生類憐れみのコンプライアンス。
一、あらゆる動物の虐待を防止し、動物が適正に取扱われることを目的とする。国民の間に、動物を愛護する気風を招来し、生命尊重・友愛及び平和を希求する情操を
二、動物が命あるものであることに
三、動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者としての責任を十分に自覚して、その動物を適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように務めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を与え、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない。
大石良雄:だってよ寺坂くん。
野良ッ熊も対象とみなし適正に取り扱うべき、らしい。
田村清顕:ただし熊が人間様の領域へ侵害してくることは明確に防止すると謳っているな。
大石:正当な理由があれば、殺し、傷つけ、苦しめてもいいのか。
ちゃんと逃げ道を用意してくれているのは、ありがたいね。
田村:罰則は無い。
西暦1999年に制定された動物愛護法と動物健康衛生諸法、ちょびちょび追加される総理府令や環境省の告示。それらと比べて今度のはコンプライアンスだからな。ソフトパワーだ。
宗教性を纏った精神攻撃に頼ってるぶん余計にタチが悪いともいえるが。
大石:ペットショップが大量閉店に追いこまれるかと予想してたんですが、そんな動きはありませんね。
田村:ないよ。これ、仕掛人はペット業界らしいから。
寺坂信行:え?
田村:やっと反応した。
大石くん、どうしてペットショップがダメージを蒙ると?
大石:動物虐待を糾弾するとしたらサーカスかペットショップが一番攻撃しやすいから、という漠然とした印象でした。
田村:警察犬や盲導犬の訓練所は?
大石:あれも犬をロボット化させる極致ですけど、世間総出で見ないフリするでしょうな。競馬場や釣堀も。
田村:動物愛護法は、それまで規制の対象外だったペットショップを過剰に締め上げる法律だった。
その砲火をくぐり抜けて生き延び、力を蓄えた業者が20年後に空前のビジネスチャンスを掴む。
わかるかな?
大石:1999プラス20は……ああ、コロナの巣ごもり需要だ。
外で遊びづらくなった単身者が、アパートで、やたらペットを飼い始めたんですよね。
田村:こんな法律なければもっと稼げるのに、と忙しいさなかでも憤怒を滾らせていたはずだよ。
ともあれペット業界はひと財産築いて、政治に介入できるほどの力をつけた。
さて、何をする。
大石:憎き動物愛護法を撤廃。あるいはせめて改正。
……難しそうだし、地味かな。
田村:寺坂くんは、わかるか。
寺坂:その答えがショアコンなのだとすると、動物愛護法を更にこじらせた倫理規範がいったい誰にどんな利益をもたらすんでしょう。
田村:いい線ついてる。もう少し深く考えたまえ。
ペット業界は得をする。
そこから逆算するんだ。
大石:面倒くさがってペットを飼うのをやめる家が増えるイメージしか湧かない。
どうしてペットショップが儲かるんだ?
寺坂:そうですよね。
コンプライアンスが施行されたら野良犬や野良猫が平気で町なかをうろつくようになる。
ゴミ捨て場を荒らされたり、子供が噛みつかれても黙って耐えるしかない。
そんな社会では、むしろ儲けるなら何屋を始める?から考えましょうか。
大石:野良犬による狂犬病の恐怖を煽れば、ワクチンをつくる製薬会社と、医者が儲かる。あと獣医もな。
寺坂:獣医ならペット業界と持ちつ持たれつだ。
それから、役所が野犬対策するとなれば、委託する捕獲業者やブリーダーに仕事が回せる。
大石:苦痛を伴わない死なら許されるし、むしろ推奨されるんだ。
肉屋にはその理屈が適用され、免除される。
安楽死の専門業者が増えるんじゃないかな。
人間以外にも需要が出てくるわけだから、はりきるだろう。
寺坂:ペットを持て余している家庭へ営業して回るのもアリですね。
外聞も悪いから大っぴらに宣伝はしないけど、名簿を手に入れたらダイレクトに訪問する。
「ご不要な子いれば引き取りますよ」って。
大石:そうだ。ペットショップは顧客リストを持っている。
売ったペットの寿命も目安がつくし、店に通い続けてりゃあ不適切な飼い方してるかどうかも目星つけられるだろ。
コンプライアンス違反に問えそうなら、
寺坂:5年もペットを飼っていたら、いなくなってもまた新しい子を欲しくなるものでしょう。
今後、飼う際の諸注意がやたら増えるから、オプションが大量に追加される。
……オプション?
そうか。ペットショップは、コンプライアンスのおかげで、大量のオプションを顧客に強いることができるようになるんだ!
田村:そんなところだ。
車の安全性能を多種多様に義務化することで巨額の市場を生み出しているのと同じ理屈だよ。
複雑怪奇なきまりごとを作れば作るほど、それに付随する商品を増やすことができる。
ルールを押しつけられる者の反対側には、必ず得をする連中がいるんだ。