すばらしい新世界、終焉   作:ひねもす@HAMELN

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BNWE-050.議会庁舎

日中の惨劇。

その翌日、県庁舎へは見物客が押しよせた。

 

さりげなく18階の展望ホールまで昇って降りてくるだけのカップルなど、かわいいものだ。警備員をものともせず7階の会議室前で動画撮影を始める者も数知れなかった。

影響は各階に及び、外出する用事をつくる県職員が続出。居残り組は怖いので肩を寄せ合い、特に日頃煙たがられているキモ男ほど、この状況をむしろ喜んだ。

どうせ毎日毎日判で押したような単調仕事の繰り返しだ。非日常はもっと歓迎されていい。自分が被害者になりさえしなければ。

そんな珍獣は見物客たちの目に触れることも恐れ、隅に縮こまって縮こまって縮こまって過ごした。

 

議員バッジを見せつけながら乗りこんでくる老人もいた。いかついボディガードを連れている。

議員は、被害者が所属する課の長をつかまえて根掘り葉掘り詳細を尋ねた。素人とは格が違うようだ。

用が済むと、上品に礼を述べて去っていった。

これが議員か。さすがといえよう。

決して悪い印象はのこさない。

わかっているね。

 

県庁舎の隣棟が、議会庁舎だ。渡り廊下でつながっており、議員はそちらへ入っていく。

殺風景な県庁オフィスと比べると、議会庁舎は華やかで居心地もよい。

ちゃんとした理由がある。

県民の中でもとくに高額納税者は、どちらへもよく訪れる。そして県庁職員が談笑していたりすると、怒りだす。

君たちの給料はわれらの血税ぞ、無駄に使うな!と。

逆に議会庁舎がみすぼらしいと、頼りにできるのかね?と力不足を疑う。

だいたい議員になれるのは県内の実業家で金の使い方を心得ている者というのが常識だ。もっともっと稼ぎたいし稼ぐ能力もあるのに法律や条例がうまくできていないから、自分たちで都合よく変えてゆくのである。

ただ公選制である以上イメージを大切にせねばならず、県民の相談にいつでも乗りますとアピールしておくことも重要。

杓子定規でケチ臭くて、困っている人を盥回しにすることを恥とも思わないロボットが隣人でいてくれるからこそ、議員たちの心証は撥ね上がる。そんな演出も透けて見える。

 

11月前半は本会議日程から外れているが、俗に強硬派と呼ばれる集団が一室で待機していた。

今しがた事件現場を見てきた議員は挨拶をして腰をおろし、説明を始める。

 

原田宗輔:まだ血の匂いがしてましたよ。

いつも雇っている清掃員に片付けを命じただけのようです。

 

柴田朝意:まちがいなく、同じやつの仕業ですか。

 

原田:便乗犯ではありませんね。周到な計画の上で実行されている。

満を持して、明るい陸上へも這い登ってきたというところでしょう。

 

奥山常辰:日光を恐れなくなった吸血鬼か。忌々しい。

習性を特定してどこかへ誘いこむとか、できないものですかね。

 

原田:うーん。囮が必要ですねえ。

過去の被害者と特徴を同じくする、しかし我々とは無関係の誰かを選び出さなくては。

 

兵部宗勝:原田さん、そのジョークは謹んでください。

 

原田:失礼しました。取り消します。

 

兵部:いいですか。24時間態勢で、決してひとりきりになってはならない。

できれば3人以上で固まって動くこと。トイレでも寝室でも、常にです。

いまのところ敵は市内の中産階級ばかり狙っていますが、やがて上流へと向かってくる可能性は充分にある。

最終目標は我々かもしれないのです。

そう心得ておくこと。

 

奥山:最終目標はもっと先にある気がしますけどね。

それにしても県の産業基盤に、特に人的資本に打撃を与え続けてどうするつもりなんだ。敵は。

 

柴田:下剋上による奥州制覇を目論む、トチ狂った野心家の仕業ですかね。

 

奥山:役人については真逆な気もするが。あっちは無能でも被害に遭っているでしょう。

尤も、有能な役人なんてものがいたら論理矛盾になってしまうが。

 

兵部:そこまではあずかり知らぬ。

だが事実、県の発展に寄与してきた企業ばかり狙われて経営者たちは泣き暮らしている。陳情がひっきり無しだ。

なんとかせねばならない。だからこそ警察の機動力を強化することが急務で、これは今月中に手配します。

ね、原田さん?

 

原田:はい。順調に進めていますよ。渡辺(わたなべ)くんを本部長に据えます。

 

柴田:何者ですか。

 

奥山:階級は警視長でしたっけ。敏腕だそうですね。

 

原田:蛇の道は蛇。その基準で選びました。

名を挙げるチャンスだと本人もはりきっています。

乞う御期待。

 

兵部:ただ土地には不慣れだからね。我々が手助けする必要もあります。

原田さん、そちらは準備されてますか?

 

原田:警察の捜査から漏れてる被害者もいますので、独自のデータをまとめているところです。

ところでM県を妬む勢力を犯人像と考えるならば、Y県、I県、F県もかな。あそこらへんが金を出してテロ集団を雇ったと考えると、辻褄は合うんですがね。

 

柴田:原田さん。黒脛巾組(くろはばきぐみ)に探らせることはできないんですか。

 

原田:買いかぶらないでください。ハバキは忍者じゃない。殺人ロボットなんかと戦う能力など、持っちゃいませんから。

貴重な手駒に、危険は冒させません。

 

兵部:まずは県内での捜査を徹底的にやってもらう。

目星がついたら、そこから先は知事に動いてもらう。

ひとまずそんなところですね。

我々は徹底的に、犯人をお白州へ引き出しますよ。

絶対に赦しませんし、逃がしません。

 

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