M県知事・伊達綱宗は、寝ても覚めても黒い男たちにつきまとわれていた。
綱宗:さすがにやりすぎではありませんか。
経費だって、本来の請求であれば、とんでもない料金になるはずです。
通常の警備員を、公人としての行動範囲でのみ、つけていただくようにはできませんか。
原田宗輔(議員):わがままを言う御仁だ。
通常のっていうのは、警備業法を律儀に守る会社が派遣する連中のことを言ってますか。
あんなの公務の妨げにしかなりません。
綱宗:黒脛巾組の皆さんは、ものすごく、よくやってくれていますよ。だからこそ、ありえないとも思うわけです。
通常の警備業務じゃない、あれは。どんなカラクリなんですか。
原田:それは経営上のシークレットでね。
御安心を。労働法には違反していません。
ハバキには、かれらが納得するだけの対価をちゃんと払っています。
うちは警察庁みたいな渋チンとは格が違うのでね。
綱宗:わかりました。そこはもう掘りません。
ただ仕事ぶりが過剰には感じられます。
実は、子供にも泣かれまして。おともだちと遊べなくなって、つらいと。
だからもう少し緩めてもらいたいと……
原田:その隙をテロリストは狙ってくるんですぞ!
子供にはよく教え諭しなさい。それが親の努めです。
あなた公人なんですよ。
しかも事件がここでしか起きてないM県で、最重要の立場にある方だ。
これくらいの不自由は耐え忍びなさい。
綱宗:いったい、いつまで続くんでしょうかねえ。こんな事態が。
原田:警察が犯人を逮捕すればおさまりますよ。それまでは辛抱なさい。
しかし本部長もぼやいてますが、手強い相手です。
まったく尻尾をつかませない。
だから気を抜けないということです。
おわかりいただけますね?
知事との会談は終了。
原田は議会庁舎1階の応接室を出て、3階の議長室へ移動する。
県警本部長が来ていて、兵部議長と談笑していた。
渡辺義俊(本部長):やあ、おつかれさま。
今日はアッサムティーをいただいてるよ。
兵部宗勝(議長):どうだった?
原田:ハバキが怖くて子供が泣いているとよ。
やれやれ、おじいちゃんたちは孫のつもりで見守ってやっているのだってのに。
兵部:老いらくの恋は一方通行になりやすいものだからな。
原田:渡辺くん、捜査の方はどうなっているかね。
渡辺:網にひっかかるのを待つしかない、という状況ですね。
S市内の警邏は最大規模で、24時間休み無く行わせています。制服・私服問わずほぼ全数。機動隊まで総動員でね。
過去の傾向から割り出した候補地を中心に、隈なくやっているんです。
ただ、如何せん広すぎる。人口も多すぎるし、対象者は無差別に近いものだから、防ぎようがない。
なんとか敵がミスをしてくれないかなというところです。
原田:殺人ロボットは犯行後、路地へ逃げこみ、その先で待機している仲間の車に乗り、逃走する。このパターンはずっと同じなんですよね?
渡辺:ええ。おそらく。
兵部:確証は無いんですか。
渡辺:嗅跡が途切れた地点周辺で聴き込みをします。10分以上は停車していたはずですからね。この情報が、意外に集まらない。証言がとれても、車種や色、ナンバーはかなりバラバラです。いったい、どう考えたらいいのか。
原田:その地点で客を乗せたタクシーなども調べてますか?
渡辺:もちろん、市内の全社に当たっています。タクシーは使われていません。実際、そんな不確定要素を計画に持ち込むような連中ではないと思います。
原田:非正規部隊に包囲させるという案はどうなりました。あの、栗駒で雇った派遣たちから選抜したという。
渡辺:ああ。試験的に運用してますが、あまり頼りにならんですな。
原田:やはり候補地が広すぎるから?
渡辺:派遣部隊を使うときは、囮を用意するんです。いかにも狙われそうなサラリーマン役を住宅地周辺で歩き回らせるんですね。まずは練習をさせるつもりでした。しかし派遣たち、相手が殺人ロボットだと気付くとビビっちゃってね。カラーボールをぶつけるだけだってのに。
原田:時給で雇われているくせに、無駄な知恵を働かせおる。
渡辺:そうですよ。栗駒の山狩りでだって、危険度は同じだったはずだぞと。
兵部:そこがクリアできたとしても、S市全体では、罠を何百と展開させておかないと効果が出ないだろうな。
渡辺:ええ。ですが、やれる限りはあらゆる方法を試さなくちゃなりません。