ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。 作:稲荷竜
「うーん、やっぱりボクのデータにあれへんわ」
黒い魔法少女は、なんなのか。
新しい敵は、なんなのか。
さすがにわからないことが増えすぎた
これまでは遠慮があった。
この妖精たちは、忙しいのだ。
見た目はもこもこしたぬぐるみのようなもので、くれあの妖精はピンク色でメガネみたいな模様が目の周りに入った二頭身のリスだ。
全体的なサイズはくれあの手のひらに収まるぐらいに小さい。
移動は基本的に徒歩か駆け足か、転移魔法になる。
転移魔法──あの黒い魔法少女が使えて、くれあも、パートナーの
『魔法使いの適性』が必要な技術らしい。けれど、妖精たちはそもそも、魔法世界の住人なのと、あと、質量が転移魔法の難易度に関係しているらしく、軽い妖精たちは、くれあたちよりも、転移の難易度が低いのだとか。
この妖精たちが何をしているのか、くれあは具体的なところを知らない。
ただにじみ出る雰囲気が『疲れたおじさん』なので、かなり忙しいのは察せられる。あと、『具体的なところを知らない』というのは、前に実際にやっている業務を聞いたところ、何かものすごい量の業務を矢継ぎ早に告げられてしまって、覚えきれなかったというのがある。
その妖精を呼び出してまで『黒い魔法少女はなんなのか』『新しい敵はなんなのか』を聞いた。
その答えが、『データにあれへん』だった。
くれあの部屋のガラステーブルの上で、妖精サイズのノートパソコンみたいなものをかちゃかちゃしながら、ピンクのリス妖精が「うーん」とうなる。
「黒い魔法少女の方は『ディメンション・ウィッチ』と仮に呼ぼか。ウィッチの正体もな、わからへんねん」
「……魔法少女って、妖精が見出してなるもの、じゃなかったの?」
この質問をしたのは、くれあの向かいに座っている、いさみだった。
いさみに力を与えた妖精はここにいない。どうにもフィールドワーク系が担当らしく、一匹で例の廃病院に行って、調査をしているようだ。
その調査結果のデータがリアルタイムで送られてきており、それをピンクの妖精が分析にかけ、結果を話す──ということが、今、行われている。
ピンクのリスは目元のメガネみたいな白い模様を掻いて、「それやねんけど」と前置きした。
「実のところ、ボクらにはそういう不思議な力はないねん」
「魔法世界の妖精なのに!?」
「そ、魔法世界の妖精なのにや。ボクらの世界で魔法言うたらアレやねん。えーっと、道具使うもんでな。だからな、キミらを見出したのは正確に言えばボクらやなくて、キミらに渡した変身アイテムで、ボクらはそれの反応してる先を追って、結果としてキミらを見つけたった感じ」
「……じゃあ、あなたたちがいなくても、ステッキさえあれば変身できるの?」
「実際、ボクらほとんどおらんやろ」
「そうだけど……!」
いさみの中で何かしらの前提条件の破壊があったようだった。
くれあはショックを受けるいさみを見て苦笑したあと、ピンクの妖精に問いかける。
「じゃあ、あの子……ウィッチのそばには妖精はいないの?」
「
「違法妖精……」
「剣と魔法の世界にだって法律はあんねんぞ」
「それは、そうかもしれないけど……」
「……ああ、それとな、調査結果が出たわ。あの廃病院、『跡地』や。魔術工房の痕跡があったわ」
「……それはつまり、悪い人たちの秘密基地、っていうこと?」
「ん? そやぞ。あれ、えーっと、どこまで話した? ボクらがキミらの言うとこの異世界から来たこと、この世界の常識をゆがめようとしてる勢力がおること、その目的がこの世界を連中の新しい領地にすること、ぐらいまでは言ったか?」
「うん」
「すまんな、この世界で起きてることまるまるイレギュラーでマニュアルの用意がないねん。連中の目的はこの世界を自分たちの領土にすることで、やってることが侵略やから、『侵略拠点』に物質的な場所が必要になんねん。で、ボクともう一匹で基本的には『侵略拠点』を探してんねんけど、その『侵略拠点』を、ボクらの方では『魔術工房』って呼んでんすわ」
「……敵は魔法使いなの?」
「うーんと、ボクらの世界では基本的に魔法を使うのには道具を使う、って話したな?」
「うん」
「逆にな、道具を通さない魔法が違法やねん」
「そうなんだ……」
「まあ『燃費が悪い』『危険』『環境汚染が進む』『世界のエネルギーが枯渇する』ってあたりが理由やねんけど、そのぶん、強力な魔法が使える。生身で魔法使うとな」
「……」
「この世界を侵略してる連中は、『生身で魔法使いたい連中』でな。まあ連中の信じてる神の教えに根差した考え方やねんけど……どうにかこうにか、ボクらの世界では排除に成功しかけた。でも連中は、苦し紛れにこっちの世界につながる穴を空けて逃げた。そんで今、この世界に被害が出とる」
「…………」
「責めてくれてええぞ。ボクらの不手際やからな。まあ『想像できるかそんな手段』って感じやってんけど……」
「……それで?」
「話を戻すとな、連中は『魔法使い』やけど、その中でも『道具を使わない魔法を信奉し、使おうとする過激派』で、ボクらはそいつらを『
「初めて聞いた」
「このへんの呼称とかは教える優先順位低いからな。対応力に直接的な関係あらへんし」
確かに、相手の名前や呼び名を知らなくても戦うのに問題はない。
この妖精たちはかわいい見た目でかなりドライでクールだ。悪意がないのはわかるのだけれど、無駄なことに労力を割こうとしない感じがある。
その結果、くれあたちは持っている情報が少なかった。
……まあ、あの黒い魔法少女──ウィッチと、新しい敵については、
「やっぱりデータにはあれへんな」
ということで、知識がないのは、妖精たちの説明不足ばかりが原因ではないようだけれど。
「
「……」
「敵がこっちの世界で新開発した新しい技術が実戦投入された──ってのがボクの推測になる。……すまんけど、厳しい戦いになる」
「……だったら、力が欲しい」
「…………」
「厳しい戦いになる──それどころじゃ、なかった。戦いにさえ、ならなかった。……力が、必要なの。どうにかならない?」
「ボクな、キミらのこと好きやねん」
「……? ありがとう」
「だからあんま、負荷のかかることしてほしくないねん。こうしてやってもらってる時点で、だいぶ心苦しいからな」
「……」
「でもま、『技術的には可能』って言わなあかんか……。ボクらの世界の神サンの加護をもう少しダウンロードすれば、出力はあがる。ただ……エグいで、負荷」
「やるよ」
くれあは、ウィッチの冷たい視線を思い出した。
なにがなんでも、くれあたちを戦いから遠ざけようとする彼女。
あの幼さで、一人で戦い続けるつもりの彼女……
「……あの子だけに、任せておけない。私たちを、頼ってほしい。……一人で戦うなんて、やめてほしい。力を合わせたらきっと、もっと……明るい顔ができると思うから」
擦り切れたような眼を見た。
光のない真っ暗な眼光だった。
どれほどの修羅場をくぐってきたのか。
……それを、少しでも支えてあげたいと思うのに、特別な理由はいらないはず。
妖精はメガネのような白い模様を撫でてから、カチャカチャカチャ、ッターン! とキーボードを叩いた。
「神サンには『すまんけど加護増やしてちょ』ってメール送ったったから、あとは返事待ちやな」
「そ、そんな方法で強くなるの!?」
「そらそやろ、神サンの加護増やしてもらうねんで。……お、返信早いなー。『おけまる』やて」
「神様ってそんな感じなの!?」
「こっちの世界の神様と人間より、ボクらの世界は神様と妖精の精神的距離が近いねん。CC付きのメールならもっと格式ばった言葉使うで。……ま、でも、言った通り、負荷エグくなるからな。しばらくは慣らしやね」
何か思ったより簡単に力が手に入ってしまって、くれあはちょっと拍子抜けした。
でも……
(これで、あの子一人に戦わせなくていい)
これで、ウィッチを支えられる。
横に並んで、戦える。
……一人ぼっちにしなくていい。
それが、何より、嬉しかった。