ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。   作:稲荷竜

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第31話 すべてを解決する都合のいい方法

 出自を聞いて、話しぶりと目つきを改めて観察してみた。

 (はざま)シフは呪われている。

 

 スピリチュアルでマジカルな方ではない。

 精神に枷をかけられている、という意味での呪いだ。

 

 だって、少し前までの俺みたいな目つきをしてるもの。

 

「母はあたしによく言ってくれたんです。今の自分がいるのは異世界の神様のおかげで、だからきちんと感謝しなきゃいけないって。それで、毎日、お祈りをしてました。あたしがここにいる理由を作ってくれた神様に。神様だけが、あたしを慰めてくれたんです。昔、友達に異世界出身の母とこの世界の父との間に生まれたんだって、髪が、白いじゃないですか。だから、その理由で、えっと、言ったんです。そしたら、馬鹿にされて。本当なのに、信じてもらえなくて、でもその時も、神様は──」

 

 何かを信じることでアイデンティティを確保している人の目だ。

 なんらかのとてつもない苦境の中、何をしても認められない環境の中で、自分を認めてくれる『何か』を自分の中に生み出してしまっている人の目だ。

 そしてそれを信じるしかないところまで『現実』に追い詰められている、そういう人の目だった。

 

 まあ、そういうのはクソ忙しいとだんだん『そんなこと考えてる暇もない』状態で、心が摩耗してそういうのいらなくなっていくんだが……

 

 十三歳。

 思春期かあ。

 

 思春期はもう遠すぎて思い出せないけど、幼いころには『現実』と『理想』の間にどうしようもない溝があることに耐えられず、イライラしていたような記憶はある。

 大人だとこれに現実的な折り合いをつけ………………大人でもつけられない人はいるのでまあ、その、なんだ。ええと。

 ともあれ人によっては現実的な折り合いをつけて、だいたい、『理想』の方を『現実』に合わせてダウンサイジングしていく感じになる。

 

 が、そのダウンサイジングがうまくできない時期というのが存在する。

 

『理想』を折り曲げて縮めていく不純さに耐えきれないほど潔癖な時。

『理想』そのものが現実とあまりにもかけ離れていて、どうしたって折り合いをつけられない時。

 

 ようするに自己肥大、過度の潔癖、『こうでなければならない』というこだわりへの拘泥──

 このへんをおそらく人は『思春期』とひとまとめにして表現する。

 

 間シフさんは、間違いなく思春期だった。

 それも、よくない方向の思春期だ。

 

 知らない神に傾倒する母。それ由来での社会、この場合は彼女にとっての社会、つまり学校での立場の弱さ。

 同世代からの扱いの悪さは、かかわっている『社会』の数の少ない人にとっては致命的になる。

 

 大人なら『よそにもコミュニティを作りましょう』とアドバイスされる(退職後カウンセリングで、された)ところだが、学生の行動力で、親が『その感じ』だと、そうもいかない。

 そこで脳内に『自分が評価されるコミュニティ』を作り上げるわけだが……

 

 その脳内コミュニティでの自分の扱いを決めるものを、彼女はよく知らない『異界の神』にしてしまった。

 

 ……まあ、彼女の頭の中にしかいない神なら、それでもよかったんだろうけど。

 

 問題はその神がどうにも実在? するっぽいことと、彼女がその神を探す力を持ってしまっていたことだな。

 

 ……俺が悪い大人だったら、この追い詰められた女の子の『神様』になってやるところなんだけども。

 うーん、どうしたらいい? 『精神科を受診しましょう』とか言っても絶対に聞かないのだけはわかるぞ。かと言って彼女の理想の神様を演じるのはこう……依存が、な!

 

 神様そのものを否定もできない。彼女は実在と、『俺と同じ座標』にいることを確信してるから。

 

 ………………………………あの。

 

 これ、ブラック企業辞職して再就職のための休養期間中の無職男性が手に負える案件ではないと思うんですよね。

 

 っていうかもう両隣に女子中学生、正面にかなり精神が参ってる女子中学生とか、もうね、悪い新興宗教みたいな状況なの、何? 本当に何?

 

 そもそもね、もう十八時近いんですよ。

 良い子は帰る時間だよ。

 なんで帰らないんだ。

 そう、ウィッチが来るかもしれないからだね。

 

 …………よし、わかった。

 すべてを解決する方法を、思いつきました。

 

 まだ『身の上』を語り続ける間さんに片手を突き出して言葉を止めさせる。

 両側の(ひじり)さんと(みぎわ)さんにめちゃくちゃ見られながら立ち上がる。

 

「これから行うことは、本当に限られた回数しかできないことで、毎回できるとは思わないでください」

 

 みんな『?』って感じだ。かわいいね。

 でもこの前置きしておかないと『次もやって!』って言われることが目に見えてるんだよね。

 

「私は少し外します。あとは、若いみなさんだけで話すといいでしょう」

 

 歩いて家を出る。

 行動が唐突だったおかげか、止められなかった。

 

 そのままアパートの裏手に回り込んで……

 

魔杖(まじょう)抜刀(キャスト)

 

 変身。

 

 すぐに転移で部屋に戻る。

 

 見ろ女子中学生ども。

 これが『ウィッチに会いたい』『神はそこにいます』『おじさんとしては、女子中学生に依存されたくないな』という三者の欲望を同時に満たす妙手──

 

 ──別名『これしかなかった』とも言える作戦。

 

「……頼まれたから来たけど、あんまり時間をかけたくない」

 

『ウィッチ=神に実際に会わせて話をさせる』だ。

 なお間さんの依存先がウィッチだとして、ますます正体バレしてはならなくなった模様(おじさんに依存する女子中学生、不健全すぎるから)。

 

 この局所的勝利を重ねるために戦略的に詰まれていってる感じ、どうしたらいいですか。

 どうにもならない気がする。どうしよ。

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