パイオニアは、尊い存在とされる。
語り継がれ、長期にわたり利益をもたらす。
だが先駆者であるというだけでは決して好意的に扱われない。
輝きを本人たちだけで独占する限り、周囲はむしろ妬み、嫉む。
直系のセカンドが登場すると、シリーズものとして扱われるようになる。
サード以降は、追随者が低リスクで仕事にありつける市場をつくり、大いにありがたがられる。
パイオニアの価値が高まるのは、第2弾を登場させ、他者に旨味を分け与えられるようになってからということ。
報道も、この法則に忠実だ。
繰り返された惨劇は、全国のトップニュースを飾り、緊急特番まで組まれた。
大勢のコメンテーターがスタジオに招かれ、放送時間のゆるす限り熱弁を奮い、視聴者たちを釘付けにする。
ほどほどに挿入されるコマーシャルは、一服の清涼剤である。
もちろん経済の循環だって大いに促進されよう。
憎むべきは犯人だ。警察は何をやっている。
純真無垢な視聴者たちはテレビを前に正義感を大いに発憤させ、ほどほどに疲れたら就寝した。
大衆が内に秘めるパワーを、こんな形で消化させてくれる報道は大いにありがたい。それは社会秩序を安定させる働きをもたらす。
警察だってモチベーションを高める。凶悪犯の逮捕へ向けて全力を投入する機運を生んでいるはずであろう。
翌朝の電巧堂。
特にいつもと変わらない。むしろ昨日より落ち着いている。
テレビが全部説明してくれたから、それをただ反復するだけの語らいには面白みがないのだ。
そんなことより、仕事仕事。
寺坂:田村さん。僕は、最終的には君に、既存の全カルテと報告書をデータベースに投入するという作業をお願いしたい。
ただ、まだそのアクセス権を与えることには慎重論が根強い。
そこで、経理とかスケジュール管理表などの地味な分野から改善を進めていって、事務員さん達を味方につけて交渉へ入りたいと考えています。
OKですか?
田村:いいですよ。とっととやっちまいましょう。どんどんください。
寺坂:たすかるなあ。
……ねえ、本当に、1ヶ月経ったらいなくなっちゃう気かい?
田村:そういう契約ですから。
延長前提で考えていたのだったら、残業前提でシフトを組むのと同じくらい愚昧です。
寺坂:まあ、そうだろうね。
君ほどの能力があれば、この先もウチでずっと、なんて考えるわけもないよねえ。
田村:あなたは何が楽しくて社畜をやってるんですか。
寺坂:ううむ……今、グサッときた。
社畜をやってる理由か。
……君ほど強くないから、かな。
田村:強くなろうと考えすらしない人間から比較の対象にされるのは不愉快です。
寺坂:ごめん。
……ところで、もし余裕があれば小学生連続目潰し事件について、また推理を聞かせてもらえないかな。
同じパターンの犯行が2夜、立て続けに発生した。
犯人はなにが狙いなんだろう?
田村:イライラしますね。
あなたはマスコロガシより少しは賢い人種だと思っていたんですが。
寺坂:マスコロガシ?
田村:マスコロガシ。
その下にマスコロガサレ。
合わせてマスコキと称す。
常識でしょ。
寺坂:いや、僕の辞書には載っていないな。
ニュースの受け売りじゃないかって見くだされてることはわかる。もう少し考えて話すよ。
昨夜の犯人も、警察犬の追跡から逃げきっている。
便乗犯の可能性は低い。
そこまで準備して、小学生の右目を潰していく理由とは?
動機は怨恨かもしれないけど、2人の少年には家族親族含めてもさしたる共通点が無いそうだ。
どちらかがカムフラージュか。
2夜目は街じゅうが警戒していた。その中で本命を狙うか?
今後も続くとすれば、特定のターゲットを狙うことはますます困難になる。
だったら1番目の少年が本命だったと考えられる。
しかし……どうなんだろう。
田村:おわりましたか。ごくろうさま。
その程度のつぶやきはSNSへ放流したらとっととおやすみしてください。
ヤレヤレ。
寺坂:きびしいなあ。
ねえ、ひとつでいいから田村さんの推理を聞かせてもらえないかな。
そしたら、もう邪魔はしないから。
田村:機捜がS市へ来ています。
機動捜査隊。警視庁刑事部の精鋭たちですね。
所轄署の捜査本部にも顔は出しますが、独自の視点で次の犯行地点を予測し、網を張っている。
そんなところへノコノコ歩いていかないように。
寺坂:な……そんな情報を、どこから?
田村:知ってる顔を見かけたんですよ。
もちろん、声なんてかけてませんが。