M県栗原市の山間道路で発生した大惨事は、全国へ向けて大きく報道された。
パトロール中の警察官が不審者を発見。
職質すると、40日ほど前に誘拐された男だと名乗る。
監禁されていた場所から逃げてきたところだというので、パトカーへ乗せ、最寄りの警察署へ向かう途中だった。
惨劇ポイントから約1km離れた路上2ヶ所で、土嚢が転がされて通行を邪魔していた。
こちらでも事故が起きていた可能性は高いが、それぞれ最初に通りかかった車が注意しながら停止し、土嚢を脇へ移動させ、ドライブを再開する。
するとほどなく前方に、炎上するパトカーと血まみれでのたうつ2名の警察官が現れたというわけだ。
惨劇ポイントより下り側から走ってきたトラックの運転手は、白いミニバンとすれ違ったことを証言した。
犯人たちの車である可能性がきわめて高いのだが、ナンバー等は覚えていないという。
通報を受けてすぐに県警機動隊が広域警備を敷き、主要道路などの検問も開始した。
だが有力な手懸りを掴むには至らなかった。
ただ報道の効果もあって市民がとても協力的であったことは特筆に価しよう。
県内各地から様々な情報が寄せられ、友達の少ないミニバンドライバーはほぼ漏れなく刑事の訪問を受けてアリバイの立証に四苦八苦した。
緊急搬送された警察官2名の応急処置がすむと、ただちにこちらからも事情聴取が行われる。
足の砕かれ方と目を潰した酸の組成から、S市の連続傷人犯と同一グループと断定された。
殺人ロボットはついにS市より外にも現れたのだ。
ただ従来と異なる点も、いろいろあった。
S市では一度にひとりしか狙わず、大人であれば左足を踏みつけ、子供に対しては右目だけを失明させる。この法則を外れることはなかった。
今回はこれらをミックスしており、両目とも潰す、という凶悪さも初のケースである。
パトカーを爆弾で全損させるというダイナミックな破壊行為だって、これまでとは異質の匂いを感じさせる。
新型のロボットなのか。
一連の事件はこれからますますスケールアップしていくということなのだろうか。
これまでS市周辺に限りだと思われていた行方不明者の急増も、対象を拡大して調査する必要が出てきた。
詳細な報道は控えさせているが、不審者Hとは本当に拉致被害者だったのだろうか。
パトカーが無傷であれば指紋や毛髪などから科学的に本人特定できたかもしれない。警察官ふたりともが視力を奪われた以上、人相の確認だって難しい。
手懸りは無線で報告された氏名その他補足情報だけである。
たしかに届出の人物と一致する可能性は高かった。
彼は本当に、この山で監禁されていたかもしれないのだ。
敵のアジトは、ここにあるのか。
徹底的な捜索をするべきか。
やれなくはないが、予算と人員がべらぼうにかかる。
警察庁の応援と、この山系を含むI県・A県・Y県との連携も必要だろう。
もっと根拠を集めて取りかかりたいところである。
敵の武装を考慮すれば、より一層の警戒も必要だ。
議論は白熱したが、そこからなかなか進まなかった。
大石良雄:おつかれさん。
寺坂信行:ああ疲れた。
心に疚しいことがなにひとつ無くても、警察から根掘り葉掘り尋ねられるってのは楽しい経験じゃないね。
大石:心に疚しいものがあれば尚更だろう。
寺坂:そりゃそうだ。
鋼の精神を持つ狂熱的な宗教家でもなけりゃ、自分を清廉潔白だと信じこめるなんて、ありえないからね。
大石:ま、仕方ない。これだけ次から次へと社員が行方をくらませてんだ。
なにかあると疑うべきが治安警察の仕事だろう。
寺坂:黒幕に伝えてくださいよ。
もう少しスローペースでお願いしますって。
大石:言いがかりはよしてもらいたいな。
俺は誘拐犯とはお友達なんかじゃない。
寺坂:そりゃただのお友達ってつきあいじゃないだろうけどさ。
大石:堀部について訊かれたか。
寺坂:え?ああ、訊かれたよ。
顔つきとか、クセとか、話しぶりとか、細かいことをいろいろ。
大石:刑事さんてのも大変なお仕事だよな。
それだけやっても結局、上司への貢献度でしか評価されないんだから。
寺坂:へえ。そういうもんなの。
大石:鋼の精神を持つ狂熱的な宗教家コンテストなら、あいつら上位を独占するよ。
寺坂:なるほど。そんな精鋭になれなきゃ住んでいられない世界だろうしね。
大石:ところで俺は堀部さんと会ったことが無いんだが、どんなじいさんだったんだ。
寺坂:良くも悪くも、ミスター電巧堂だったよ。
あの人がいたから変わらなかったし、変えられなかったし、変わろうともしなかったんだけどね。
いまさら戻ってこられても困るけど。