すばらしい新世界、終焉   作:ひねもす@HAMELN

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BNWE-057.鶺鴒(せきれい)

大石良雄:朝晩が寒い。

さすが東北だな。来るんじゃなかった。

 

寺坂信行:まだ11月ですよ。ずっといる気なら慣れてください。

 

大石:冬は暖房代もかかるし、タイヤも交換しろだの、出費がかさむ割に稼ぎも悪くなるだろ。

なんでこんな土地に住もうなんて考えたんだ。

 

寺坂:喧嘩売ってます?

南国人からは東京だって同じように言われるでしょ。

 

大石:奥州(おうしゅう)平泉(ひらいずみ)ってのはI県か。もっと北だよな。

物好きにもほどがある。

 

寺坂:鎌倉時代、夏なら馬で一ヶ月かければ首都から平泉まで到着できたみたいですよ。

だから充分、幕府の勢力圏内と見做されたわけです。

 

大石:ベルリンからモスクワまで、みたいなものか。

それなら夢も抱くわな。

 

寺坂:雪が多いと水源は豊かだし、果実は糖度が高くなるし、四季が強調されて生活にメリハリがつきます。

悪いことなんてひとつもありませんね。

 

大石:雪を怨めしいと思うことはないのか。

 

寺坂:南国人が日照りを呪いますか?

……呪うか。

 

大石:呪うだろ。

自然とは、本質的に過酷なものだ。

 

寺坂:そっかあ。それなら、ますます東北は住みよい楽園だと感じますね。

 

大石:伊達一族てのはずっとこの地方の領主だったのか。

 

寺坂:初代伊達一世は鎌倉勢力の家臣だったみたいです。

800年ちょっと前ってことになるのか。

東北遠征して、この地に住みつきました。

 

大石:17代目の政宗は、S市じゃなくてY県米沢(よねざわ)って土地の生まれだと書いてある。

 

寺坂:そうですね。15代目の保山公(ほうざんこう)が米沢へ本拠地を替えました。

その孫である政宗公が秀吉の命令で岩出山(いわでやま)へ移り、徳川の世になってから、現在のS市を切り拓いて巨大な町に変えたんです。

 

大石:岩出山ってのはどこだ。

 

寺坂:今は広域合併して大崎(おおさき)市の一部になってますね。

岩出山は、政宗公不遇の時代を象徴する地名です。

 

大石:懲罰か?

 

寺坂:秀吉は政宗公から、米沢も黒川も取り上げて蒲生氏郷へ呉れてやったんです。

大崎一帯は、その直前の大戦闘で荒廃してました。

我が家を奪ってぬくぬくと暮らす氏郷を怨みながらも、政宗公は約10年間、ひたすら復興事業を指揮していたわけです。御立派でしょう。

 

大石:ふうん。随分と詳しいね。

 

寺坂:当然ですよ。

 

大石:岩出山についてもう少し聞かせてくれ。

そんな懲罰を受けた理由と、直前の大戦闘ってのは、つながるのか。

 

寺坂:ええと。

秀吉は小田原を制圧したあと、参陣しなかった、または北条氏に味方した東北の領主にお仕置きをします。

大崎も対象地域となり、秀吉の家臣だった木村なんとか氏が新執政官として送りこまれてきました。

しかし治安を良化できず、その地の旧家臣団や民衆が猛反発して木村を人質にとる。

この暴動鎮圧を、政宗公と、黒川城を与えられたばかりの氏郷が、命じられたわけです。

 

大石:黒川は現在のF県、会津(あいづ)若松(わかまつ)市。

小田原参陣の前年、伊達が支配地域に加えた。

 

寺坂:冬に入ったばかりで、蒲生軍には寒冷地対策の備えがなかった。

伊達軍は悠々と先行して木村を救出し、暴動も鎮静化させます。

氏郷に対する意趣返しのつもりもあったでしょう。

しかし出遅れたくせに黒川城では政宗公への反感情が盛り上がる。

氏郷は「今回の暴動は最初から最後まで伊達による自作自演だった」という報告書を秀吉に送りました。証人をデッチ上げたり、政宗公直筆の指令書を捏造したり、やりたい放題というヒドさ。

でも氏郷は秀吉に長年仕えた忠臣なので、軍事法廷では政宗公が圧倒的に不利。

京都へ呼びつけられた政宗公。秀吉の前で、自分の直筆文書には必ず小さな穴を開けているという秘密を白状します。

氏郷の提出した文書は偽物であることが証明されました。お見事!

これが鶺鴒の逆転劇です。

なんとも天才的な防衛術ですよねえ。

 

大石:しかしその後、氏郷には米沢まで与え、政宗には岩出山を押しつけるというペナルティを科しているわけだよな。

おかしくないか?

 

寺坂:秀吉も悩んだと思いますよ。

ひねくれてるけどかわいい子分と、才能ある武人。どちらも失いたくなかったのでしょう。

そこで翌年、追加ミッションを与えて信用度を再検証します。

大崎の掃討と、もっと北部での反乱鎮圧。

ギクシャクしている伊達軍と蒲生軍は連携をとりませんでした。

伊達軍はまず大崎を攻めますが、相当手こずったみたいですね。ひと夏かかっている間に、蒲生は徳川軍などの加勢も得て北方を平定。

さっきのペナルティ云々はこの年の評価によるものです。

タイミングが悪かった。蒲生に大崎をやらせておけば、立場は完全に逆転していたはずですから。

 

大石:ますます納得がいかない。よほどの弱味でも握られてなけりゃこんな懲罰、黙って受けやしないだろう。

 

寺坂:今の立場でこれ以上中央に反抗するのは分が悪い、と政治的配慮をしたのではないでしょうか。

 

大石:真実、政宗が大崎勢とつるんでいて自作自演していたのなら納得がいく。

秀吉には赦してもらえたが、それ以上の証拠が出てきたら困るから、大崎の民衆を一人残らず口封じしなくてはならなかったんだ。

政宗はむしろ、徳川や前田が「手伝ってやる」と言っても鄭重に断ったんじゃないかな。

 

寺坂:ひ、ひどい風評被害だ。ま、政宗公がそんな極悪非道なこと、するわけがない!

 

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