堀部金丸は医療用ベッドで寝ていた。
左足の膝より下が切除されていた。
脇にあった杖をつき、室内を見て回る。洋式トイレ付きの個室だ。
廊下へは出られないが、以前までの牢獄に比べたらずっと清潔で快適に思える。
突如ドアが開き、黒装束が現れた。紋章はブルー。
一人だけ中へ入り、食事を置いていく。菓子パンとフルーツ。
堀部、独りになってから黙々と食べる。
食べたら寝転んでまどろむ。
深い喪失感から逃げる、せめてもの抵抗。
次の来訪者は、白衣の男3名と黒装束。
白衣Aは禿頭。以前堀部を触診した、あの男だ。
もっと若い、一番下っ端と思われる白衣Cが今日は堀部を診察。
黒装束は椅子2脚を室内に置いて外で待機。白衣ABは座ってCを見守る。
堀部と男3人でスペースはぎゅうぎゅう。
白衣C、先輩たちに結果を口頭で報告し、出ていく。室内には堀部と白衣ABが残った。
白衣B:ホリベ・カナマルさんですね。私はあなたを執刀したアサイです。
こちらはイズミダ先生。
以前問診を受けましたよね?
堀部、軽く会釈するが、相手に対する不信は隠しようがない。
浅井宏(白衣B):POの資格保持者だ。でも、自ら障害者になったのは人生初ですか。
どうですか。もう幻肢痛きてます?
堀部、ぎょっとする。
患者に対してこんな発言をする医師がいていいわけがない、という表情。
思わず左足に手を触れる。
断端には包帯を巻かれているが、その先が存在しないことを物理的に確認する。
浅井:貴重な経験になりますから、しっかり味わっておくといい。
心理的にも大きな変化が訪れる。
あなたは別人へ生まれ変われるんです。
さて、どうなりたいですか。
ということを特別に訊いてあげようという趣向です。なんでもどうぞ。
堀部:……おまえたちは、何者なんだ?
何が目的で、こんなことをやってるんだ?
浅井:あー。なんでもどうぞと言ったのは、そうじゃなくて。
あなたのこれからをどうしたいですか?ってとこだけなんですけどね。
堀部:家へ帰らせてくれ。なんてのは、言っても無駄だということか。
浅井:よくおわかりで。
もっと具体的に訊こうかな。どんな義肢をつけたいですか?
堀部、足に目を向ける。しばらく考える。
やがて慎重に口を開く。
堀部:あなたたちは法を犯している。
POでもなければ医師でもないだろう。じん
泉田、能面のような表情で急に立ち上がる。
泉田重光(白衣A):浅井、あとはまかせた。好きにやれ。
ドアが開く。
泉田、そのまま出ていく。
黒装束、外で立ったまま。
ドア閉まる。
浅井:あーあ。意外と鈍いねえ堀部さん。
冗談は一度限り。今は頭悪いこと見せつける場面じゃないよ。
堀部:……ふざけるな。
こんな目に遭わされて、冗談もクソもあるか。
浅井:なるほど。臨床やってないから忘れちゃってるのか。
フザケルナ、コンナメニ、クソ。
それでよかったのに。
今のが素直な感情だよ。
堀部、絶句。
浅井:さ、もう一回訊くよ。
あなたはこれからサイボーグになれるんだ。どんなパワーを手に入れたい?
叶えるかどうかはさておき、聞いてあげようと言ってるんです。
これは特別な計らいですからね。
その好意に叛きたいということでも構いませんけど。
堀部:おまえたちは……おまえたちは、俺を改造しようとしているのか?
さ、さては殺人ロボットに仕立て上げるつもりか。
浅井:あー。めんどくさいなあ。
まあね、そんな風にも考えてました。
ただ、あなたをかれらのようにはできないと判断したんです。
だけどサンドバッグ代わりにするのももったいないねえとなりまして、じゃあ希望くらい訊いてみるかと。
そういう流れなんですよ。
堀部、言葉が出ない。
浅井:リクエストができないのなら、適性をみつくろって、こちらで決めます。
いいかなもう。じゃあ。
堀部:ま、待て。ちょっと待ってくれ。
あなたたちは人を改造する技術を持っている。それは確かか。
あの、ヤソエモンとかいうバケモノも、あなたたちのつくった怪人なのか。
浅井:ええ。
彼を改造したのは私じゃありませんけど、ここで、私たちが施術しましたよ。
堀部:私は、POだ。義肢装具士だ。
経験も長い。
どうだ、私を、つくる側にしないか。
あなたたちを手伝える。どうか。
浅井、堀部を見つめる。
数秒の間。
浅井:甚だしい勘違いだ。
私たちがあなたに期待しているのは、攻撃的な性格と、戦闘能力だけです。
それを活かせるものならばと考えているだけなのに。
これほどまで鈍すぎちゃ、話にならないな。