ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。   作:稲荷竜

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この話は三人称


第17話 謎の男性(三人称視点 青の魔法少女(ブレイブ)寄り)

(……やっぱり、怪しい)

 

 自殺志願者の男性。

 鬼林(きばやし)

 

 パートナーのくれあは、本当に自殺志願の男性だと思っているようだ。

 でも、(みぎわ)いさみの見解は違う。

 

(廃病院にもいた。廃工場にもいた。……黒い魔法少女──『ディメンション・ウィッチ』が掲示板で情報を求めた直後と思しきタイミングで、ウィッチがいそうな場所に、いつもいる。まだ二回目だけど……二回中二回、いた)

 

 懐中電灯を手に前を歩く鬼林の背中を見る。

 私服の中年男性の姿を見る機会というのはなかなかないので、何か不思議な感じがする。ハーフパンツにゆったりしたTシャツ。荷物らしきものは、ポケットにふくらみがあるから、スマホと財布ぐらいは持っているのだろう。ほかには……

 

 いさみは、男性の後姿をじっと見た。

 

 背中。後頭部。下半身。

 手首。右手、左手。

 

 怪しいものは『何もない』。

 装飾品らしきものも、『何もない』。

 

(……ウィッチを追いかけてる男性……もしかしたら、『魔術師(マギ)』の一人かもしれない)

 

 いさみはそう考えた。

 二回、ウイッチが情報を得たと思しき現場にいた。

 

 二回というだけなら偶然かもしれない。

 でも、『二回中二回』は、偶然とは思えない。

 

(でも魔術師なんていういかにも隠れひそんでそうな連中の一人が、住宅街の安アパートに住んでるなんていうことある??? ……住所も偽装かもしれない可能性は……あるとは思うけど……)

 

 それにしては、くれあが『コンビニ帰りの姿』や『ゴミ出しの姿』などを目撃している。

 魔術師とかいう『異世界から侵略目的でやってきた秘密組織』の一員にしては、生活感があふれすぎているように、いさみには思えた。

 

(そりゃあ、この世界に住んでれば生活ぐらいはするだろうけど……それにしても、あんまり悪の秘密結社ぽくないっていうか……! 侵略目的の魔術師(マギ)とかいう名前の組織の一員にも生活があることを想像したくないっていうか……!)

 

 ただの異世界から来た侵略者ならぶっとばすのに迷いはない。

 でも、『生活があるんです』とか言われてしまうと迷いが出る。

 

(まあ、まだ魔術師の一員だって決まったわけじゃないけど……要監視ではあるわね……)

 

 いさみは、ジロッと男性の背中を見た。

 

 男性が振り返る。

 いさみはビクッとして慌てて、なぜか腕を組んで相手をにらみつけた。

 

「何か?」

「いえ、私が先導してしまってるけど、進む道は不満がないのかなと思いまして……」

「……別にあてがあるわけじゃありませんから。好きな方向に進んでください。不満があればきちんと言いますので」

「わかりました」

 

 男性は再び前を向いた。

 

 いさみは大きくため息をついた。

 

(考えを読まれた? ……さすがに偶然よね?)

 

 要監視、と思った視線を感じられて振り返られたかと思った。

 考えすぎ──とも思うけれど、どこまで警戒していいのか、正直なところ、わからない。

 

 何せ相手は『常識を改変する』とかいう連中なのだ。

 

「それにしても」

 

 男性の声

 思わずいさみはびっくりした。

 

「はい!?」

「……えっと、『広いだけで何もありませんね』って言おうとしただけですけど」

「あ、ああ、はい。まあ、廃工場ですし、機械とかは撤去されてるんでしょうね」

 

 元は製紙工場だったという話だが、それらしい機械類は存在しない。

 天井の高いだだっぴろい、ホコリっぽい空間がひたすら続いているだけだ。

 

 照明がなく、窓も高い位置にしかないせいで薄暗いが、懐中電灯で照らしているだけでも視界には困らない。

 

「……あの、ええと……」

「……渚いさみです」

「鬼林です。……渚さんは、とりあえず一周したら帰る感じでいいでしょうか?」

「…………そうですね。できればもう少し探りたいところですけど。こう暗くては限界もあるでしょうし。……探索目的なら明るい時間の方がよかったんですけどね」

「では、なんでこんな夜に?」

「あなたには関係ありません」

「そうですか」

 

 もちろん、ウィッチが出るかもしれないから、遭遇するためだ。

 

 いさみは、そっくりそのまま同じ質問を返してやろうかと思ったが、そちらは答えが予測できた。

 

 自殺をする場所というのは、案外少ないのだろう。

 この廃工場は機械こそないが、縄の一本も持っていれば首を吊るスペースなんかもありそうだし、人のいる場所から遠いので、死にきる前に通報されて助かる可能性も低そうだ。

 

(それにしては荷物がない……今日は下見のつもりだったのかしら。……まあ、本当に『自殺志願者』なら、だけど)

 

 いさみはまだ、目の前の男性が魔術師(マギ)の一員であることを疑っている。

 

 ……そうこうしている間に、廃工場を一周してしまった。

 

 ほかに掲示板に載せられていた場所を回っているくれあは、まだ来ない。

 本当は、ウィッチが来る可能性が一番高いこの場所は、くれあが来たがった。

 

 でも、いさみが強硬に押し切って、来た。

 

 それは、やっぱり『疑い』が理由だった。

 

(あのウィッチも、仲間みたいに戦いはしたけど、魔術師側じゃないって保証はない。くれあは……人を信じすぎる。私が、守らないと)

 

 くれあ。

 自分を救ってくれた恩人。

 人を信じすぎる、危ういところのある子。

 同い年だけど、いさみは、くれあを妹のように思うことが多い。放っておけないところがあんまりにも、多すぎるのだ。

 

 だから、もしも危険な場所があるなら、くれあよりも、自分が先に飛び込みたいと思っている。

 ……できたことはない。くれあの、危険へ飛び込む足は、本当に速い。自分とは決定的に初動が違う。自分はためらいがあるけれど、くれあには、ない。だから、危険なところへ迷いなく飛び込む。

 だから速いし、だから危うい。

 

「渚さん、あの」

「……なんでしょうか」

「あれ、なんだと思います?」

 

 廃工場を一周して、入ってきた場所に戻ろうとした時だった。

 

 最初はなかった階段のようなものが、そこにあった。

 

「…………階段ですね」

 

 地下に続く階段。床が開いて現れた? つまり、自分たちが気づかない間に、誰かがあそこから出入りしたということ?

 

 いさみの背筋にいやな汗が伝う。

 

「帰りましょう」

 

 鬼林が言った。いつの間にか、腕を掴まれている。

 大人の男に強く腕を掴まれるのに、いさみは一瞬、恐怖を覚えた。

 でもおかげで冷静になれた。……くれあなら、怖がらない。くれあより先に、危険な場所に踏み込みたい。くれあは、自分が守る。

 

「お一人でどうぞ」

 

 いさみは腕を引いた。

 鬼林は意外なほどあっさりと、いさみの腕を放した。そして、「すみません」と言った。

 

「いえ」

 

 返事はしたが、もう、いさみの興味は鬼林にはない。

 

 なかった。

 

「……私も行きます。子供を一人にはできませんから」

 

 再びいさみは、鬼林に視線を向ける。

 説得できなさそうな顔をしていた。それが『子供を慮る大人としての顔』なのか、『アジトを見つけられた魔術師の顔』なのかは、判別がつかない。

 

 けれどついてくるのを断るのは、無理そうだとはわかった。

 

「勝手にしてください」

 

 いさみは歩きだす。後ろから鬼林の足音が続く。

 二人は、床に出現した、地下へ続く通路へと入っていった。

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