ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。 作:稲荷竜
えーっと服は通販でいいとして……
食べ物も通販でいいとして……
その他もだいたい通販でいいとして……
通販でいいな。
終。
女の子になっちゃったよどうしようという問題が発生したものの、別に外に出る必要性が現代にはないことに気付いたので、問題が起こらんね。
あるとすれば俺の検索履歴が『女の子 トイレ』『女の子 体 洗い方』とかのヤバいものになってしまってるぐらいか。一つだけ感想を言わせてもらえれば、膀胱が信じられない弱さだということだ。
だがまあ丸一日過ごしてみればそこそこ慣れる。手足の長さの違いに最初は戸惑ったけど、筋力というか、パワー的にはむしろおじさんボディより上。ただの女児じゃないおかげだろう。
となるとあとはレーダーマップが出たら現場に急行する以外には外に出る用事もなく、いつかおじさんに戻れると今は信じることにして、困るのは……あー……夜中の敵アジト探索……タクシーに一人で乗ったらぎょっとされるよな……
買うか? 自転車。
でもこのアパート駐輪場が別料金なんだよな。
それに休職期間終わったら引っ越すつもりだし今さらデカい荷物増やすのもなあ。
何より増えるのが女児用自転車だろ? 使わないよもう、一生……結婚とか……予定もないしさ……
前職を辞める手続きをしたときに、弁護士やってる親戚のおじさんが『ご両親のもとか、うちかで世話をしようか』って申し出てくれたんだよな。
それを断ったのはマジで『なんとなく』だったけど、今こうして女の子になってみると、断ってよかったって感じだ。
「……求人サイトでも見るか」
すべてを通販に頼ることにしたとたん、やることがなくなってしまった。
女の子の体のことも調べられる範囲では調べたし、あとはもう実践しかない。仕事かー。仕事のこと考えるの、正直嫌っていうか、まだ動悸がする感じなんだけど、今から少しずつ慣れておかないと一生無職でいるわけにもいかんしな……
ハローワークとか行った方が本当はいいのか? スキル? スキルって何? 前職でやってたこと、たぶん専門性はいらないんだけど多岐にわたりすぎる上に、周囲から評価もされてなかったので自分のアピールポイントがわからない。
当然、転職も初めてだから転職のあれこれもわからない。大学の時の就活の感じでやればいいの? 新卒でもないし若さももうないが……
あれ、ブラック企業って資格もとれないし(暇がない)、スキルもよくわかんないし、再就職が詰んでないか?
でもおじさんは働かないとゴミ以下に見られるのがこの社会。おじさんというだけでゴミ扱いされ気味なのに無職のおじさんは何かもう、人間扱いされないのはもちろん、生物として扱ってもらえない空気もある。
生きにくい世の中すぎるだろ。こんな世の中でブラックから放り出された三十代無職はどうやって職を探したらいいんですか。誰か紹介してください。人脈なんかも、まったくないけど。
考えていたら玄関のチャイムが鳴った。
段ボール箱の前から立ち上がって、デカすぎるサンダルをはいて、高いドアノブを掴んだ。
なんでサンダルこんなデカいんだっけ。
あ、そうか。
俺、今、女の子──
「こんにちは
──来ちゃったな、女の子。
おじさんの一人暮らしのワンルームで、Tシャツ一枚の女の子(俺)と、
どうにかやり直せませんか。
無理ですか。そう。