ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。 作:稲荷竜
「……また会いましたね」
スレッドは魔法少女に監視されている。
だっているもん。
青い方──ディメンション・ブレイブだったか。
本名の方は知らない。
おじさんにとって女子中学生の個人情報は劇物なんですよ。
相手が知らない間に女子中学生の名前とか知ってるっていう状況がね、もう、逮捕。
で、その『名前を知らない魔法少女』がここにいるので、スレッドはたぶん監視されている。
もう八月も半ばなのでなりふり構わず情報欲しさに武器の写真だけ公開しちゃった俺も悪かったけど、ネット掲示板の情報を根拠に現場に突撃するのも危ないよ。
あとめちゃくちゃ『魔法少女、今から行く!』みたいな雰囲気だったのに来ちゃったのも本当に危ない。君たちは失うもののない無職のおじさんではなく、将来のある女子中学生なので、危険なことは避けてください、本当に。
「くれあから、自殺はもうやめたって聞きましたけど」
今回来た場所はこちら。
廃工場。
軽く調べた感じだと、不幸な事故が相次いだすえに潰れたそれなりの企業の持ち物だった工場らしい。
業務は確か製紙だったかな。詳しい事情までは知らないけど、取り壊されずに残っているせいで怪談スポットになっているとか。
暫定敵のアジトが怪談・心霊スポットばっかりなの、『そういう場所には人が寄り付かないのでアジトに選んでる』のか、『アジトに選んだのでそういう場所として扱われるようになった』のか、卵が先か鶏が先かって感じだ。
で、廃工場なので、首とか超吊れそうだね、確かに。
つまり暫定自殺志願者の俺がまたしても一人でこんなところにいるのは、自殺が目的だと思われてしまう、というわけだった。
でも疑問があります。
「……そんなに私は死にそうですか?」
「はい」
そっか、俺、迷いなく『はい』が来るぐらい死にそうなのか……
そりゃ希望にあふれた女子中学生と比べられたらそうなんだろうけどさ。そんなにか? そんなに死にそうか?
でも困るな。廃病院はこの子らと別れた翌日にもう一回行ったけどなんも見つけらんなかったし、今度こそなんかしらのあたりを引きたい。
日を改めてもいいんだけど、しばらくは警戒されてそうだよなー。
スレッド以外のところで情報を求めてもいいんだけど、なんか動画が多くて目が滑っちゃうんだよな。
テキストでくれ。
とにかく、あー……わかんねえよ対応。
「……ええと、聖さんにも言いましたけど、自殺志願の中年男性にあまりかかわらない方がいいですよ。本当に危ないので」
「……私も放っておきたいところなんですけど、顔見知りがいなくなると、くれあが悲しみますから」
「私がいなくなっても、あなたたちが悲しんだり、苦しんだりする必要はないんですよ」
「必要性にかられて悲しんだり苦しんだりする子じゃないんです、くれあは」
「……」
「だからどうか帰って、無事に明日を生きてください。あなたに死なれると、私も多少、寝覚めが悪いですし」
「……その、聖さんはどちらに?」
「今回は……ええと……見るべき場所が複数あったので、手分けをしてます。暇じゃないんですよ、私たちは。だから、さっさと帰っていただけると、助かります」
「つまりあなたはこれから、あの廃工場を探索する予定だということでしょうか?」
「…………そうなりますね」
「危ないので帰った方がいいですよ」
「こちらのセリフです。私は強いですから、心配いりません」
まあそうだよな。
ネット掲示板を情報源にするなよ魔法少女、って感じだけど、世の中情報あふれすぎてマジで参考にしていい情報とかってどうして見分けたらいいかわかんないんだよな。
しかも今回、ネット掲示板に新魔法少女が武器の写真をアップしたからな。
たぶん『どこかにはいる』と思ったんだろう。動画のところが本命だと思われてるとは思うけど、一応手分けしたのか。……ということは、あとから聖くれあちゃんの方も来るなコレ。
うーん、この二人に任せるべきか?
でも、こないだみたいに強敵が出たら困るよな……
なんか俺には一切効いてなかったけど、二人は頭痛が酷い時みたいな顔してはいつくばってたからな。ああいう事態になった時に俺がいないとマジで死にかねない。
どうにか同行する理由をひねり出すか、それともいったんわかれて変身してから戻るか……
変身なあ。俺の変身、長くはもたないんだよな。
本当は変身してから来たかったぐらいなんだけど、掲示板に鎌の写真上げたあと、短い変身でもちょっと寝る必要があるぐらいには疲弊したし、変身はなるべく戦う直前にしたい。
となると変身せずになんとか言い訳をひねり出して同行すべきか……
でも中年男性が女子中学生と一緒に廃工場とか、もう『状況証拠だけで立件できます』みたいな状態じゃねえか?
どうする。
うーーーーーーん…………
「…………知ってしまったからには、『私は帰ります、行ってらっしゃい』というわけにもいかないんですよ。これでも、大人なので」
「……私は帰りませんけど」
「同行します」
「……」
「引率がいれば、警備員さんなどに見つかっても、責任をとるのはこちらになります。あまり、学業に影響が出るようなことにならないよう、責任者として、私が同行します。どうでしょうか」
「……あなたを利用するようで、気が引けます」
「子供なんだから、大人を利用してください」
「……『どうせ死ぬつもりだから』っていうことですか?」
「君たちよりも、責任の取り方について知っていますから」
「……」
「引き下がりませんよ。君が帰るなら、話は別ですが」
「…………わかりました」
不承不承という感じだが、同行を呑ませることに成功した。
あと会話の端々でわかるんだけど、俺、本当に自殺志願者だと思われてるね……
どうして?
自殺志願おじさんはこうして、女子中学生と、人里離れたところにある、夜の廃工場に入っていくのだった。
この光景を見られただけでおじさんは社会的に死ぬので、目撃者がいないでいてくれると嬉しい。