寺坂信行は自らに問う。
こんなことしてて大丈夫なのだろうか?と。