月曜日の朝。電巧堂の2階オフィス。
大石良雄:おはよう。投票はしてきたかね。
寺坂信行:しましたよ。朝のうちに。
大石:ちゃんと判読不能な文字で書いたか?
寺坂:僕はしないよ。
大石:結局、伊達じゃねえか。
寺坂:伊達一門以外だと、イカれた運動家しか選択できないからね。
ところで大石さんは休日って何してるの?
大石:ここへ来ない日の方が忙しいんだぞ、俺様は。
まったく日本のビジネスは闇が深すぎだ。
寺坂:へえ。具体的に聞きたいな。
大石:「コスパ意識を高めることが大切ですよ」ただそれだけを言うのに200ページもの本を書きコンサルタントの名刺を付けて行商するバカ。
そいつらに何百万円もの対価を払って資産情報全部抜かせちゃうバカ。
S市にはそんなのばかりだ。気が狂う。
寺坂:ウチは田村さんに給料1ヶ月分払っただけで何もかも抜かれまくっちゃったけどね。
大石:それのおかげで、今こうして改革を進めてやってるんだよ。感謝しやがれ。
寺坂:改革、なんだよね。
すでに流れに乗りきれなくなっちゃってる課長や社長はそのうちクビを斬られるとして、僕はもう少し長生きしたいなあと思っているんだけど。
まさしく闇の中を駆け抜けている感覚だよ。
大石:正しい認識だと思え。
シンプルな実力主義は人を鍛える。コンサルタントなんて不要だ。
なんでそんなものになど頼る。
寺坂:わかりました。ところで質問いいかな。
今つくってるこのプログラム、どう考えてもウチの業務と関係なさそうなんだけど、一体なんなの?
大石:どれのことだ。
……ああ、
その通りだ。ウチとは直接関係ない。
寺坂:送信元にRIFUって書いてある。
リフって、M郡利府町のこと?
大石:たぶん、その利府だ。S市の北隣だったか。
寺坂:で、送信先がMIHARU。これ、ウチのことだよね。
もし三春町だったらF県なんだけど。
大石:そうなのか。俺は東北の地理をよく知らないんだが。
F県だと、遠いのか?
寺坂:ここからだと高速使って2時間くらいかかるよ。
大石:ちなみにオオダテだとどの辺だ?
寺坂:大館市かな?A県のかなり北。
日帰りはできるけど、ちょっとキツいね。
大石:もうひとつの大館なら。
寺坂:派遣会社の?
住所は駅前だったから、10分もかからないよ。
大石:へえ、面白いな。
ついでにカワイとウスギヌの位置関係も知りたくなってきた。
寺坂:どこだ、それ。
大石:知らん。検索してくれ。
寺坂:地名なんだろ?
うわあ、漢字も様々でいっぱい出てくる。
さっぱりわからない。
大石:川井は
いいや。実は地下でつながっているらしい。
寺坂:(心の中で)オニニワ?イズミダ?
寺坂、手許のメモ用紙にボールペンで速記する。
鬼庭,泉田,大館,利府,三春
PCには打ちこまない。キーロガーを仕込まれていて、何を調べたかの痕跡をすべてチェックされてることを知っているからだ。
寺坂:ところでウチって三春なの?
これは実際の地名じゃなくてコードネームだと考えていいのかな。
大石:察しがいいねえ。そうだ。
表向きは株式会社電巧堂。
我々が通信する際は三春と呼んでいる。符丁というやつだ。
これくらいなら君に教えても構わない。
寺坂:ふむ。で、このプログラムは、どこだっけ。
別のセクションから依頼された仕事を請け負ってるってところなのかな。
大石:利府発注だね。そこは物流を担当している。
君の方がピンときてると思うんだが、車輌と運転手を効率よく回すための解を求めたいんじゃないかな。
寺坂:ああ、なるほど。そんな感じだ。
わかるとすっきりするね。
大石:丁寧に、いいものを作ってくれれば次の仕事も舞いこんでくる。君の評価も上がっていく。
どうだい。シンプルな実力主義とは、やり甲斐のあるものだろう。
寺坂:そうだね。腕に縒りをかけよう。
大石:蛇足を承知で言うが、やり甲斐や達成感といった抽象概念を数値化して評価するには、感受性や想像力が不可欠だ。
ところがコストカットを最優先とし、自らもコストカットされまくって仕立て上げられたコンサルタントどもに、そんな知性や能力が備わっているわけがない。
ひたすら安っぽい連中をありがたがってりゃ、企業なんてますます貧困化するのさ。
シャバへ戻ってみりゃ、こんな世界になっていた。
やれやれだが、シンプルに戦おう。
ぜんぶ焼き払うんだ。