ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。   作:稲荷竜

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この話は三人称


第35話 帰り道(三人称視点 聖くれあ(ピンク)寄り)

 その日、みんなでコンビニまで行って必要なものを揃えて、泊まった。

 

 なぜか馬迫(まさこ)ひまりがお金を出そうとする。そのお金が完全に男性の、というか家にあった財布だったので、(ひじり)くれあも、(みぎわ)いさみも、遠慮した。

 

 (はざま)シフは、遠慮しなかった。そうされるのが当然みたいな感じで……でも、横柄とか、身勝手とかじゃなくて、親しみとか、そういうものを感じさせる、不思議な態度だった。

 

 そうして遅くまでおしゃべりをして、ユニットバスで体を洗って、床にタオルを敷いて眠った。

 

 朝、起きたら、ウィッチ(ひまり)はいなかった。

 

 まだ登校するような時間よりももっと早い時間、聖くれあは、渚いさみとともに、帰路に就いている。

 朝焼けの住宅街をながめて、こんな言葉が口をついて出た。

 

「『夏休み』だったね」

 

 あの時間は、なんだかいろいろ、夏休みだった。

 何がどう夏休みかはうまく言えない。でも、夏休みと表現するべき、そういう時間だった。

 

「まともな情報収集はできなかったわね」

 

 いさみはため息をついていた。

 でも、親しさのあるため息だった。望ましい結果ではなかったけれど、楽しかったのは認める──そういうのが、唇の角度に表れていた。

 

 しばらく、無言で歩いた。

 もうすぐいさみと別れる場所にさしかかるというところで、いさみが足を止めて、くれあに話しかける。

 

「……くれあ、気づいた?」

「何を?」

「間シフが、ウィッチと、鬼林(きばやし)さんを、同一人物みたいに扱ってるのを」

「……うん」

 

 泊まって、おしゃべりをした。

 だから気づいた。シフの発言は、一つ二つじゃなくて、もっと、『鬼林』と『馬迫ひまり(ウィッチ)』を同一人物視しているものが多かった。

 

「…………どう思う?」

 

 いさみにしては、あいまいな聞き方だった。

 いつもハッキリ、シッカリしているのに。

 

 こういう時は、結論を出したくないことに、出したくない結論が思いついてしまっている時だ。

 

 ……こういう時は、くれあの方が、いさみより、ハッキリと、物を言う。

 

「ディメンション・スカウトは、『物探し』の魔法が使えるんだよね」

 

 固有魔法というものだろう。

 

 くれあ──ディメンション・プリエステスの『癒しの力』。

 いさみ──ディメンション・ブレイブの『斬る力』。

 

 シフ──ディメンション・スカウトの『物を探す力』。

 

『これら』が確かなのは、くれあも、いさみも、よく体感している。

 妖精も、魔法を使う者には、それぞれ、固有魔法がある、と言っていた。学んで身に着けられる魔法とは別に、その人の魂に根差した、学習では身に着けられない力。それこそが、固有魔法。

 

 くれあたちに渡された変身用のステッキは、この固有魔法のために調整されているのだとか。

 

「『物探し』の結果見つけた神様が、鬼林さんで……でも、神様そのものは、ひまりちゃんだった。異物(モンスター)が出ると私たちの頭に浮かぶアレに出現する、っていう話だったよね」

 

 レーダーマップ。

 異物の出現位置がわかる、よくわからない機能だ。

 

 いさみは「ええ」とうなずいた。

 

 くれあは、歩き始めた。

 ……いさみも、少しだけ止まって、くれあを見ていたけれど、くれあが振り返って微笑むから、歩き始めた。

 

「『そういうこと』だと思うよ」

「…………ウィッチは、鬼林さんだっていうこと?」

「ううん。『ウィッチと、鬼林さん、両方が、シフの探していた神様だった』っていうこと」

「……それは、ウィッチと鬼林さんが同一人物である、ということではないの?」

「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない。まだ、わからない」

「……」

「結論を急がなくてもいいんじゃないかな。……まだ、夏休みも終わってないし」

「…………そうかもしれないわね」

「それに、ウィッチの正体が鬼林さんだとして、何かまずいかな?」

「油断した姿を見せてしまったわ」

 

 脱衣所のないユニットバスだったから、仕方ないとはいえ。

 ……確かに、大人の男の人の前では見せないような姿も、見せてしまった。

 

「でも、その姿を見せたの、いさみちゃんが『ウィッチは鬼林さんかもしれない』って疑ったあとでしょ」

「…………そうね」

「じゃあ、問題ないんじゃないかな。……私は、もし、ウィッチ(ひまり)ちゃんと、鬼林さんが、同一人物だったとしたら……」

「……」

「ちょっと、嬉しい」

「……どうして?」

「大人の人に、私たちの戦いを、理解してもらえてるってことでしょ」

「………………」

「私たちがどんなに真剣に訴えても、相手にされなかった。でも……相手にしない大人だけじゃ、ないんだよ。世の中には、きちんと、私たちの悩みをわかってくれる、大人もいる。それは、嬉しいことじゃない?」

 

 いさみの足が止まった。

 三歩歩いてから、くれあも足を止めて振り返った。

 

 いさみは、歩き出して、くれあの横に並んでから、小さな声で、つぶやいた。

 

「……そうね」

「でしょ」

 

 それきり会話もなく、分かれ道に差し掛かった。

 

 くれあは、両親の『なかったこと』にされた家へ。

 いさみは、家族から『なかったこと』にされている家へ。

 

 正直、帰りたくない。あのワンルームにいた方が、楽しい。

 くれあは、いさみに、『うちで過ごさない?』と問いかけたことがある。

 いさみはそのたびに悩んで、『ごめんなさい』と答えた。

 

 家は、楽しいから帰る場所ではない。

 そこが家だから、帰る場所だ。

 

 そこに帰らなくなったら──

 ──家であることを、忘れてしまう。

 

 だから、くれあも、いさみも、帰る。

 

「じゃあ、また」

「ええ。……普段自分が使っているシャンプーじゃないと落ち着かないわ。あと……床が固くて、少し、寝苦しかった」

「持ち込んじゃおうか」

「……まあ、それもいいかもしれないわね」

 

 道を分かれて互いの家に歩き出した。

 

 一人で歩いて、くれあはふと、考える。

 

(それにしても、シフちゃんはどういうきっかけで変身できるようになったんだろう)

 

 このお泊り会で、重要な話はできなかったし、不思議と、しようとも思わなかった。

 穏やかな雰囲気を壊したくなかった。だから、深くは聞かなかったけれど……

 

 ウィッチも、スカウトも、くれあたちとは別なルートで『変身』の能力を手に入れた魔法少女なのだろう。

 ということは……

 

(……ということは、なんなんだろう。問題は別にないよね?)

 

 気になるだけ、というのが、今のくれあのモチベーションだった。

 

 そこの違いに大したものが隠れているようには思わない。

 でも……

 

 気になった。

 

 そのことをしっかり覚えておこうと、くれあは、なんとなく、思った。

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