平日の夜、S市。
スーツに薄手のコートを羽織った中年男Aが、地下鉄の出口から上がってきた。
歩道にはまばらな人通り。
Aがやや足早に進むと、通行人は怯えるように脇へよける。
何人かはAの顔を睨みつけ、しっかり人相を覚えておこうとする。
Aだって愛想笑いなんて返さない。こんな場所からとっとと立ち去ってしまいたいという強い意思を感じさせる。
店が途切れてくると暗がりも増えてくる。
Aは速度をゆるめない。
不意に、20メートルほど先の脇道から警察官が2名現れた。
Aより少し前を歩いていた、もう少し年配のサラリーマンBが慌てて駆け寄り、警察官の腕にしがみつきながら、Aを指差して何事かわめきだす。
A、警察官に制止され、職務質問を受ける。
Bはまもなく消え去った。
Aは5分くらいかけて会社員であることを説明し、この先に自宅があって早く帰りたいのだと警察官を納得させる。お互いヤレヤレという顔で散る。
Aは次の角を曲がった。
物陰から男Cが出てきた。
Aは肩をつかまれ、押さえつけられ膝を地面に突く。
左足に衝撃。
叫んでいるうちにCは消え去り、さきほどの警察官2名が走ってきた。
近隣の住民が窓からおそるおそる覗く中、規制線が張られ、救急車が呼ばれ、鑑識係も到着する。
今回も、警察犬は嗅跡をロストした。
その地点で男Cは待機していた車輌へ乗りこんだのだ。
ここからは、その車内での対話。
C:やれやれ。5分もロスした。
エキシビションには間に合うか?
D(運転手):道が混んでる。
間に合わなければ、あきらめてね。
E(助手席):ショートカットはしないように。安全運転厳守で。
D:わかってます。抜かりなく。
E:ヤソエモン、首尾はどうだった?
C(ヤソエモン):抜かりなく。
もう少し難度高くてもいいよ。
E:おまわりさんがかわいそうだろ。
こんなチュートリアルも解けないのに、もっと複雑なパズルを与えたら泣きだしてしまう。
C:泣きじゃくらせよう。
鍛えたいなら、その程度の試練は必要だ。
E:それもたしかに一理あるがな。こちらにだって準備する時間が必要なのさ。
寒くなってきたから早晩、屋内でのミッションも取り入れていくが、逃走経路の確保が難しくなるケースも増える。
C:燃えるねえ。どんどんトライしてみたい。
3名は帰投。
いつぞやヤソエモンと堀部金丸が戦った闘技場。
スクリーン越しの観覧場に入ってきて、空いた席に座る。
先客は20名ほど。半数あまりは黒装束。
ボスの
健三朗:それでは最後のプログラムだ。
両人、ゲートを開けるから前へ進め。
闘技場の両端から男がひとりずつ出てきた。F・Gとする。
Fはレスリング風のユニフォームとシューズ。素手。保護具無し。
Gは重武装。ヘッドギアで表情が見えない。金属バットを握りしめている。
健三朗:マゴダユウはサークル外で相手を攻撃してはならない。
イスケは私が制止するまで何をしてもよろしい。
では勝負、はじめ。
F(マゴダユウ)はサークルの中央で悠々と腕を組む。
G(イスケ)、おそるおそるにじり寄る。
観覧場のギャラリーは口々に分析をする。
マゴダユウには新兵器が搭載されているようだが、誰もその詳細を知らない。
イスケも教えられてないようだ。
相手がいったいどんな技を使ってくるのか。攻撃される前にヒントを見つけだし、戦法を考えねばならないという趣向だ。
イスケが踏みこんできた。
マゴダユウ、構えの姿勢から前へ出る。
イスケの足さばきはすばやく、瞬時に横へ回りこみバットで一撃を見舞う。
マゴダユウ、横転。
強烈なダメージをくらった。のたうち回る。
イスケ、サークル外へ逃げ、様子を伺う。
まだストップはかからない。致命傷ではないということだ。
いったい、マゴダユウの技とはなにか。
イスケ、追撃に移る。真上からバットを振り下ろした。
マゴダユウ、かろうじて避け、跳び上がってイスケにタックル。
イスケ、マゴダユウの頭を掴んで引き剥がそうとする。
マゴダユウ、両手でイスケの首に触れた。
途端、イスケの動きが止まる。
慌てて後ろへ飛びすさるイスケ。
首を押さえてマゴダユウを睨みつける。
観覧場で誰かがつぶやいた。
「マゴダユウの必殺技は電気ショックだな。
あいつ、人間スタンガンだと思うぜ」