ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。 作:稲荷竜
かわいいぱんつを穿いています。
どうしてぱんつ穿いてない時より、かわいいぱんつ穿いてる今の方が落ち着かないんだろう。
『スカートって防御力低いよなー』みたいなのはもうなんか、『俺の下半身に、女児のパンツが装備されている』という事実を前には吹き飛ぶ。
男性は、女の子の下半身を持った時、全裸よりも、かわいいパンツ穿いてる方が、落ち着かない。
ついうっかり
さすがにこの見た目でおじさんのカード勝手に使うのはまずいだろう。
女子中学生の相手だけでも手一杯なのにおまわりさんにまで来られたら世界滅ぼすしかなくなっちゃうよ。
「あの、ウィッチちゃん、生活とかどうしてるの?」
かわいいワンピースを着てかわいい帽子をかぶってかわいいパンツを穿いた俺が、フードコートで女子中学生に詰められている。
俺は不機嫌だった。感情がもうおじさんのものじゃなくなってる気がする。着せ替え人形にされたことを、非常に遺憾に思っています。
俺は遺憾の意を表明するために女子中学生をにらみつけた。
しかし俺の『にらみつける』は効果がなかった……
もう俺の作ろうとしてた『敵か味方か!? クール&ミステリアス! 積極的な敵対はする必要なさそうだけど、警戒だけは解いてはいけない相手!』っていうイメージがたもてていない。
俺を見る目がこう、保護の必要な女児を見る目だ。
「……問題ない。あなたたちよりはしっかりしてる」
「しっかりしてる子はね、お洋服の心配をされないんだよ」
ハハッ。
なんも言えねえ。
でも逆に考えてみてくださいよ! おじさんの見た目で『変身後に使うかな……』とかって女児の服見繕ってるやつがいたらどう思いますか!?
通販で女児服のページ見てるだけでかなり絵面が『逮捕!』だと思うんですが!
つまり俺がノーパン彼(俺)シャツ状態でうろついてたのは、そうなる状況があったからってことなんですよ! 現場での対応には限界があります! 戦略的な失敗です!
これを今の俺の口で語るとこうなる。
「服を買えない理由があった」
「……それは……?」
「あなたたちには関係ない」
いらねえところで謎をもたせるな、俺の口。
いやもう、『俺の口』か? こないだからちょいちょい増えてないか、この体の自我。
俺は何? 変身して女の子になってるの? それとも実は憑依してるの? もしくはされてるの?
俺は俺のことが何一つわからない。早く変身しなくてもいい状況になりたいものだ。悪の連中、さっさとぶっ飛ばそうぜ。待ちきれねえよ。
「ところで」
保留したはずの問題がまた顔を出してきた。
ごまかすか正直に白状するかっていうのがまだなー決まってないんだよなー。
まだ保留できるか? さすがに無理か?
バラすと話は早そうなんだけど、この女子中学生たちの距離の詰め方がエグいので、俺が俺の意思じゃなくてこの体の意思で裏切る展開になった時に、めちゃくちゃ不意打ち補正が乗りそうなんだよな。
警戒はしてほしいんだ、本当に。
あと、『おじさん、一時期女児でしたよね』っていう黒歴史をなるべく作りたくないのもある。
……ごまかそう、正体。
「別に。関係なんかない」
「じゃあなんで鬼林さんの家にいたの? それに……どう見ても……あそこで寝泊まりしてる格好だったでしょう?」
Tシャツ一枚は、まあ、そうね。そうとしか言えないね……
かなり懐いてる親戚の子でもあんな油断しきった格好はしない気がする。
この疑問を掘り下げられないようにする答えは、えーっと。
「別に、普段からああいう格好で外を歩ている」
「ダメだよ!」
「なんてことを……!」
ん? 間違ったかな?
まあ掘り下げの気配はなくなった。驚きすぎて言葉もない様子だから目論見は成功。
彼女らの中に『ノーパンデカTシャツで外をうろつく女児』という都市伝説が生まれてしまったが、ささいな問題だろう。
「ウィッチちゃん──名前は、教えてくれる?」
声と顔がどんどん優しくなってるぞ。
迷子対応でもされてんのか、俺。
しかし名前、名前ねえ。
『教えない』で終わってもいいんだけど、ごまかすと決めたからには、元の俺とかけ離れた名前があった方が、イメージ的に分化が進んでいいかもな。
えーっとこの子らは聖くれあと、渚いさみか。俺も三文字の名前がいいかなー。
何かあるか、三文字。
「まさこ……」
「まさこ……?」
「お、思ったより、なんていうか、思ったよりな名前ね……」
「やり直す」
「う、うん」
「名前ってやり直せるものかしら」
「……」
「スマホをいじり始めるやりとりじゃなかったと思うんだけど……」
「あのスマホ、大人の男性の物っぽいのよね」
「ひまり」
「だいぶイメージ変わったね」
「……まあ、いいけれど。呼べる名前があるなら、今は、それで」
偽名だと思われてるな……
やっぱ十年前の赤ちゃん命名ランキングの1位から引っ張ってきたのは偽名くさいか……
あと、この状態だとスマホの顔認証できないの面倒だしあとで登録しよう。
「…………
「え、苗字だったの!?」
「偽名かと思ったけど本名疑惑が出てきたわね……」
完璧にただの思い付きが勝手に口をついて出ただけだけどファインプレーだったな。
「それで」渚いさみが咳ばらいをした。「ひまり、あなたは──鬼林さんとどういう関係?」
「…………なんでそんなに気にするの」
「気になるに決まってるでしょう? 鬼林さんは二回とも魔術工房のそばにいた。そして、あなたは二回とも、鬼林さんを助けた。『二回』は偶然かもしれないけど、『二回中二回』は偶然とは思えないわよ」
あ、なるほど。確かにそう見える。
二回目に限っては『治して送り返した』ぐらいまで言ったもんな。
確かに馬迫ひまりは鬼林を助けてるように見える。賢いな女子中学生……
そこの言い訳なんも考えてねえよ。どうしよ。
偶然? いや、偶然って言って信じてもらえる雰囲気じゃないな。
ミステリアスにごまかす。いけるか? 俺の体。
「あなたたちには、関係ない」
「……」
「私は彼の安全を守る責任がある。誓約と言い換えてもいい」
……なんか今ちょっと『体の自我』が出た気配があったな。
「誓約?」
「彼には弱っているところを拾われた恩がある」
なるほどお前、『あの時お世話になったステッキ』か……
「そう」
会話が成立したな。
でも『体の自我』はそれで引っ込んでしまったようだった。なんとなく、気配でわかる。
もしかしたらエネルギー的なものが足りないだけで、足りれば今みたいに対話も可能なのかもしれない。
まあ、何にせよ……
「今の『そう』は何?」
「あなたたちには関係ない」
「……じゃあ、言うけど。馬迫ひまり、あなた、私たちと一緒に活動しない? 目的はきっと同じでしょう? だったら、別々に活動する理由はないと思うけど」
来たな。
さて、この問題をどうするか──
──俺は、立ち上がった。
そして、二人に背を向けた。
歩いて、フードコートの出口に向かう。
「…………あっ!? ちょっと!」
このまま当たり前みたいに立ち去ればいけるかと思ったけど、無理そうだ。
走った。
「逃げた! くれあ! あの子、逃げた!」
「……あ、ほんとだ!?」
うわまずい、心臓がやばい。戻る、おじさんに戻る。
逃げろ逃げろ! 念のため服背負ってきてよかった!
トイレ~!
「あの子、速い!」
「混んできたからあんまり走ると迷惑になるよ!?」
魔法少女たちの声が遠くなっていく。
よし勝った。
俺は男子トイレを目指して駆け込んだ。
個室開いててよかった。小便器にいた少年は背後通ったから見られてないと思おう。
ふー。
……にしてもこれ、『今回だけ』だよな?
ここから毎回、変身後に『女の子』でいる時間が伸びたりとかは……ないよな?
………………ないといいなあ。
ある気がするなあ。
……どうしようね、本当に。