日本の選挙では、投票日の夜に即日開票作業を始め、翌朝までには確定数を発表するのが常識である。
何事にも拙速を尊びたがる国民性の為せる業であろうか。
他面、裁判や外交となると永遠に相手を待たせて結論を出したがらない民族でもある。
およそ文明社会とは……以下略。
次期M県知事・
県議会議員補欠選挙の方はもっと時間がかかる見込み。
ただ、注目を集めていたのは圧倒的に知事選である。
マスコミ全社が綱宗氏の選挙事務所へ詰め寄せ、テンプレ原稿を読み上げながらフラッシュを焚きまくった。
この狂騒がお開きとなったのが、午前2時頃。
綱宗氏はスタッフに片付けを任せて、自宅へ引き上げる。
客人たちが応接間で待っていた。
県議会議員の中でも特に権威を持つ男が4名。
本人たちは認めていないが、巷では「強硬派」と呼ばれている。
見ての通り、行動が迅速だ。これから一致団結して県を盛り立てていかねばならぬ新知事に、いち早く祝辞を届けに参上した。
邪魔を交えぬよう、インフォーマルで。
当選は確実でしたが、それにしても圧勝でしたな。
新時代の幕開けを、あなたと並んで迎えられることが実に嬉しい。
綱宗:ありがとうございます。
たいへん厳しい時代ですが、身を粉にして県の発展に尽力します。
お力添え、よろしくお願いします。
まつりごとは私たちが協議して決める。
君が苦しみに耐える必要は無い。
わかってくれるな?
綱宗:は。しかと心得ます。
が、苦しみは私も分かち合わせていただきます。
共に闘いましょう。
綱宗さん、よろしく。
奥山さんはね。難しいことは我々が全部カタをつけるから、あなたはニコニコ、プレス発表の場で輝けるアイドルであってくれと言ってるんだ。
晩年の貞山公みたいに。
それが知事の役割だよ。
綱宗:なるほど。私にはスポークスマンとしての見映えも要求されているというわけですね。心得ます。
県民に憧れられるヒーローとなるべく、常に堂々としていなければなりませんしね。
柴田:そういうことだ。わかりが早くてたすかるよ。
ところで綱宗さんは、金・女・支配力、どれがお好きだろう。
一番喜んでもらえるものを聞いておきたいね。
綱宗:はは。これはまた、随分と露骨ですね。
私は誠心誠意、県に御恩返しをしたくて立候補したんです。
そんな利己的欲望とは距離を置きたいですよ。
兵部:すばらしい。柴田さんの誘いに乗ってこなかった。
あなたは清廉潔白な方なのでしょう。
えーと、原田さん?
もう、いいんじゃないかね。
奥山:補欠議員は、
でもマスコミの当確なんてアテになりませんからねえ。
奥山:対策は明日にして。今日は綱宗さんに御挨拶して、帰りましょうよ。
原田:失礼いたしました。
綱宗さん、原田といいます。
調査会社を経営しております。御用の際はいつでも。
綱宗:原田さんのお噂はかねがね。
怒らせると怖い人だとも聞いてます。
原田:あっはっは。ひどい風評被害ですよまったく。
ところですみません、今日はこれだけ訊いておきたい。
県警本部長、更迭させますよね?
しなくちゃダメだ、あんなやつ。
で、後釜はもう決めてらっしゃいますか。
綱宗:いえ。
というよりそもそも、県警本部長を罷免する権限なんて知事は持ってませんよ。
原田:やだなあ。そんなことわかってます。
だから根回ししとくんですよ。
決めてらっしゃらないんですね、よかった。
じゃあ決めないでください。
こちらで最適の人材を準備します。警察庁から打診がきたら承認してください。
綱宗:は?え、あの。
そんなことまで議員さんが決めちゃうんですか?
原田:今の知事は物分かりが悪くてねえ。
じゃ、来月20日まではごゆっくり。
知事になったら毎日が激務ですから。
それまではどうぞ、ごゆっくり。