11月20日。
前M県知事が任期満了で勇退し、新人の伊達綱宗氏に交代した。
貞山公が祀られている
その中に30分間、県議会議員たちとの懇親会が組みこまれていた。
本会議や常任委員会などで今後いくらでも懇親する機会は訪れるが、だからこそ初日にも挨拶しておくべきなのか。
重要度は低いと見做され、記者たちは写真だけ撮って出ていった。
実質、休憩タイムだろう。
そう思わせておくことも重要なのだ。
兵部宗勝(議長):綱宗さん。12月1日に県警本部長が交代します。
すぐに動いてもらうから、事務処理が滞らないよう万全を整えておいてくださいね。
伊達綱宗(知事):藪から棒ですね。
特に準備しておくことはありますか。
兵部:
山狩りです。12月中に、一気に集中して行わねばなりません。
綱宗:例の、警官2名が襲われた件ですね。
決め手が見つかったのですか?
柴田朝意(議員):なに呑気なこと言ってんです。手懸りを見つけるために動くんですよ。
パトカーが爆破された地点より山頂側に、不審者Hの監禁されていたアジトがあるはずなんだ。
今の本部長はすぐ調べるべきだったのに、すっかりビビってやがる。
綱宗:あんな敵を追い詰めたら、次は死人が出ると思いますよ。私は慎重論へも配慮をしたいです。
兵部:テロリストたちは、これまで人を殺していない。
今度の2人も、口を塞いで然るべきなのに、命は奪われなかった。
これは大きなヒントだと思うのですがね。
それに、死者が出てもいいんです。
もう擁護する者はいなくなる。全国民がテロリストを殺人者として堂々批難する。
その転機となるでしょう。
充分に意義のある、尊い殉死と言えませんか。
綱宗:ううむ。あの、新しい本部長も、そこまで強い決意で臨まれているわけなんですね?
原田宗輔(議員):世界の平和を守るため、容赦をしない熱血漢だ。
だから彼に全権を委ねて協力してほしい。
すべきでしょ。
綱宗:は、はい。わかりました。
協力させていただきます。
原田:それでね。
……兵部さん、ほんとにいいかい?
あの話、しちゃうよ。
兵部、うなずく。
原田:パトカーは爆破されたんですが、その爆弾の種類が判明しています。
綱宗:え?ほう。
原田:M26。ぴんときますか?
綱宗:いえ。
原田:陸自が採用している手榴弾です。
で、どうやらね。S市駐屯地の倉庫から、ひと箱盗まれてたらしいんだ。
綱宗:げ!まさか、そんな。
原田:最終確認されてるのが7月の定期点検。
びっくりでしょう。
で、今そっち方面をつついて陸自も山狩りに協力させようとしているところです。
数日中に総監部からアクションあると思うんで、知事として即承認すること。
余計なことは一切考えなくていい。
わかったね?
綱宗:は、は、はい。
原田:よし。これで今日伝えるべきことは全部伝えました。
伊達綱宗知事、着任おめでとうございます。
M県の未来を共に輝かせていきましょう。
では、これにて。
議員たち、ゾロゾロと部屋を出ていく。
今回セリフの無かった奥山常辰議員も、知事と固い握手を交わし、応援を態度で示して退場した。
かれらは実業家でもあるので、山狩りに伴う様々な準備で忙しいのだ。
自分たちと一緒では知事も気が休まるまい、という配慮もあった。
たしかに知事はかなりの疲労を感じていて、崩れ落ちるようにソファへ沈む。
こんな激務が待っているとは、さすがに予想を超えていた。
4年間も耐えられるだろうか。
しかし有権者たちが投じてくれた票の重みを考えたら、挫けてなどいられない。
覚悟の上じゃないか。
それにしたって……いや、余計なことは考えまい。
おれは男だ。
がうがうがう。
蛇足になるがS市の陸上自衛隊駐屯地は、明治4年の東北鎮台をルーツとすれば150年以上もこの地に根ざし、兵士や隊員の養成に励んでいる。
東北地方5県をカバーする東北方面隊の司令部でもあり、平時でも防衛警備および災害派遣任務への備えを怠らない。
だが指揮監督権を有するのは日本政府の内閣防衛大臣。
M県知事から直接は出動要請できず、東京を経由する形で依頼しなければならない。
原田議員にはそれができるということか。
なんと頼れる男であろう。