ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。 作:稲荷竜
私、魔法少女ディメンション・ウィッチ!
正体は無職の三十代おじさん!
普段は二段階変身解除で寝て起きて寝て起きたらおじさんの姿に戻れるのに、なんだか急に戻れなくなっちゃったよ~
どうしよ!? でも現代の世の中は通販で外に出ずにだいたいのものがそろうからま、いっかナ(^_-)-☆ と思ってたら……
女の子であることをうっかり忘れて、相手が誰か確認する前に、家のドア開けちゃった。
訪れたのは最近なんだか監視体制が強化してきた魔法少女二人。
女子中学生を部屋に上げるのだけは絶対にまずいと思ってたからどんなに中に入りたがっても玄関口で対応してた
この二人が魔法少女だって知ってる一般人は、たぶん、世界に一人、三十代のおじさんだけ!
そういうポジションおじさんがやるべきじゃないだろ! あと秘密を共有してるせいか中学生たちの距離感の詰め方がエグいよ。ど~しよ! って感じで日々を過ごしておりましたところ、女の子の姿で遭遇してしまいました。どうしたらいいですか? わかりません。
混乱した。
「上がるといい」
混乱した結果、とりあえず中に入れてしまった。
敵か味方か!? 突き放す態度のクール&ミステリアス魔法少女! ディメンション・ウィッチ! がクソデカTシャツ(しかも二十年前の文化祭のクラスTシャツ)を着て物のないワンルームでお出迎え。
俺もどうしたらいいかわからないが、二人もどうしたらいいかわからないようだった。
二人は「失礼します」と混乱しきった顔で一言言ってから、中に入って、靴を脱いで、揃えて、部屋に上がった。礼儀正しい。親御さん、よい教育をしていらっしゃる。
でも無職三十代男性の部屋に上がっちゃいけないっていう教育もしてほしかった……かな!
とりあえず広げていたノートパソコンをベッドの上に移動して、台代わりにしている段ボールのまわりに座らせた。座布団? ないよそんなもの。
お茶……ペットボトルの『飲むと脂肪が分解されやすくなります』のお茶が冷蔵庫にあるのでそれを出した。女子中学生に500ml飲料は多いか? 若いからいけるか? 何もわからない。この体はいけなかった。
俺も自分用のお茶を持って、段ボールのそばに座る。
魔法少女三人、中年男性の家で、段ボールを囲んで向かい合う。
時間が、ゆっくりと流れていった。
誰も、何も言わない。気まずそうに俺を見て、ペットボトルを見て、それからまた、俺を見ている。
俺はどこも見てない。魔法少女二人の中間ぐらいを見ている。壁に幽霊を見つけた猫みたいに、じっと見ている。どちらかと目が合ったら"終わり"だと思っているから。
しかし俺が目を合わせなくとも、"終わり"は来てしまう。
この気まずい空気の中、発言をする『力』が若者にはあるようだった。
聖くれあがこっちを見た。俺は見なかった。でも、聖くれあは話し始めてしまった。
「あの、あなた、ウィッチ……だよね?」
「………………………………………………………………そうかもしれない」
「『ウィッチだよね』って言われて『そうかもしれない』って返ってくる時点で、もうウィッチ以外にないよ……」
頭がいいな……
どうしよう、クール&ミステリアス、敵か味方か魔法少女なのに、口を開くほどポンコツ属性が付与されていくぞ。
発言内容はやはりセミオート。俺は沈黙を守りたかったが、俺の意識に反応した体が、女児みたいな言い訳めいた言葉を放ってしまった。
この体はしゃべるのも苦手だが、黙っているのも苦手らしい。どっちかにしてくれ~!
……あ、そうだ。
すくっと立ち上がる。
二人がびくっとする。
俺はクローゼットを漁った。
「え」
「ちょ」
俺の後姿を見た二人が何かに驚いた声を出している。なんだ?
とりあえずクローゼットに潜り込ませていた頭を抜いて、目的の物を手に振り返る。
そう、返しそびれていた、聖くれあちゃんの洋服だ。
「返す」
「返さなくていいから!」
「服を着て! まともな!」
女子中学生二人がやけに慌ててて、なんだろなーと思った。
そういえば俺、Tシャツ一枚だった。
ぱんつはいてない。女児のパンツとか、当然、未婚中年男性が持っているわけもないので……
「え、えっと、聞きたいことは本当にたくさんあるんだけど……ウィッチちゃん、服を、買おう」
聖さんがそう言って、渚さんが超うなずいていた。
服か。服ね……俺は心のどこかで『もう一日ぐらい寝てりゃ戻るだろ』って思ってるところがあるから、女児ものの服とか自転車とかは『もったいない』の気持ちがデカいんだよな。
「別にいい。服なんか役に立たない」
「立つよ!」
「少なくとも下着は買って!」
「下着こそ一番いらない。処分に困る」
「処分しないで!」
「穿いて! 頼むから!」
女子中学生の勢いがすごいな。
……これ、どう行動すべきなんだろ。
もう正体はあのおじさんでーすってバラした方が話が早いか?
……俺は、人生において、タスクがない時期というのがなかったわけだが。
そういう時、どうしても、俺の単独では処理できない、確認を待たないといけない、あるいは条件がそろっていなくて完了できないタスクというものも、あった。
現状はそのタスクに近い。
俺は、方針を決めかねている。『いっそ、正体をバラす』か、『このまま、おじさんとこの少女は別人として振る舞う』か、だ。
後者を選んだ場合、さらに嘘を重ねないと『なんでお前鬼林おじさんの家にいたの?』問題が発生するわけだが……
前者を選んで正体を明かした場合のデメリットの計算にまだ時間がかかるな……
こういう時、俺がすることは一つ。
そう……
先延ばし。
俺は俺の正体についてバラすかどうかの選択を
そのためにも、目先を逸らすために……
「わかった。服は買う。そういうわけで今日は帰っ──」
「──じゃあ、行こう!」
「ええ、行きましょう」
「──てもら、って、後日………………」
魔法少女二人に手をとられた。
え、服を買いなよ! はい、買います……(では買いに行くので後日)って流れを想定してたんだけど。
まさか連れていく気か!? 駅前の総合デパートに! この俺を!?
「待って」
「待てない!」
「あのね、あなたは自覚がないかもしれないけれど、あなたの格好は、『緊急事態』よ」
待って待って、女子中学生と服、たぶんパンツを見に行く心の準備とかできてないよ!
助けて! 変なお姉さんにさらわれそう!
しかし抵抗むなしく、俺は変身後よりパワフルかもしれない二人に連れていかれることになってしまったのだった……
男性の人生が終わった瞬間というのがあるとしたら、それはきっと、この時だったかもしれないと、のちに思い出すことになる。