すばらしい新世界、終焉   作:ひねもす@HAMELN

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BNWE-066.籠城戦

N市の電巧堂社屋。

3ヶ月前とは随分、雰囲気が変わった。

 

まず2階オフィス。

人員が激減したから空き机も多いのだが、営業課は1名につき2席ぶんのスペースが与えられ、3~4台のモニタを並べて各自で戦略を練っている。

5名いて、概ね出かけている時間の方が長い。

 

フロア奥には間仕切りを作って、ゆったりくつろげるスペースを設けてある。ここで仮眠したり、打ち合わせをすることもできる。

通路ドア側は事務課という呼称になった。寺坂信行と大石良雄の2人で構成される。最近は大石の方が上役のように見える。

寺坂の作成した各種アプリケーションがルーティーンワークの大半を自動化させたため、人力で補うべき部分はごく僅か。

かれら正社員の他に、大館から派遣された非正規スタッフがちらほら。清掃や倉庫業務などを分担する。指示は事務課のどちらかが行う。

 

1階の大部を占める旧・製作課の工房が倉庫に模様替えされており、その一角には非常発電装置。各種迎撃用武器もここへ備蓄されている。

敷地全周囲の塀、および駐車場には目立たぬように監視機器が張り巡らされているが、それらのコアとなる機械設備が厳重なセキュリティの中で静かに動き続けている。

施工業者は大館が手配した。数日しか費やさず、鮮やかな手際だった。

この会計処理は寺坂が担当し、税務署や労基に提出する上で不備のないよう仕上げられた。

すっきり整合性のとれた、怪しさのかけらもないデータだ。

近所でも、ただの外壁工事だとしか思わなかったろうし、そんな光景もすでに忘れているだろう。

 

1階食堂内には本格的な宿泊所が用意されている。

使用履歴は自動で記録されるので、許可などとらなくていい。

同じ仕組みでタイムカードも撤廃された。

位置情報などトレースログは残るが、基本、会社の要求する業務をクリアしてさえいればそれ以外は自己管理で良しとする姿勢だ。

 

こんな方式は合う人・合わない人を選別すると思うが、不適合者は全員辞めさせたあとだから、特に問題は無い。

ここまでするのは、できるのは、中小企業だからである。

電巧堂は株式会社だが上場はしていない。

管理人や出資者が増えれば増えるほど拠点の要塞化が難しくなることは自明だ。機能的な会社にしたければ、まずは人員を絞り込むところから始めましょう。

なぜかこの逆をしたがる経営者が多いのだけれど、お手本を示しておくので参考とするように。

 

12月22日の朝。

大石が事務課の空き机をチェックし始めた。

引き出しの中をすべてあらため、椅子の座り心地まで確かめる。

誰か新しく入ってくるのかな、と寺坂は思ったが、特に質問はしなかった。

 

やがて乗用車が来訪。

服装込みで身長166cm/体重80kgの男性1名が玄関のロックを解除し、素早く2階へあがってきた。

寺坂はモニタでチェックしていたが、その人物の顔に見覚えがあったので、警戒心を解いた。

 

来訪者はオフィスのドアを軽くノックしただけで、平然と入ってくる。

「思ったほど寒くないな。平野部では雪が降らないって本当なのか」

 

寺坂:田村さん!

 

大石:おつかれさまーっす。

 

寺坂:どこに行ってらしたんです?

 

田村清顕(来訪者):あっちこっちな。忙しかったんだぞ。

今日から、またここを根城にする。

ふーん……ずいぶん、さっぱりさせたな。

 

大石:奥で仮眠もとれますよ。

 

田村:でも籠城戦できる仕様じゃないだろ。こんな砦で居眠りなんかしたくねえ。

 

寺坂:ああ。なんかまた、いろいろやらかすつもりなんですね。

 

田村:何をやらかさせたい?

それとも、手伝ってやるぞ。

 

寺坂:決まってないんですか?

あ、栗駒の熊を守ってやれないですかね。

 

田村:クマ?

 

大石:県北の山で今月大規模な捜索をしてたんですよ。

そこで多くの熊が殺されたって、こいつ、胸を痛めてるんです。

 

田村:ああ、あの件か。

もう終わったんじゃないか?

 

寺坂:山狩りは終了したようですが、2週間で100頭以上の熊が、何も悪いことしてないのに虐殺されたらしいんです。そんな無慈悲な人間どもに、どうか裁きを!

 

田村:あのな。悪だの善だの、罪とか罰とかってのは、人間が一方的に決めるもんだ。人間が望みさえすれば、何も悪いことをしていない熊なんて存在しないんだよ。

で、何をどうしたいんだ。

 

寺坂:うう。熊がこれ以上脅かされないように守ってやりたいんです。

 

田村:なら山に入って熊の身代わりになっておまえが撃たれろ。

大石、野生の熊ってのはショアコンの対象になるのか?

 

大石:なるはずですよ。生きとし生けるもの全ての魂を尊重しよう、てのが主旨だったはずですから。

 

田村:人間てのはほんと決めたい放題だよな。

というわけだ寺坂。1月1日からショアコンが施行される。人間の人間による人間のためのバカげた規則がまたひとつ増えるんだ。熊も対象だってよ。

それでいいじゃないか。

 

寺坂:あんなコンプライアンスがひとつできたくらいで、いったい何の解決に役立ちますか!

 

田村:知るか。

それこそ人間同士の問題だろう。おまえたちで勝手に相談し合って運用しろ。

 

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