ステッキを拾った。魔法少女になった(30代男性)。 作:稲荷竜
巨大な化け物は持っている力を全部使い果たしたようにその場にへたりこんでいる。そばには、大ぶりな……なんだろう。大ぶりすぎてちょっと自信がないけれど、カランビットナイフみたいなものが二丁、転がっていた。
「くれあ!」
あ、それ聖さんなの? よくわかるな……いや状況的にそれしかないか。
渚さんが駆け寄ると、卵から翼が生えて開き、中にいる聖さんの姿が明らかになった。
俺は……
部屋がさすがに狭くて、入り口から中に入れない。
どうにもめちゃくちゃだが、このぶっ壊れた扉の先にあるのは、聖さんの私室のようだった。
そこに熊みたいなサイズの獣がへたりこみ、女の子二人が入っている。ベッドなどは模様替え(破壊)でなくなっていてスペースは確保されているものの、まあ、熊と女子二人でいっぱい、って感じだ。
渚さんが、聖さんに抱き着いている。
聖さんは、渚さんを抱き返して、視線は俺に向けている。
間さんは、熊みたいな獣を見ていたので、俺も、そちらを見た。
獣が、俺を見ていた。
「……ウィッチか。ホンマに壁画で見た通りやんな」
「関西弁……?」
「嘘やん。今気にするとことちゃうやろ」
「……まあ確かに」
「いや引き下がるんかい。口に出したんならもうちょいいじれや」
「なんで関西弁を?」
「製造過程で言語野にあった異常が、こっちの世界ナイズされて、こういう出力されてん」
「そうか。それで、どういう状況?」
「興味うっす!」
「ごめん、気になったけどそこまで興味なかったよ」
「ええよ。許したる」
「なんですかこの会話」
俺も知りたい。
関西弁のピンクの熊は、「ははは」と力なく笑った。
「……ま、なんでも聞いてくれ。ボクは捕虜としてキミらに降る。……キミらが直面してただいたいの悪いことな、ボクのせいやと思ってもろて」
「つまりこの侵略行為の一番偉い人ってことでいいんですかね」
「いや、一番偉くはないんやけど……こっちの世界に来てる中では一番偉い」
「じゃあ一番偉くはないな……」
「確かに一番偉くはないけども」
「でも現場では一番偉い」
「そや。現場では一番偉いけどボクより上が余裕でおるんで一番偉いかって言われたらそうでもない」
「つまり偉いようで偉くないちょっと偉い人」
「そや。偉いようで偉くないちょっと……ややこしいわ!」
「あの、なんですかこの会話」
間さんが困惑している。
俺もなんか、乗せられるように会話してしまう。なんだろう。
……ああ、そうか。
俺は……
男性との会話に飢えていたんだ……
なんの間違いか、辞職してからこれまで、ほぼ女子中学生としかしゃべってないから……
「おいマジでなんやねん、ウィッチ、事前情報よりめちゃめちゃ愉快な神サンやないか。……こんなんなら、交渉すればよかったやろ。上層部マジなんやねん。なんでいきなり『道具に封じ込めて純エネルギー利用』って方向に
「ああ、その、俺は、その神様のようで神様ではない者で……」
「おいおいボケを重ねんなや。アンタが話通じる感じなほど、ウチの上層部のアホクソぶりがしょーもない感じになるやんけ」
「いや本当に、あなたたちの言う神様は、今は、完全に引っ込んでます。俺は……神様の、器? らしいです」
「……もしかしてアンタ、あのオッサンか!?」
「たぶんそのオッサンだと思います」
「はぁ~……道理で会話の呼吸が合うわけや。ボクもどっちかって言ったらオッサン寄りやねん。あの、ご趣味は?」
「ないです」
「真面目か! そんで寂しいなアンタ!」
「すいません」
「……いや、謝らんでええよ。なんやアンタ、ボケとんのやなくて素かい。愉快やな。職場では人気者やろ」
「まあある意味……?」
「そやろ。しょーもない、おもんない仕事押し付けられてそうな目ェしとるわ。ボクとおんなしやな」
「ああ、そっちの意味なら間違いなく人気でした。もう辞めましたけど」
「ええなあ」
……本当に、心の底からうらやましがるような声で。
もう俺は、こいつを、許したくなってしまっていた。
第一、何をしたか、具体的なことは、知らないわけだし。
まあ状況から考えて、聖さんの家をめちゃくちゃにした犯人は、まず間違いなくこいつだろうなーとは思うんだけれど。
獣は、天井を見てため息をついた。
「あんな」
「はい」
「ボクの負けや」
「はい」
「心情的に、くれあを殺せんかった。ほんでな、実力的にも、殺せんかった。負けない。でも、勝てない。くれあは……強さを、ボクに示した」
「……」
「だからもう、ボクは、この作戦を失敗と認定する。おいオッサン、一番話がわかるのがアンタやと思って声かけとんのやで。ぽけーっとした顔さらすなや」
「この中で一番情報を持ってないの、俺なんですよ」
「……
「そうらしいですね」
「のんきか! ……ああいや、わかった。もうわかった。ボクも腹くくるわ。……改めて聞くな?」
「はい」
「何が聞きたい? 一から十まで洗いざらいしゃべったる」
「何が聞きたいかわかるための知識がないんです」
「マジか……アンタ、マジか……」
なんだろう、呆然とされてしまった。
でも年長者がその場で一番情報を持っているという思い込みは危険だ。社畜時代の上司とか、立場も年も一番上でも全然なんも知らなかったからな。
ともあれ、どうやらここで、ようやく『またしても何も知らない
では聞こうか、洗いざらい。
まずは最初から、お願いしよう。